Category Archives: 義務違反者に対する措置

義務違反者に対する措置32 排水管の不具合を理由に2年近くにわたり賃料の一部を支払わなかった賃借人に対する建物明渡請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、排水管の不具合を理由に2年近くにわたり賃料の一部を支払わなかった賃借人に対する建物明渡請求が認められた事案(東京地判令和4年1月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの専有部分である本件建物の区分所有者であり、被告会社に対して本件建物を賃貸していた原告が、被告会社による賃料の不払を理由として本件賃貸借契約を解除したと主張して、①被告会社に対し、本件賃貸借契約の終了に基づき、②本件建物を占有している被告Y1及び被告Y2に対し、区分所有権に基づき、本件建物の明渡しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告会社は、排水管の不具合に伴うユニットバス及びキッチンの排水の支障により本件建物の使用収益を妨げられるという事象が発生した令和元年7月以後、2年近くにわたり(本件訴状が送達された令和2年3月以後について見ても、1年以上にわたり)、月額7万7500円の賃料しか支払わないなどの行為を継続しており、令和元年7月分~令和3年6月分の賃料に係る未払額の合計も、112万7000円に及ぶ
他方、原告は、本件報告書において、排水管の詰まりを抜本的に解消するためには、本件建物の下階の専有部分の居室に立ち入った上で、当該専有部分と本件建物との間に存するスラブの下に配管された排水管の交換をする必要があるとされていること、当該排水管は、本件マンションに係る共用部分に属すると解されること等から、原告において本件建物に属する排水管の修繕のみを行うのではなく、本件管理組合において本件マンション全体の排水管の修繕を行うのを待つとの判断をしたものと考えられるが、この判断自体は相応の合理性を有するものということができる
また、原告は、本件建物の管理を委託している本件管理会社を通じて、本件マンション管理組合に対し、本件マンションの排水管の修繕をするよう求めており、その結果、本件管理組合の理事会によって、令和2年2月頃から、排水管の配管ルートの確認等のため、本件マンションの各専有部分への事前入室調査等が行われ、遅くとも同年12月までに、本件マンションの排水管の改修工事を行う方針が固められ、令和3年1月頃、本件マンションの住民等に対する当該改修工事の説明会が行われていることに照らすと、被告会社としては、令和2年2月頃~令和3年1月頃にかけて、本件マンション全体の排水管の修繕が進捗していることを十分認識可能であったにもかかわらず、その間、一貫して、原告に対して支払うべき月額賃料額(12万4000円)より4万6500円も少ない月額7万7500円の賃料しか支払っていない
これら諸事情に加えて、賃貸借契約において賃借人が賃貸人に対して賃料を支払う義務は、賃借人の基本的かつ重要なものであることに鑑みると、平成26年7月~令和元年7月の約5年間、ユニットバス及びキッチンの排水管の排水状況は、使用収益に関する具体的な支障が生ずる程度には至っていなかったものの、必ずしも良好ではなかったことを考慮しても、原告と被告会社の間の信頼関係は、遅くとも原告準備書面3をもって未払賃料の催告がされた令和3年6月30日までには、破壊されていたことは明らかである。
したがって、本件賃貸借契約は、原告準備書面3をもってされた解除の意思表示により、解除されたというべきである。

賃貸物件の一部に支障がある場合、賃料の一部を減額して支払うという対応が考えられますが、本件同様、債務不履行と判断される可能性がありますので、対応方法は慎重に検討しなければいけません。

