義務違反者に対する措置13 マンションの専有部分をグループホームとして使用することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの専有部分をグループホームとして使用することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(大阪地判令和4年1月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合の管理者である原告が、社会福祉法人である被告に対し、被告が賃借したマンションの専有部分の建物をグループホームとして使用することは、区分所有者は専有部分を住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない旨を定めたマンションの管理規約の規定に違反し、区分所有法6条3項が準用する同条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するとして、同法57条4項が準用する同条1項に基づき、上記専有部分の建物をグループホーム事業の用に供する行為の停止を求めるとともに、上記管理規約によって定められた違約金として、調停費用、訴訟費用等の合計85万0430円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するかどうかは、当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸般の事情を比較考量して決すべきものであると解するのが相当である。

2 被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は、本件管理規約12条1項の規定に違反するものである。本件管理規約は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互の利害調整のための共通規範として制定されたものである(区分所有法30条参照)から、本件管理規約に違反する行為は、共同の利益に反する行為に該当するか否かの考慮要素として重視されるべきである。
また、被告が本件各住戸をグループホームとして使用することにより、本件管理組合は、法令に基づき、本件マンションにつき防火対象物点検義務を負うとともに、グループホームの用途に供されている本件各住戸への自動火災報知設備の設置義務を負うこととなり、管理業務の負担を余儀なくされている
防火対象物点検の費用は、1年当たり51万8400円が見込まれており、相当に高額である。
本件管理組合は、現在に至るまで、共同住宅特例の適用を受け、10階以下の部分の消火器具の設置義務、屋内消火栓設備、屋外消火栓設備、動力消防ポンプ設備の設置義務等を免れているが、将来にわたり、本件マンション内の消防用設備の設置の要否につき、福祉施設等の住戸利用施設の増減にかかわらず、共同住宅特例の適用において、このような住戸利用施設が存在しない場合と同等の取扱いがされることが確実であることを認めるに足りる証拠はない。
こうした負担が現実化した場合には、本件管理組合の経済的負担等に影響を及ぼすことは明らかであるし、こうした負担が現実化しない場合であっても、本件管理組合は、福祉施設等の住戸利用施設が存在する限り、こうした負担が現実化する場合に備えた対応を検討しなければならないから、他の区分所有者が被る不利益の態様や程度を軽視することはできない

3 これに対し、被告が本件各住戸で営む障害者グループホーム事業は、障害を有する利用者に共同生活の場所を提供するという公益性の高い事業であることは否定できない。
しかしながら、被告が本件管理規約12条1項の規定に違反して本件各住戸において事業を営むことによる利益が、他の区分所有者が被る不利益よりも優先されるとは認められない。
なお、被告は、本件マンション以外のマンション等においてもグループホームを経営していることが認められるから、被告が本件各住戸以外の建物においてグループホームを経営することができないとはいえない。
以上のとおり、被告が本件各住戸をグループホームとして使用する必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情に鑑みれば、被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は、区分所有法6条3項により準用される同条1項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当すると認められる。
したがって、原告は、被告に対し、区分所有法57条4項により準用される同条1項に基づき、本件各部屋をグループホームとしての使用する行為の停止を求めることができる

専有部分を規約に反し、店舗や事務所として使用する事案は少なくありません。

このようなケースでは、上記判例のポイント1記載の比較衡量論を用いて、共同利益背反行為性を判断することになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。