Category Archives: 義務違反者に対する措置

義務違反者に対する措置12 3年11箇月にわたる合計169万円を超える管理費等の滞納を理由とする59条競売請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、3年11箇月にわたる合計169万円を超える管理費等の滞納を理由とする59条競売請求(東京地判令和3年6月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

3年11箇月にわたる合計169万円を超える管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認められるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

原告は、被告の所有する区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。

被告は、原告に対し、120万6943円及びうち81万円に対する令和2年12月9日から支払済みまで年18%の割合による金員を支払え。。

【判例のポイント】

1 被告は、年利18%の遅延損害金が高すぎて公序良俗に違反するとも主張するが、利息制限法4条1項の定める割合に照らしても、遅延損害金の割合が高すぎるためにこれを定める本件管理組合の管理規約の規定が公序良俗に違反して無効であるとはいえず、被告の主張は採用できない。

2 本件建物には3つの抵当権設定登記がされており、その被担保債権の合計額は2520万円であるところ、本件建物の固定資産評価は435万4000円であり、本件建物の敷地権については3筆の土地の固定資産評価の合計2億3114万4640円に持分30万1272分の5040を乗じた金額は386万円余であるから、固定資産評価の価格が低めに設定されており、未払管理費等については法7条による先取特権が認められ得ることを考慮しても、本件建物に対する強制競売等によって未払管理費等を回収する見込みはないと認められる。

3 被告による管理費等の滞納は3年11箇月にわたり合計169万円を超えるものと認められるところ、本件マンションの保存や管理運営のために区分所有者が共同で負担すべき費用をこのように長期かつ多額にわたり滞納する被告の行為は法6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるというべきである。
そして、本件判決後も被告が未払管理費等を支払わないことなどからすると、被告が任意にこれを支払う見込みはなく、被告の管理費等の滞納額は今後も増大する一方となることが推認されるところ、本件建物に対する強制競売等によっても未払管理費等を回収する見込みがないことからすれば、上記の被告の行為により「区分所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」(法59条1項)な状態が生じていると認めるべきである。

オーソドックスの内容は裁判例です。

59条競売は伝家の宝刀です。その前の準備を怠らないことが大切です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置11 住居店舗複合集合住宅の居住用専有部分における会社事務所としての使用を目的とする賃貸借契約が区分所有者の共同生活上の障害が著しいことを理由に解除された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、住居店舗複合集合住宅の居住用専有部分における会社事務所としての使用を目的とする賃貸借契約が区分所有者の共同生活上の障害が著しいことを理由に解除された事案(東京地八王子支判平成5年7月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、住居店舗複合集合住宅の居住用専有部分における会社事務所としての使用を目的とする賃貸借契約が共同利益背反行為に該当するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件建物のように住居専用部分と店舗専用部分からなる複合住宅において、本件管理規約及び使用細則の定める右専用部分の区画に従って利用することは、居住者の良好な環境を維持する上で基本的で重要な事柄であり、区分所有者である居住者の共同生活上の利益を維持・管理するために不可欠な要件であると認められる。

2 2階の住居専用部分(205号)が被告会社の事務所として使用されること自体により、周囲の居住環境に変化をもたらすことは否定できない。更に、被告会社の管理規約違反を放置すると、住居専用部分と店舗専用部分との区画が曖昧になり、やがては居住環境に著しい変化をもたらす可能性が高いばかりでなく、管理規約の通用性・実効性、管理規約に対する信頼を損なう、ひろく、他の規約違反を誘発する可能性さえある。

3 管理組合が繰り返して被告会社に対し、用途違反を是正し、本件専有部分から退去するよう勧告したが、これに対する被告会社の対決・強硬の態度が変わらない

4 以上の事実を考えると、被告会社の事務所使用は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為で、それによる区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときに当たるものというべきである。

区分所有法59条、60条の実体的要件は、共同利益背反行為による「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」に該当することです。

規範的要件のため、いかなる事実があれば足りるのかについては、過去の裁判例を参考にしながら検討する必要があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置10 気に喰わない居住者に暴行脅迫行為等をしたことを理由とする賃貸借契約解除、建物明渡請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

