義務違反者に対する措置25 規約に反して午後10時以降も営業を続ける飲食店に対する営業の差止めと弁護士費用100万円の支払が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、規約に反して午後10時以降も営業を続ける飲食店に対する営業の差止めと弁護士費用100万円の支払が認められた事案(東京高判平成29年7月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、A棟建物の区分所有法25条所定の管理者である第一審原告が、A棟建物の地下1階にある専有部分である本件店舗を所有する第一審被告K社並びに本件店舗を賃借して、飲食店「b」○○店を営業する第一審被告M社に対し、b店の午後10時以降における営業がA棟建物の管理規約に違反し、またA棟建物の区分所有者の共同の利益に反するとして、A棟建物の管理規約又は区分所有法57条1項及び4項に基づき、本件店舗における午後10時から翌日午前11時までのb店の営業の差止めを求めるとともに、A棟建物の管理規約に基づき、本件訴え提起のための弁護士費用相当額100万円の支払を求める事案である。

原判決は、第一審原告の請求を全部認容したので、これを不服とする第一審被告らが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 A棟建物及びその周辺が駅前の商業地域で近隣に深夜営業の飲食店棟が複数あることは、外部の事情にすぎない。
商業地域であるということは、都市計画法制上、用途を商業用とする建物を建築できることを意味するにすぎず、商業地域内の区分所有建物における専有部分の使用方法や営業時間についての規約による自主的規制とは無関係である。
外部環境に対して、A棟建物の区分所有者が影響力を行使するには限界がある一方で、A棟建物の区分所有者がA棟建物及びその敷地の利用の形態や方法を外部環境に合わせなければならない理由はない
例えば、商業地域内の区分所有建物であっても、規約で専有部分の全部の使用目的が居住目的に限定されていれば、店舗や事務所としての使用は規約違反であり、共同の利益に反する。
行政機関から区分所有建物内におけるいわゆる民泊の営業許可を得られたとしても、規約で専有部分の使用目的が居住目的に限定されていれば、民泊営業は規約違反として禁止され、区分所有者の共同の利益に反することとなるのと同様である。
A棟建物の区分所有者が少なくともA棟建物及びその敷地については深夜から昼前までの静謐な環境を維持しようとすることは、区分所有者の共同の利益に合致することは当然である。
外部環境を理由にこれを否定する第一審被告らの主張は主張自体理由がない。

2 管理組合(区分所有者の団体)は、他に本来の仕事を持っている区分所有者の団体であって、常勤の役員を有していないのが通常であり、機動性に乏しく、資金(予算)にも余裕がなく、異常事態(規約違反の発生)に迅速に対応する能力が乏しい場合が多いことは、経験則上明らかである。
そうすると、規約違反が認知されても、対応等の検討に時間を要し、弁護士費用の負担等を懸念して法的措置などの毅然とした対応をとることが遅れて、是正の実現までに長期間を要することが珍しくない
A棟管理組合が深夜営業を容認していたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、過去の深夜営業の実例がA棟営業時間規定の空文化を推認できるものではなく、本件深夜営業が区分所有者の共同の利益に反しないことを推認できるものでもない。
かえって、証拠及び弁論の全趣旨によれば、A棟管理組合は、規約違反の深夜営業の是正に継続的に取り組んできたことが認められる。

3 証拠及び弁論の全趣旨によれば、第一審被告M社のいう本件店舗における規約上の営業時間規制の誤信の原因は、専ら本件賃貸借契約の仲介業者の不手際にあると認められる。
第一審被告らの損害は、第一審被告ら及び仲介業者において解決すべき問題である。
第一審被告M社は、本件店舗に対する投資として内装工事費用を支出してしまったので、この投下資本回収のために、A棟営業時間規定の存在を知りながら、故意に、本件深夜営業の開始を強行したものである。
その行動には、コンプライアンスや企業の社会的責任を果たす姿勢が感じられない
第一審被告M社の主張を採用することができないのは、当たり前のことである。
区分所有建物に出店する場合は、仲介業者任せにすることなく、管理会社及び管理組合の役員に直接連絡をとるなどし、用途規制、営業時間規制その他の規約上の制約の内容を確認する出店実務や、管理組合規約による規制を法令による規制や所轄行政官庁による規制と同等のものとして遵守する営業実務を実現し、コンプライアンスを確立していくことが望まれる

控訴人(原審被告)は、複数の反論をしましたが、いずれも採用されませんでした。

高裁がこれでもかという程に控訴人の反論を潰しています。

非常に参考になります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。