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義務違反者に対する措置31 規約に違反する区分所有者に対する訴訟係属中に規約を変更し、本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定を設け、後訴において当該罰金合計350万円を請求することの是非(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、規約に違反する区分所有者に対する訴訟係属中に規約を変更し、本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定を設け、後訴において当該罰金合計350万円を請求することの是非(東京地判令和4年1月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、本件マンション管理組合であり、区分所有法3条前段所定の本件マンションの区分所有者全員を構成員とする権利能力なき社団である。
本件は、原告が、本件マンションの101号室の区分所有権を共有する被告らに対し、①被告らに対して本件マンションの管理規約の違反行為の是正を求めて提起した前訴のために支出した弁護士報酬等の費用について、上記違反行為を不法行為とする損害に当たると主張して、上記費用相当額151万3236円の損害賠償金+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、②本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定に基づき、平成28年12月から平成30年5月までの本件規約違反を理由とする月額20万円の割合による損害金合計350万円(ただし,平成28年12月分については10万円の一部請求)の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件前訴は原告が被告らに対して本件工事の是正等を求めて提起したものであるところ、原告は、本件前訴が1審に係属している中で、本件申入れをした上、本件規定を設け、さらに、本件前訴が控訴審に係属している中で、被告らに対して本件規定に基づく罰金請求をする旨の決議をしたものである。
このような経緯や、上記質疑応答の内容等に照らせば、本件規定は、専ら被告らのみに適用されるものではないとしても、本件前訴において係争中であった被告らへの適用を念頭に置いて設けられたものであることは明らかというべきである。
このことは、本件規定が本件建物だけでなく本件マンションの102号室にも適用された事実があったとしても、左右されるものではない。
そうすると、原告は、本件工事が本件規約に違反するなどと主張してその是正等を求める本件前訴を提起し、その係属中に、被告らに適用することを念頭に置いて本件規約の違反者に月額20万円の罰金を請求できる旨の本件規定を設け、これに基づいて被告らに対して290万円ないし350万円の罰金を請求する旨の決議を行い、本件前訴の判決が確定した後、上記決議に基づくものとして本件工事が本件規約に違反することを理由に被告らに対して350万円の損害金の支払を求める本件訴訟を提起したことになる。
このような経緯に照らせば、本件規定に基づく被告らへの請求は、被告らとの間で本件前訴が係属し、本件工事が本件規約に違反するか否かが裁判の場で争われて審理されていたにもかかわらず、本件工事が本件規約に違反するという原告側の裁判上の主張を前提として多数決により一方的に本件規定を設けて被告らに対して月額20万円という多額の罰金を課すことにより、原告側の裁判上の主張に従うように裁判外で経済的圧力を掛けたものといわざるを得ない
規約違反が明白であれば、このような対応にも合理性があると考える余地はあり得るものの、本件工事が本件規約に違反するか否かについては、被告らは本件前訴において相応の根拠を示して争っていたものであって、本件前訴の1審判決や控訴審判決において被告らの言い分の一部が認められていることからしても、その違反は必ずしも明白ではなかったというべきである。
それにもかかわらず、上記決議に基づいて350万円という多額の損害金の支払請求をすることは、多数決により被告らに経済的圧力を掛けることによって、事実上、被告らが裁判において規約違反を争う機会を損なわしめるおそれがあるものというべきであって、被告らの裁判を受ける権利を実質的に侵害しかねないものとして権利の濫用に当たり許されないというべきである。
この点について、原告は、被告らが本件前訴の終了後も確定判決に従った対応をしていないことが悪質であるなどとも主張するが、この点は本件請求とは別個の問題であって、上記の認定判断を左右するものとはいえない。
したがって、争点2に関して本件規定が区分所有法に違反しないとしても、本件請求のうち本件規定に基づく350万円の罰金請求の部分には理由がない。