賃借人が気に喰わない居住者に暴行脅迫行為等をしたことを理由とする賃貸借契約解除、建物明渡請求(東京地判平成8年5月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法に基づいて、建物等の管理及び共同生活の維持等を目的として設立されている原告が、右建物の一つの専有部分の区分所有者である被告A及びその部分を同被告から賃借してそこに居住している被告Bに対し、区分所有法60条1項の規定に基づいて、被告ら間のその専有部分の賃貸借契約を解除することを、並びに被告Aに対して、当該専有部分の明渡しを、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有法60条1項は、区分所有者が占有者に対し、訴えをもってその専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することのできる要件として、占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をし、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときでなければならないという実体的要件と、あらかじめ当該占有者に弁明の機会を与えたうえ、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でした決議に基づかなければならないという手続的要件とを設定した。したがって、同条項に基づく請求の当否を審理する裁判所としては、当該請求がその手続的要件及び実体的要件のいずれをも充足しているものであるかどうかを判断すべきである。このうち、手続的要件の存在は、本件議決のされた当時において、本件議決に則してこれを判断すれば足りるが、実体的要件は、本件議決のされた時と、本訴口頭弁論終結時のいずれにおいても、これが存在することが必要であるものと解される。それは、区分所有法60条1項の規定によれば、この実体的要件が、議決がされるための要件であると同時に、訴えをもってした請求が認容されるための要件としても規定されていると解されるからである。

2 同被告は、原告から多数の議決によって賃貸借契約の解除と建物引渡しを求められ、本訴において係争中であるのであるから、これ以上の区分所有者らとのトラブルは避けようとするのが人情であると考えられるのに、右に認定した同被告の行動にはそのような配慮が全く感じられず、むしろ前と同様といわれてもやむを得ないような行動を繰り返しているのであって、これら認定事実によれば、同被告の行為については、区分所有法60条1項所定の実体的要件が本訴口頭弁論終結時においてもなお失われていないと判断する他はない。

上記判例のポイント1は重要ですのでしっかり押さえておきましょう。

実体的要件は、共同利益背反行為が、本件議決のされた時のみならず、口頭弁論終結時のいずれにおいても存在することが必要とされています。

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義務違反者に対する措置9 共同利益背反行為を行っていた区分所有者が死亡し、競売による買受人に対する行為差止め請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、共同利益背反行為を行っていた区分所有者が死亡し、競売による買受人に対する行為差止め請求が認められなかった事案(東京地判平成24年2月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、共同利益背反行為を行っていた区分所有者が死亡し、競売による買受人に対する行為差止め請求(構築物の撤去等の請求)の可否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告が主張する請求原因は、本件建物の区分所有者である亡Cが改造工事を行ったことが法6条1項の共同の利益に反する行為に該当し、同人が法57条1項に基づきその行為の結果を除去すべき義務を負い、被告が本件建物の区分所有権を承継取得したことにより同義務を承継する、又は、被告が上記改造工事の行われた本件建物を所有することが法6条1項の共同の利益に反する行為に該当し、被告が法57条1項に基づきその行為の結果を除去すべき義務を負うというものである。

2 しかし、このうち前者については、以下に述べるとおり理由がない。すなわち、法6条1項は、区分所有権に内在する制約として共同の利益に反する行為をしてはならない義務を伴わせるものであり、法57条1項は、特定の区分所有者が法6条1項の共同の利益に反する行為をし、又はその行為をするおそれがあるという現在の状態を理由として、他の区分所有者の全員又は管理組合法人が同行為の停止等を請求する特別の団体的権利を有することを認めるものであるから、同請求権に対応する当該区分所有者の義務は、所定の要件を満たす現在(口頭弁論終結時)の区分所有者であることに基づくものであって、区分所有権の移転に伴って承継されることはないというべきである。

3 後者についても、実質的には本件建物をかつて所有していた亡Cの行為を問題とするものであって、現所有者である被告の行為を独自に問題とするものではない上、証拠上、本件建物の増改築部分の存在が本件マンションの基本構造を弱めている事実や他の区分所有者による共用部分の使用を妨げている事実は、認めるに足りないから、被告が上記増改築部分を含む本件建物を所有することが法6条1項の共同の利益に反する行為に該当するとは認められず、原告の主張は理由がない。

59条競売に関する最高裁判決と同様の判断ですね。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置8 理事会が機能不全に陥っている場合における各区分所有者の行為差止請求の可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事会が機能不全に陥っている場合における各区分所有者の行為差止請求の可否(大阪地判平成30年9月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有者個人の行為差止請求の可否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

原告らは、管理組合の理事会が機能不全に陥っている場合には、各区分所有者が、法6条1項、3項に基づき、差止請求をすることができると主張する。
しかし、法6条1項、3項により保護される利益は、区分所有者全員の共同利益であるから、これらによる区分所有者の権利は、当該共同利益背反行為をした者を除く区分所有者全員に個別に帰属するのではなく、団体的に帰属しているというべきである。
そして、法は、かかる観点から、法57条において、法6条1項、3項に規定する行為の停止等を請求することができる主体を、当該共同利益背反行為をした者を除く区分所有者全員又は管理組合法人と明示的に定めたのであるから、各区分所有者が個別に6条1項、3項の権利を行使することはできないと解すべきである。

