義務違反者に対する措置19 専有部分でフラワーアレンジメント教室を営むことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分でフラワーアレンジメント教室を営むことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(東京地判令和元年5月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件居室の所有者であり、原告の組合員である被告に対し、被告が本件居室においてフラワーアレンジメント教室を営んでいることが、住宅以外の用途に本件居室を使用することを禁止する本件マンションの管理規約に反すると主張して、上記教室の使用の中止を求めるとともに、管理規約に基づいて本件訴訟のために要した弁護士費用合計158万7600円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物をフラワーアレンジメント教室として使用することを中止せよ。

 被告は、自己又は第三者をして前項の建物をフラワーアレンジメント教室として使用してはならない。

 被告は、原告に対し、158万7600円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 住居専用規定は、本件マンションの住民らの平穏で静謐な居住環境を維持するために、本件マンションの用法を居住用に限定し、不特定又は多数人が出入りすることが想定される事業用として利用することを一律に禁止する趣旨の規定であると解するのが相当であり、平穏な用法あるいは主たる用法でなければ事業のために利用することを許容しているものとは解されない
そして、被告が供述するところによっても、本件教室には直接の友人・知人にとどまらず、それらの者から口コミで紹介を受けた受講者も通い、被告は、受講者から材料費以外に入会金や指導料を受け取り、体系的なレッスンコースを設けて、毎月5回から7回にわたって定期的に開催しているものである。
その上、被告が、ホームページを作成し、不特定の者に本件教室の案内や体験レッスンへの参加を呼び掛けるなどしていることにも照らすと、被告が実際に利益を得ているかどうかはともかく、本件教室の運営が事業の性質を有していることは明らかであり、本件教室を「ホームパーティ」や「友人を招いて一緒に飲食したり共通の趣味を行ったりする社交の場」と同列に考えるのは無理があるというべきである。

2 被告は、被告が本件教室を開催しても、本件マンションの区分所有者らが被る損害はほぼ皆無であることが権利濫用を基礎付ける一事由となると主張する。
しかしながら、仮に、被告の主張するとおり、本件教室の受講者への注意喚起や送迎等によって、ほかの区分所有者の平穏な住環境に与える影響が限定的になるものであるとしても、どのような行為を迷惑と感じるかについては個人差があり、本件マンションがいわゆる高級住宅街に所在し、樹木に囲まれた静謐な居住環境を特徴とする店舗や事務所の併存しない居住専用のマンションであることに照らすと、本件マンション内で不特定又は多数人を相手にした教室を開くこと自体に不快感や不安感を覚える居住者の心情も尊重する必要があるというべきである。
また、実害がないからといって、本件教室の開催を容認することとなると、ほかの区分所有者らも、それぞれが思い思いに周囲には迷惑がかからないと考えて事業活動を行い、その結果、平穏で静謐な居住環境が保たれなくなる事態も懸念されるところであって、実害の有無にかかわらず、人の来訪を招来するような事業活動を画一的に制限することは不合理とはいえないというべきである。
こうした諸点に照らすと、本件教室の開催によっては実害が生じないことが権利濫用を基礎付ける事由を構成するとの被告の主張は採用することができない。

本件に限らず、裁判所は、住居専用部分において事業活動を行うことについては、実害の有無・程度を考慮せず、画一的な判断をする傾向にあります。

これはペット飼育についても同じことがいえます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。