Category Archives: 管理費・修繕積立金

管理費・修繕積立金43 管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(東京地裁平成29年10月31日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の管理者である原告が、本件マンションの504号室の区分所有権及びその敷地利用権を有する被告には本件管理組合に対する管理費及び修繕積立金の滞納があるとして、同滞納分を回収するため、区分所有法59条1項に基づき被告区分所有権等の競売を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告区分所有権等の時価や被告区分所有権等に設定されている抵当権の被担保債権の現時点での残額は不明であるが、平成26年9月の時点では、先取特権(法7条1項)に基づく被告区分所有権等の担保不動産競売の開始決定は無剰余で取り消されていること、被告による管理費等の滞納はその後も続いており、被告の資力が回復したような事情は窺われないことなどからすると、現時点において、被告区分所有権等につき通常の強制競売又は担保不動産競売を申し立てて競売開始決定を得ても、無剰余取消しとなることが見込まれる
また、被告による管理費等の滞納が自主的に解消される見込みはなく、被告区分所有権等のほかにみるべき被告の資産はない
したがって、法59条1項に基づく被告区分所有権等の競売以外の「他の方法によってはその障害を除去して・・・区分所有者の共同生活の維持を図ることは困難」である(法59条1項)といえる。

2 本件管理組合の第38期定時総会の議事録によれば、被告は、被告区分所有権等の競売の議決に際し弁明をしていないが、それ以前に、そもそも同総会に欠席していたことが認められる。
しかし、本件管理組合では、管理規約上、総会開催日の2週間前までに、組合員である区分所有者に対し、会議の日時、場所及び目的を示すこととされており、本件請求に係る議案(第2号議案)についても、被告を含む本件マンションの区分所有権者らに対し、管理規約に基づく事前の通知がされていたものと推認されるところ、本件では同推認の妨げとなるような特段の事情は窺われない。
したがって、被告に対し、被告区分所有権等の競売の議決に当たって必要とされる弁明の機会の付与(法59条2項,58条3項)はされていたというべきである。

59条競売請求は、最後の手段ですので、その前にやらなければいけないステップをしっかり踏むことがとても重要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金42 管理組合が亡区分所有者の相続人の1人に対し、未払管理費等につき、法定相続分である3分の1に相当する額の催告をしたところ、当該催告の時効中断効が、本件未払管理費等の相続債務全体に及ぶとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が亡区分所有者の相続人の1人に対し、未払管理費等につき、法定相続分である3分の1に相当する額の催告をしたところ、当該催告の時効中断効が、本件未払管理費等の相続債務全体に及ぶとされた事案(東京地判令和4年2月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、本件建物の共有者の一人である被告に対し、①管理費等の支払請求権に基づき、別紙滞納管理費等目録記載のとおり、平成16年11月分から令和3年9月分までの管理費、修繕積立金及び大規模修繕一時金+遅延損害金(請求の趣旨第1項)、
②管理規約に基づく弁護士費用等の支払請求権に基づき、59万9403円+遅延損害金(請求の趣旨第2項)、
③管理費及び修繕積立金の支払請求権に基づき、令和3年10月分から令和4年1月分までの合計8万0240円及び令和4年2月以降被告が本件建物の区分所有権を喪失するまで毎月6日限り各2万0060円(請求の趣旨第3項)、
④大規模修繕一時金の支払請求権に基づき、令和3年10月分から令和4年1月分までの1万8224円並びに令和6年2月まで毎月6日限り各4556円及び令和6年3月6日限り4493円(請求の趣旨第4項)の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、147万5192円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、28万4905円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、8万0240円及び令和4年2月から被告が別紙物件目録記載の物件の区分所有権を喪失するまで毎月6日限り各2万0060円を支払え。
 被告は、原告に対し、1万8224円並びに令和4年2月から令和6年2月まで毎月6日限り各4556円及び令和6年3月6日限り4493円を支払え。

