管理組合運営36 管理組合法人が自らが当事者の複数の訴訟が係属している事実等を組合員に適切に知らせないことが不法行為にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人が自らが当事者の複数の訴訟が係属している事実等を組合員に適切に知らせないことが不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和4年1月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法上の管理組合法人である被告の組合員である原告が、被告は、自らが当事者となっている複数の訴訟が係属している事実や、被告の理事が検察庁に送致された事実を組合員に適切に知らせず、また、被告の臨時総会及び通常総会において決議をするに当たって原告にあらかじめ弁明の機会を与えなかったことは不当であると主張して、被告に対し、区分所有法50条3項、同法58条3項及び被告の管理規約65条5項に基づき、被告の組合員に対して別紙1のとおりの内容を通知することを求めるとともに、上記被告の行為は不法行為に該当すると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料及び訴状作成費用の合計34万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 区分所有法50条3項は、監事の職務権限を定めたものであって、管理組合法人である被告に対して一定の事項を組合員に通知するよう求める請求権を個別の区分所有者に対して与えたものとは解されない。したがって、区分所有法50条3項3号及び4号に基づく請求には理由がない。
また、原告は、本件管理規約65条5項の規定も指摘するが、同規定は、管理組合法人である被告の義務を定めたものではあるものの、それを超えて、被告が訴訟等の当事者となったことを組合員に通知するよう求める請求権を個別の組合員に対して与えたものとは解されない
したがって、本件管理規約65条5項に基づく請求にも理由がない。
そのほか、原告と被告との間に複数の訴訟が係属している事実やA理事が検察庁に送致されたことを組合員に通知するよう求めることができる法的な根拠を見出すことはできない
また、区分所有法58条3項は、専有部分の使用禁止を請求する場合の規定であって、本件議案1ないし3は、専有部分の使用禁止に関するものではないから、同項が適用される場面ではない。
また、同項は、飽くまで、同条1項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならないとするものであって、決議がなされた後に、自己の弁明を他の区分所有者に対して伝えるよう求める請求権を区分所有者に与えたものとは解されない。
そのほか、原告の言い分を他の組合員に通知するよう求めることができる法的な根拠を見出すことはできない(なお,原告は区分所有法35条5項も指摘するが、本件臨時総会及び本件通常総会には関係しない規定である。)。
以上によれば、原告は、被告に対し、被告の組合員に対して別紙1の内容を通知することを請求することはできない。

原告は、複数の根拠規定を根拠として主張しましたが、いずれも当該請求権の根拠とはならないと判断されています。

なお、管理規約65条に関する「同規定は、管理組合法人である被告の義務を定めたものではあるものの、それを超えて、被告が訴訟等の当事者となったことを組合員に通知するよう求める請求権を個別の組合員に対して与えたものとは解されない。」という考え方はしっかり理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。