Author Archives: 栗田 勇

管理組合運営48 組合員の管理組合に対する組合員名簿の閲覧請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員の管理組合に対する組合員名簿の閲覧請求が認められた事案(東京地判平成29年10月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告(マンション管理組合)の組合員である原告が、被告に対し、マンションの管理規約に基づき、被告の組合員名簿の閲覧を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、原告が被告の理事であるにもかかわらず、理事会での議論を通さずに、本件議案を直接総会に提案するために本件閲覧請求をしていることなどによれば、本件閲覧請求は正当な理由を欠き、権利濫用に該当する旨主張する。
しかし、本件閲覧請求は、被告の組合員である原告が、組合員による総会招集権を行使して本件規約の改正を内容とする本件議案を総会に提案するため、他の組合員の連絡先を把握することを目的としている。
まさに組合員としての正当な権利行使のための名簿の閲覧請求であって、本件閲覧請求の目的に不当性又は濫用的な側面を見出すことはできない。
被告は、原告が理事会を通さずに本件議案を直接総会に提案することが問題であるなどと主張するが、被告又は被告の理事会がそのように考えるのであれば、本件議案が提案された総会においてその旨主張し、他の組合員の賛同を得るよう努力すべきであって、本件議案の総会への提出自体又は本件閲覧請求が妨げられる理由にはなり得ない。
このような被告又は被告の理事会の対応は、本件議案に反対であるがために、本件議案の総会への提案を阻止するための便法として、本件閲覧請求を拒否しているといえるのであって、少数組合員による権利実現の機会を保障するため、組合員に総会招集権を認めた本件規約46条の趣旨を没却するものであり、言語道断というほかない。
本件規約に基づく組合の公正な運営を歪め、その立場を濫用しているのは、被告又は被告の理事会であって、その主張には一片の合理性も認められない
また、被告は、本件閲覧請求が権利濫用に該当する根拠として、本件名簿に極めて機密性の高い個人情報が記載されていることを主張する。
しかし、本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に組合員の個人情報として前記記載の各情報が記載されているからといって、本件閲覧請求が権利濫用に該当すると認めることはできない。
その他、本件全証拠によっても、本件閲覧請求が権利濫用に該当すると認めるに足りる事情は見当たらない。

2 被告は、本件閲覧請求が認められるとしても、組合員の自宅電話番号や携帯電話番号、備考欄など極めて機密性の高い個人情報が記載されていること、本件閲覧請求の目的を達成するには、組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所のみ閲覧すれば十分であることから、閲覧の範囲を組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所に限定すべきである旨主張する。
しかし、本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に個人情報が記載されているとしても、その閲覧の範囲を限定することには慎重な検討が必要である。
特に、本件では、被告が本件議案の総会への提案自体を阻止することを目的として本件閲覧請求を拒否していると認められるのであり、なおさら慎重な検討が必要といえる。
以上の観点に立った上で、本件閲覧請求の目的の重要性に照らしてもなお、本件閲覧請求による本件名簿の閲覧の範囲を制限すべき事情があるかどうかについて検討すると、本件名簿の記載内容その他本件全証拠によっても、そのような事情を認めるに足りない。

裁判官、なんか怒ってます?(笑)

言語道断と一片の合理性も認められないなんて、私、言われたことないですー。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故20 雨漏り事故発生時に、早急に補修工事を実施しなかった管理会社の債務不履行責任が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雨漏り事故発生時に、早急に補修工事を実施しなかった管理会社の債務不履行責任が否定された事案(東京地判平成29年10月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物をBに対して賃貸していた被控訴人が、本件建物において雨漏り事故が発生したため、控訴人に補修工事を依頼したにもかかわらず、控訴人が早急に工事を実施しなかったことから、被控訴人において、Bに対して雨漏り事故によって生じた損害の賠償を余儀なくされ、その賠償額と同額の損害を被ったとして、控訴人に対し、主位的に、被控訴人と控訴人の間で締結された雨漏り補修工事に関する委任契約の債務不履行に基づき、予備的に、本件マンション管理組合と控訴人との間の管理委託契約の債務不履行に基づき、損害賠償を求める事案である(なお、被控訴人の請求は、いずれも債務不履行を理由とするものであり、不法行為を理由とするものであると解することはできない。)。
原審は、被控訴人の主位的請求は理由がないとして、これを棄却したが、予備的請求については、46万0100円+遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして、これを一部認容した。

