義務違反者に対する措置17 専有部分を教団施設として使用している宗教団体に対する賃貸借契約解除と退去請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分を教団施設として使用している宗教団体に対する賃貸借契約解除と退去請求(大阪高判平成10年12月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、本件マンションの区分所有者全員で結成された管理組合の理事長であるが、本件専有部分の区分所有者である被告甲野から本件専有部分を賃借使用する被告乙山らが、本件専有部分をオウム真理教の教団施設として使用し、本件マンション住民に不安や恐怖感を与えるなどして、区分所有者の共同利益に背反する行為をしているとして、管理組合集会の決議に基づき、被告甲野と同乙山の賃貸借契約の解除及び同乙山らの本件専有部分からの退去明渡を求める。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件専有部分は本件マンションの住居部分のうちの一室であり、その居住者、占有者は、他の各室の居住者と同様に、区分所有法あるいは本件マンションの管理組合規約にしたがって、平穏で良好な居住環境を維持すべき義務を負うものであり、本件専有部分における占有が他の居住者の平穏を受忍限度を超えて侵害する場合には、その侵害は区分所有法の定める共同利益背反行為として排除されうるものとなることは、いうまでもない
本件マンションのような多数の居住者がいる共同住宅においては、居住者相互の利害を調整して居住者の円満な共同生活を維持しなければならないものであり、そのため区分所有法は個々の居住者の占有権原に特別の制約を加えることを認めていることは原判決の説示のとおりであり、その占有権原が本件専有部分におけるように賃借権であっても区分所有権の場合と何ら変わることはない

2 本件専有部分の賃借人である被告乙山は間接占有は残しているとはいえ、本件専有部分からすでに転出し、現在は実質的に教団が頻繁に出入りする(深夜から未明にかけての出入りも多い。)信者のための宗教施設として使用している状態が変わらずに継続しているのであり、本件マンションの居住者においては、かつて教団ないしその関係者が教団外部の一般社会においていわゆる地下鉄サリン事件等をひき起こして社会に重大な不安をもたらしたことなどから、本件専有部分の前記現状における態様の使用については耐え難い不安感を抱いているものであり(なお、教団関係者の前記事件等への関与ないしその刑事責任の有無は、刑事事件においてまだ確定していないものが多いが、それだからといって、右事件等からの連想による本件マンションの居住者の抱く不安感はそれなりに客観的な根拠に基づいていて社会的に広く承認されるものであることを否定することはできず、これを単なるうわさ等による根拠に乏しい不安感として無視することはできない。)、そして、本件マンションの居住者の右不安感は、被告乙山、同丙川らが占有移転禁止の仮処分を守らずに、教団の信者の出入りを従前同様に容認していることが示すように、同被告らないし教団によって解消も軽減もされていないのである。

区分所有法に基づく引渡し請求は、暴力団や暴力団員を対象として認められることが多いですが、決してそのようなケースに限定されるものではありません。

なお、本件は、上記判例のポイント2記載のとおり、オウム真理教に関連する裁判例ですので、あらゆる宗教団体について本裁判例をそのままあてはめることはできませんのでご注意を。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。