本の紹介1254 上には上がいる。中には自分しかいない。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

武田真治さんの本です。

タイトルのセンスが素晴らしいです。

付箋に書かれたたくさんの言葉を1冊の本にまとめたものです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

鍛えたことのない人は、ジムで鍛えている人の身体を指して『どうせ見せかけの筋肉でしょ?』などと揶揄する。言われたほうも面倒だから『そうですね』などと答えるが、筋肉は実際に負荷がかからないと大きくはならない。苦しみに耐え続けなければ維持もできない。そう、『見せかけ』なんてことは決してないのだ。」(82頁)

これは決して筋肉や筋トレの話だけをしているのではありません。

自らは何も行動せずに単に他人の努力や行動を揶揄したり批評したりする人がとても多いです。

寄付をしたりボランティア活動を見て「偽善だ」という例のあれと一緒です。

「どこを目指しているの?」と、どこも目指していない人から質問されるという滑稽さ。

行動した結果に「見せかけ」なんてありません。

労働時間76 障害者就労支援施設等での泊まり込み時間が実労働時間として認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、障害者就労支援施設等での泊まり込み時間が実労働時間として認められた事案を見ていきましょう。

グローバル事件(福岡地裁小倉支部令和3年8月24日・労経速2467号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、就労移行支援施設、グループホーム、自立準備施設等を運営しているY社に対し、①未払賃金(X1につき1112万8136円、X2につき2357万7345円)、②前記①に対する遅延損害金の支払、③付加金+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、945万1705円+遅延損害金、付加金を支払え

Y社は、X2に対し、1637万9459円+遅延損害金、付加金を支払え

【判例のポイント】

1 Xらには、利用者の対応をしていない不活動時間もあると考えられるところ、利用者から対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、Y社の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。
ただし、Xらにも朝食を取るなど、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから、午前6時から午前8時30分までの間の30分は労働時間にあたらないというべきである。

2 平日の午後4時から午後9時までの間、Xらは、支援記録を欠いたり、夕食の配膳等を行ったりする他、利用者の入浴の見守り・介助を行っていたから、これらの時間は労働時間にあたる。
また、それ以外の不活動時間においても、介助等の利用者対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているといえるとして、Y社の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。
ただし、Xらも夕食を取ったり、風呂に入ったりしていたと考えられること、Xらは、週に3、4度、1度につき30分から1時間程度、自分の用事で外出していたことからすれば、Xらにも、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから、少なくとも午後4時から午後9時までの間の1時間は労働時間にあたらないというべきである。

拘束時間が長い職業の場合、今回の事案同様、すごい金額になってしまいます。

このような施設は極めて多いと思います。

消滅時効の期間が伸長されていることを考えると今のうちに対策を考えないと経営破綻してしまいます。

労働人口がますます減っていくことからしますと、抜本的な解決はかなり難しいといえます。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

本の紹介1253 5000日後の世界(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「すべてがAIと接続された『ミラーワールド』が訪れる」です。

2022年時点においても、学校や家庭における旧来の教育がほとんど意味をなさない状況にあることを考えると、5000日後はもう想像もつかないくらい世界が変化しているのでしょうね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

このように、グローバリゼーションやテクノロジーの進歩がどんどんと加速し不確実性が増す世界では、小学校から高校までの十二年間の教育で、『学び方を学ぶ』という汎用のスキルを持つ必要があるのでしょう。そして高校卒業の段階で、自分に最適化した学びの方法を習得していなければなりません。」(147頁)

学ぶための「ツール」は時代とともに進歩してきましたが、「学び方」自体は自分で習得するほかありません。

これは今も昔も変わりません。

勉強する内容は年齢や立場によって異なりますが、「学び方」は汎用性があるため、一度、効率の良い勉強法を身に付けるとその後がとても楽になります。

勉強が得意な人たちはみな、勉強する中身は違えど「結局、やることは一緒でしょ」と思っているのです。

限られた時間の中で効率よく勉強するというのは決して才能ではなく技術です。

賃金222 元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

エイシントラスト元代表取締役事件(宇都宮地裁令和2年6月5日・労判1253号138頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Aは、Y社の代表取締役として、同社をしてその従業員であったXに対し割増賃金を支払わせる義務があるのに、これを怠った等と主張して、Aに対し、会社法429条1項又は民法709条に基づき、未払割増賃金に相当する損害賠償金1023万0677円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