【判例のポイント】

1 原告が令和3年6月5日に被告に対して本件通知書に係る催告をしたことは当事者間に争いがなく、原告が令和3年9月7日に本件訴えを提起したことは当裁判所に顕著である。
ところで、証拠によれば、本件通知書に係る催告のうち、Cが区分所有権を有していた平成16年11月分から平成28年6月分までの管理費等については、被告に対して法定相続分である3分の1に相当する額の催告をするにとどまっている
しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件通知書は、家庭裁判所への照会を通じてD及びEの相続放棄の申述受理が判明する前に発送されたものと認められ、原告において他の相続人の相続放棄の事実を把握していたとも窺われない(なお、早期に時効中断の措置を執る必要があったことからも、家庭裁判所への照会前に本件通知書を発送したこともやむを得ないといえる。)。
また、本件通知書は、「故C氏から相続した(中略)管理費等支払債務の3分の1の金額」という表現がされており、相続債務であることが明示されていることに照らしても、債権者である原告としては、相続放棄により相続人の変動が生じているのであれば、債務者である被告の負担すべき相続債務全体について権利行使する意思があったと解することが可能である。
したがって、本件通知書による催告の時効中断効は、被告が支払義務を負う本件建物の管理費等の相続債務全体に及ぶというべきである。

2 原告は、原告訴訟代理人弁護士に対し、本件訴訟の提起及び追行を委任し、着手金18万8166円(請求金額の8%相当)及び報酬金37万6332円(認容額等の16%相当)の合計56万4498円の支払を約したことが認められる。
ところで、本件では、別紙滞納管理費等目録記載の滞納管理費等のうち番号1ないし番号139(同目録のおよそ3分の2)については、既に消滅時効期間が経過しており、本件通知書による催告以外の中断事由も窺われないことから、被告が消滅時効の援用をするか否か次第ではあるが、消滅時効期間が経過した管理費等については、請求が認容されない蓋然性が高かったといえる。
そうすると、被告の負担すべき弁護士費用としては、上記約定額の全額を負担させるのは相当とは認め難く、本件訴訟の内容及び経過等の事情を勘案すると、着手金及び報酬金を合算して25万円をもって相当と認める。

催告の時効中断効が及ぶ範囲に関する上記判例のポイント1の解釈は是非押さえておきましょう。

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管理費・修繕積立金41 原告が、被告からなされた本件敷地及びその上にある本件マンションに係る建物退去土地明渡等請求事件による強制執行につき、被告の管理費償還請求権と原告の各不当利得返還請求権との相殺を主張して強制執行の不許を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告が、被告からなされた本件敷地及びその上にある本件マンションに係る建物退去土地明渡等請求事件による強制執行につき、被告の管理費償還請求権と原告の各不当利得返還請求権との相殺を主張して強制執行の不許を求めた事案(東京地判平成29年2月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告から原告に対する東京地方裁判所平成20年(ワ)第14972号建物退去土地明渡等請求事件及び同第33354号建物退去土地明渡等請求事件の判決主文第1項に基づく強制執行について、同項に基づく被告の原告に対する区分所有法19条に基づく管理費償還請求債権と原告の被告に対する不当利得返還請求債権との相殺を主張して、その不許を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有建物の一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た使用料のうち、各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨の集会の決議や規約の定めがあるといった場合を除き、各区分所有者は、上記請求権を行使することができるものと解される(最判平成27年9月18日)。
本件マンションについては、上記のような集会の決議や規約の定めがあるとは認められないから、原告は、被告に対し、本件マンションの区分所有者の一人として、被告が本件マンションの共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち、各区分所有者の持分権割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権を行使することができる。

2 本件駐車場は、本件マンションが所在する法定敷地であり、「建物の敷地」に当たるから、原告は、自己の専有部分を所有するための「専有部分に係る敷地利用権」として本件敷地の賃借権を準共有している。
建物の敷地が区分所有者の共有又は準共有に属する場合、区分所有法21条により同法19条が準用され、各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、建物の敷地の負担に任じ、建物の敷地から生ずる利益を収取する。
したがって、原告は、本件駐車場を第三者に賃貸することによって得られる利益をその持分割合に応じて収取することができる

3 原告が本件駐車場の使用収益権を有しないとの認識を昭和53年の本件賃貸借契約締結当時から持っていた認められる証拠はなく、原告の主張するように、原告は、法的な知識を十分に有していなかったため、本件駐車場の使用収益権を有するとの認識を持つことができなかったものと認められる。
そうすると、本件相殺の意思表示が信義則上許されない又は権利濫用に当たり許されないということはできず、この点に関する被告の主張は採用することができない。

