Category Archives: 騒音問題

騒音問題12 隣室のリフォーム工事による騒音を理由とする慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隣室のリフォーム工事による騒音を理由とする慰謝料請求が棄却された事案(東京地判令和3年12月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、住所地である集合住宅において居住していたところ、その隣室に入居した者が、被告に対し、リフォーム工事を依頼した。
本件は、原告が、被告に対し、リフォーム工事によって発生した騒音によって29日間にわたって1日当たり2万円に相当する精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料58万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、工事等に伴う騒音による被害が、第三者に対する関係において、違法な権利侵害ないし利益侵害となるかどうかは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、当該工事が行われている所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきである。
工事が法令等に違反するものであるかどうかは、その受忍すべき程度を超えるかどうかを判断するに際し、上記諸般の事情の一つとして考慮されるべきものであるとしても、それらに違反していることのみをもって、第三者との関係において、その権利ないし利益を違法に侵害していると断定することはできない(最高裁平成6年3月24日第一小法廷判決)。

2 原告において308号室内で発生した騒音を測定するに至るまでの経緯があったことから、客観的に明らかになっている騒音の発生状況が極めて限られているという側面はあるものの、騒音計を入手し、工事中に発生した騒音全部を計測できることが可能となった後の期間についてすら、短時間の測定結果しか提出していない
そして、原告が提出した限られた測定結果を分析しても、一般に人がうるさいと感じる70デシベルよりも小さい60デシベルを基準としてみても、60デシベル以上の騒音が継続して発生しているということはなく、一定の時間の中で、60デシベルを超える音が瞬間的に発生しているにすぎず、最大値も、82.5デシベルである。
また、原告は、騒音計の測定結果を証拠として提出している令和2年3月24日以降の分を含め、計測した騒音よりも大きな騒音が継続的に発生していたと供述する。
なるほど、工事経過や、建物の構造、実際に一定の騒音が発生していることが認められることに照らせば、被告によるリフォーム工事の期間中、一定の騒音が継続的に発生していたことは推認できるものの、上記原告の供述は、原告の感覚を前提として、漠然と工事期間中(特に原告が本件訴訟で請求の対象としている29日間)に受忍限度を超える騒音が発生したことを述べるにとどまる。また、騒音計の計測ができるようになった後は断続的ではなく1日の工事開始から終了までの全ての期間について測定することが可能であったにもかかわらず、断片的な証拠しか提出せず、断片的な証拠しか提出できなかったことについて、合理的な説明もできていない
以上によれば、計測した騒音よりも大きな騒音が継続的に発生していた旨の原告の供述は信用できず、少なくとも、原告が主張する29日間について、計測した騒音よりも大きな騒音が高頻度で継続して発生していたとは認めるに足りない。

3 本件建物は、新築から20年以上が経過した区分所有建物であることから、リフォーム工事を行うことは当然予想される事項であるところ、そのような場合に、工事が終了するまでの限られた時間において、一定の騒音が発生することも当然予想し得ることである。
また、被告によるリフォーム工事は管理組合が承認している。加えて、被告は、原告の騒音に関する苦情を踏まえ、管理組合の理事長を交えた協議に応じており、原告の提案を拒絶しているものの、原告も、管理組合の理事長からの多目的ルームの使用の提案を拒絶していることが認められる。

騒音問題の対応の難しさがよくわかります。

過去の複数の裁判例を見る限り、騒音の存在及び原因の調査は、専門業者に依頼することが必須と言っていいでしょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題11 管理組合によるマンションに接する前庭における飲食店の営業禁止請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合によるマンションに接する前庭における飲食店の営業禁止請求が棄却された事案(東京地裁平成30年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、権利能力なき社団であるマンション管理組合の理事長である原告が、同マンションの区分所有者である被告補助参加人から区分建物を賃借して飲食店を経営している被告に対し、同マンションの管理規約及び使用細則に基づき、①同建物に接する前庭にゴミ等を置くことの禁止、②同建物に接する前庭の一部に設置された支柱、テント及びビニールカーテンの撤去、③同建物に接する前庭における営業の禁止を求めるものである。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物に接する別紙の朱線部分表示の箇所に存するテント及びビニールカーテンを撤去せよ。

