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義務違反者に対する措置22 被告が共用部分たる窓ガラスに補修剤を塗布した行為が不法行為を構成するとした上で、本件塗布行為が正当防衛行為である旨の被告の抗弁を排斥した事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、被告が共用部分たる窓ガラスに補修剤を塗布した行為が不法行為を構成するとした上で、本件塗布行為が正当防衛行為である旨の被告の抗弁を排斥した事案(東京地判平成30年11月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物区分所有法上の管理組合である原告が、区分所有建物の共有持分権者である被告に対し、被告が平成27年4月頃から共用部分の窓ガラスを毀損したとして、不法行為に基づく損害の賠償として、窓ガラス修繕費用19万3644円、弁護士費用10万8000円の合計30万1644円+遅延損害金の支払を求め、被告が区分所有建物の専有使用部分に造作・看板等を設置しているとして、使用細則及び管理規約に基づき、造作・看板等の撤去を求め、管理規約に基づき造作・看板等の撤去を求めるための弁護士費用として21万6000円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、30万1644円+遅延損害金を支払え。

 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物に附属する別紙図面斜線部分に存在する造作を撤去せよ。

 被告は、原告に対し、21万6000円を支払え。

【判例のポイント】

1 ジョイントコークAは補修剤であって、損傷を受けていない窓ガラスに利用することは予定されておらず、本件塗布行為は、本件区分所有建物の玄関側廊下部分にあるaマンションA棟の共用部分たる窓ガラスの視界を遮るように、窓ガラス6枚に対して幅広く行われており、その結果、ジョイントコークAが塗布された窓ガラスには銀色の塊が幅広く付着し、窓ガラスを通じた視野を阻害し、窓ガラスの効能を毀損し、aマンションA棟の共用部分の外観を著しく害するようになったのであるから、窓ガラスを毀損したものであって、本件塗布行為は、原告に対する不法行為の構成要件を充足するものというべきである。

2 被告は、被告が原告の業務執行につき問題点を厳しく指摘していたため、原告及び原告の理事が被告を毛嫌いしており、管理会社である株式会社エスエスイー東京も、被告が東京のマンション管理組合の理事長であった当時に管理業務委託契約を終了した経緯があり、被告に対して反感を抱いているから、原告が原告の管理会社とともに被告に対して嫌がらせをするようになり、光の照射、防犯カメラの設置、電波の照射もその一環であり、被告が、正当防衛として本件塗布行為をするようになったと主張し、被告が撮影した本件区分所有建物玄関付近の画面が縞模様になる写真、本件区分所有建物におけるデジタル電磁tenmarstm-190放射線検出器にて計測した結果の写真などを提出する。
しかし、被告主張に係る原告、原告の理事、管理会社の被告に対する反感を認めるに足る証拠はない。また、被告主張に係る光の照射を認めるに足る証拠はなく、原告がした管理棟の修繕工事の中に防犯カメラを新たに設置する工事又は電磁波を発する機器を設置する工事は含まれておらず、原告がaマンションB棟の門に対して向けられていた防犯カメラを、本件区分所有建物の玄関側廊下部分のガラス窓に向けたのは、原告が清掃会社に依頼して窓ガラス部分に塗布されたものを除去したが、被告が更に本件塗布行為をするため、被告の本件塗布行為を監視するために向けたものであって、違法性があるものとは認められない
さらに、被告提出に係る画面が縞模様になっている写真及び被告が本件区分所有建物において測定した写真は、これがどのような状況のもとで撮影されたのかが明らかではなく、これらの写真をもって、被告の主張する電波の照射の存在を直ちに認めることはできず、しかも原告が照射する装置を管理棟に設置してこれを被告に向けていることを認めるに足る他の証拠もない。

