騒音問題8 賃借人の賃貸人に対する騒音問題等に適切に対処しないことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃借人の賃貸人に対する騒音問題等に適切に対処しないことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和3年9月1日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被控訴人から集合住宅の一室を賃借している控訴人が、被控訴人に対し、同集合住宅の騒音問題等に適切に対処しないなどとして、賃貸借契約の債務不履行に基づき、賃料相当額の損害賠償金55万円及び慰謝料85万円並びにこれら合計140万円に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がこれに不服であるとして控訴した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 控訴人は、被控訴人は本件マンションにおける騒音や害虫の発生に適切に対処せず、控訴人との話合いに誠意を持って応じないなど、本件賃貸借契約に基づく使用収益債務の履行を怠ったと主張する。
しかしながら、被控訴人は、控訴人から騒音や害虫に係る苦情を受け、複数回にわたり、対象となる入居者に対して騒音に気を付けるよう注意し、又は本件マンションの入居者全員に対して居室や排水口を清潔に保つよう注意する文書を配布しているほか、従業員が本件マンション内を巡回しても騒音や害虫の発生を確認することができず、令和2年6月30日頃には害虫を駆除するための殺虫剤を配布している
かかる事情に照らせば、被控訴人は、本件賃貸借契約の賃貸人として、賃借人である控訴人の苦情に誠実に対応し、控訴人が訴える問題を可能な限り解消しようと努めたというべきであり、これを超える措置を講じる義務を負うとは認められないから、賃借人に対して負担する使用収益債務の履行を怠ったということはできない。

2 控訴人は、被控訴人は控訴人に対して騒音問題等には対処しない旨記載した文書を送付し、もって使用収益債務の履行を拒絶したと主張するが、被控訴人が控訴人に送付した文書は、被控訴人は直接の制止行為をすることができない旨述べるものにすぎず、これをもって騒音問題等には対処しない旨記載したものであるとか、使用収益債務の履行を拒絶する趣旨のものであるということはできないし、被控訴人が使用収益債務の履行を怠っていないことは上記で判示したとおりであるから、この点に係る控訴人の主張は採用することができない。

本件は区分所有建物における紛争ではありませんが、仮に区分所有建物において同種の事案が発生した場合には、管理組合や管理会社の責任の有無について同様の判断枠組みが用いられます。

結果責任ではありませんので、客観的に妥当性の認められる対応をしたか否かがポイントとなります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。