 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 原告は、aマンションの居住者から、本件飲食店が本件前庭において営業しているため、客の話し声や笑い声がうるさいなどという苦情が本件管理組合に寄せられている旨主張し、本件前庭周辺から本件前庭の音の大きさを測定したという書面を提出する。
同書面には、平成28年6月7日、同月8日、同年7月15日、同月20日、同年8月31日、同年9月2日の6日間の集音結果である(午後7時22分から午後11時30分までの間の一時点の計測結果であり、日によって集音時刻が異なる。)として、最低値55.6デシベル、最高値68.9デシベルが計測された旨の記載がある。
しかしながら、計測に用いた器械や具体的な計測状況がどのようなものかは不明であって、そもそも上記の測定結果の信用性には疑問も大きい
また、仮に上記の測定結果が信用できるとしても、上記で認定したaマンションの周辺状況に照らして、本件前庭における本件飲食店の営業によって発生した音の大きさを示すものであるかも不明であるといわざるを得ない。
さらに、仮に上記の測定結果が信用でき、それが本件飲食店の営業により発生した音であるといえるとしても、あくまでも特定の日の特定の時刻のものにすぎず、それが「騒音」であって、居住者に迷惑を及ぼす行為である(本件細則4条13号)と評価することができるかは疑問である(aマンションの居住者からの苦情の有無及び内容に関して、具体的に、どのような苦情が、どの程度の頻度で寄せられたのかなどを認めるための証拠はない[原告が、5軒の居住者から騒がしい、臭いが気になるといった苦情があったと述べるのみである。]。)。

2 原告は、本件規約14条によれば、本件前庭は「通常の庭として」使用することに限られ、本件前庭において飲食店を営業することは、これを逸脱する旨主張する。
確かに、本件規約上、本件前庭の用法につき、「通常の庭としての用法」と定められていることは原告主張のとおりであるが、そもそも、本件建物は、店舗又は事務所としての利用が予定されており(本件規約12条1項)、店舗の種類には制限が設けられていないこと、被告補助参加人が本件建物においてエスニック雑貨店「b」を営業している際(昭和56年頃~平成25年頃)には、本件前庭に商品を陳列するなどして、本件前庭をその営業のために利用してきたところ、このことを本件管理組合が問題視したことはなかったことからすれば、本件建物を利用する店舗が、その営業のために本件前庭を使用することが、「通常の庭としての用法」を逸脱すると解することはできない。

実際、飲食店のお客さんの声がうるさかったのでしょうが、訴訟で騒音問題を主張する場合には、事前に適切かつ相当な準備をしなければ、裁判所は請求を認めてくれません。

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騒音問題10 マンション屋上の換気扇の騒音につき、慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション屋上の換気扇の騒音につき、慰謝料請求が棄却された事案(東京地判平成31年1月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの住民である原告が、マンション管理組合である被告組合に対し、マンションの屋上にある換気扇が修繕、交換されず、その換気扇の騒音により、精神的苦痛を被っていると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料200万円+遅延損害金の支払を求めるとともに(第1事件)、マンション管理組合の理事長である被告理事長に対し、マンションの屋上にある換気扇が修繕、交換されず、その換気扇の騒音により、精神的苦痛を被っていると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料231万円及び弁護士費用23万1000円+遅延損害金の支払を求める(第2事件)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 平成27年5月27日から平成30年2月20日までの間に、701号換気扇については、少なくとも5回の交換作業等が実施され、702号換気扇については、少なくとも4回の交換作業等が実施され、本件換気扇の音の701号への騒音レベルは、被告組合の理事会で承認された専門業者によっては、測定されていない
以上の事実によれば、701号における本件換気扇による具体的な騒音の状況は明らかでないと言わざるを得ず、本件換気扇の交換作業等が約3年の間に複数回行われていることからすれば、原告の前記供述を直ちに採用することはできず、701号において、社会通念上受忍すべき限度を超えた違法な騒音が生じていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件換気扇の交換作業等が不十分であり、本件換気扇の修繕交換が必要であることを認めるに足りる証拠はない。