4 以上の検討によれば、被告から原告に対する東京地方裁判所平成20(ワ)第14972号建物退去土地明渡等請求事件及び同第33354号建物退去土地明渡等請求事件の判決主文第1項に係る区分所有法19条に基づく管理費償還請求権は、平成16年7月20日から平成23年6月19日までに発生した不当利得返還請求権と対当額で相殺されて消滅した。

上記判例のポイント1の最高裁判例や区分所有法の十分な理解がないと反応できないと思います。

ややレベルが高いところですが、知っているのと知らないのでは大きな差が出る分野です。

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管理費・修繕積立金40 管理費・修繕積立金等口座自動引落し手続き等請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費・修繕積立金等口座自動引落し手続き等請求が認容された事案(東京地判平成28年10月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人である原告が、同マンションの区分所有者である被告に対し、被告は、現在管理費等の支払は行っているものの、その支払日が一定していないことから、本件マンションの管理規約に基づき、支払者被告、被支払者原告、支払金額毎月2万1110円、支払期限毎月27日とする口座自動引落手続を行うことを求めるとともに、本件訴訟提起に係る原告の訴訟代理人弁護士に対する着手金及び報酬金相当額の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、被告名義の金融機関口座から、支払者被告、被支払者原告、支払金額毎月2万1110円、支払期限毎月27日とする口座自動引落し手続をせよ。

 被告は、原告に対し、158万7600円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、管理費等の支払について本件自動送金手続をとっているが、同手続においては支払期限が毎月31日とされ、本件支払方法の定めに沿った支払期限(毎月27日)が設定されていないから、被告は、支払期限の限りにおいては本件支払方法の定めを履践していないものといわざるを得ない。
よって、被告は、本件規約に基づき、支払期限を毎月27日とする口座自動引落し手続(仮に被告が現在利用している金融機関を前提にすると「自動送金・口座振替依頼手続」)をとる義務を負う
また、被告は、本件規約に基づき、原告に対し、本件委任契約に基づき原告が原告訴訟代理人に支払う着手金及び報酬金(合計158万7600円)を支払う義務を負う。

2 被告は、支払期限が毎月31日であるか毎月27日であるかは極めて軽微な誤差であり本件訴えは不当なものであると主張する。しかしながら、区分所有者全員との関係で画一的に特定の日を支払期限として定めることは、遅延損害金の計算の煩雑化を避け、合理的な会計処理をする上で有用な手法であり、特に、本件のように本来の支払期限より後の日に支払がなされる場合は遅延損害金の処理が必要となり得るのであるから、上記支払期限の差異をもって極めて軽微な誤差であるということはできず、本件訴えが不当なものであるとはいえない

上記裁判所の判断の第1項のような請求が認められることを知っておきましょう。

また、この訴訟における弁護士費用は158万7600円で、その全額が認められています。

区分所有に関する訴訟特有です。

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管理費・修繕積立金39 水道料立替金を区分所有者が管理組合に支払う旨の本件水道規約の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、水道料立替金を区分所有者が管理組合に支払う旨の本件水道規約の有効性(静岡地判令和4年9月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である被控訴人が、本件マンションの区分所有者である控訴人に対し、管理規約に基づき、①別紙債権目録「未納金」欄記載の平成29年1月から平成31年1月までの間の未払水道料立替金合計5万2395円+約定の年18%の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②違約金としての原審段階の弁護士費用22万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

これに対し、控訴人は、水道料立替金及び違約金について定めた管理規約は無効であるなどと主張して、請求の棄却を求めた。

原審は、水道料立替金及び違約金について定めた管理組合の規約は有効であるとして、被控訴人の請求のうち、①については全部認容し、②については違約金としての原審段階の弁護士費用22万円+遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し、その余の請求は棄却したところ、控訴人は敗訴部分を不服として控訴した。
一方、被控訴人は、敗訴部分を不服として附帯控訴し、併せて、更に違約金としての当審段階の弁護士費用22万円+遅延損害金の支払を求めて請求を拡張した。