そこで、控訴人は、控訴人敗訴部分(予備的請求を一部認容した部分)を不服として控訴をした。

なお、被控訴人の主位的請求については、被控訴人がこれを棄却した原判決部分を不服として控訴又は附帯控訴をしていない以上、当審の審理の対象となるものではない。

【裁判所の判断】

1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 前項の部分につき被控訴人の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件管理委託契約3条には、控訴人が受託した管理事務の内容は、事務管理業務(同条1号)、管理員業務(同条2号)、清掃業務(同条3号)及び建物・設備管理業務(同条4号)とすることが定められ、本件管理委託契約の8条には、控訴人は、3条の規定にかかわらず、災害又は事故等の事由により本件管理組合のために緊急に行う必要がある業務で、本件管理組合の承認を受ける時間的な余裕がないものについて、その承認を得ないで実施することができる旨が定められているところ、上記の規定内容に照らすと、本件管理委託契約8条は、飽くまで、控訴人が本件管理組合との関係で緊急時にその承認を得ずして業務を実施することができることを定めたにとどまり、組合の財産が総組合員の共有に属するものであるとしても、この規定から、控訴人に、本件マンションの共用部分の管理業務に関し、区分所有者に対する直接の法的義務が発生すると解することはできないものといわざるを得ない
そうすると、控訴人が本件管理委託契約に基づいて、被控訴人に対して債務不履行責任を負うものと認めることはできず、被控訴人の上記主張は、採用することができないというべきである。

2 被控訴人は、本件建物の雨漏り補修工事が専有部分と共用部分の双方に関係すること、緊急の対応を要する工事であること、被控訴人が控訴人に直接補修工事の施工を求めたことを指摘するが、これらの事由により、被控訴人と控訴人との間に委任契約が成立したと認め得る余地があるとしても、この点が当審における審理の対象とならないことは、既に説示したとおりであり、また、本件マンションの区分所有者としては、控訴人による本件マンションの共用部分の管理業務について要望がある場合には、本件管理組合に対して、その申入れをし、本件管理組合において、当該要望の実現を図るべきものと解されるところ、被控訴人が控訴人に直接補修工事の施工を求めたとしても、本件管理組合に代わって求めたにすぎないものと認められる余地もある。
被控訴人の上記指摘は、本件管理委託契約の規定から控訴人に区分所有者に対する直接の法的義務が発生するとは解し得ないとする上記判断を左右するものでない。

上記判例のポイント1はしっかりと理解しておきましょう。

管理委託契約の規定内容をいかに解釈するかについては、必ず弁護士に確認することをおすすめいたします。

また、法的構成を債務不履行に限定する必要はなく、特に本件のような事案では、不法行為構成も主張しておくべきです。

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管理費・修繕積立金43 管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(東京地裁平成29年10月31日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の管理者である原告が、本件マンションの504号室の区分所有権及びその敷地利用権を有する被告には本件管理組合に対する管理費及び修繕積立金の滞納があるとして、同滞納分を回収するため、区分所有法59条1項に基づき被告区分所有権等の競売を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告区分所有権等の時価や被告区分所有権等に設定されている抵当権の被担保債権の現時点での残額は不明であるが、平成26年9月の時点では、先取特権(法7条1項)に基づく被告区分所有権等の担保不動産競売の開始決定は無剰余で取り消されていること、被告による管理費等の滞納はその後も続いており、被告の資力が回復したような事情は窺われないことなどからすると、現時点において、被告区分所有権等につき通常の強制競売又は担保不動産競売を申し立てて競売開始決定を得ても、無剰余取消しとなることが見込まれる
また、被告による管理費等の滞納が自主的に解消される見込みはなく、被告区分所有権等のほかにみるべき被告の資産はない
したがって、法59条1項に基づく被告区分所有権等の競売以外の「他の方法によってはその障害を除去して・・・区分所有者の共同生活の維持を図ることは困難」である(法59条1項)といえる。