正当防衛の抗弁の是非が問題となった珍しい事案です。

民法720条1項では「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。」と規定されています。

本件では、「他人の不法行為」が存在しないと判断されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置21 各種迷惑行為に対する差止め請求につき、弁護士費用147万円の支払が命じられた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、各種迷惑行為に対する差止め請求につき、弁護士費用147万円の支払が命じられた事案(東京地判平成30年12月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が、本件居室において、①非常用ボタンを押したままの状態にする行為(以下「本件迷惑等行為①」という。)、②本件居室において、ガス設備の法定点検のための専門業者の立入りを拒絶する行為(以下「本件迷惑等行為②」という。)、③本件マンションのゴミ置場において、ゴミ袋を開けて中のゴミを一つ一つ確認する行為(以下,「本件迷惑等行為③」という。)といった迷惑等行為(以下、本件迷惑等行為①ないし③を併せて「本件各迷惑等行為」という。)をしているとして、区分所有法57条に基づいて、本件各迷惑等行為の差止め、並びに、本件マンションの管理規約63条4項に基づき、本件訴訟の提起に要した弁護士費用147万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物において、非常用ボタンを押したままの状態にしてはならない。
 被告は、別紙物件目録記載の建物において、ガス設備の法定点検のための専門業者の立ち入りを拒絶してはならない。
 被告は、別紙物件目録記載の一棟の建物(aマンション)のゴミ置き場(別紙配置図の赤線の枠内の部分)において、ゴミ袋を開けて中のゴミを一つ一つ確認する行為をしてはならない。
 被告は、原告に対し、147万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 以上説示したとおり、本件各迷惑等行為をいずれも認めることができ、これらはいずれも本件マンションの区分所有者である居住者の共同の利益に反する行為であるといえる。
そして、被告が、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合には、原告は、区分所有者の共同の利益のために、集会の決議を経た上で、その差止めを求める訴訟を提起できるところ、本件訴訟の提起について集会の決議を経ている。
したがって、原告の被告に対する本件各迷惑等行為の各差止めを求める訴えは、いずれも理由がある

2 第二東京弁護士会報酬会規は弁護士報酬を算定する上で合理的な基準であると認められるところ、これによれば、本件のように経済的利益を計算することができない場合は、経済的利益の額を800万円と評価するとされており、経済的利益の額を800万円として同会規に基づいて弁護士報酬を計算すると、弁護士費用として適正な金額は次の内訳により147万円であると認められる。
着手金 49万円(=300万円×8パーセント+500万円×5パーセント)
報酬金 98万円(=300万円×16パーセント+500万円×10パーセント)
したがって、原告の被告に対する147万円+遅延損害金の支払を求める訴えは理由がある。

上記判例のポイント2のように、弁護士報酬の計算に合理性が認められる場合には、金額が高額であっても裁判所は認めてくれます。

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義務違反者に対する措置20 区分所有者に対する妨害排除請求について弁護士費用100万円全額の請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者に対する妨害排除請求について弁護士費用100万円全額の請求が認められた事案(東京地判令和元年7月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人である原告が区分所有者である被告に対し、本件建物の10階から被告所有物を撤去して、同部分を明け渡し、かつ、平成30年12月11日から明渡済みまで1か月1万円の割合による金員、弁護士費用100万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、本件建物の10階から被告所有物を撤去して、同部分を明け渡せ。

 被告は、原告に対し、100万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、原告に対し、法57条1項に基づいて被告の所有物を撤去して本件共有部分を明け渡す義務を負い、また、管理規約67条4項に基づいて弁護士費用100万円の支払義務を負うものと認められる
この点についての被告の主張はその趣旨は判然とせず、本件において採用の余地はない。
他方、原告の不法行為に基づく請求については、本件占有行為によって原告が被る損害が1か月当たり1万円であることを認めるに足りる証拠はないことに加え、損害額算定の根拠となり得る主張もなく、損害額を算定することができない。

当事者間に請求原因事実の存在について争いがない事案のようですが、弁護士費用100万円全額について認容されています。

区分所有関連の訴訟における1つの特徴といっていいでしょう。

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義務違反者に対する措置19 専有部分でフラワーアレンジメント教室を営むことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分でフラワーアレンジメント教室を営むことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(東京地判令和元年5月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件居室の所有者であり、原告の組合員である被告に対し、被告が本件居室においてフラワーアレンジメント教室を営んでいることが、住宅以外の用途に本件居室を使用することを禁止する本件マンションの管理規約に反すると主張して、上記教室の使用の中止を求めるとともに、管理規約に基づいて本件訴訟のために要した弁護士費用合計158万7600円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物をフラワーアレンジメント教室として使用することを中止せよ。