2 本件換気扇は、aマンションの屋上に設置されており、建物共用部分に該当し、当該部分は、被告組合が管理する部分である。そして、区分所有者である原告は、建物共用部分を改造したり、排他的な使用をすることを禁止されている。
したがって、本件換気扇は、被告組合が管理する部分であり、被告組合が、自ら又は管理会社を通じて、保全、保守、修繕、変更等を行うものであって、原告提案①及び原告提案②についての判断は、被告組合の理事会決議事項、あるいは、被告組合の総会決議事項に該当する。
そのため、被告組合の理事会又は被告理事長が、被告組合の理事会等の決議の要否及び可否を判断するに当たって、専門業者による本件換気扇の音の701号への騒音レベルの測定を求めること、この701号への騒音レベルの測定を経ずに、原告の費用によって、あるいは、原告に委任して、本件換気扇を交換することを許容しないことが、不合理であるということはできず、このような測定の要求をすること等が、本件換気扇の騒音問題の解決を妨害することに当たるということはできない

騒音問題については、事前に専門業者に測定を依頼することが求められます。

過去の裁判例を見る限り、自身で測定をしても、裁判所は証拠価値を認めない傾向にありますので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題9 上階の居住者によるフローリング騒音につき、慰謝料請求は認容されたが差止請求は棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上階の居住者によるフローリング騒音につき、慰謝料請求は認容されたが差止請求は棄却された事案(東京地八王子支判平成8年7月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らは本件マンションの専有部分の所有者であるが、原告ら建物の階上である被告建物の所有者である被告は平成5年11月上旬ころ、何の合理的理由・特別の事情もなく、かつ、原告らの承認を得ること及び本件マンションの管理組合理事会への届け出なく、即ち、同管理組合規約・使用細則に違反して、被告建物の絨毯張りの床につき、「トップ・イレブン」なる非防音タイプの一階用床材を使用してフローリング(板張り)への張り替えを敷設したところ、本件フローリング敷設により、被告建物に発生する歩く音・椅子を引く音等の生活音全てが断続的に、階下の原告ら建物内に響き聞こえてくるようになり、現在(平成8年6月)に至るまで継続して、被告建物の階下の原告ら建物に居住して本件マンションにおける静謐な環境・生活を享受していた原告らに対し、受忍限度を超える日常生活上の騒音被害・生活妨害等をもたらし、原告らに著しい肉体的・精神的苦痛を与えるに至ったから、前記管理組合規約・使用細則並びに区分所有法6条1項・57条ないし人格権侵害に基づく差止め(妨害除去・妨害予防)請求としての原状回復である復旧工事の施工及び不法行為に基づく慰謝料各300万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は原告らに対し、各金75万円+遅延損害金を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件マンションのような集合住宅における騒音被害・生活妨害については、加害行為の有用性、妨害予防の簡便性、被害の程度及びその存続期間、その他の双方の主観的及び客観的な諸般の事情に鑑み、平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として判断して、一定の限度までの騒音被害・生活妨害は、このような集合住宅における社会生活上止むを得ないものとして受忍すべきである一方、右の受忍限度を超える騒音被害・生活妨害は、不法行為を構成するものと解せられる。
・・・本件フローリング敷設による右騒音被害・生活妨害は社会生活上の受忍限度を超え、違法なものとして不法行為を構成すると言うことができる。

