管理会社等との紛争42 被告が原告の居住するマンションの一室の玄関前まで侵入し、玄関をノックしたり、玄関を傘で叩いたりするなどの行為をしたことにより、原告が抑うつ、不安、不眠の症状を悪化させたにもかかわらず、慰謝料請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、被告が原告の居住するマンションの一室の玄関前まで侵入し、玄関をノックしたり、玄関を傘で叩いたりするなどの行為をしたことにより、原告が抑うつ、不安、不眠の症状を悪化させたにもかかわらず、慰謝料請求が認められなかった事案(東京地判平成28年9月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告に対し、被告が原告の居住するマンションの一室の玄関前まで侵入し、玄関をノックしたり、玄関を傘で叩いたりするなどの行為をしたことにより、玄関に損傷を受け、原告の抑うつ、不安、不眠の各症状を悪化させたなどとして、不法行為に基づき損害賠償として728万2000円(玄関扉等交換工事費用162万円、慰謝料500万円及び弁護士費用66万2000円の合計金)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、5万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、被告の本件行為により損傷された本件玄関扉を復旧させるために162万円の負担を要するとして、甲8号証の1~3を提出するが、本件玄関扉等の損傷状態及び本件マンション管理組合作成の「X様への回答書」に鑑みても、本件玄関扉の復旧として、玄関枠交換工事及び玄関錠取替工事が必要とは認められず、その他本件全証拠からも上記各工事が必要とは認められない。他方、上記各工事は必要ではないが、本件玄関扉の復旧のためには、玄関扉を新しい扉に交換し、玄関枠の傷については塗装によって補修し、既設の玄関錠を新しい扉に付け替えることを要し、上記工事費用として65万5560円を要するから、同額を原告の損害とするのが相当である。
原告は、消防法に基づく共通仮設計画作成及び届出の費用として30万円(税別)並びに建築基準法に基づく共通仮設計画作成費用として25万円(税別)の支出を要すると主張するが、本件全証拠によっても、本件玄関扉の復旧のために上記計画作成及び届出等を要するとは認められない。
そして、被告は、65万5560円及びこれに対する遅延損害金を供託したから、原告の請求には理由がない

2 被告は、本件建物のインターホンを鳴らしたり、本件マンションに侵入し、本件建物のチャイムを鳴らし、玄関扉をノックしたり、傘で叩いて本件玄関扉を損傷させたりするなどしているが、被告は、原告が本件建物を所有していることや同建物に居住していることを認識しておらず、原告に何らかの危害や不安を与えることを意図して行ったのではないこと、本件玄関扉の損傷については上記のとおり財産的損害は填補されており、被告は原告の支払った治療費及びこれに対する遅延損害金も供託したところ(第2の1(3))、上記の被告の行為態様を考慮しても、上記財産的損害の填補により、原告の精神的損害は賄われたものと認めるのが相当であることからすると、慰謝料を求める原告の請求は理由がない
なお、本件マンションへの被告の侵入が建造物侵入に該当するとしても、本件建物に対する住居侵入には当たらず、本件マンションへの侵入をもって原告の利益が直接的に侵害されたものではない。また、原告は、被告の本件行為により鬱病になったとして、診断書を提出するが、被告が原告の支払った治療費及び遅延損害金を供託したことは上記のとおりであり、同診断書は、その記載からして、原告の供述に基づき記載されたものと解され、同診断書により被告の本件行為により原告が鬱病となったとは認められないことからすると、被告が供託した治療費以上に原告の精神的損害を認める理由はない。

3 上記のとおり、原告の求める損害賠償のうち、認められる損害賠償額は65万5560円及び遅延損害金であるが、他方、被告は、平成28年2月25日以降、同額及び遅延損害金を弁済する旨申し出ており、同年3月2日に供託したことに鑑みれば、本件において認める弁護士費用は5万円とするのが相当である。

本件では、特にうつ病に関する診断書が証拠として提出されていますが、裁判所は、治療費や工事費用等に限り損害賠償請求を認め、慰謝料請求は棄却しています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。