名誉毀損22 理事から解任することを求める文書をマンションの全居住者に配布した行為が名誉毀損にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事から解任することを求める文書をマンションの全居住者に配布した行為が名誉毀損にあたらないとされた事案(東京地判令和3年10月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、静岡県熱海市内にある本件マンション管理組合の理事であった原告が、本件マンションの居住者である被告に対し、被告が、①原告を理事から解任することを求める文書を本件マンションの全居住者に配布させたことが原告に対する名誉毀損による不法行為を構成し、また、②本件マンション管理組合の総会において、原告を理事から解任する旨の決議を不当に主導したことも原告に対する不法行為を構成するとして、上記各不法行為に基づき、損害金合計220万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件記事1が、本件マンションの大浴場の更衣室に設置されたプラスチック製の脱衣篭に関し、これを籐の脱衣篭にしてほしいとの多数の本件マンションの居住者の希望を本件理事会が拒否したとの虚偽の事実を述べることで、原告を含む本件理事会の役員が本件マンションの居住者にとって都合が悪い人物との印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させると主張する。
しかし、本件記事1は、多数の本件マンションの居住者から籐の脱衣篭にしてほしいとの意見があることなどを指摘した上で、本件理事会としてはもっと居住者の声に真摯に耳を傾ける姿勢等が求められるといった、本件理事会の在り方についての意見又は論評を表明しているものであって、原告が主張するような事実を摘示しているものとはいい難い
そして、本件理事会の役員が原告を含めて7名であったことからすれば、本件記事1を含む本件各記事は、いずれも本件理事会の理事であった原告についても述べているものとは理解し得るものの、原告を含む本件理事会の役員個人について明示的に言及しているものではなく、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、本件記事1の意見又は論評の内容が原告の社会的評価を低下させるものとは認められない
また、①本件記事1は、本件理事会の役員の解任理由として述べられたものであり、その内容についても、人身攻撃に及ぶといった解任理由の摘示として不相当な表現を用いているものとは認められないこと、②本件記事1を含む本件各記事の配布範囲は、本件マンションの居住者に限られていること、③本件記事1を含む本件各記事が原告についても述べているものと理解することはできるものの、明示的に原告を対象とした記載とはなっていないことを総合考慮すれば、本件記事1の意見又は論評の表明は、不法行為の成立要件としての違法性を欠くものというべきである。
したがって、本件記事1について名誉毀損による不法行為は成立しない。

2 原告は、本件記事2が、禁煙を徹底させようとした本件理事会の行動に関し、それが本件マンションのイメージを低下させるという誤解を与えることで、本件マンションの居住者に対して本件理事会について悪い印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させると主張する。
しかし、本件記事2は、本件理事会による少数のクレームに対する過度の対策についての懸念といった意見又は論評を表明しているものであり、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、本件記事2の内容が原告の社会的評価を低下させるものとは認められない
また、本件記事2についても、本件理事会の役員の解任理由として述べられたものであり、その内容も解任理由の摘示として不相当な表現を用いているものとは認められないこと、その他本件各記事について判示したところを併せ考慮すれば、本件記事2の意見又は論評の表明についても、不法行為の成立要件としての違法性を欠くものというべきである。
したがって、本件記事2について名誉毀損による不法行為は成立しない。

意見・論評が名誉毀損に該当するかについては、多分に評価的要素が含まれているため、一般の方が事前に判断することは容易なことではありません。

過去の裁判例に照らすことによって、だいたいの線引きができるようになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。