2 騒音被害・生活妨害による人格権または人格的利益の侵害ないし侵害の恐れに基づく妨害排除・予防請求としての差止め請求が認められるか否かは、侵害行為を差止める(妨害排除・予防する)ことによって生ずる加害者側の不利益と差止めを認めないことによって生ずる被害者側の不利益とを、被侵害利益の性質・程度と侵害行為の態様・性質・程度との相関関係から比較衡量して判断されるが、前述したように、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害は受忍限度を超えたものであり、したがって、右侵害行為(被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害行為)の差止めを認めないことによって生ずる被害者側たる原告らの不利益は決して小さくないと言うべきであるが、本件フローリングの有用性は前記認定のとおりであり、本件フローリングに対する差止めないし差止めによる原状回復については、被告に対し相応の費用と損害をもたらすことは明らかであり、しかも、若干の問題はあるものの原告ら及び被告に対し本件勧告が有効になされ、原告らもこれを一旦は受け入れた経緯に鑑みると、なおのこと、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害行為は直ちに、右差止め請求を是認する程の違法性があると言うことは困難と言わざるを得ない

本件は、騒音の発生が不法行為に該当するとし、合計150万円の慰謝料請求が認められた一方で、差止請求については、上記判例のポイント2のとおり、棄却されました。

比較衡量による判断ですので事案によって結論は異なりますが、損害賠償請求及び差止請求についての考え方を理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題8 賃借人の賃貸人に対する騒音問題等に適切に対処しないことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃借人の賃貸人に対する騒音問題等に適切に対処しないことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和3年9月1日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被控訴人から集合住宅の一室を賃借している控訴人が、被控訴人に対し、同集合住宅の騒音問題等に適切に対処しないなどとして、賃貸借契約の債務不履行に基づき、賃料相当額の損害賠償金55万円及び慰謝料85万円並びにこれら合計140万円に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がこれに不服であるとして控訴した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 控訴人は、被控訴人は本件マンションにおける騒音や害虫の発生に適切に対処せず、控訴人との話合いに誠意を持って応じないなど、本件賃貸借契約に基づく使用収益債務の履行を怠ったと主張する。
しかしながら、被控訴人は、控訴人から騒音や害虫に係る苦情を受け、複数回にわたり、対象となる入居者に対して騒音に気を付けるよう注意し、又は本件マンションの入居者全員に対して居室や排水口を清潔に保つよう注意する文書を配布しているほか、従業員が本件マンション内を巡回しても騒音や害虫の発生を確認することができず、令和2年6月30日頃には害虫を駆除するための殺虫剤を配布している
かかる事情に照らせば、被控訴人は、本件賃貸借契約の賃貸人として、賃借人である控訴人の苦情に誠実に対応し、控訴人が訴える問題を可能な限り解消しようと努めたというべきであり、これを超える措置を講じる義務を負うとは認められないから、賃借人に対して負担する使用収益債務の履行を怠ったということはできない。

2 控訴人は、被控訴人は控訴人に対して騒音問題等には対処しない旨記載した文書を送付し、もって使用収益債務の履行を拒絶したと主張するが、被控訴人が控訴人に送付した文書は、被控訴人は直接の制止行為をすることができない旨述べるものにすぎず、これをもって騒音問題等には対処しない旨記載したものであるとか、使用収益債務の履行を拒絶する趣旨のものであるということはできないし、被控訴人が使用収益債務の履行を怠っていないことは上記で判示したとおりであるから、この点に係る控訴人の主張は採用することができない。

本件は区分所有建物における紛争ではありませんが、仮に区分所有建物において同種の事案が発生した場合には、管理組合や管理会社の責任の有無について同様の判断枠組みが用いられます。