いろいろと考えさせられる事案です。

本件原告のみに適用される規定わけではありませんが、裁判所としては、これまでの経緯や罰金の額等に鑑みて、権利濫用にあたると判断しています。

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義務違反者に対する措置30 建物のエレベーターの損壊行為を行った区分所有者に対し、本件エレベーターやマンションのスパの使用を禁止した行為が適法とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、建物のエレベーターの損壊行為を行った区分所有者に対し、本件エレベーターやマンションのスパの使用を禁止した行為が適法とされた事案(東京地判令和4年1月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、親子である原告らが、居住中の区分所有建物の管理組合である被告Y1管理組合の役員であるその余の被告らから、上記建物のエレベーターの破損に関して脅迫されるなどしたとして、被告役員らに対しては不法行為に基づき、被告管理組合に対しては民法715条に基づき、それぞれ次の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らは、被告役員らが原告X1に対して12月16日頃に本件出来事が解決するまで本件マンションのエレベーターの使用を禁止した旨主張する。
しかし、被告管理組合は、原告X1に対し、同原告の本件エレベーター損壊行為が区分所有法6条3項及び1項違反であるとして、同法57条1項に基づき,本件出来事が解決するまで本件エレベーターの使用の停止を請求したものであり、原告X1が起こした本件出来事の内容からすれば、上記請求には根拠があるというべきであるから、これに関わった被告役員らに原告X1に対する不法行為が成立するとはいえない。

2 原告らは、被告役員らが原告X2に対して、12月16日頃、入居者が利用できる本件マンションの付属設備のスパについて、本件出来事が解決するまで利用を禁止する旨申し渡した旨主張する。
しかし、原告X2が本件マンションのスパにおいて、被告Y2に対して本件出来事につき大声で苦情を述べるなどの迷惑行為をしたことから、被告管理組合は、原告X2に対して、スパ使用細則4条1項及び2項に基づき、本件マンションのスパの使用禁止を請求したものであり、同請求には根拠があるというべきであるから、これに関わった被告役員らに原告X2に対する不法行為が成立するとはいえない。

3 原告らは、被告管理組合が、民法715条に基づき、被用者である被告役員らの原告らに対する不法行為につき使用者としての責任を負う旨主張する。
しかし、被告役員らは被告管理組合の被用者ではなく、この点を措くとしても、上記のとおり、被告役員らに原告らに対する不法行為が成立するということはできないから、原告らの上記主張は、その前提を欠き理由がない。

上記判例のポイント1、2ともに管理規約や使用細則に基づいて対応していることが重要になってきます。

また、基本的なことですが、上記判例のポイント3も押さえておきましょう。

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義務違反者に対する措置29 区分所有者がショーウィンドウ部分及び看板部分を権限なく使用していることを理由とする看板等の撤去請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者がショーウィンドウ部分及び看板部分を権限なく使用していることを理由とする看板等の撤去請求が棄却された理由とは?(東京地判令和4年1月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、当該建物の区分所有者である被告に対し、被告が当該建物の共用部分に該当する別紙物件目録記載の物件(ショーウインドウ)等に別紙撤去対象物目録記載の看板等を設置するなどして権原なく使用していると主張して、管理規約による共用部分の妨害排除請求権及び妨害予防請求権に基づいて、上記看板等の撤去を求めるとともに、上記物件の使用の禁止を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分は、いずれも本件マンションの外壁の外側の空間に存在し、当該空間内に設置されたガラス扉等とともにショーウインドウとして使用することや、看板をはめ込むことによって看板として使用することができる設備であることからすると、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分は、本件マンションの建物本体である外壁の一部に該当するものと認めるには疑問が存するものの、いわゆる躯体部分の上塗り部分と同様のものであり、建物に備え付けられ、その構造上及び効用上、建物と不可分の関係にあるものとして、本件マンションの建物の附属物であると認めることができる。
そして、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分は、本件マンションの外壁の外側に存在しており、特定の専有部分と接続していないことからすると、その位置や構造に照らし、特定の専有部分の区分所有者による排他的使用が当然に予定されているものとはいい難いから、区分所有法2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共有する共用部分に当たると認めるのが相当である。