 被告は、自己又は第三者をして前項の建物をフラワーアレンジメント教室として使用してはならない。

 被告は、原告に対し、158万7600円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 住居専用規定は、本件マンションの住民らの平穏で静謐な居住環境を維持するために、本件マンションの用法を居住用に限定し、不特定又は多数人が出入りすることが想定される事業用として利用することを一律に禁止する趣旨の規定であると解するのが相当であり、平穏な用法あるいは主たる用法でなければ事業のために利用することを許容しているものとは解されない
そして、被告が供述するところによっても、本件教室には直接の友人・知人にとどまらず、それらの者から口コミで紹介を受けた受講者も通い、被告は、受講者から材料費以外に入会金や指導料を受け取り、体系的なレッスンコースを設けて、毎月5回から7回にわたって定期的に開催しているものである。
その上、被告が、ホームページを作成し、不特定の者に本件教室の案内や体験レッスンへの参加を呼び掛けるなどしていることにも照らすと、被告が実際に利益を得ているかどうかはともかく、本件教室の運営が事業の性質を有していることは明らかであり、本件教室を「ホームパーティ」や「友人を招いて一緒に飲食したり共通の趣味を行ったりする社交の場」と同列に考えるのは無理があるというべきである。

2 被告は、被告が本件教室を開催しても、本件マンションの区分所有者らが被る損害はほぼ皆無であることが権利濫用を基礎付ける一事由となると主張する。
しかしながら、仮に、被告の主張するとおり、本件教室の受講者への注意喚起や送迎等によって、ほかの区分所有者の平穏な住環境に与える影響が限定的になるものであるとしても、どのような行為を迷惑と感じるかについては個人差があり、本件マンションがいわゆる高級住宅街に所在し、樹木に囲まれた静謐な居住環境を特徴とする店舗や事務所の併存しない居住専用のマンションであることに照らすと、本件マンション内で不特定又は多数人を相手にした教室を開くこと自体に不快感や不安感を覚える居住者の心情も尊重する必要があるというべきである。
また、実害がないからといって、本件教室の開催を容認することとなると、ほかの区分所有者らも、それぞれが思い思いに周囲には迷惑がかからないと考えて事業活動を行い、その結果、平穏で静謐な居住環境が保たれなくなる事態も懸念されるところであって、実害の有無にかかわらず、人の来訪を招来するような事業活動を画一的に制限することは不合理とはいえないというべきである。
こうした諸点に照らすと、本件教室の開催によっては実害が生じないことが権利濫用を基礎付ける事由を構成するとの被告の主張は採用することができない。

本件に限らず、裁判所は、住居専用部分において事業活動を行うことについては、実害の有無・程度を考慮せず、画一的な判断をする傾向にあります。

これはペット飼育についても同じことがいえます。

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義務違反者に対する措置18 専有部分をシェアハウスに供することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分をシェアハウスに供することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判令和2年1月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合法人である原告が、本件建物の賃借人である被告Y2による本件建物の使用が直接・間接を問わずに別紙2に定めるところの「シェアハウス」に供することを禁止する本件マンションの管理規約に違反して、区分所有者の共同の利益に反する(区分所有法6条1項)旨を主張して、被告Y2及び本件建物の区分所有者である被告Y1に対し、法57条1項により、直接・間接を問わずに「シェアハウス」に供することの禁止を求めるとともに、本件訴訟に関して支出する弁護士費用相当額は被告Y1の規約違反行為による損害である旨を主張して、被告Y1に対し、本件マンションの規約に基づき損害金100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告Y1は、各建物について、いずれも、直接・間接を問わず、「シェアハウス」に供してはならない。