結果責任ではありませんので、客観的に妥当性の認められる対応をしたか否かがポイントとなります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題7 騒音を理由とする上階の居住者に対する床材の変更(フローリング敷きからカーペット敷き)請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、騒音を理由とする上階の居住者に対する床材の変更(フローリング敷きからカーペット敷き)請求が棄却された事案(東京地判令和3年3月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、共同住宅、いわゆるマンションに居住する原告が、上階に居住する被告に対し、被告が原告居住建物に騒音を生じさせているのは、被告居住建物の床材が従前のカーペット敷きからフローリングに変更されたのが原因であるとして、人格権に基づき、被告居住建物の床材をカーペット敷きに変更することを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件の原告の請求は、被告所有建物からの騒音を理由として、人格権に基づいて、その防止措置として、床材をフローリングからカーペット敷きに変更することを求めるものと解される。
本件マンションのような共同住宅においては、各区分所有者ないし居住者は、それぞれの専有部分を起臥寝食、営業等の用に供しており、互いに一定の生活音を生じさせることは避けられないのが通常であるから、区分所有者ないし居住者が他の区分所有者、居住者の生活領域に対し、騒音を生じさせたとしても、直ちに不法行為責任が生じるということはできない。すなわち、区分所有者ないし居住者が、社会生活上受忍すべき限度を超えて、他の区分所有者、居住者の静謐な環境で生活する利益を侵害しているといえる場合に不法行為を構成すると評価すべきといえる。

2 本件において、原告は、原告の住居において、被告所有建物からの受忍限度を超える騒音が生じている旨主張し、自らの騒音の体験状況を記録した書面を証拠として提出している。
しかし、不法行為が成立するか否かの基準となる受忍限度を超えているかの判断は、個人の主観によるべきではなく、社会的に通用性のある客観的な基準によるべきである。
すなわち、騒音被害による一定の行為の差し止め又は是正措置の請求は、建物の所在する当該地域を対象とする条例等の騒音の規制基準を指標として、被害が生じているとされる空間に生じている音圧レベル・騒音値(db)の測定結果をこれに当てはめるなど、客観性のある基準、資料によってその是非を判断するのが相当といえる。
この点、原告提出の騒音について自らの主観的な評価を記録した上記証拠によっては、騒音が受忍限度を超えていることを認めることはできず、一方で、原告は、上記騒音の測定結果等の客観的な資料を証拠として提出していないから、受忍限度を超える被害を受けていることの的確な立証をしていないというべきである。

騒音問題に関する訴訟における重要なポイントが端的にまとめられており、大変参考になります。

訴訟前の準備として、騒音の原因及び存在に関する客観的な証拠を準備することがマストとなります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題6 他の居室における内装リフォーム工事による騒音及び振動について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、他の居室における内装リフォーム工事による騒音及び振動について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(東京地裁令和2年11月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

控訴人は本件マンションの502号室に居住していた者であるところ、被控訴人が同マンションの他の居室について行った内装リフォーム工事により生じた騒音及び振動が原因で睡眠をとることができずに心身に不調をきたしたと主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償の一部請求として、慰謝料、自営する飲食店の休業損害等合計148万4950円のうち60万円+遅延損害金の支払を求めた。

原審は、本件工事から発生した騒音及び振動は受忍限度を超えるものではないとして控訴人の請求を全部棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 被侵害利益の性質と内容を踏まえて、侵害行為の態様と侵害の程度、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況についてみると、本件工事のうち、本件マンションの入居者の生活に影響を及ぼすような騒音や振動が発生する工事の内容及び期間は、いずれも土曜日と日曜日を除く、平成31年2月12日から同月18日までに行われた既存構造物の解体工事(工事実日数5日)、同日から同月28日までに行われた木工造作工事(工事実日数9日)及び同年3月22日に行われたエアコン移設工事(工事実日数1日)であり、その工事実日数は、上記の解体工事と木工造作工事が同じ日に実施された同年2月18日を1日と数えると、合計14日に過ぎず、しかも、工事時間は通常人が活動している時間帯である午前9時から午後5時までであり、土曜日、日曜日、祝祭日には工事をしなかったのであるから、本件工事は長期間にわたり連日昼夜を問わず騒音や振動を発生させたものではない。
また、これらの工事による騒音や振動の程度及び継続時間については、測定結果等の客観的な証拠がなく、具体的に認定することができない