2 本件管理組合の第38期定時総会の議事録によれば、被告は、被告区分所有権等の競売の議決に際し弁明をしていないが、それ以前に、そもそも同総会に欠席していたことが認められる。
しかし、本件管理組合では、管理規約上、総会開催日の2週間前までに、組合員である区分所有者に対し、会議の日時、場所及び目的を示すこととされており、本件請求に係る議案(第2号議案)についても、被告を含む本件マンションの区分所有権者らに対し、管理規約に基づく事前の通知がされていたものと推認されるところ、本件では同推認の妨げとなるような特段の事情は窺われない。
したがって、被告に対し、被告区分所有権等の競売の議決に当たって必要とされる弁明の機会の付与(法59条2項,58条3項)はされていたというべきである。

59条競売請求は、最後の手段ですので、その前にやらなければいけないステップをしっかり踏むことがとても重要です。

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名誉毀損23 管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信したメールの内容が公然性を欠くため名誉毀損には該当しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信したメールの内容が公然性を欠くため名誉毀損には該当しないとされた事案(東京地判令和3年9月14日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告Y1に対し、同被告が送信した電子メールによって原告の名誉権及び名誉感情が侵害され、また、同被告が警察に対して原告から暴力を受けたとの虚偽の通報をしたことなどにより名誉・自尊心を害され、人格権を侵害されたことにより精神的苦痛を受けたとして、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料等合計121万6000円+遅延損害金の支払を求め、被告Y2に対し、同被告が送信した電子メールによって原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたとして、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料等合計60万8000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1  ある表現が他人の社会的評価を低下させるとして名誉毀損による不法行為が成立するには、事実の摘示等の表現行為が不特定又は多数の者が知り得る状態で公然とされることが必要と解される。
これを本件についてみるに、本件メールは、いずれも、当時の本件管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信されたものであり、これが閲読可能な者は特定かつ少数の者に限られている
また、本件メールは、本件管理組合の理事会ないし本件管理会社の担当者が、原告から理事会ないし理事長たる被告Y1に対して提出されていた要望事項等に関し、B副理事長が原告と面談した際の状況も踏まえて、その対応方針等を電子メールで協議、検討していた際に被告Y1ないし同Y2から発信された電子メールの一部であり、その性質上外部へ公表することが予定されたものとはいえないこと、本件管理会社の3名の従業員がその業務の一環として受信した本件メールを不特定多数の者に漏出させることは考え難いこと、その他の12名の受信者についても、本件メールは理事会の業務の一環として受信したものであり、守秘義務を定めた本件管理組合に係る規約の存在やメールの内容及び性質等に照らし、慎重な情報管理が求められるものであること、原告が本件メールの内容を認識するに至ったのは、本件メールの受信者の一人であるCが、原告との関係が良好であったことなどからこれを原告と共有したにすぎず、本件各証拠に照らしても本件メールの内容が本件マンションの住人に広く知れ渡った様子はうかがえないことなどからすると、本件メールやその内容が上記15名から他人へと漏出して不特定多数の者に伝播する可能性は乏しいものであったということができる。
そうすると、被告らによる本件メールの送信は公然と行われたものとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、本件メールの送信行為につき原告の名誉を毀損する不法行為が成立する旨の原告の主張はいずれも理由がない。

2 原告は、本件メールの内容はその名誉感情を侵害するとも主張するが、仮にそのように評価し得るものだとしても、本件メールは原告に宛てられたものではなく、前記で検討したところに照らしても、本件メールによる原告の名誉感情の侵害につき、被告らに故意ないし過失があるものとは認められない
よって、その余の点について検討するまでもなく、名誉感情の侵害を理由に被告らの不法行為責任の成立を主張する原告の主張はいずれも理由がなく採用できない。