被告Y1は、原告に対し、100万円+遅延損害金を支払え。

被告Y2は、各建物について、いずれも、直接・間接を問わず、「シェアハウス」に供してはならない。

【判例のポイント】

1 原告は、本件改正後の本件管理規約12条2項が、①本件マンションのセキュリティーを保全・確保すること、②犯罪などの不安要因・不確定要素を排除すること、③豊島区マンション管理推進条例で義務付けられている居住者名簿の作成を可能とすることを目的とするものであると主張するところ、上記各目的のために、専有部分を、直接・間接を問わず、「シェアハウス」に供することを禁止することは、高度な必要性及び合理性があるとはいえないものの、一定の必要性及び合理性があるものと認められる。
したがって、本件改正後の本件管理規約12条2項に違反する行為は、法6条1項に規定する「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるものといえる。
そして、本件行為は、本件改正後の本件管理規約12条2項に違反するものであることは、前記認定のとおりである。
以上によれば、本件行為は、法6条1項に規定する「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるというべきである。

2 原告は、甲事件の訴えの提起に当たり、弁護士費用着手金として32万4000円の請求を受けていることが認められる。
そして、原告は、弁護士に甲事件を依頼しており、仮に甲事件に勝訴すれば、その成功報酬として相当額を支払わなければならないことは明らかである。
これに加え、甲事件の難易その他本件に顕れた全事情を総合すると、甲事件に係る弁護士費用及び差止め等の諸費用の合計額が100万円を下回るものではないことが認められる
したがって、被告Y1が支払うべき違約金の額を100万円と認めるのが相当である。

同種の裁判例を傾向からしますと、このような結論になることは特段違和感がないところです。

上記判例のポイント2のように、違約金として弁護士費用相当額が認容されるのが区分所有事案の特徴です。

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義務違反者に対する措置17 専有部分を教団施設として使用している宗教団体に対する賃貸借契約解除と退去請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分を教団施設として使用している宗教団体に対する賃貸借契約解除と退去請求(大阪高判平成10年12月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、本件マンションの区分所有者全員で結成された管理組合の理事長であるが、本件専有部分の区分所有者である被告甲野から本件専有部分を賃借使用する被告乙山らが、本件専有部分をオウム真理教の教団施設として使用し、本件マンション住民に不安や恐怖感を与えるなどして、区分所有者の共同利益に背反する行為をしているとして、管理組合集会の決議に基づき、被告甲野と同乙山の賃貸借契約の解除及び同乙山らの本件専有部分からの退去明渡を求める。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件専有部分は本件マンションの住居部分のうちの一室であり、その居住者、占有者は、他の各室の居住者と同様に、区分所有法あるいは本件マンションの管理組合規約にしたがって、平穏で良好な居住環境を維持すべき義務を負うものであり、本件専有部分における占有が他の居住者の平穏を受忍限度を超えて侵害する場合には、その侵害は区分所有法の定める共同利益背反行為として排除されうるものとなることは、いうまでもない
本件マンションのような多数の居住者がいる共同住宅においては、居住者相互の利害を調整して居住者の円満な共同生活を維持しなければならないものであり、そのため区分所有法は個々の居住者の占有権原に特別の制約を加えることを認めていることは原判決の説示のとおりであり、その占有権原が本件専有部分におけるように賃借権であっても区分所有権の場合と何ら変わることはない

2 本件専有部分の賃借人である被告乙山は間接占有は残しているとはいえ、本件専有部分からすでに転出し、現在は実質的に教団が頻繁に出入りする(深夜から未明にかけての出入りも多い。)信者のための宗教施設として使用している状態が変わらずに継続しているのであり、本件マンションの居住者においては、かつて教団ないしその関係者が教団外部の一般社会においていわゆる地下鉄サリン事件等をひき起こして社会に重大な不安をもたらしたことなどから、本件専有部分の前記現状における態様の使用については耐え難い不安感を抱いているものであり(なお、教団関係者の前記事件等への関与ないしその刑事責任の有無は、刑事事件においてまだ確定していないものが多いが、それだからといって、右事件等からの連想による本件マンションの居住者の抱く不安感はそれなりに客観的な根拠に基づいていて社会的に広く承認されるものであることを否定することはできず、これを単なるうわさ等による根拠に乏しい不安感として無視することはできない。)、そして、本件マンションの居住者の右不安感は、被告乙山、同丙川らが占有移転禁止の仮処分を守らずに、教団の信者の出入りを従前同様に容認していることが示すように、同被告らないし教団によって解消も軽減もされていないのである。