2 本件マンションの建築に当たり、被告が、かつて借地上に所有していた建物の賃借人から、107号室を賃貸するとともに106号室の南側にショーウインドウを設置するよう求められたことを受け、107号室の賃借人が使用するために本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が設置されたこと、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分内に設置された電気設備は、107号室のために設置された分電盤から電気が供給されており、その電源スイッチも107号室の室内に存すること、本件マンションの建築後、被告が本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分を継続的に管理し、107号室とともに第三者に賃貸しており、平成20年頃に至るまで、本件マンションの区分所有者から、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分の使用状況について異議が述べられたことはなかったことが認められる。
本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分の設置や使用に関する上記経緯を総合すると、本件マンションの建築計画の段階から、被告が取得する107号室の賃借人が使用するために本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が設置されることが予定され、本件マンション建築時及び建築後において、被告あるいはその賃借人が本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が管理使用することについて本件マンションの区分所有者も異議なく承認していたと認められるのであるから、本件マンションが建築された昭和56年頃、本件マンションの区分所有者全員の間において、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分を被告が排他的に使用することができる旨のいわゆる専用使用権を設定する旨の黙示の合意が成立したものと認めるのが相当である。

本件では、①本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が本件マンションの共用部分であるか否か、及び、②本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分について被告が専用使用権を有するか否か、という2つの争点について判断されています。

①はさておき、被告としては②の争点について、これまでの経緯や使用実績等を詳細に主張立証したことが奏功した結果となっています。

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義務違反者に対する措置28 管理組合法人から民泊営業を妨害されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人から民泊営業を妨害されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(東京地判令和4年3月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は,原告らが、被告らから、①原告X1の営む本件マンションの一部である本件居室における住宅宿泊事業及び原告会社の営む住宅宿泊管理業を妨害されるとともに、②原告らの取引先及び本件居室の区分所有者に原告らを法令違反扱いかつ違法民泊運営者であるとする通知書を送付され、原告X1の名誉及び信用を毀損されたとして、不法行為に基づき、原告X1において損害賠償金219万3000円、原告会社において損害賠償金27万円の各支払を求めるとともに、営業権又は不法行為に基づき、被告による妨害行為の差止めを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告X1は、本件届出をしているものの、本件居室において適法に住宅宿泊事業を実施することができないのであるから、被告が本件管理会社に対して、本件規約上、本件マンションにおいては住宅宿泊事業の実施が許容されていないという被告の見解を本件マンションの区分所有者らに説明するよう求めたことにより、本件管理会社が本件居室における原告X1の住宅宿泊事業の利用者に対する本件各業務の提供を拒否したからといって(さらに言えば、仮に、被告の指示により、本件居室における原告X1の住宅宿泊事業の利用者に対する本件各業務の提供を拒否したとしても)、原告らの営業権を侵害するものと認めることはできず、原告らに対する不法行為を構成するものと認めることもできない。

2 原告らは、被告が、本件各居室の区分所有者であるB及びシェア社に対して本件通知書を送付して、法の根拠なく原告らを法令違反扱いするとともに、違法民泊運営者呼ばわりし、原告X1の名誉及び信用を毀損した旨主張する。
しかし、原告らの主張によっても、本件通知書により、いかなる事実ないし意見論評が摘示されているというのか必ずしも明らかにされていないところ、本件通知書には、仮に原告会社が本件マンションの本件各居室において住宅宿泊事業を実施した場合、消防法上の適合通知書を取得していないことなどから違法民泊となる可能性がある旨記載されるにとどまり、原告X1を直接の対象としたものとはいえず、原告X1の名誉や信用に直接関わるものと認めることはできない。
この点を措くとしても、原告X1が消防法令適合通知書を取得しないまま本件マンションの本件各居室において住宅宿泊事業を実施することは消防法17条1項に違反するから、上記記載は真実である。
また、本件通知書の記載内容からすれば、被告は、原告会社が本件各居室において住宅宿泊事業を実施しようとしていることについて、本件各居室の区分所有者らに対し、注意を喚起する目的で、本件通知書を送付したものと認められるから、上記記載による事実の摘示は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で行われたものと認めることができる。
したがって、被告が本件各居室の区分所有者らに対して本件通知書を送付したことが、原告X1に対する不法行為を構成すると認めることはできず、原告らの上記主張は理由がない。