冒頭の名誉毀損の要件について、裁判所がどのような事実に着目してあてはめをしているのかをチェックしましょう。

区分所有建物においては、本件同様の名誉毀損事案が比較的多く発生しますので、要件を認識しておくことはとても大切です。

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管理組合運営47 臨時総会の招集手続に重大な瑕疵があるとして決議不存在または決議無効の確認を求める訴えが却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、臨時総会の招集手続に重大な瑕疵があるとして決議不存在または決議無効の確認を求める訴えが却下された事案(東京地裁令和3年10月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、令和2年4月25日に開催された被告の臨時集会(総会)の招集手続には重大な違法ないし瑕疵があり、法律上不存在であると評価されるべきであり、また、本件総会でされた決算承認決議の対象である決算の内容が違法であり、承認決議自体が無効であると主張して、主位的には本件総会でされた全ての決議の不存在、予備的には上記決算承認決議の無効確認を求める事案である。
被告は、本件訴訟の提訴後、本件総会でされた決議の全てにつき、改めて臨時集会又は総会で決議を行ったから、本件訴訟には訴えの利益がなくなったとして訴えの却下を求めるほか、本件総会の決議について不存在及び無効と評価されるべき事由はないと主張して争っている。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 確認の訴えにおけるいわゆる確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。
このような法律関係の存否の確定は、上記目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要し、通常は、紛争の直接の対象である現在の法律関係について個別にその確認を求めるのが適当であるとともに、それをもって足り、その前提となる法律関係、とくに過去の法律関係に遡ってその存否の確認を求めることは、その利益を欠くものと解される。
しかし、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利または法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえって、これらの権利または法律関係の基本となる法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、上記の基本的な法律関係の存否の確認を求める訴えも、それが現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきものと解するのが相当である。(以上、最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁)。

2 本件第1号決議及び本件第3号決議については、その後に本件臨時総会第1号決議で同一内容の決議がされ、また、本件第5号決議、同第6号決議及び同第7号決議は、その後の39期総会第1号決議、同第4号決議及び同第12号決議においてこれを追認する決議が有効に成立している。そうすると、本件第1号決議、同第3号決議、同第5号決議、同第6号決議及び同第7号決議の不存在又は無効を確認することが、これに起因する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切とは認め難い
よって、主位的請求のうち、本件第1号決議、同第3号決議、同第5号決議、同第6号決議及び同第7号決議の不存在を確認する訴え及び原告の予備的請求に係る訴えは、いずれも訴えの利益を欠くというべきである。

上記判例のポイント2のような事後的な事情がある場合には、確認の利益が失われますので訴えは却下されます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損22 理事から解任することを求める文書をマンションの全居住者に配布した行為が名誉毀損にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事から解任することを求める文書をマンションの全居住者に配布した行為が名誉毀損にあたらないとされた事案(東京地判令和3年10月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、静岡県熱海市内にある本件マンション管理組合の理事であった原告が、本件マンションの居住者である被告に対し、被告が、①原告を理事から解任することを求める文書を本件マンションの全居住者に配布させたことが原告に対する名誉毀損による不法行為を構成し、また、②本件マンション管理組合の総会において、原告を理事から解任する旨の決議を不当に主導したことも原告に対する不法行為を構成するとして、上記各不法行為に基づき、損害金合計220万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件記事1が、本件マンションの大浴場の更衣室に設置されたプラスチック製の脱衣篭に関し、これを籐の脱衣篭にしてほしいとの多数の本件マンションの居住者の希望を本件理事会が拒否したとの虚偽の事実を述べることで、原告を含む本件理事会の役員が本件マンションの居住者にとって都合が悪い人物との印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させると主張する。
しかし、本件記事1は、多数の本件マンションの居住者から籐の脱衣篭にしてほしいとの意見があることなどを指摘した上で、本件理事会としてはもっと居住者の声に真摯に耳を傾ける姿勢等が求められるといった、本件理事会の在り方についての意見又は論評を表明しているものであって、原告が主張するような事実を摘示しているものとはいい難い
そして、本件理事会の役員が原告を含めて7名であったことからすれば、本件記事1を含む本件各記事は、いずれも本件理事会の理事であった原告についても述べているものとは理解し得るものの、原告を含む本件理事会の役員個人について明示的に言及しているものではなく、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、本件記事1の意見又は論評の内容が原告の社会的評価を低下させるものとは認められない
また、①本件記事1は、本件理事会の役員の解任理由として述べられたものであり、その内容についても、人身攻撃に及ぶといった解任理由の摘示として不相当な表現を用いているものとは認められないこと、②本件記事1を含む本件各記事の配布範囲は、本件マンションの居住者に限られていること、③本件記事1を含む本件各記事が原告についても述べているものと理解することはできるものの、明示的に原告を対象とした記載とはなっていないことを総合考慮すれば、本件記事1の意見又は論評の表明は、不法行為の成立要件としての違法性を欠くものというべきである。
したがって、本件記事1について名誉毀損による不法行為は成立しない。