【裁判所の判断】

1 本件控訴を棄却する。

 本件附帯控訴に基づき、原判決主文第2項を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、44万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 区分所有法30条1項は「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」と規定しているところ、「建物」については、文理上、共用部分に限定するものとは解されないから、共用部分だけでなく、専有部分についても、その管理や使用が区分所有者全体に影響を及ぼすような事項については規約で定めることができるものと解するのが相当である。
以上を踏まえて検討すると、本件マンションにおいては、本件マンション敷地内の給水管、受水槽、加圧式ポンプ、子メーター32戸分が本件マンションの共有物として設置され、これらの受水槽、ポンプ等の給排水施設は、管理規約8条別表第2に基づき共用部分とされ、管理規約21条に基づき、管理組合である被控訴人がその負担と責任において管理すべきものとされていること、本件マンションは、当初から親メーターで計量して受水槽により給水を受ける貯水槽水道設置方式で建築され、浜松市上下水道部との間では一括検針一括徴収方式を採用していることがそれぞれ認められる。
したがって、水道水が専有部分である各戸で使用されることから専有部分の使用に関する事項という面があるとしても、上記のとおり、水道水が共用部分である給水施設を経て各戸に供給され、水道水の供給の方式が浜松市上下水道部と管理組合である被控訴人の契約内容により決定されている以上、各戸の水道水の使用は必然的にこれらの施設管理及び契約内容による制約を受けるのであるから、管理組合である被控訴人が区分所有建物全体の使用料を立て替えて支払った上で、各区分所有者にその使用量に応じた支払を請求することを規約で定めることは、建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を定めるものとして、規約で定めることができ、このような内容の規約は有効であるものと解すべきである。

2 控訴人は、専有部分の水道料金は、特段の事情のない限り、区分所有法30条1項の建物又は附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項には該当せず、上記特段の事情とは、個別検針個別徴収方式への変更が法令や水道局の規定上できないことをいうものと解されるところ、本件では、かかる特段の事情は認められないなどと主張する。
しかしながら、水道水が専有部分である各戸で使用されることから、専有部分の水道料金が、専有部分の使用に関する事項という面があるとしても、本件マンションにおいては、水道水が共用部分である給水施設を経て各戸に供給されていることや、水道水の供給の方式が浜松市上下水道部と管理組合である被控訴人との契約内容により定められてきたことなどからすると、被控訴人において、区分所有建物全体の水道料金を一括立替払した上で、各区分所有者に対し使用量に応じた水道料立替金の支払を求めることについて、「建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」として管理規約に有効に定めることができるものと解するのが相当であり、これが上記事項に当たらず、およそ管理規約で定めることはできないと解することは困難というべきである。

原審に引き続き、控訴審においても結論は変わりませんでした(理由付けは異なりますが)。

なお、原審判断はこちらです。

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管理費・修繕積立金38 未払管理費等について和解に基づく債務名義がある場合に訴訟をする訴えの利益があるか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等について和解に基づく債務名義がある場合に訴訟をする訴えの利益があるか(東京地判平成28年12月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が所有する区分所有建物を含むマンションの各区分所有者によって構成される権利能力なき社団である原告が、原告により定められた管理費、修繕積立金等の費用等を支払わない被告に対し、規約に基づき、滞納費用等のほか、未払町会費及びそれらの遅延損害金並びに提訴のための弁護士費用の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件において、被告が、原告の主張する金員を滞納していることに争いはない。
そこで、前件和解に基づく債務名義がある中で、本件訴訟をする訴えの利益があるかについてまず検討する。
被告は、本件滞納金の存在を認めながら支払をしない理由として、前件和解において、原告が本件確約をしたのに、それを履行しようとしないためにやむを得ず支払いを止めたと主張する。
原告が債務名義となる公正証書を所持している場合であっても、請求権の存在につき既判力をもって確定する必要がある場合には、訴えの利益が認められるところ(大審院大審院大正7年1月28日判決)、本件においては、被告が、原告の債務名義の行使について疑義を唱えているといえることからすると、既判力で確定する必要があるといえる。
よって、本件においては訴えの利益が認められる。