区分所有法に基づく引渡し請求は、暴力団や暴力団員を対象として認められることが多いですが、決してそのようなケースに限定されるものではありません。

なお、本件は、上記判例のポイント2記載のとおり、オウム真理教に関連する裁判例ですので、あらゆる宗教団体について本裁判例をそのままあてはめることはできませんのでご注意を。

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義務違反者に対する措置16 住居部分を無認可託児所として使用することが共同利益背反行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、住居部分を無認可託児所として使用することが共同利益背反行為にあたるとされた事案(東京地判平成18年3月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である原告が、マンションの1室で託児所を経営する被告Y3及び被告Y4、並びに所有者である被告(引受承継人)Y2に対して、託児所としての使用は専有部分を住居の目的以外に使用することはできないとする管理組合規約に違反し、さらに区分所有者の共同の利益にも反するとして、区分所有法57条1項に基づき、託児所としての使用の差止めを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本来住居目的とされている502号室において本件託児所を営業することは、他の区分所有者に対して一方的に深刻な騒音等の被害を及ぼしながら、被告Y3らは原告からの働きかけに対して真摯に具体的な改善策を提示することもせず、あまつさえサミット乱入事件をはじめ警察官の臨場を招くような事態を引き起こして居住者の不安を招き、近時にはある程度の改善はみられるものの、いまだ十分とはいえないものであり、何よりも被告らの利益のために本件マンションの居住者が一方的な犠牲を強いられて居住用マンションとしての居住環境を損なわれることは相当でないことは明らかであり、さらに、火災等の災害時には生命身体への危険も考えられなくもないのであって、こうした状態をもたらした本件託児所の経営は、区分所有法6条1項に規定する「区分所有者の共同の利益に反する行為」であるというべきである。

2 この点、被告らは、住居目的外使用の事務所の使用状態を把握せず被告らのみに使用差止めを求めることは権利濫用であると主張する。
確かに、本件マンション内では、住居部分において、ギター教室が開設されていたり、郵便受けに会社名や事務所名等を掲げているものもあるところ、ギター教室については不特定多数の人が参集する可能性もあるが、本件託児所のように居住者から苦情が寄せられているわけではなく、また、他の事業所と思われる表示をしている居住者について、原告代表者は把握された限りにおいて事業所として使用しないよう求めたり、これらの中には、すでに廃業していたり、わずかな来訪者しかないものもあるなど、区分所有者の共同の利益に反する行為という観点からすれば、多数の苦情が寄せられて問題視されてきた本件託児所とは比較にならないものであるから、これら事業所として使用していると思われる居住者との比較において、被告らに対する本件請求が権利の濫用であるとは評価できない。

本件においても、一般的な共同利益背反行為の判断基準である被告区分所有者の利益と他の区分所有者の不利益の程度の比較衡量をしています。

上記判例のポイント2記載の権利濫用の抗弁についてもよく問題となりますので注意しましょう。

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義務違反者に対する措置15 管理者が一部勝訴の場合、勝訴割合に応じて管理規約に基づく弁護士費用の請求ができるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、管理者が一部勝訴の場合、勝訴割合に応じて管理規約に基づく弁護士費用の請求ができるとされた事案(東京地判令和2年3月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、区分所有法所定の管理者として、区分所有者である被告Y1及び同Y2から区分建物を賃借し同所で飲食店を営業する被告会社に対し、①管理規約に基づき、被告会社との別件訴訟で要した弁護士費用等294万3040円、②不法行為に基づき、被告会社が共用部分に無断設置したダクト等の賃料相当損害金232万3687円及び③管理規約に基づき、本件訴訟で要した弁護士費用60万2297円他+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、連帯して36万4500円+遅延損害金を支払え。