2 原告は、本件記事2が、禁煙を徹底させようとした本件理事会の行動に関し、それが本件マンションのイメージを低下させるという誤解を与えることで、本件マンションの居住者に対して本件理事会について悪い印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させると主張する。
しかし、本件記事2は、本件理事会による少数のクレームに対する過度の対策についての懸念といった意見又は論評を表明しているものであり、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、本件記事2の内容が原告の社会的評価を低下させるものとは認められない
また、本件記事2についても、本件理事会の役員の解任理由として述べられたものであり、その内容も解任理由の摘示として不相当な表現を用いているものとは認められないこと、その他本件各記事について判示したところを併せ考慮すれば、本件記事2の意見又は論評の表明についても、不法行為の成立要件としての違法性を欠くものというべきである。
したがって、本件記事2について名誉毀損による不法行為は成立しない。

意見・論評が名誉毀損に該当するかについては、多分に評価的要素が含まれているため、一般の方が事前に判断することは容易なことではありません。

過去の裁判例に照らすことによって、だいたいの線引きができるようになります。

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管理組合運営46 区分所有者が理事長の妻に対して提起した訴訟における妻の弁護士費用を管理費から支出することは可能か?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が理事長の妻に対して提起した訴訟における妻の弁護士費用を管理費から支出することは可能か?(東京地判令和3年10月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物である本件マンションの区分所有者である原告が本件マンション管理組合である被告に対し、原告が理事長(当時)の妻に対して提起した訴訟の同人の弁護士費用について、これを管理費から支出することを承認した被告の臨時総会における決議は、管理規約に反して無効であるとして、その無効確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件決議は、別件弁護士費用を本件マンションの管理費から支出することを承認するものであるので、別件弁護士費用を本件規約上、適法に支出し得るか検討する。
本件規約36条5項は、被告における「役員の職務は、現に居住する親族(事実婚者を含む。)が代行できることとし、その職務遂行は役員がしたものとみなす」と定めており、特定居住者は、同項に基づき、第19期理事長の職務を代行して、原告との間の訴訟に関して被告が支払義務を負担した弁護士費用として、23万7908円を管理費から支出したことが認められる。
そのため、別件訴訟は、原告と特定居住者が当事者ではあっても、被告における通常の職務行為に当たることが客観的に明らかな特定居住者の行為に関して提起されたものと解される。
このように、管理組合における通常の職務であることが明らかな行為に関して役員個人としての法的責任が問われた際、その手続に要する弁護士費用については、管理組合の職務の遂行に伴い生じた負担であり、本来、管理組合の運営によって利益を受ける区分所有者全員で負担すべきいわば共益費としての性質を帯びることを否定できない。
そうすると、別件弁護士費用は、本件規約30条9号所定の「管理組合の運営に要する費用」に当たるというべきであり、本件議案を承認した本件決議に法令又は規約違反があるとはいえない。
以上の次第で、原告の被告に対する本件決議の無効確認を求める請求は理由がない。

規約の解釈上、結論自体は異論がないところだと思います。

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名誉毀損21 虚偽内容の電子メール送信や文書配布により名誉や信用を毀損されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、虚偽内容の電子メール送信や文書配布により名誉や信用を毀損されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和3年11月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴は、原告が、被告に対し、被告による虚偽内容の電子メール送信や文書配布により、名誉ないし信用を毀損されたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

本件反訴は、被告が、原告に対し、原告による虚偽内容の発言等及びメール送信により、名誉を毀損され、又は名誉感情を侵害されたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

なお、被告文書は以下のとおりである。

①被告は、令和元年10月3日、原告を含めた本件管理組合の理事会役員16名に対し、「X理事長は責任をA所長に転嫁しています。極めて卑劣な理事長です。私がB前理事長を突き飛ばしたとX理事長が断言した証拠も説明ないで無視しています。これでも当マンションの理事長と言えますか。」「理事会の会話録音を独断で文書化したり、エレベーター前の会話を独断で文書化したり、私が理事会に提出した要望書を理事会で審議しないで受理を拒絶しようとしたり、本件の通知書を独断で作成して通知する等、おおよそ理事長に相応しくない対応をしています。それでも皆さんはX理事長を擁護しますか。責任が重大になります。この独裁的な理事長を許さないでください。」と記載された電子メール(被告文書等1)を送信した。
②被告は、令和元年12月8日、原告を含む本件管理組合の理事会役員16名に対し、「組合員がいつでも閲覧できる議事録に虚偽の記載をしたことは名誉毀損の犯罪行為です。」「X理事長は区分所有法25条2項に規定している『管理者の職務に適しない理事長』です。」などと記載された文書(被告文書等2)を配布した。
③被告は、令和元年12月12日、原告を含む本件管理組合の理事会役員16名に対し、「X理事長は、不正が行われたことを全て葬ろうとしています。」などと記載された文書(被告文書等3)を配布した。
④被告は、令和元年12月30日、本件マンションの全戸に対し、「私個人を名指しでアンケートを取ったことは犯罪行為だと思います。」「今期(第13期)のX理事長と理事会の役員らも、不正の実態を承知しているにもかかわらず闇に葬ろうとしています。」「議事録に記載した説明は虚偽であることが分かりました」などと記載された文書(被告文書等4)を配布した。
⑤被告は、令和2年1月11日、本件マンションの全戸に対し、「X理事長は、私が投函した文書に反論する文書を配布しました。」と題する文書(被告文書等5)を配布した。