2 本件訴訟をする訴えの利益が認められ、被告に本件滞納金が存在することからすると、原告が、本件訴訟をする際、弁護士に委任し、それについてかかる費用については、管理規約65条2項により、被告において負担する義務がある。
原告は、本件訴訟につき、原告代理人との間で、着手金として請求額の8パーセント、報酬金として経済的利益の16パーセントを支払うとの委任契約を締結したことが認められる。
よって、被告は、原告に対して、上記の弁護士費用を負担する義務がある。
なお、被告は、原告において、本件確約を履行しないことを問題視し、るる主張するが、本件確約は、前件和解において、管理費等や町会費負担金を支払う条件等になっているわけではないから、仮に原告が本件確約を履行していないとしても、本件滞納金の支払拒絶事由になるとはいえない。
そして、本件滞納金が216万4607円であることは当事者間で争いがないから、被告は、原告に対し、消費税分を含め、着手金分として18万7022円、報酬金として37万4044円の合計56万1066円を支払う義務を負う。

既に債務名義がある場合であっても、必要に応じて提訴することが認められています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金37 管理費等を滞納する区分所有者と協議を行わずに支払督促を申し立てたら違法?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等を滞納する区分所有者と協議を行わずに支払督促を申し立てたら違法?(東京地判平成29年1月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、控訴人が、同人の居住するマンション管理組合の理事長である被控訴人から、マンション管理費等7万5000円及び弁護士費用3万2400円を支払うよう求める旨の支払督促の申立てを受けたところ、弁護士費用は、被控訴人が支払うべき費用であると主張して、被控訴人に対し、3万2400円の支払を求めた事案である。
原判決は、控訴人の主張する請求原因事実によっても、控訴人の被控訴人に対する3万2400円の支払請求権は発生しないとして、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人は、これを不服として控訴し、前記第1のとおりの判決を求めた。
なお、控訴人は、当審において、本件請求は、被控訴人が控訴人に対して弁護士費用(3万2400円)を請求したことが不法行為に当たり、これにより控訴人が同額の債務を負担したことが損害に当たると主張するものであるとした。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 控訴人の主張は必ずしも明らかでないが、これを善解すると、被控訴人は、控訴人からの話合いの申出に応じず、一方的に本件申立てを行ったものであり、このことは、被控訴人の本件管理組合の理事長としての職務の怠慢であると評価されるべきものであるから、本件申立てを行うためにかかった弁護士費用を控訴人に対して請求することは、控訴人に対する不法行為を構成するということのようである。
しかし、そもそも控訴人が、管理費等の支払について、被控訴人に対して話合いを求めていたことを裏付ける証拠はないし、仮にそのような事実が認められるとしても、被控訴人は、控訴人に対して滞納管理費等を請求するに当たり、支払督促を申し立てる前に控訴人との間で話合いを行うべき義務を負っているものではなく(本件管理規約においても、そのような定めはない。)、話合い等に応じずに本件申立てを行ったことが、不法行為法上違法な行為であると評価することはできない。
また、本件管理規約において、管理費等を期限までに支払わない区分所有者に対し、一定の場合に弁護士費用を請求することが認められていることに鑑みれば、本件申立てに係る弁護士費用を控訴人に請求することが、控訴人に対する不法行為を構成するということもできない

特に異論のないところかと思います。

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管理費・修繕積立金36 駐車場の所有権の帰属に関する裁判所の事実認定(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場の所有権の帰属に関する裁判所の事実認定(東京地判平成29年2月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有マンション管理組合である原告が、区分建物の共有者である被告らに対し、管理費等及びその遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告らは原告に対し、各自、3503万6062円+遅延損害金をそれぞれ支払え。

