義務違反者に対する措置22 被告が共用部分たる窓ガラスに補修剤を塗布した行為が不法行為を構成するとした上で、本件塗布行為が正当防衛行為である旨の被告の抗弁を排斥した事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、被告が共用部分たる窓ガラスに補修剤を塗布した行為が不法行為を構成するとした上で、本件塗布行為が正当防衛行為である旨の被告の抗弁を排斥した事案(東京地判平成30年11月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物区分所有法上の管理組合である原告が、区分所有建物の共有持分権者である被告に対し、被告が平成27年4月頃から共用部分の窓ガラスを毀損したとして、不法行為に基づく損害の賠償として、窓ガラス修繕費用19万3644円、弁護士費用10万8000円の合計30万1644円+遅延損害金の支払を求め、被告が区分所有建物の専有使用部分に造作・看板等を設置しているとして、使用細則及び管理規約に基づき、造作・看板等の撤去を求め、管理規約に基づき造作・看板等の撤去を求めるための弁護士費用として21万6000円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、30万1644円+遅延損害金を支払え。

 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物に附属する別紙図面斜線部分に存在する造作を撤去せよ。

 被告は、原告に対し、21万6000円を支払え。

【判例のポイント】

1 ジョイントコークAは補修剤であって、損傷を受けていない窓ガラスに利用することは予定されておらず、本件塗布行為は、本件区分所有建物の玄関側廊下部分にあるaマンションA棟の共用部分たる窓ガラスの視界を遮るように、窓ガラス6枚に対して幅広く行われており、その結果、ジョイントコークAが塗布された窓ガラスには銀色の塊が幅広く付着し、窓ガラスを通じた視野を阻害し、窓ガラスの効能を毀損し、aマンションA棟の共用部分の外観を著しく害するようになったのであるから、窓ガラスを毀損したものであって、本件塗布行為は、原告に対する不法行為の構成要件を充足するものというべきである。

2 被告は、被告が原告の業務執行につき問題点を厳しく指摘していたため、原告及び原告の理事が被告を毛嫌いしており、管理会社である株式会社エスエスイー東京も、被告が東京のマンション管理組合の理事長であった当時に管理業務委託契約を終了した経緯があり、被告に対して反感を抱いているから、原告が原告の管理会社とともに被告に対して嫌がらせをするようになり、光の照射、防犯カメラの設置、電波の照射もその一環であり、被告が、正当防衛として本件塗布行為をするようになったと主張し、被告が撮影した本件区分所有建物玄関付近の画面が縞模様になる写真、本件区分所有建物におけるデジタル電磁tenmarstm-190放射線検出器にて計測した結果の写真などを提出する。
しかし、被告主張に係る原告、原告の理事、管理会社の被告に対する反感を認めるに足る証拠はない。また、被告主張に係る光の照射を認めるに足る証拠はなく、原告がした管理棟の修繕工事の中に防犯カメラを新たに設置する工事又は電磁波を発する機器を設置する工事は含まれておらず、原告がaマンションB棟の門に対して向けられていた防犯カメラを、本件区分所有建物の玄関側廊下部分のガラス窓に向けたのは、原告が清掃会社に依頼して窓ガラス部分に塗布されたものを除去したが、被告が更に本件塗布行為をするため、被告の本件塗布行為を監視するために向けたものであって、違法性があるものとは認められない
さらに、被告提出に係る画面が縞模様になっている写真及び被告が本件区分所有建物において測定した写真は、これがどのような状況のもとで撮影されたのかが明らかではなく、これらの写真をもって、被告の主張する電波の照射の存在を直ちに認めることはできず、しかも原告が照射する装置を管理棟に設置してこれを被告に向けていることを認めるに足る他の証拠もない。

正当防衛の抗弁の是非が問題となった珍しい事案です。

民法720条1項では「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。」と規定されています。

本件では、「他人の不法行為」が存在しないと判断されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。