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悪臭問題2 賃借人が営業する台湾料理店の悪臭について、賃貸人である区分所有者の共同利益背反行為と認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃借人が営業する台湾料理店の悪臭について、賃貸人である区分所有者の共同利益背反行為と認められた事案(東京地判平成29年2月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合の管理者である原告が、本件建物の区分所有者である被告に対し、(1)本件建物の賃借人の営業する台湾料理店が悪臭を生じさせており、これは区分所有者の共同の利益に反するものであると主張して、区分所有法57条1項、3項に基づき、本件建物内を台湾料理店として使用させることの差止めを求めるとともに、
(2)①不法行為に基づき、上記賃借人が共用部分に看板、ごみ箱を無断で設置している使用料相当損害金63万円(平成26年11月12日から平成28年7月11日までの21か月分)、②上記マンション管理組合の管理規約に基づき、本件訴訟の追行費用相当損害金108万0400円、③上記①のうち平成26年12月1日から平成27年7月31日までの使用料相当損害金24万円に対しては訴状送達の日である平成27年8月22日から、上記①のその余の期間の使用料相当損害金及び上記②の合計147万0400円に対しては、訴えの変更申立書送達の日である平成28年8月5日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物内を、賃借人有限会社bをして台湾料理店として使用させてはならない。
 被告は、原告に対し、134万2349円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 悪臭の態様と程度、本件マンションの居住者等の受け止め方であるが、本件店舗から発せられる臭いは「中華料理のような臭い」であるところ、一定の状況下では食欲をそそる好ましい臭いと感じられることはあっても、望みもしないのに連日長時間さらされる臭いとしては、一般的には不快感が大きいと受け止められるものと解される。
そして、本件店舗から発せられる臭いは、本件建物の真上にとどまらず、本件マンションの居住者の多くが利用する本件マンションのエントランスにも及んでいるところ、午後6時30分頃時点における2階ベランダ及び1階エントランス部分の臭気指数(それぞれ27及び22)は、文京区長の定める敷地境界線での規制基準(他者の生活圏に侵入することが許容される臭気の基準という意味合いがある。)である臭気指数(12)を大幅に上回っているものである。
また、本件店舗の営業開始直後から、本件店舗の発する臭いに対する苦情が多数寄せられているところ、そのような状況は現在も続いており、他の区分所有者の中には、本件店舗の臭いによってテナントの撤退を余儀なくされるといった具体的な不利益も生じているのであって、上記臭いは、本件マンションの居住者等に対し、相当程度に深刻な被害をもたらしているものということができる。

2 次に、地域環境についてみるに、本件マンションは商業地域内に位置し周辺には一定の商業施設はあるものの、飲食店が集中する繁華街などとは異なり居住環境との調和も求められているということができる。
実際にも、本件マンションは、1階の公道面の101号室から105号室が店舗であるものの、それ以外の専有部分は全て居住を目的とする住戸であって、本件マンションを全体としてみれば、居住用物件としての比重がはるかに高いものということができ、その趣旨は、本件規約12条3項、使用細則4条1項にも現れているところである。

3 悪臭の防止に関する対応策の有無とその効果についていえば、本件店舗の開店直後に、悪臭対策としておよそ無防備といわざるを得ない本件排気設備が本件管理組合に無断で設置されてから、少なくとも結果に現れる形での対策は一切講じられないまま現在に至っている
しかも、この間、本件管理組合からは、書面による通告を含め繰り返し善処を求められてきたという経過もあるのであって、それにもかかわらず何らの対応策がとられていないという事実は、受忍限度の判断に当たっても重視せざるを得ない
なお、被告としては、本件管理組合とb社の板挟みになって対応に苦慮していたという事情があることはうかがわれるが、本件のそもそもの発端は、本件管理組合からテナントとしてふさわしくない店舗の基準は事前に示されていながら、被告において余りに楽観的にすぎる判断をした上、本件管理組合に対し本件店舗に関する必要な情報の開示を尽くさなかった点にあると解される。
また、事後的にも、b社との関係で、本件賃貸借契約の貸主としての対応が可能であることは後記のとおりである。したがって、上記の事情は被告の責任を免れさせる根拠となるものではない。
以上によれば、本件店舗から生じさせている悪臭は本件マンションの居住者等の受忍限度を超えるものというべきであり、被告がb社をして本件店舗において台湾料理の営業を行わせている行為は、区分所有者の共同の利益に反する行為であって、区分所有法57条の規定に基づく差止めの対象になるというべきである。