【判例のポイント】

1 被告らは、N設計から本件駐車場の所有権を取得して、以後これを所有しているなどと主張するが、原告の管理組合規約では、共有部分である本件マンションの附属施設として本件駐車場も列挙されており(8条1項、別表2)、他方、本件駐車場の所有権が被告らに留保される旨の規定は存しない
被告らがN設計との間で平成11年11月30日に締結した基本約定書中にも、被告らが本件マンションの建築後に附属施設である本件駐車場の所有権を取得することをうかがわせるに足りる約定は存しないし、被告らがN設計との間で締結した土地信託契約書中にも、被告らが建築後の本件マンションの専有部分のうち合計150坪以上の部分をN設計から取得する旨の約定があるのみで(8条2項)、被告らが本件駐車場の所有権を取得することをうかがわせるに足りる約定は存しない
被告らとN設計の平成12年1月29日の打ち合わせ事項のメモ中には、N設計からの報告事項として、「駐車場に関しては、リフト式設備になると思いますが、Y1様の権利となるよう手続きをしてまいります。」との記載があるが、被告らが設置後の駐車場に関しどのような権利を取得するのかが明らかにされておらず、上記記載をもって被告らによる本件駐車場の所有権取得の事実の裏付けとみるのは困難である。
被告らの実父Bは、その証人尋問で、被告らがN設計に依頼して本件駐車場が設置されたもので、N設計の代表者との間で、本件駐車場の所有権を被告らに取得させる旨を合意したと証言するが、上記のとおり、土地信託契約書に盛り込まれていないことにかんがみると、少なくとも確定的な合意内容になっていなかったものといわざるをえず、被告らがN設計との合意に基づいて本件駐車場の所有権を取得した事実を認定できるものではない。
他方、原告は、平成13年以降本件駐車場の点検費用、補修費用を支出してきた事実が認められるところ、この事実は本件駐車場が本件マンションの共有部分であり、被告らがその所有権を取得したものでないことをうかがわせるものである。
結局、被告らが本件駐車場の所有権を取得したものとはいえない一方、原告は、被告らとの間で、本件駐車場の少なくとも2区画につき使用契約を締結したものであって、被告らは原告に対し、未払駐車場料金の支払義務を負う(以上につき,被告らの不可分債務)。

完全に事実認定の問題ですね。

裁判所がどのような事実に着目して判断しているのか、参考になります。

それにしてもすごい金額ですね。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金35 協議会で決定した水道光熱費の変更が無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、協議会で決定した水道光熱費の変更が無効とされた事案(東京地判平成29年3月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理者である原告が、本件マンションの一室の区分所有法の区分所有者である被告に対し、管理費や修繕積立金、水道光熱費などにつき未払分があるとして、被告に対し、平成24年8月分から平成28年5月分までとして、65万4912円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、63万6912円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件管理費等に関する定めは、本件マンションが、一般のマンションとは異なり、ホテルの居室として利用される部分が混在しており、各居室には電気、ガス、水道等のメーターが設置されておらず、共用部分と一体となって使用され、各料金の支払は、特別管理費として、共用部分の算定と同様に、各居室の面積に応じて支払うこととされていたという特殊性があり、さらに、通常一般管理費において負担される共用部分の水道光熱費が、一般管理費で計上されていないことから、本件マンションにおいては、共益費と同様の考え方に基づき、特別管理費である水道光熱費について、普通決議によって、変更ができるものと認められる。
ところで、本件決定をした本件協議会が、本件管理組合において法的にどのような機関であり、どのような権限があるのかは明らかでなく、本件決定に関し、その後の本件管理組合の集会で承認されたり、本件協議会が集会の一任を受けたりしている等の事情もうかがえないから、本件管理費等に関する決議は、本件決議2がされるまでは証拠上認められないことになる。
そして、水道光熱費の変更は、本件管理組合の集会で普通決議を必要とする事項であるが、従前、空室について、水道光熱費を徴収しないことが適法に決定された形跡もない。
よって、本件書面が被告に送付されたか否かにかかわらず、本件決定の効力は被告には及ばないというべきである。

2 被告は、本件居室は平成24年7月末日でホテル用の賃貸借契約が解除されたことにより、その後、ライフラインは解約状態にあり、空室(閉鎖中)になっているから、区分所有法により水道光熱費の支払義務はない旨主張する。
確かに、本件居室の賃貸借契約は同日限りで解約されたとの裁判がなされていることが認められるが、本件居室において、本件マンションの状況からすると本件マンションにおいては、水道、電気、ガス等については、各居室で個別の契約をしていないために特別管理費としての水道光熱費が徴収されており、本件居室において個別の契約がなされていたとは認められず、また、区分所有法上、空室の場合に水道光熱費の支払義務がないことを定めた規定は見当たらないから、被告の主張は理由がない。
また、被告は、不在届について、提出を求められていないし、不在届の提出を求めるには特別決議が必要である旨主張するが、空室になっている居室の水道光熱費を1室あたり2000円とする本件決定は無効であるから、被告に適用の余地はない上、その後、本件決議2や本件決議3により、空室に対する特別な措置は決められていないから、不在届の提出の有無にかかわらず、被告において、水道光熱費を負担しないとする根拠がない。

