騒音問題9 上階の居住者によるフローリング騒音につき、慰謝料請求は認容されたが差止請求は棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上階の居住者によるフローリング騒音につき、慰謝料請求は認容されたが差止請求は棄却された事案(東京地八王子支判平成8年7月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らは本件マンションの専有部分の所有者であるが、原告ら建物の階上である被告建物の所有者である被告は平成5年11月上旬ころ、何の合理的理由・特別の事情もなく、かつ、原告らの承認を得ること及び本件マンションの管理組合理事会への届け出なく、即ち、同管理組合規約・使用細則に違反して、被告建物の絨毯張りの床につき、「トップ・イレブン」なる非防音タイプの一階用床材を使用してフローリング(板張り)への張り替えを敷設したところ、本件フローリング敷設により、被告建物に発生する歩く音・椅子を引く音等の生活音全てが断続的に、階下の原告ら建物内に響き聞こえてくるようになり、現在(平成8年6月)に至るまで継続して、被告建物の階下の原告ら建物に居住して本件マンションにおける静謐な環境・生活を享受していた原告らに対し、受忍限度を超える日常生活上の騒音被害・生活妨害等をもたらし、原告らに著しい肉体的・精神的苦痛を与えるに至ったから、前記管理組合規約・使用細則並びに区分所有法6条1項・57条ないし人格権侵害に基づく差止め(妨害除去・妨害予防)請求としての原状回復である復旧工事の施工及び不法行為に基づく慰謝料各300万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は原告らに対し、各金75万円+遅延損害金を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件マンションのような集合住宅における騒音被害・生活妨害については、加害行為の有用性、妨害予防の簡便性、被害の程度及びその存続期間、その他の双方の主観的及び客観的な諸般の事情に鑑み、平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として判断して、一定の限度までの騒音被害・生活妨害は、このような集合住宅における社会生活上止むを得ないものとして受忍すべきである一方、右の受忍限度を超える騒音被害・生活妨害は、不法行為を構成するものと解せられる。
・・・本件フローリング敷設による右騒音被害・生活妨害は社会生活上の受忍限度を超え、違法なものとして不法行為を構成すると言うことができる。

2 騒音被害・生活妨害による人格権または人格的利益の侵害ないし侵害の恐れに基づく妨害排除・予防請求としての差止め請求が認められるか否かは、侵害行為を差止める(妨害排除・予防する)ことによって生ずる加害者側の不利益と差止めを認めないことによって生ずる被害者側の不利益とを、被侵害利益の性質・程度と侵害行為の態様・性質・程度との相関関係から比較衡量して判断されるが、前述したように、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害は受忍限度を超えたものであり、したがって、右侵害行為(被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害行為)の差止めを認めないことによって生ずる被害者側たる原告らの不利益は決して小さくないと言うべきであるが、本件フローリングの有用性は前記認定のとおりであり、本件フローリングに対する差止めないし差止めによる原状回復については、被告に対し相応の費用と損害をもたらすことは明らかであり、しかも、若干の問題はあるものの原告ら及び被告に対し本件勧告が有効になされ、原告らもこれを一旦は受け入れた経緯に鑑みると、なおのこと、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害行為は直ちに、右差止め請求を是認する程の違法性があると言うことは困難と言わざるを得ない

本件は、騒音の発生が不法行為に該当するとし、合計150万円の慰謝料請求が認められた一方で、差止請求については、上記判例のポイント2のとおり、棄却されました。

比較衡量による判断ですので事案によって結論は異なりますが、損害賠償請求及び差止請求についての考え方を理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。