被告会社は、原告に対し、106万8495円+遅延損害金を支払え。

被告会社は、原告に対し、14万0535円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件ダクトが設置された本件屋上は、共用部分であるが、本件建物の区分所有者等が冷暖房室外機を無償で設置していた場所である。
そうすると、原告は、被告らに対し、本件屋上に冷暖房室外機を設置することは黙示的に許諾していたといえる。
しかしながら、本件ダクトは、約13.5m2を占める相当程度大きなものであり、通常の冷暖房室外機と同等に扱うことは相当でなく、上記黙示的許諾の範囲に含まれるとは認められない。そして、原告が被告らに対し本件ダクトの無償設置を許諾したと認めるに足りる的確な証拠はないので、被告会社による本件ダクトの設置は正当な権原がなく、不法行為に当たり、被告会社は賃料相当損害金の支払義務を負担するというべきである。

2 本件屋上は、本件建物の屋根の上であって、従前は無償で本件建物に係る冷暖房室外機が設置されていた場所であり、原告において他に賃貸するなどして使用収益することがおよそ考えられない部分である。
もっとも、本件ダクトの大きさを考慮すれば、仮に原告が被告会社に対し本件ダクトの設置の許諾をする場合には、何らかの対価の支払が条件とされたであろうことは推認できるから、他に賃貸することなどが考えられないからといって賃料相当損害金が一切発生しないということは相当ではない
そこで、賃料相当損害金の額を検討するに、原告は、携帯基地局の賃料と同程度の賃料相当損害金が発生すると主張するが、本件屋上は1階部分の屋上であって携帯基地局を設置するような環境とは異なることが明らかであり、直ちに上記程度の賃料相当損害金が発生するとは認められない。
本件においては、同様に第三者に賃貸することが考えにくい部分である1階専有部分に接する庭の使用料(m2当たり年2098円)も参考にしつつ、弁論の全趣旨により、m2当たり年1万2000円(月1000円)の賃料相当損害金が発生したものと認めるのが相当である。

3 本件管理組合の管理者は、規約70条3項、4項に基づき、規約に違反した区分所有者等に対し、違反の是正を求めて訴訟を提起した場合には、これに要した弁護士費用を約定違約金として請求できる
しかしながら、規約70条3項、4項の合理的解釈として、弁護士費用を請求できるのは、管理者が勝訴した場合に限定すべきである
けだし、管理者が不当な訴訟を提起して敗訴した場合についてまで、勝訴した区分所有者等に対して弁護士費用を請求できるとするのは公平の見地に反することが明らかであり、このような場合の弁護士費用は管理者が自ら負担すべきものであるからである。
そうすると、管理者が一部勝訴した場合は、勝訴割合に応じた弁護士費用の支払を求めることができると解する。

区分所有に関する裁判においては、被告に対して弁護士費用の請求をすることが認められるケースがあります。

いかなる場合に、いかなる範囲で弁護士費用の請求が認められるのかについては多数、裁判例があります。

上記判例のポイント3の考え方をしっかりと理解しておきましょう。

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義務違反者に対する措置14 管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(東京地判令和2年10月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物の管理者である原告が、本件建物の505号室の区分所有権及び敷地権を有する被告に対し、被告には管理費及び修繕積立金等の滞納があるとして、区分所有法59条1項に基づき、本件区分所有権等の競売を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告が支払義務を負う管理費等及び確定遅延損害金の合計額は296万1326円となっているところ(令和元年12月2日時点)、従前の被告の管理費等の支払状況に照らせば、今後、管理費等の未払状態が解消する見込みはないといわざるを得ず、そうである以上、被告による管理費等の滞納は、本件建物の管理運営上支障を来たすものであり、その結果、区分所有者の共同生活上の障害が著しい状態となっているものと認められる。
また、本件建物は平成28年当時に86万円と評価されているところ、本件建物には、Bの被告に対する200万円の貸金債権を被担保債権とする抵当権設定仮登記がされており、原告において本件建物の強制競売の申立てをしても、無剰余取消しとなることが見込まれ、これによって前記管理費等の回収を図ることは極めて困難であるといわざるを得ない。
そうすると、本件建物の区分所有者らは、法59条に基づく競売を除く方法によっては、前記障害を除去して共有部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。
したがって、法59条所定の実体的要件を満たすものと認められる。