上記判例のポイント1は注意する必要があります。

本件では、協議会の法的にどのような機関なのかが明らかでないため、上記の結論となりました。

区分所有法や管理規約で定められている手続きを正確に理解することがとても重要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金34 管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認められた事案(東京地判平成29年5月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、①原告は、本件マンションの管理を行うために本件マンションの区分所有者全員をもって構成された、本件組合の理事長であり、管理者である、②被告の所有に係る本件マンションの504号室の管理費及び補修積立金は、平成10年6月1日以降、月額2万8510円及び月額1万5570円、合計4万4080円である、③本件マンションの管理規約では、管理費等は毎月28日までに当月分を支払い、遅延損害金は年15%とされている、④平成20年6月分から平成29年2月分までの504号室の管理費等の未払額の合計は、180万7360円であり、各月分の支払期限は経過した、⑤被告は、原告が長期間にわたり504号室の管理費等を滞納し、かつて本件組合の申立てを認容する旨の仮執行宣言付支払督促を得ても504号室の管理費等の滞納は解消せず、改めて滞納管理費等の支払を求める訴訟を提起し、その勝訴判決に基づいて強制執行しても、無剰余を理由に競売開始決定が取り消される可能性が高いことなどを理由に、504号室の管理費等の未払額を回収するには、区分所有法59条に基づく競売を請求するほかないと主張して、同条に基づき、被告に対し、504号室の区分所有権等の競売を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有法59条1項は、「第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。」と規定し、同法57条1項は、「区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。」と規定し、同法6条1項は、「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」と規定する。
管理費の支払義務は建物等の管理に関する最も基本的な義務であることに鑑みると、著しい管理費の不払は、同項にいう「建物の管理…(略)…に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たると解される
そうすると、管理費の長期間にわたる不払は、同法59条1項にいう「第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著し」い場合に当たると解される。
しかし、同法7条1項が「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。」と規定していることを勘案すると、管理費の長期間にわたる不払が同法59条1項にいう「他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」に当たる場合とは、同法7条1項の先取特権の実行など他の民事上の法的手段では功を奏さない場合をいうものと解される。

2 原告は、〈ア〉被告は、平成13年12月分から504号室の管理費等の支払を遅滞するようになり、長期的にはその額が次第に増加した、〈イ〉本件組合は、平成24年5月分の一部及び同年6月分から平成26年9月分までの504号室の管理費等の支払を求める支払督促の申立てをし、東京簡易裁判所は、平成27年2月20日、本件組合の申立てを認容する旨の仮執行宣言付支払督促をしたが、504号室の管理費等の滞納は解消しなかった、〈ウ〉そこで、本件組合は、上記〈イ〉の仮執行宣言付支払督促に基づき504号室内の被告の所有に係る動産に対し強制執行したが、執行不能に終わった、〈エ〉504号室の区分所有権等の固定資産税評価額の合計は1933万2412円であるのに対し、504号室の区分所有権等については、債権額を3400万円とする抵当権が平成13年10月1日に設定されており、504号室の管理費等の滞納の状況に鑑みると、上記抵当権の被担保債権の元本はほとんど減少していないものと推認され、そうすると、滞納管理費等の支払を求める訴訟において勝訴し、その勝訴判決に基づいて強制執行しても、無剰余を理由に競売開始決定が取り消される可能性が高い、〈オ〉被告は、平成28年7月21日、都税事務所から差押えを受けた、〈カ〉本件マンションでは、平成29年に排水管の更新、更生工事を予定し、平成32年に大規模修繕工事を予定しているから、少しでも未収金を減らしておく必要があることを理由に、504号室の管理費等の未払額を回収するには、区分所有法59条に基づく競売を請求するほかないと主張する。

管理費等の滞納を理由とする59条競売請求の一般論がわかりやすく書かれていますので、是非、参考にしてください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。