AはXに対し、1023万0677円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 会社の従業員に対する賃金の支払義務は、一時的には当該会社自身が負うべきことは当然であるが、会社は基本的に従業員を労働させることによって利益をあげており、従業員は会社の重大な存立基盤である上、従業員の側からみても、会社から適法に賃金の支払がされることは、その生活を維持するために最も重要な事項であって、違法な賃金の不払には罰則が定められていること(労働基準法119条等)も踏まえれば、会社によって賃金支払義務が履行されず、その不履行が役員の悪意又は重大な過失によるものであって、かつ、従業員が会社に対する賃金支払請求権を有するとしても、なお従業員に損害が生じているものと認められる場合には、当該会社の役員は、会社をして従業員に対し適法な賃金の支払をさせる任務を怠ったものとして、会社法429条1項に基づき、従業員に生じた損害を賠償する責任を負うものと解すべきである。

2 Y社のようなトラックによる運送事業を営む会社において、その運転手の労務管理は経営上重要度の高い事項であり、かつ、必ずしも容易なものではないと考えられるところ、Bらは同業のC社の従業員であったとはいえ、運送会社の経営や労務管理を行った経験があったとは認められないのであるから、Aには、Bらに対して運転手の労務管理についてC社のノウハウを具体的に伝えて指導する等し、また、Y社の業務開始後少なくとも当面の間は、自ら行うか又は専門家に依頼するなどして、給与規程の内容、従業員の稼働状況及び給与の支払状況を確認し、従業員に対し適法な賃金の支払がなされているかどうかを確かめる義務があったというべきである

3 ところが、Y社は、Y社の給与規程の内容や、いわゆる36協定の有無について把握しておらず、法令の遵守について、口頭で法令を守るようにBらに指示することはあったが、具体的な就業規則、給与規程の作成を指示することはせず、従業員の稼働状況や給与の支払い状況について確かめておらず、Xから未払賃金の請求を受けた後も、A代理人弁護士を通じて、Y社の代表取締役を辞任した旨の通知を送った後は、Xの稼働状況等を調査し未払賃金の有無を確認することもしなかったのであって、これは、上記の義務を怠ったものと評価せざるをえず、少なくとも重大な過失により自らの代表取締役としての任務を怠り、BらがY社をしてXに対し労働基準法に定められた割増賃金を支払わせる義務を怠るのを看過したものであって、会社法429条1項に基づき、これによりXに生じた損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当である。

労使ともに今回の裁判例をしっかり押さえておきましょう。

会社法429条1項により役員の責任追及の形で会社と不真正連帯債務を負うことになる可能性があります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1252 数こそ質なり#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度読み直してみました。

もうタイトルがいいですよね。

まさに圧倒的な量が圧倒的な質を生み出すのです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

他人から見れば、自分を犠牲にした生活を送っているようにも見えるのかもしれない。しかし、私自身にそんな感覚はまったくない。野球に打ち込む野球選手、サッカーのことしか頭にないサッカー選手とも変わらず、好きな仕事に専心しているだけだ。それくらいこの仕事は楽しいし、やり甲斐がある。」(84頁)

私の周りの多くの経営者は、このような方ばかりです。

能動的に仕事を行っている人にとって、労働時間の長さはたいした問題ではありません。

働く時間が制限されるほうがむしろストレスなのです。

サッカー選手、野球選手がサッカーや野球のやりすぎで過労死したという話を私は知りません。

好きなことをやっている人は、そもそも仕事を「労働」であると意識していないため、労働日数や労働時間数には全く関心がないのです。

仕事に熱狂している人には勝てません。

不当労働行為282 使用者の労務指揮権に委ねられた事項と義務的団交事項該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従業員への聞き取り調査を実施したことが義務的団交事項にあたるかが争われた事案を見ていきましょう。

大屋タクシー事件(三重県労委令和2年12月21日・労判1253号147頁)

【事案の概要】

本件は、従業員への聞き取り調査を実施したことが義務的団交事項にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 本件聞き取り調査は、売上金額にかかる乗客とのやりとりに関するドライブレコーダーの記録と、運行日報に記載された金額が食い違っていたことから、事実確認を行うために実施されたものである。運賃の受領において、不明瞭な事象が生じた場合に、事実確認を行うことは、タクシー会社にとって当然かつ必要な行為であるのだから、A2組合員に対して本件聞き取り調査を実施したことは、会社の労務指揮権の範囲内として委ねられている事項であり、業務に付随して通常予定されている労務指揮権の範囲を超えるものではないと解せられることから、第1回団交申入れの交渉事項として会社が理解した「本件聞き取り調査を実施したこと」については、義務的団交事項には該当しない。