2 本件マンションの所在地の地域環境についてみると、本件マンションの所在地は東京都品川区上大崎1丁目であって都内の都心部に位置し、その西側横には首都高速道路が通っており、高速道路を通過する自動車の走行する音や振動に晒されている地域であって、住環境としては静閑な地域ではない。
そうすると、本件マンションの居住者としては、外部からの一定程度の騒音や振動等を甘受せざるを得ず、一般的に静寂を期待しうる環境にはないことが認められる。
また、一棟の建物に種々の生活スタイルを保持する多数の居住者が生活を送っているという集合住宅の性質上、集合住宅内のある居住者の発生する音や振動が建物の壁や床を通じて他の居室に伝達することを避けることはできない上、マンションの経年劣化、生活スタイルの変化等に伴い各居室の修繕の必要が生じることも不可避であるから、マンションに居住する以上は他の居室のリフォーム工事等により一定の騒音等の影響を受けることもやむを得ない事態であるといえる。

騒音問題については、騒音の「存在」及び「原因」について客観的証拠により立証することが求められます。

この点、本件は、上記判例のポイント1のとおり、測定結果等の客観的な証拠を提出していないため、この時点で勝負ありです。

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騒音問題5 隣室の居住者による継続的な騒音や嫌がらせを理由とする売主に対する瑕疵担保責任による損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隣室の居住者による継続的な騒音や嫌がらせを理由とする売主に対する瑕疵担保責任による損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和2年12月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物であるマンションの居室を購入した原告が、同居室の隣室の居住者による騒音や嫌がらせなどを継続的に受けており、そのような居住者が隣室に存在することは原告が購入した上記居室の「隠れたる瑕疵」に当たるとして、民法570条の瑕疵担保責任による損害賠償請求権に基づき、上記居室の売主である被告に対し、損害金合計1023万円(売買代金3100万円の30%に相当する930万円と弁護士費用93万円の合計額。ただし、損害額の主張は、その後の上記居室の売却に伴い、最終的に、①積極損害(上記居室の売買代金を含む購入費用と売却後の手取額等との差額、引越費用等)451万2999円、②慰謝料300万円、③弁護士費用75万円の合計額826万2999円に変更されている。)+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法570条の「瑕疵」とは売買の目的物が通常保有すべき品質・性能を欠いていることをいい、目的物に物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物の通常の用途に照らし、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるという欠陥、すなわち一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合も含むと解される。
そこで本件についてみるに、Cは、平成23年頃から頻度にはばらつきはあるものの継続して、昼夜を問わず数分ないし10分程度、物音がうるさいとか物が盗まれたなどと大声を出してベランダで叫ぶ、ラジカセを大音量でかける、壁等を強く叩く、本件マンションの居住者に対し、携帯電話で撮影する、追いかける、意味不明な発言をする、難癖をつける、怒鳴りつけるといった迷惑行為をしていたことが認められ、Cの隣室に居住していた原告は、本件居室で生活する際に、生活音を静かにしたり、外出する際には周囲の様子を伺うなど、一定程度生活や行動に制限を受けていたことは認められる。
また、Cの存在は本件居室の購入希望者に購入を断られる原因の一つとなっていたことも認められる。
しかし、他方で、本件居室については、今後の使用を前提として、賃貸物件や売却物件としての募集をかけており、仲介業者の担当者も、Cの迷惑行為の存在に関し、成約に至るか否かは購入希望者が気にする度合によるとしている。また、実際にも、隣室であるCの迷惑行為の事実や原告の夫の本件居室内での死亡の事実を告知した上で、原告の購入から約3年が経過した時点で、原告の購入時の代金3100万円から150万円を減額した代金2950万円でDに売却することができている。
さらに、本件居室の購入希望者がなかなか現れなかったことや、購入希望者から購入を断られたことについては、本件居室が日当たりの悪い1階に位置することや、原告の夫が本件居室内で自死したことも原因となっていたことが認められる。
以上によれば、上記のような迷惑行為を行うCの存在は、隣室である本件居室の居住者において、心理的に一定程度その使用を制限されるものであることは否定できないとしても、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるといえるような、一般人に共通の重大な心理的欠陥があるとまではいえない
したがって、Cの存在により本件居室が売買の目的物として通常保有すべき品質・性能を欠いているとして、民法570条の「瑕疵」があるとはいえない。