上記判例のポイント記載のとおり、行為差止め(停止)請求権を行使できるのは、違反行為者を除く区分所有者全員または管理組合法人です(57条1項)。

管理者および集会で指定された区分所有者も、当該請求権を行使する訴訟追行が可能です(同3項)。

なお、同3項は、管理組合が法人化されていない場合に限られますのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置7 区分所有法59条1項に規定する競売を請求する権利を被保全権利として民事保全法上の処分禁止の仮処分を申し立てることの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有法59条1項に規定する競売を請求する権利を被保全権利として民事保全法上の処分禁止の仮処分を申し立てることの可否(最決平成28年3月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合の管理者である抗告人が、同じマンションの区分所有者である相手方が管理費や修繕積立金の滞納を続け、区分所有者の共同の利益に著しく反する行為をしていると主張して、区分所有法59条1項に基づく区分所有権の競売請求権を被保全権利として、係争物に関する仮処分としての本件不動産の処分禁止の仮処分命令を求める申立てをした事案である。

【裁判所の判断】

申立て不可

【判例のポイント】

1 区分所有法59条1項に規定する競売を請求する権利を被保全権利として、民事保全法53条又は55条に規定する方法により仮処分の執行を行う処分禁止の仮処分を申し立てることはできないものと解するのが相当である。

2 民事保全法53条は同条1項に規定する登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行方法について、同法55条は建物の収去及びその敷地の明渡しの請求権を保全するためのその建物の処分禁止の仮処分の執行方法についてそれぞれ規定しているところ、建物の区分所有等に関する法律59条1項の規定に基づき区分所有権及び敷地利用権の競売を請求する権利は、民事保全法53条又は55条に規定する上記の各請求権であるとはいえない。
上記の競売を請求する権利は、特定の区分所有者が、区分所有者の共同の利益に反する行為をし、又はその行為をするおそれがあることを原因として、区分所有者の共同生活の維持を図るため、他の区分所有者等において、当該行為に係る区分所有者の区分所有権等を競売により強制的に処分させ、もって当該区分所有者を区分所有関係から排除しようとする趣旨のものである。このことからしても、当該区分所有者が任意にその区分所有権等を処分することは、上記趣旨に反するものとはいえず、これを禁止することは相当でない。

競売請求権を被保全権利とする処分禁止の仮処分は認められませんので注意しましょう。

上記判例のポイント2の1段落目が形式的理由、2段落目が実質的理由です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置6 区分所有法59条1項に基づく訴訟の口頭弁論終結後の区分所有権及び敷地利用権の譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有法59条1項に基づく訴訟の口頭弁論終結後の区分所有権及び敷地利用権の譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることの可否(最決平成23年10月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法59条1項に基づく訴訟の口頭弁論終結後の区分所有権及び敷地利用権の譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることの可否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

競売請求不可

【判例のポイント】

区分所有法59条1項の競売の請求は、特定の区分所有者が、区分所有者の共同の利益に反する行為をし、又はその行為をするおそれがあることを原因として認められるものであるから、同項に基づく訴訟の口頭弁論終結後に被告であった区分所有者がその区分所有権及び敷地利用権を譲渡した場合に、その譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることはできないと解すべきである。

ちなみに、口頭弁論終結前に区分所有権が譲渡されていた場合には、当事者適格を欠くため、訴えは却下となります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置5 7条先取特権の行使が可能にもかかわらず59条競売が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、7条先取特権の行使が可能にもかかわらず59条競売が認容された事案(東京地判平成26年3月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法25条により本件マンションの管理者として選任された原告が、本件建物の区分所有者である被告に対し、主位的に区分所有法59条1項に基づき本件建物及び本件土地の競売を求め、予備的に同法58条1項に基づき本件建物の使用禁止を求め、一方、被告が、原告に対し、本件建物について本件修復工事の施工を求めた(反訴)事案である。

【裁判所の判断】

本訴主位的請求認容(予備的請求棄却)

反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 被告は一方的に管理費等の不払を続けているものであり、上記は共同利益背反行為に該当するものである。管理費等の確保自体は、管理費等債権の先取特権(区分所有法7条)に基づく競売請求等により可能ではあるが、上記のような被告の非協力的態度は、競売請求における他の方法に関する考慮要素となるというべきである。

2 本件工作物の設置は共同利益背反行為というべきであるが、本件組合が本訴提起直前の平成21年8月に初めて撤去を求めたものであることに照らせば、これのみを理由に競売請求が認められるとは言い難い。しかしながら、上記は、他の共同利益背反行為と併せて競売請求における他の方法に関する考慮要素となるというべきである。