2 そもそも、いかなる事項を団体交渉事項とするかを具体的に明らかにすることは、団体交渉申入れに際しての当然の前提であり、また団体交渉の開始にあたって、最小限必要なことでもある。団体交渉申入書に適切な記載がなく、それまでの経緯からも推し量ることもできない状況で、これに適切に対応する義務が使用者にあると解し、使用者の判断に誤りがあった場合には不当労働行為の成立を認めるとするのは、使用者に過大な義務を課すものとなる
組合が団体交渉申入書とは別に具体的な説明をしていたり、要求をしていたりしていたのであれば別であるが、本件においてはそのような事情は認められず、会社が団体交渉申入書の記載から、組合の求める交渉事項が、「本件聞き取り調査を実施したこと」と理解したことはやむを得ない。

上記命令のポイント2の考え方は非常に重要ですので、しっかりと押さえておきましょう。

一般的には義務的団交事項の範囲はかなり広いので、自分勝手な解釈をしないように気を付けましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

本の紹介1251 7つの法則 ビジネスを成功させる正しいコツ#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度読み直してみました。

ありとあらゆるコツが書かれており、盛り沢山です。

何度も読み返すに値する本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

市場の『弱者』なら、リスクを冒すしかない。顧客サービスでホームランを狙う以外の選択肢がないなら、起業家としてリスクを冒すべきだ。失敗が許されないなら、なおさらリスクを冒さなければならない。逆説的だが、より多くの失敗を重ねなければならない。なるべく多くの実験をしたほうが安全だ。なぜなら、そのほうが顧客のための正しい答えが見つかる可能性が高くなるからだ。」(161頁)

さて、みなさんは、日々の仕事、日常生活の中で、どれだけ「リスク」を冒していますか?

コンフォートゾーンから意識的に抜け出し、居心地の悪さを感じる挑戦をしていますか?

挑戦の過程はすべて「実験」です。

途中における失敗はすべてゴールにたどり着くために必要なプロセスの一環にすぎません。

失敗を恐れないというマインドは、ゴールにたどり着くためには必要不可欠です。

このマインドを持っていないと、ほんのちょっとの失敗で「もう無理」「むいていない」と言ってすぐに投げ出してしまうのです。

私たち「弱者」こそ、リスクや失敗を恐れず、果敢に挑戦し続けるべきなのです。

昨日と同じ今日、今日と同じ明日からは、新しい自分をつくることはできません。

労働者性42 業務委託契約の性質が労働契約と認められ、契約解消(解雇)が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、業務委託契約の性質が労働契約と認められ、契約解消(解雇)が無効とされた事案を見ていきましょう。

クリエーション事件(東京地裁令和3年7月13日・労経速2465号37頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Y社との間で労働契約を締結していたと主張するXが、Y社が令和2年2月28日にした解雇は無効であると主張し、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、解雇日以降の賃金として、令和2年3月から本判決確定の日まで、毎月27日限り10万円(月額35万円から被告に対する貸金債務月額25万円を控除した後の金額)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 被告は、主にクイックまつげエクステをフランチャイズ展開する事業を営む株式会社であり、直営店舗のほか、加盟店(Y社から研修を受けて証明書の発行を受け、顧客に対して施術を行う店舗)及び代理店(Y社と加盟店を仲介する店舗)を通じてまつげエクステの事業を行っていたこと、Xは、令和元年8月ころから、Y社の事務所の鍵及び携帯電話を交付され、麹町所在の事務所又は恵比寿所在の直営店舗(サロン)において、本部長の肩書で、加盟店の管理(販促物の供給、連絡等)、事務用品の購入、広告及び販促物の作成、セミナー及び講習会のサポート並びにAの秘書業務等の業務を行っていたことが認められる。

2 そして、AはY社の代表取締役であること、X及びAとY社の代理店等が加入するLINEグループが20以上あり、XはAとの間でLINEグループにより、Y社の内部的事務、取引に係る予算及び発注、代理店その他の関係者との連絡等の業務に関するやり取りを行っていたこと、XとAは、LINEグループでのやり取りを通じて、頻繁に業務上の報告、連絡をしていたこと、Xが業務を行うに当たってはAから具体的な指示を受けることが多くあったことが認められ、これらの事情に照らせば、AはXに対して業務上の指揮命令を行う関係にあったと認められる。なお、Aは、X本人尋問において、Xに対し、自らが依頼したコピーを取ることを拒否したことを非難する旨の発言をしているところ、かかる発言からも、AがXに対して指揮命令を行う関係にあったことがうかがわれる