本件では、消防法により、スプリンクラー設備の設置が義務付けられているため、現状では新たに消防法令適合通知書が交付されることはないという事情がありました。

そのため、管理組合法人が民泊営業を禁止したとしても、営業権侵害とはならないと判断されました。

また、名誉毀損に関する判断(判例のポイント2)についても参考になりますのでしっかり押さえておきましょう。

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義務違反者に対する措置27 管理規約に違反する民泊営業の停止請求が棄却されたにもかかわらず弁護士費用は全額認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に違反する民泊営業の停止請求が棄却されたにもかかわらず弁護士費用は全額認容された事案(大阪地判平成29年1月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理者である原告が、被告に対し、被告は、本件建物において本件マンションの管理規約上禁止されている不特定の者を宿泊させる営業を行っている、その際の鍵の管理が不適切であってマンションの安全性が害されている、多数の利用者がエントランスホールでたむろするなどして他の区分所有者等の邪魔になっている、ゴミを指定場所に出さず放置し害虫も発生している、共用部分の床のメンテナンスの回数が増えている等の事実を挙げ、これらは建物の管理、使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する(区分所有法6条1項)ものであると主張して、法57条1項により民泊営業の停止等を求め(請求の趣旨1項)、あわせて、本件訴訟に関し弁護士費用を支出することになったのは、被告の不法行為による損害であるとしてその損害賠償(遅延損害金を含む。)を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、50万円+遅延損害金を支払え。

 原告のその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 法57条1項は、「区分所有者」である行為者等を請求の相手方とするものであるから、区分所有権を失った者に対し同項に基づく請求をすることはできない
被告が、平成28年10月21日に新所有者に対して本件建物を売却し、本件建物の区分所有権を失ったことは、所有名義移転の事実から容易に認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
したがって、原告の行為停止請求(請求の趣旨1項)については、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
なお、管理規約に基づく差止請求(63条3項)をするとしても、被告が本件建物を売却したことにより、被告による民泊営業は終了したと言わざるを得ないから、そのような差止請求も認められない。

2 すべてが不法行為に当たるとまで言えるかはともかく、被告の行っていた民泊営業のために、区分所有者の共同の利益に反する状況(鍵の管理状況、床の汚れ、ゴミの放置、非常ボタンの誤用の多発といった、不当使用や共同生活上の不当行為に当たるものが含まれる。)が現実に発生し、原告としては管理規約12条1項を改正して趣旨を明確にし、被告に対して注意や勧告等をしているにもかかわらず、被告は、あえて本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかったため、管理組合の集会で被告に対する行為停止請求等を順次行うことを決議し、弁護士である原告訴訟代理人に委任して被告に対する本件訴訟を提起せざるを得なかったと言える。
そうすると、被告による本件建物における民泊営業は、区分所有者に対する不法行為に当たると言え、被告は弁護士費用相当額の損害賠償をしなければならない。
本件の経緯等にかんがみると、被告が本件建物を売却したことは被告に有利な事情とは言えず、弁護士費用としては50万円が相当である。

まず、判例のポイント1は、実務上は基本的知識ですが、とても重要ですのでしっかり理解しておきましょう。

結果として原告の行為停止請求は棄却されましたが、違約金としての弁護士費用については全額認容されています。

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義務違反者に対する措置26 生ゴミ等を大量に放置することで臭気や害虫の発生を招いたことが共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、生ゴミ等を大量に放置することで臭気や害虫の発生を招いたことが共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判令和4年1月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの本件管理組合の管理者である原告が、本件建物の区分所有者である被告において、本件建物内に生ゴミ等を大量に放置することで、臭気や害虫の発生等を招き、近隣の区分所有者(居住者)等に迷惑を及ぼしていることが、区分所有者の共同の利益に反しているとして、被告に対し、区分所有法57条1項及び本件管理規約66条に基づき、本件建物内に放置されている生ごみ、腐敗物等のごみを除去すること、及び、本件建物内に生ごみ、腐敗物等のごみを放置してはならないことを求めるとともに、本件管理規約67条4項に基づき、共同の利益侵害行為停止等請求に係る本件管理組合(原告)と被告との間の訴訟の費用(弁護士費用)相当額の違約金44万円と本件管理組合・被告間の本件確約書に基づく違約金10万円の合計54万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、本件建物内に生ごみ、腐敗物等のごみを大量に放置して、臭気や害虫を発生させており、しかも、本件管理組合側からの要求にもかかわらず、それを長期にわたって改善していないことが認められる。
以上のような状況は、本件マンションの被告以外の区分所有者の共同の利益に反するものといえる(区分所有法6条1項、本件使用細則3条11号及び12号)。
また、被告は、本件建物について上記のような不衛生な状況を作出し続けているのみならず、本件管理組合(本件管理会社)による本件建物内の立入りを拒否し続けており、これらは、本件確約書の確約事項にも違反する。
 