2 原告の夫が本件居室に入居直後に管理人に挨拶に行った際に、管理人から、102号室のことは聞いているのか、子どもが小さいのであれば気を付けるように、と言われたり、管理会社や本件マンションの居住者等からCに関する情報を容易に入手できていることからすると、本件居室の購入に当たり、原告において内覧の際に仲介業者である被告補助参加人の担当者であるEに隣室の居住者について確認していたとしても、買主にとって通常要求される注意を尽くしても発見することのできない「隠れた」瑕疵があるともいえない
したがって、民法570条の「隠れた瑕疵」の要件を欠き、原告は、被告に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を有するとはいえない。

旧民法の「瑕疵」概念を理解するのには参考になる裁判例です。

なお、現行民法では「契約不適合」(目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの)責任に変更されることに伴い、「隠れた」という要件がなくなりました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題4 マンションの1室に居住する原告らが、同居室の階上の居室を所有する被告に対し、被告の居室から発生する騒音(幼稚園生が居室内を歩行して発生させた騒音)の差止め及び損害賠償が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの1室に居住する原告らが、同居室の階上の居室を所有する被告に対し、被告の居室から発生する騒音(幼稚園生が居室内を歩行して発生させた騒音)の差止め及び損害賠償が認容された事案(東京地判平成24年3月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告X1が、マンション内に同人が所有する居室の階上の居室を所有する被告に対し、所有権ないし人格権に基づく妨害排除請求として、被告所有の居室から発生する騒音の差止め並びに不法行為(被告の子が被告所有の居室内を歩行して騒音を発生させた。)に基づく損害賠償請求として94万0500円+遅延損害金を、X1の妻で同人所有の前記居室に同居する原告X2が、被告に対し、不法行為(前同)に基づく損害賠償請求として32万4890円+遅延損害金の支払を、それぞれ求めるものである。

【裁判所の判断】

被告は、原告X1に対し、被告所有の建物から発生する騒音を、同原告が所有する建物内に、午後9時から翌日午前7時までの時間帯は40dB(A)を超えて、午前7時から同日午後9時までの時間帯は53dB(A)を超えて、それぞれ到達させてはならない。

被告は、原告X1に対し、94万0500円+遅延損害金を支払え。

被告は、原告X2に対し、32万4890円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告の子が204号室内において飛び跳ね、走り回るなどして、104号室内で重量衝撃音を発生させた時間帯、頻度、その騒音レベルの値(dB(A))は、静粛が求められあるいは就寝が予想される時間帯である午後9時から翌日午前7時までの時間帯でもdB(A)の値が40を超え、午前7時から同日午後9時までの同値が53を超え、生活実感としてかなり大きく聞こえ相当にうるさい程度に達することが、相当の頻度であるというのであるから、被告の子が平成20年当時幼稚園に通う年齢であったこと、その他本件記録から窺われる事情を考慮しても、被告の子が前記認定した程度の頻度・程度の騒音を階下の居室に到達させたことは、204号室の所有者である被告が、階下の104号室の居住者である原告らに対して、同居者である被告の子が前記程度の音量及び頻度で騒音を104号室に到達させないよう配慮すべき義務があるのにこれを怠り、原告らの受忍限度を超えるものとして不法行為を構成するものというべきであり、かつこれを超える騒音を発生させることは、人格権ないし104号室の所有権に基づく妨害排除請求としての差止の対象となるというべきである。