4 本件規約68条によれば、原告は、区分所有者である被告に対し、弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができるところ、原告ないし本件管理組合は、本件訴訟追行のため、臭気測定報告書等作成費用19万4400円を支出し、弁護士費用86万4000円については、未払のものも含まれてはいるものの、訴訟の終了時にはその結果にかかわらず支払うこととされており、その金額が不合理でもないことからすると、被告は、上記規約に基づき、合計105万8400円の支払義務を負うというべきである。

本件では、専門家である臭気判定士による判定結果を証拠として提出しています。

損害として、臭気測定報告書等作成費用についても認めてくれています(認めてくれない裁判例もあります。)。

違約金としての弁護士費用について、着手金のみならず(まだ支払がされていない)成功報酬についても認めてもらうための工夫のしかたが示されていますので参考にしてください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

悪臭問題1 ディスポーザの排気口からの悪臭について瑕疵担保責任が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ディスポーザの排気口からの悪臭について瑕疵担保責任が否定された事案(東京地判令和3年4月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、不動産業等を営む被告から14階建てマンションの14階の2戸を購入したところ、購入した2戸とその屋上との間に臭突管(ディスポーザの排気口)が設置されており、悪臭が居住部分にも及んでいることが隠れた瑕疵に当たり、改正前民法570条、566条に基づき売買契約を解除した上で、被告に対し、瑕疵担保責任又は債務不履行に基づく損害賠償として、支払済みの売買代金や転居・調査に要した費用など1億7045万6624円+遅延損害金を支払うよう求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 瑕疵とは、目的物が通常有すべき品質・性能を欠いている状態をいうところ、本件の臭気がこれに当たるか否かについては、臭気に関する法令や規制の趣旨を斟酌しつつ(悪臭防止法は、直接には事業活動に伴って発生する悪臭について事業者を規制するものであるから〈同法1条、7条〉、本件に直接適用するという趣旨ではない。)、現実の本件各マンションの状況や相隣関係なども勘案した上で臭気の被害が受忍限度を超えているか否かといった見地から検討するのが相当である。
しかるに、上記のとおり、そもそも法令及び規制は、事業活動に伴って発生する悪臭についてのものであって、本件のような生活に伴って発生する悪臭を直接規制しているものではないと解されるところ、事業活動に伴って発生する悪臭についても、各自治体は、敷地の境界線の地表における臭気指数の許容限度を10から21までの範囲で設定していることが認められる。
その上で、臭気指数における本件各マンションの状況について検討すると、本件各マンション居室内における1401号室の臭気指数12及び1402号室の臭気指数11は、上記の許容限度の範囲内ではあるものの、上記の敷地の境界線の地表における臭気指数の許容限度は、飽くまで屋外を前提とした基準であるから、本件各マンション居室内における臭気は居住者に不快なものであることは認められる

2 他方で、本件建物におけるディスポーザ排水処理システムにより発生する臭気は、上記法令で規制の対象とされているような第三者の事業活動によって発生したものとは異なり、本件建物(マンション)に居住する者の生ごみの処理の利便と引き換えに発生した臭気であるから、居住者は、いわば自分の所有するマンションそのものに内在する問題として、上記法令の規制の場合と比べて高い受忍限度が求められると解するのが相当である。
その見地でみると、本件各マンションは、そもそも浦安市の住居(専用)地域における大気の臭気指数の許容限度を超えていない。
そして、本件建物のディスポーザ排水処理システムに一般に求められる性能基準を下回る性質・性状であることを基礎付けるに足りる証拠もない。
その上、可能な限り臭気を居住スペースに至らせないために、本件臭突管排出口は上向きに流速16.0m/sで上方に向けて臭気を排出する仕組みとされており、シミュレーションによっても屋上から階下に臭気が拡散しにくいとされていること(解析結果報告書)からすれば、本件臭突管排出口を含むディスポーザ処理システムにより本件各マンションに発生する臭気は、一時的に臭気指数11、12などの数値を示すことがあることを踏まえても、なお居住する者の受忍限度の範囲内にあるというのが相当であり,本件各マンションに瑕疵があるともいえない

上記判例のポイント2の視点・発想は非常に重要です。

事案や現象の個別具体的な原因、背景事情をどれだけくみ取れるかが鍵となります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。