3 また、Xは、休暇を取得する場合はAに報告し、Aの了承を得ていたこと、Aは、令和2年1月ころから、Xに対してタイムカードに打刻するよう求めており、同月28日、Xに対し、「ずいぶんまえから、タイムカードできるよえにしてくださいといいましたが、いつできるのでしょう。」、「きちんと皆んな8時間勤務で、お休みもまえもってわかるようにするために、タイムカードをかったのですが、全然いみがないです。」、「会社は早くても6時までは対応してもらいたいので今月はそのようにおねがいします。」、「タイムカードおしてください。」、「お昼とるとらないは、自由ですが、8時間はいるようにしてください。」などのメッセージを送信したことが認められる。
上記の事実によれば、Xは、Aから具体的な指示を受けてY社の業務を遂行していたと認められ、仕事の依頼や業務の指示に対する諾否の自由を有していたとは認められない。また、Xは、Y社における勤務日や勤務時間について一定の拘束を受けていたというべきであり、これらの事情を考慮すれば、本件契約の性質は労働契約と認めることができる。

労働法規適用回避目的で、業務委託契約を選択する方が少なくありませんが、そのうち、雇用契約と業務委託契約の違いを十分に理解している方がどれほどいるでしょうか。

労働者性に限らず、管理監督者、固定残業代、変形労働時間制等、多くの労働紛争は、使用者の無知から生じているのが現実です。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介1250 成功へのメッセージ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「決意した瞬間から夢は実現する」です。

15年程前に出版された本ですが、今読んでも全く遜色ありません。

奇を衒うことのない王道の内容です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私たちがうしろめたさを感じる時は、必要な努力を払っていない時なのです。」(45頁)

正解。

私は平日も休日も毎朝4時に起きていますが、寝坊して5時に起きるとうしろめたさを感じます。

毎朝のルーティンである勉強・筋トレ・仕事の時間が短くなってしまうからです。

同様に、休日にのんびりしていると「ああ、なんて非生産的な時間の使い方をしてしまったのだろう。」とうしろめたさを感じます。

まあ、ほとんどありませんが。

人と同じ時間に起きて、人と同じことをやって、成功したいなんて、世の中にそんな都合のいい話はありません。

やり続けるか、途中で投げ出すか。

ただそれだけのことです。

労働災害110 下請企業従業員の業務中の事故につき、元請企業の責任が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、下請企業従業員の業務中の事故につき、元請企業の責任が否定された事案を見ていきましょう。

岡本土木・日鉄パイプライン&エンジニアリング事件(福岡地裁令和3年6月11日・労経速2465号9頁)

【事案の概要】

本件は、Xがガス管敷設工事の現場監督をしていた際に、バックホーで吊された鋼矢板が落下した後、倒れてXの頭部に当たった事故について、同工事の元請企業であるY1及び同工事の下請企業でありXの使用者であるY2にそれぞれ安全配慮義務違反があるなどと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき、連帯して損害賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y2は、Xに対し、607万9539円+遅延損害金を支払え

Y1に対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 元請企業と下請け企業の労働者との間には、直接の労働契約はないものの、下請け企業の労働者が労務を提供するに当たって、元請企業の管理する設備、工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の労働者とほとんど同じであるなど、元請企業と下請企業の労働者とが特別な社会的接触関係に入ったと認められる場合には、労働契約に準ずる法律関係上の債務として、元請企業は下請企業の労働者に対しても、安全配慮義務を負うというべきである。

2 これを本件についてみると、本件事故発生時に使用されたバックホーは、Y2が手配したものであり、本件鋼矢板を吊るクランプは、Q2が用意したものであって、Y2の管理するものではなかった。また、本件鋼矢板をバックホーで吊るして運搬するという作業の選択をしたのはY2であって、Y1が指示したものではないし、Y1がY2ないしQ2の労働者の作業に関して、指揮監督を行っていたものと認めるに足りる証拠はない。また、Y1の従業員に、具体的な作業に従事する者もおらず、XとY1の従業員とでは、作業内容も異なっていた。
したがって、Y1とXとが「特別な社会的接触の関係」に入ったものと認めることはできず、Y1はXに対して安全配慮義務を負わない

3 XはY2の作業責任者であり、RKY活動を中心となって行う立場として、また本件作業全体を直接監督する立場として、特に安全を遵守すべき立場にあったこと、Xは約21年5ヶ月程度の工事経験を有しており、重機の旋回範囲内に入らないという注意については、これまで何度も受け、自己も行ってきたこと、それにもかかわらず、Xは、これに背き、作業を一旦止めるなどといった措置もとらず、重機の旋回範囲に立ち入るという重大な不安全行動をとったこと、その他本件証拠により認められる諸事情を総合考慮すると、Xがとった行動には重大な過失があるといわざるを得ず、Xの損害額について6割の過失相殺をするのが相当である。

元請責任が発生する場合について、上記判例のポイント1の考え方は理解しておきましょう。

本件では、元請会社の責任は否定されています。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。