2 以上によれば、区分所有法57条1項及び本件管理規約66条に基づき、本件建物内に放置されている生ごみ、腐敗物等のごみを除去すること、及び、本件建物内に生ごみ、腐敗物等のごみを放置してはならないことの請求、並びに、本件管理規約67条4項に基づき、共同の利益侵害行為停止等請求に係る本件管理組合(原告)と被告との間の訴訟の費用(弁護士費用)相当額の違約金44万円と本件確約書に基づく違約金10万円の合計54万円+遅延損害金の支払を求める請求はいずれも理由がある。

弁護士費用のほかに確約書に基づく違約金が別途認められています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置25 規約に反して午後10時以降も営業を続ける飲食店に対する営業の差止めと弁護士費用100万円の支払が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、規約に反して午後10時以降も営業を続ける飲食店に対する営業の差止めと弁護士費用100万円の支払が認められた事案(東京高判平成29年7月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、A棟建物の区分所有法25条所定の管理者である第一審原告が、A棟建物の地下1階にある専有部分である本件店舗を所有する第一審被告K社並びに本件店舗を賃借して、飲食店「b」○○店を営業する第一審被告M社に対し、b店の午後10時以降における営業がA棟建物の管理規約に違反し、またA棟建物の区分所有者の共同の利益に反するとして、A棟建物の管理規約又は区分所有法57条1項及び4項に基づき、本件店舗における午後10時から翌日午前11時までのb店の営業の差止めを求めるとともに、A棟建物の管理規約に基づき、本件訴え提起のための弁護士費用相当額100万円の支払を求める事案である。

原判決は、第一審原告の請求を全部認容したので、これを不服とする第一審被告らが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 A棟建物及びその周辺が駅前の商業地域で近隣に深夜営業の飲食店棟が複数あることは、外部の事情にすぎない。
商業地域であるということは、都市計画法制上、用途を商業用とする建物を建築できることを意味するにすぎず、商業地域内の区分所有建物における専有部分の使用方法や営業時間についての規約による自主的規制とは無関係である。
外部環境に対して、A棟建物の区分所有者が影響力を行使するには限界がある一方で、A棟建物の区分所有者がA棟建物及びその敷地の利用の形態や方法を外部環境に合わせなければならない理由はない
例えば、商業地域内の区分所有建物であっても、規約で専有部分の全部の使用目的が居住目的に限定されていれば、店舗や事務所としての使用は規約違反であり、共同の利益に反する。
行政機関から区分所有建物内におけるいわゆる民泊の営業許可を得られたとしても、規約で専有部分の使用目的が居住目的に限定されていれば、民泊営業は規約違反として禁止され、区分所有者の共同の利益に反することとなるのと同様である。
A棟建物の区分所有者が少なくともA棟建物及びその敷地については深夜から昼前までの静謐な環境を維持しようとすることは、区分所有者の共同の利益に合致することは当然である。
外部環境を理由にこれを否定する第一審被告らの主張は主張自体理由がない。

