騒音問題12 隣室のリフォーム工事による騒音を理由とする慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隣室のリフォーム工事による騒音を理由とする慰謝料請求が棄却された事案(東京地判令和3年12月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、住所地である集合住宅において居住していたところ、その隣室に入居した者が、被告に対し、リフォーム工事を依頼した。
本件は、原告が、被告に対し、リフォーム工事によって発生した騒音によって29日間にわたって1日当たり2万円に相当する精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料58万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、工事等に伴う騒音による被害が、第三者に対する関係において、違法な権利侵害ないし利益侵害となるかどうかは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、当該工事が行われている所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきである。
工事が法令等に違反するものであるかどうかは、その受忍すべき程度を超えるかどうかを判断するに際し、上記諸般の事情の一つとして考慮されるべきものであるとしても、それらに違反していることのみをもって、第三者との関係において、その権利ないし利益を違法に侵害していると断定することはできない(最高裁平成6年3月24日第一小法廷判決)。

2 原告において308号室内で発生した騒音を測定するに至るまでの経緯があったことから、客観的に明らかになっている騒音の発生状況が極めて限られているという側面はあるものの、騒音計を入手し、工事中に発生した騒音全部を計測できることが可能となった後の期間についてすら、短時間の測定結果しか提出していない
そして、原告が提出した限られた測定結果を分析しても、一般に人がうるさいと感じる70デシベルよりも小さい60デシベルを基準としてみても、60デシベル以上の騒音が継続して発生しているということはなく、一定の時間の中で、60デシベルを超える音が瞬間的に発生しているにすぎず、最大値も、82.5デシベルである。
また、原告は、騒音計の測定結果を証拠として提出している令和2年3月24日以降の分を含め、計測した騒音よりも大きな騒音が継続的に発生していたと供述する。
なるほど、工事経過や、建物の構造、実際に一定の騒音が発生していることが認められることに照らせば、被告によるリフォーム工事の期間中、一定の騒音が継続的に発生していたことは推認できるものの、上記原告の供述は、原告の感覚を前提として、漠然と工事期間中(特に原告が本件訴訟で請求の対象としている29日間)に受忍限度を超える騒音が発生したことを述べるにとどまる。また、騒音計の計測ができるようになった後は断続的ではなく1日の工事開始から終了までの全ての期間について測定することが可能であったにもかかわらず、断片的な証拠しか提出せず、断片的な証拠しか提出できなかったことについて、合理的な説明もできていない
以上によれば、計測した騒音よりも大きな騒音が継続的に発生していた旨の原告の供述は信用できず、少なくとも、原告が主張する29日間について、計測した騒音よりも大きな騒音が高頻度で継続して発生していたとは認めるに足りない。

3 本件建物は、新築から20年以上が経過した区分所有建物であることから、リフォーム工事を行うことは当然予想される事項であるところ、そのような場合に、工事が終了するまでの限られた時間において、一定の騒音が発生することも当然予想し得ることである。
また、被告によるリフォーム工事は管理組合が承認している。加えて、被告は、原告の騒音に関する苦情を踏まえ、管理組合の理事長を交えた協議に応じており、原告の提案を拒絶しているものの、原告も、管理組合の理事長からの多目的ルームの使用の提案を拒絶していることが認められる。

騒音問題の対応の難しさがよくわかります。

過去の複数の裁判例を見る限り、騒音の存在及び原因の調査は、専門業者に依頼することが必須と言っていいでしょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。