3 被告には上記の各共同利益背反行為が認められるところ、特に本件マンションの保存に大きく影響する本件建物内壁の修理をしないことに関しては区分所有者の協力がなければその解消が困難なものである。そして、これらの共同利益背反行為に見られる被告の非協力的態度に鑑みれば、競売の方法によらなければその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。したがって原告の競売請求は理由がある。

7条先取特権行使の可能性を認めつつも、被告の非協力的態度を考慮し、59条競売請求を認容した事案です。

非常に参考になる裁判例ですので、しっかりと押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置4 59条競売については、民事執行法63条は適用されないとし、不動産競売手続の取消請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、59条競売については、民事執行法63条は適用されないとし、不動産競売手続の取消請求が認められなかった事案(東京高決平成16年5月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合の理事長(区分所有法上の管理者)である抗告人が、専有部分の建物(区分所有権及び敷地利用権)に対する区分所有法59条1項に基づく競売請求を認容した確定判決を債務名義とし、同判決の被告を相手方として、民事執行法195条に基づき、本件建物に対する競売を申し立て、平成15年4月28日に競売開始決定を得たところ、原審が、本件建物の最低売却価額418万円で手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権合計2788万円(見込額)を弁済して剰余を生ずる見込みがないとして、その旨を抗告人に通知した上で、同年8月20日、民事執行法63条2項により、本件建物に対する競売の手続を取り消す旨のいわゆる無剰余取消決定をしたため、抗告人が、上記競売は区分所有法59条に基づくものであり、これに民事執行法63条の剰余主義の規定は適用されないと主張して、原決定の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

原決定取消
→民事執行法63条の適用否定

【判例のポイント】

1 同法59条の規定の趣旨からすれば、同条に基づく競売は、当該区分所有者の区分所有権を売却することによって当該区分所有者から区分所有権を剥奪することを目的とし、競売の申立人に対する配当を全く予定していないものであるから、同条に基づく競売においては、そもそも、配当を受けるべき差押債権者が存在せず、競売の申立人に配当されるべき余剰を生ずるかどうかを問題とする余地はないものというべきである。

59条競売では、剰余が生ずる見込みがなくても、競売手続は取り消されません。

実務においては基本事項ですのでしっかり押さえておきましょう。

そして、この補充性の要件との関係で、本裁判例でも問題となっている7条先取特権との関係が問題となりますので、事前に不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置3 1000万円超の管理費等の滞納を理由とする競売請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、1000万円超の管理費等の滞納を理由とする競売請求が認められた事案(東京地判平成18年7月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法上の区分所有建物であるマンションの区分所有者である被告が、管理費及び特別修繕積立費を支払わないため、マンション管理組合の集会において訴訟追行者として指定された原告が、被告に対し、法59条1項に基づき、被告の有する区分所有権及び敷地利用権の競売の申立てを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有者が支払う管理費等は、建物の共用部分及びその敷地の維持管理や修繕等の費用に充てられるものであるから、管理費等の支払義務は区分所有者にとって最も基本的な義務といわなければならない。
本件では、被告は、前記のとおり、本件物件の取得後、長年にわたって管理費等を滞納し、本件管理組合によりその支払を求められた訴訟において敗訴した後も、依然として滞納を続け、別件判決で支払を命じられた管理費等の額とそれ以降の分とを合計すると、現時点では1000万円を超える状況になっている。
そうすると、上記のような被告による管理費等の著しい滞納は、建物の共用部分等の管理等の面で、重大な支障を与えるものであることは明らかであるから、法6条1項にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当し、それによる区分所有者の共同生活上の障害も、著しいものであると認めることができる。

2 被告による管理費等の著しい滞納及び本件管理組合における支障の程度等からすれば、本件については、法59条1項の競売の請求以外の方法によっては区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合に該当するというべきである。
なお、本件管理組合としては、たしかに、被告滞納に係る管理費等の回収に当たり、別件判決を債務名義として、本件物件について強制執行の申立てをすることができ、また、法7条に基づき、共益費用として、本件物件の上に先取特権を有する(民法306条1号)から、これを実行することも可能ではあるが、本件物件には、整理回収機構が3000万円を極度額とする根抵当権を有していることが認められ、この事実に基づいて考えると、登記された前記根抵当権が他に優先して存在する以上、本件管理組合において、上記の各方法を採ったとしても、前記のような多額の滞納管理費等の回収を図ることは困難であると考えられ、これらの方法によるべきものであるとはいい難い。

管理費等の不払いも、その期間や金額によっては、共同利益背反行為になります。

もっとも、59条競売は共同利益背反行為であれば当然に認められるわけではなく、補充性の要件を満たす必要がありますので注意が必要です。

そして、この補充性の要件との関係で、本裁判例でも問題となっている7条先取特権との関係が問題となりますので、事前に不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。