【裁判所の判断】

本訴・反訴ともに棄却

【判例のポイント】

1 被告文書等1の記載内容のうち、原告ないしその行為に関して記載された内容はいずれも抽象的なものであり、全体として原告の理事長としての行為ないし振る舞いについての被告の意見ないし論評を述べるものというべきである。
そして、被告文書等1には「極めて卑劣」など、原告に対する否定的な内容もみられるものの、被告の個人的な意見等を述べるものであることに照らせば、原告の社会的評価を低下させるとまでは認められない。
また、被告文書等1の内容及び表現振り等が意見ないし論評として著しく不適切とまではいえず、意見等の表明としての域を逸脱するとまではいえない

2 被告文書等2の記載内容のうち、「組合員がいつでも閲覧できる議事録に虚偽の記載をしたことは名誉毀損の犯罪行為です。」との記載は、「D巡査部長が本件の問題を認めなければ、議事録に掲載したことは虚偽記載になります。」との記載に続くものであり、これらを全体としてみれば、議事録の記載の真偽及びこれが真実でない場合に関する被告の意見ないし評価を述べたものというべきである。また、「X理事長は区分所有法25条2項に規定している『管理者の職務に適しない理事長』です。」などの記載についても、その内容に照らし、被告の意見ないし評価を述べたものというべきである。
そして、被告文書等2には、原告の理事長としての適性等に対する否定的な内容が含まれているが、被告の個人的な意見等を述べるものであることに照らせば、原告の社会的評価を低下させるとまでは認められない。
また、被告文書等2の内容及び表現振り等が意見ないし論評として著しく不適切とまではいえず,意見等の表明としての域を逸脱するとまではいえない

いずれも上記のとおり、意見ないし論評として著しく不適切とまではいえず、意見等の表明としての域を逸脱するとまではいえないという理由で名誉毀損には該当しないとされました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営45 専有部分をナイトクラブの営業を予定している第三者に賃貸することを管理組合が承認しなかったことは違法?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分をナイトクラブの営業を予定している第三者に賃貸することを管理組合が承認しなかったことは違法?(東京地判令和3年12月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、当該マンション管理組合である被告管理組合及び被告理事らに対し、原告が専有部分を第三者に賃貸することについて被告管理組合が承認しなかったことが違法であり、これにより原告に賃料収入相当額の損害が生じた等と主張して、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、9000万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件マンションの店舗部分の営業については、営業開始前に被告管理組合の同意を得る必要があるものとされている(店舗使用細則2条2項)。
被告管理組合が、具体的にどのような場合に上記同意をすべきかについて、要件や基準を明確に定めた規定は見当たらないものの、上記規定の直前に位置する店舗使用細則2条1項が、店舗部分の営業内容について規定した管理規約12条2項を準用していることに照らすと、同項が禁止する営業に当たらない場合には、被告管理組合が原則としてこれに同意することが想定されていると解するのが相当である。
もっとも、管理規約12条2項は、風俗営業や性風俗営業等を例として挙げながら、「他の区分所有者や占有者の迷惑となる営業をしてはならない」と抽象的に規定している上、上記同意をするか否かは営業開始前に判断される。
したがって、被告管理組合は、店舗部分の営業に同意するか否かについて、一定の裁量を有するものと解される。

