義務違反者に対する措置16 住居部分を無認可託児所として使用することが共同利益背反行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、住居部分を無認可託児所として使用することが共同利益背反行為にあたるとされた事案(東京地判平成18年3月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である原告が、マンションの1室で託児所を経営する被告Y3及び被告Y4、並びに所有者である被告(引受承継人)Y2に対して、託児所としての使用は専有部分を住居の目的以外に使用することはできないとする管理組合規約に違反し、さらに区分所有者の共同の利益にも反するとして、区分所有法57条1項に基づき、託児所としての使用の差止めを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本来住居目的とされている502号室において本件託児所を営業することは、他の区分所有者に対して一方的に深刻な騒音等の被害を及ぼしながら、被告Y3らは原告からの働きかけに対して真摯に具体的な改善策を提示することもせず、あまつさえサミット乱入事件をはじめ警察官の臨場を招くような事態を引き起こして居住者の不安を招き、近時にはある程度の改善はみられるものの、いまだ十分とはいえないものであり、何よりも被告らの利益のために本件マンションの居住者が一方的な犠牲を強いられて居住用マンションとしての居住環境を損なわれることは相当でないことは明らかであり、さらに、火災等の災害時には生命身体への危険も考えられなくもないのであって、こうした状態をもたらした本件託児所の経営は、区分所有法6条1項に規定する「区分所有者の共同の利益に反する行為」であるというべきである。

2 この点、被告らは、住居目的外使用の事務所の使用状態を把握せず被告らのみに使用差止めを求めることは権利濫用であると主張する。
確かに、本件マンション内では、住居部分において、ギター教室が開設されていたり、郵便受けに会社名や事務所名等を掲げているものもあるところ、ギター教室については不特定多数の人が参集する可能性もあるが、本件託児所のように居住者から苦情が寄せられているわけではなく、また、他の事業所と思われる表示をしている居住者について、原告代表者は把握された限りにおいて事業所として使用しないよう求めたり、これらの中には、すでに廃業していたり、わずかな来訪者しかないものもあるなど、区分所有者の共同の利益に反する行為という観点からすれば、多数の苦情が寄せられて問題視されてきた本件託児所とは比較にならないものであるから、これら事業所として使用していると思われる居住者との比較において、被告らに対する本件請求が権利の濫用であるとは評価できない。

本件においても、一般的な共同利益背反行為の判断基準である被告区分所有者の利益と他の区分所有者の不利益の程度の比較衡量をしています。

上記判例のポイント2記載の権利濫用の抗弁についてもよく問題となりますので注意しましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。