2 管理組合(区分所有者の団体)は、他に本来の仕事を持っている区分所有者の団体であって、常勤の役員を有していないのが通常であり、機動性に乏しく、資金(予算)にも余裕がなく、異常事態(規約違反の発生)に迅速に対応する能力が乏しい場合が多いことは、経験則上明らかである。
そうすると、規約違反が認知されても、対応等の検討に時間を要し、弁護士費用の負担等を懸念して法的措置などの毅然とした対応をとることが遅れて、是正の実現までに長期間を要することが珍しくない
A棟管理組合が深夜営業を容認していたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、過去の深夜営業の実例がA棟営業時間規定の空文化を推認できるものではなく、本件深夜営業が区分所有者の共同の利益に反しないことを推認できるものでもない。
かえって、証拠及び弁論の全趣旨によれば、A棟管理組合は、規約違反の深夜営業の是正に継続的に取り組んできたことが認められる。

3 証拠及び弁論の全趣旨によれば、第一審被告M社のいう本件店舗における規約上の営業時間規制の誤信の原因は、専ら本件賃貸借契約の仲介業者の不手際にあると認められる。
第一審被告らの損害は、第一審被告ら及び仲介業者において解決すべき問題である。
第一審被告M社は、本件店舗に対する投資として内装工事費用を支出してしまったので、この投下資本回収のために、A棟営業時間規定の存在を知りながら、故意に、本件深夜営業の開始を強行したものである。
その行動には、コンプライアンスや企業の社会的責任を果たす姿勢が感じられない
第一審被告M社の主張を採用することができないのは、当たり前のことである。
区分所有建物に出店する場合は、仲介業者任せにすることなく、管理会社及び管理組合の役員に直接連絡をとるなどし、用途規制、営業時間規制その他の規約上の制約の内容を確認する出店実務や、管理組合規約による規制を法令による規制や所轄行政官庁による規制と同等のものとして遵守する営業実務を実現し、コンプライアンスを確立していくことが望まれる

控訴人(原審被告)は、複数の反論をしましたが、いずれも採用されませんでした。

高裁がこれでもかという程に控訴人の反論を潰しています。

非常に参考になります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置24 区分所有者が違法な増築をしたこと等が共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が違法な増築をしたこと等が共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判平成30年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物の管理組合法人である原告が、①区分所有者である被告住建に対して、滞納管理費+遅延損害金の支払を求めるとともに、②被告らに対して、被告らが、原告の管理権が及ぶ場所に建物又は建物様の物を所有又は占有し、被告住建の専有部分を駐車場以外の用途に使用していることが区分所有者の共同の利益に反する行為に当たると主張して、共用部分の管理権又は区分所有法6条1項、57条1項に基づきその除去を請求する事案である。

【裁判所の判断】

 被告住建は、原告に対し、914万5675円+遅延損害金を支払え。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の1で示す部分についての建物部分につき、建物様の壁、間仕切り、備品、その他一切の物ないし構造物を撤去せよ。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の2で示す部分の建物部分を収去し、同目録記載第4の3で示す土地部分を明け渡せ。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の3で示す部分の建物部分を収去し、同目録記載第4の4で示す土地部分を明け渡せ。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の4で示す部分の建物部分を収去し、同目録記載第4の5で示す土地部分を明け渡せ。

 被告a焼肉店ことY1は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の2の建物部分から退去せよ。

 被告bリフォーム店ことY2は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の3の建物部分から退去せよ。

【判例のポイント】

1 本件建物において、増築を行うことは、建築確認申請が行われていないこと、容積率の規制に反することから、違法な建築行為であり、これにより本件建物は、耐震補強工事を受けられない状態になっている
そうであれば、当該行為は、区分所有法6条、57条1項所定の「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当すると認められる。
そして、自らが上記増築をすることがなかったとしても、前主からこれを譲り受けることなどにより、かかる建物又は建物様の物を所有又は占有することは、増築行為と同様に、これにより本件建物の耐震補強工事を不可能にしているから、上記区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するというべきである。