2 原告らがそれぞれ受けた精神的苦痛に対する慰謝料額としては、各30万円が相当である。
原告X2は平成20年8月25日、同年6月ころから出現した頭痛等の症状を訴え、医師により自律神経失調症との診断を受け、通院を開始し、治療費・薬代として合計2万4890円を支出したことが認められ、前記診断の結果に照らすと、原告X2の前記症状は、本件不法行為に起因するものと認められ、前記金額の治療費・薬代は本件不法行為と相当因果関係がある損害と認められる。
原告X1は、本件不法行為に係る騒音の測定を訴外会社に依頼し、平成20年9月17日、同社に対し、その費用・報酬として64万0500円を支払ったことが認められ、同費用は、本件請求のための費用ではあるが、客観的な騒音の測定は本件不法行為の立証のために必要不可欠なものであり、同測定は訴外会社等の第三者の専門家に依頼することが必要不可欠であるから、前記程度の費用額は、本件不法行為と相当因果関係がある損害と認められる

原告側の騒音の存在及び原因の立証が成功した事案です。

入念な準備が必要不可欠であることがよくわかります。

騒音問題の解決には、多額の費用、多大な労力及び時間を要することがよくわかります。

なお、本件で原告が請求した騒音の差止めは、「40dB(A)を超えて到達させてはならない」というものでしたが、裁判所が認容したのは、上記裁判所の判断記載とおり、時間帯によって判断を分けています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題3 マンションの階上の住戸からの子供が廊下を走ったり跳んだり跳ねたりする音が階下の住戸に居住する住民が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして上記住民の上記子供の父親に対する損害賠償請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの階上の住戸からの子供が廊下を走ったり跳んだり跳ねたりする音が階下の住戸に居住する住民が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして上記住民の上記子供の父親に対する損害賠償請求が認容された事案(東京地判平成19年10月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの階上の住戸からの子供が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりする音が階下の住戸に居住する住民が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして、上記住民の上記子供の父親に対する損害賠償請求が認められるかが争われた事例である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、36万円+遅延遅延金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件音は、被告の長男(当時3~4歳)が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりするときに生じた音である。
本件マンション2階の床の構造によれば、1重量床衝撃音遮断性能(標準重量床衝撃源使用時)は、LH-60程度であり、日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば、集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準にある上、本件マンションは、3LDKのファミリー向けであり、子供が居住することも予定している。
しかし、平成16年4月ころから平成17年11月17日ころまで、ほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり、その程度は、かなり大きく聞こえるレベルである50~65dB程度のものが多く、午後7時以降、時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあり、本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったのであるから、被告は、本件音が特に夜間及び深夜には原告住戸に及ばないように被告の長男をしつけるなど住まい方を工夫し、誠意のある対応を行うのが当然であり、原告の被告がそのような工夫や対応をとることに対する期待は切実なものであったと理解することができる。
そうであるにもかかわらず、被告は、床にマットを敷いたものの、その効果は明らかではなく、それ以外にどのような対策を採ったのかも明らかではなく、原告に対しては、これ以上静かにすることはできない、文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねたり、原告の申入れを取り合おうとしなかったのであり、その対応は極めて不誠実なものであったということができ、そのため、原告は、やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり、精神的にも悩み、原告の妻には、咽喉頭異常感、食思不振、不眠等の症状も生じたのである。

2 以上の諸点、特に被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮すると、本件音は、一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるものであったというべきであり、原告の苦痛を慰謝すべき慰謝料としては、30万円が相当であるというべきである。

騒音の存在及び原因の立証の準備をし、弁護士費用をかけ、1年以上にわたり訴訟を行った結果、30万円の慰謝料が認容されました。

難しい問題ですね。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。