2 S社は、1階店舗において、特定遊興飲食店営業に当たるナイトクラブの営業をすることを予定していたものである。特定遊興飲食店営業は、平成27年改正後の風営法において、「風俗営業」には当たらないものと定義されているが、同改正前は、「風俗営業」の一つとされていた営業形態であった。
そして、管理規約12条2項は、平成27年改正よりも前に設定されたものであることに照らすと、同項が禁止対象として例示する「風俗営業」については、平成27年改正前の風営法に規定する「風俗営業」と同義であると解釈する余地があり、その場合には、特定遊興飲食店営業もこれに該当することとなると考えられる。 
また、ナイトクラブ等の特定遊興飲食営業は、風俗営業に該当しないとしても、風営法による規制(許可)の対象であり、東京都において児童福祉施設や病院等から一定の距離があることがその許可の要件とされているように、周辺環境への影響が生じることが法令上も想定された業態であるといえる。
本件マンションは、我が国でも有数の繁華街に所在するが、その3階から12階までは住宅又は事務所とされていることにも照らせば、ナイトクラブ等の営業によって、騒音やい集等により他の区分所有者に迷惑が生じると被告管理組合が懸念することには、相応の根拠があるといえる。
そして、被告管理組合は、原告から本件賃貸の意向を示された後、4月理事会で一旦は原告に本件営業は認められない旨の申入れを行うこととしたものの、その後も本件各理事会及び8月理事会において、本件営業の内容等について継続的に検討していた。
一方、Aは、4月理事会、5月理事会及び8月理事会をいずれも欠席し、原告は、1月理事会に至るまで、本件営業について詳細な図面等を用いた具体的計画を示さなかった
したがって、1月理事会が開催されるまで、被告管理組合において、上記懸念が払拭できないと判断して本件営業に消極的態度を示したことにも合理的理由があったといえる。
以上のことからすると、被告管理組合が、本件調停に至るまで本件賃貸及び本件営業に同意しなかったことについて、合理性を欠くとか裁量の範囲を逸脱したということはできず、違法であったとは認められない。

本件マンションは渋谷区宇田川町に所在するようですが、結果としてはナイトクラブの営業について承認しなかった管理組合の決定については違法ではないとされています。

本件のようなケースでは、原告からは逸失利益の請求がなされることから、請求額が高額になる傾向にあります(本件では9000万円!)。

したがって、手続及び判断については極めて慎重に行う必要がありますのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故19 漏水事故における区分所有者と管理組合との過失割合(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故における区分所有者と管理組合との過失割合(東京地判令和3年12月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件管理組合との間で火災保険を締結していた原告が、令和元年6月14日に本件マンションにおいて発生した漏水事故は、被告の過失によるものであり、原告はこの漏水事故について本件管理組合に保険金を支払ったことにより、本件管理組合が被告に対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権を代位取得した旨主張し、被告に対し、損害賠償金74万8864円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、59万7091円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件漏水事故の原因は、被告が本件洗濯機の給水ホースを水栓に接続する際に必要のない本件継ぎ手を取り付けた過失によるものであり、本件継ぎ手の使用の可否については、本件洗濯機の取扱説明書に記載されていたことなどからすれば、被告の過失の程度は大きい
一方で、本件漏水事故が発生した際、本件管理組合から依頼を受けた業者により、本件居室内の水回りを中心に、実際に水を流すなどして点検が行われたが、本件洗濯機の水栓及びその接続状況等に関しては何ら点検がなされなかったこと、本件漏水事故の原因が不明であるのに、Bにおいて、被告に対し、本件洗濯機を含む水回りの使用を許容したこと、6月14日以降も本件駐車場の天井からの漏水を確認しながら、同月21日に再び本件居室内を調査するまで、本件駐車場の天井の漏水箇所をビニール等で養生する程度の対応にとどまり、原因究明のための調査や被告に水回りの使用を中止するよう求めるなど、漏水を止めるための積極的な措置をとらなかったことが認められ、これらについては、公平の観点から、本件管理組合側の過失として一定程度考慮すべきである。
そして、被告は6月14日以降も同月21日までの間に本件洗濯機を使用していたため、断続的に漏水が生じたものと認められ、その間に損害が拡大していった可能性も否定できないことも併せ考慮すれば、過失割合については、本件管理組合20%、被告80%と認めるのが相当である。

被告区分所有者の過失が大きいことはさておき、上記のような事情があるにもかかわらず管理組合の過失割合が20%にとどまっている点は、裁判所の過失割合に対する考え方の1つの表れのように思います。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。