2 本件建物の区分所有者らは、令和元年8月25日の通常総会において、区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数をもって、本件区分所有権等について訴えをもって競売を請求することを決議したこと、上記通常総会に先立ち、被告に弁明の機会を与えるため、上記通常総会への出席を要請する書面を送付したが、被告は上記通常総会に出席せず、何らの連絡もしなかったことが認められ、これらの事実によれば、法59条所定の手続的要件を満たすものと認められる。
以上によれば、原告は、法59条1項に基づき、本件区分所有権等を有する被告に対し、本件区分所有権等の競売を請求することができる。

管理費等の滞納事案において、すぐに59条競売をしたいと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、上記のとおり、事前に実体的要件及び形式的要件を具備する必要がありますので、ご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置13 マンションの専有部分をグループホームとして使用することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの専有部分をグループホームとして使用することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(大阪地判令和4年1月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合の管理者である原告が、社会福祉法人である被告に対し、被告が賃借したマンションの専有部分の建物をグループホームとして使用することは、区分所有者は専有部分を住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない旨を定めたマンションの管理規約の規定に違反し、区分所有法6条3項が準用する同条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するとして、同法57条4項が準用する同条1項に基づき、上記専有部分の建物をグループホーム事業の用に供する行為の停止を求めるとともに、上記管理規約によって定められた違約金として、調停費用、訴訟費用等の合計85万0430円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するかどうかは、当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸般の事情を比較考量して決すべきものであると解するのが相当である。

2 被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は、本件管理規約12条1項の規定に違反するものである。本件管理規約は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互の利害調整のための共通規範として制定されたものである(区分所有法30条参照)から、本件管理規約に違反する行為は、共同の利益に反する行為に該当するか否かの考慮要素として重視されるべきである。
また、被告が本件各住戸をグループホームとして使用することにより、本件管理組合は、法令に基づき、本件マンションにつき防火対象物点検義務を負うとともに、グループホームの用途に供されている本件各住戸への自動火災報知設備の設置義務を負うこととなり、管理業務の負担を余儀なくされている
防火対象物点検の費用は、1年当たり51万8400円が見込まれており、相当に高額である。
本件管理組合は、現在に至るまで、共同住宅特例の適用を受け、10階以下の部分の消火器具の設置義務、屋内消火栓設備、屋外消火栓設備、動力消防ポンプ設備の設置義務等を免れているが、将来にわたり、本件マンション内の消防用設備の設置の要否につき、福祉施設等の住戸利用施設の増減にかかわらず、共同住宅特例の適用において、このような住戸利用施設が存在しない場合と同等の取扱いがされることが確実であることを認めるに足りる証拠はない。
こうした負担が現実化した場合には、本件管理組合の経済的負担等に影響を及ぼすことは明らかであるし、こうした負担が現実化しない場合であっても、本件管理組合は、福祉施設等の住戸利用施設が存在する限り、こうした負担が現実化する場合に備えた対応を検討しなければならないから、他の区分所有者が被る不利益の態様や程度を軽視することはできない

3 これに対し、被告が本件各住戸で営む障害者グループホーム事業は、障害を有する利用者に共同生活の場所を提供するという公益性の高い事業であることは否定できない。
しかしながら、被告が本件管理規約12条1項の規定に違反して本件各住戸において事業を営むことによる利益が、他の区分所有者が被る不利益よりも優先されるとは認められない。
なお、被告は、本件マンション以外のマンション等においてもグループホームを経営していることが認められるから、被告が本件各住戸以外の建物においてグループホームを経営することができないとはいえない。
以上のとおり、被告が本件各住戸をグループホームとして使用する必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情に鑑みれば、被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は、区分所有法6条3項により準用される同条1項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当すると認められる。
したがって、原告は、被告に対し、区分所有法57条4項により準用される同条1項に基づき、本件各部屋をグループホームとしての使用する行為の停止を求めることができる

専有部分を規約に反し、店舗や事務所として使用する事案は少なくありません。

このようなケースでは、上記判例のポイント1記載の比較衡量論を用いて、共同利益背反行為性を判断することになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。