違法な建築行為のみならず、多額の管理費等の滞納もありますので、共同利益背反行為に該当することは明らかです。

同種事案において、請求の趣旨をどのように記載すべきかについて参考になります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置23 ペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であることを理由とする59条競売請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であることを理由とする59条競売請求が認められた事案(東京地判平成30年3月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物の管理組合の理事長(管理者)である原告が、他の区分所有者からの授権を受け、同建物の区分所有権を有する被告に対し、被告がペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であるなどと主張して、区分所有法59条1項に基づき被告の区分所有権及び敷地利用権の競売の請求をするとともに、被告が区分所有権を有する部分の使用禁止及び共用部分である玄関ドアの補修作業を妨害しないことを求め、加えて、被告の上記行為が他の区分所有者に対する不法行為に当たるとして、共用部分の補修費用や慰謝料等の損害の賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 原告は、被告が所有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。

2 被告は、別紙物件目録記載の建物内における被告専有部分を、判決の日の翌日から前項の競売による引渡し時まで使用してはならない。

 被告は、別紙物件目録記載の建物内の701号室玄関扉について、別紙「御見積書」記載の補修作業を妨げてはならない。

 被告は、原告に対し、227万5900円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、平成19年8月の本件居室購入以降、本件口頭弁論終結時に至ってもなお、前記管理規約において定めるような形で、ペットである猫の飼育管理を適切に行うことができず、糞尿による臭気等によって、本件物件の他の住民に対し、被害を与えている状況にある。
また、共用部分に私物を置くことも、結局のところ、抜本的には改善されないままであり、その改善策として、被告は、今以上に努力していきたい旨供述するにとどまり、具体的な策を持っているとはいい難い。
さらに、本件居室内で漏水事故が発生しているが、にもかかわらず、被告は、その後も本件物件の定期的な雑排水管点検にも応じないというのであり、このような定期的な点検を受けていれば、上記漏水事故についても問題を事前に把握できた可能性もある中、そのような態度をとり続けること自体問題である。
確かに、管理費等の滞納については、本件訴訟以後、一定の解決を見た部分はあるが、結果として、滞納が解消されたという時期はあるものの、毎月定期的に支払われているというわけではなく、今後も滞納が生じる可能性も否定できない。
これらの状況を併せると、現在においても、本件物件の被告以外の区分所有者の共同生活上の障害が著しいといわざるを得ない。また、このような状況が、およそ10年にわたり続いてきたのであり、その間、本件管理組合としても、改善を求める書面を被告に送付したり、被告に総会への出席を求めたりしながら、何らかの解決の道を探っていたということができ、それでもなお、現状のとおり、解決が見られないというのであるから、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるというべきである。
そうすると、原告は、区分所有法57条1項に基づき、本件居室について、競売の請求ができるというべきである。

2 本件では、約10年間、原告を含む区分所有者は、本件の問題に悩まされ続けてきたものであり、上記玄関ドアの修理代だけで、その損害を慰謝できるという状況でないことは理解できる。
一方で、本件居室自体は、競売請求が認められ、今後はそのような問題が生じない可能性が高く、それにより、精神的苦痛の一定の部分は解消されるということもできる。
その他、本件に顕れた一切の事情に鑑み、原告を含む区分所有者1戸当たりの慰謝料額を10万円とみて、本件で原告が請求できる慰謝料額は、140万円とするのが相当である。
そして、上記不法行為と相当因果関係のある損害としては、上記損害額の合計(206万9000円)の1割(20万6900円)をもって相当とする。
したがって、損害額の合計は、227万5900円となる。
なお、原告は、被告の不法行為の結果必要となった臭気鑑定費用9万8280円も本件の損害であると主張するが、被告の不法行為との間に条件関係はあるといえるものの、上記認定の弁護士費用を超えて、更に本件訴訟の主張立証活動のために要した費用までを相当因果関係があるということはできず、原告の主張は採用できない。

最終的には59条競売請求が認容されていますが、相当な期間と費用を要しています。

なお、本裁判例では、原告が請求した弁護士費用全額は認められておらず、損害額の1割にとどまっています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。