賃金293 グループホームでの泊まり勤務における割増賃金の算定基礎(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、グループホームでの泊まり勤務における割増賃金の算定基礎に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人A会事件(東京高裁令和6年7月4日・労判1319号79頁)

【事案の概要】

1 本件は、Y社との間で労働契約を締結して、Y社の運営するグループホームの生活支援員として勤務していたXが、Y社に対し、夜勤時間帯(午後9時から翌日午前6時まで)の泊まり勤務について、Y社には労基法37条に基づく割増賃金の支払義務があると主張して、〈1〉平成31年2月から令和2年11月までに支給されるべき未払割増賃金312万9684円+遅延損害金の支払を求めるとともに、〈2〉労基法114条所定の付加金312万9684円+遅延損害金の支払を求める事案である。
 
2 原審は、夜勤時間帯が労働時間に当たると認めた上で、泊まり勤務1回につき6000円の夜勤手当が支給されていたことに鑑み、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価を6000円とすることが労働契約の内容となっていたと認定し、割増賃金算定の基礎となる賃金単価を750円としてこれを算定して、Xの請求を、〈1〉未払割増賃金69万5625円及びこれに対する各支給日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金、〈2〉付加金69万5625円及びこれに対する判決確定日の翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容したところ、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

1 原判決を次のとおり変更する。
2 Y社は、Xに対し、331万5789円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、付加金312万9684円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法37条の割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」を基礎として算定すべきものである。本件雇用契約に基づきXに支給される賃金には、基本給のほか、基本給の6%相当額の夜間支援体制手当、月額5000円の資格手当があり、これらの手当は労基法37条にいう通常の賃金に含まれるものと解すべきであるから、Xに対し支給されるべき割増賃金の額は基本給、夜間支援体制手当及び資格手当の合計額を基礎として算定すべきである。

2 これに対し、Y社は、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価を夜勤手当6000円とする旨の賃金合意があったから、夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は750円となると主張する。
しかし、Y社は、これまで、グループホームの夜勤時間帯にY社の指揮命令下で生活支援員が行うべき業務はほとんど存在しないという認識を前提として、就業規則においては、巡回時間を想定した午前0時から午前1時までの1時間を除き、夜勤時間帯を勤務シフトから除外し、本件訴訟においても、夜勤時間帯については緊急対応を要した場合のみ申請により実労働時間につき残業時間として取り扱う運用をしていると主張し、夜勤時間帯が全体として労働時間に該当することを争ってきたものであって、XとY社との間の労働契約において、夜勤時間帯が実作業に従事していない時間も含めて労働時間に該当することを前提とした上で、その労働の対価として泊まり勤務1回につき6000円のみを支払うこととし、そのほかには賃金の支払をしないことが合意されていたと認めることはできない。

3 労働契約において、夜勤時間帯について日中の勤務時間帯とは異なる時間給の定めを置くことは、一般的に許されないものではないが、そのような合意は趣旨及び内容が明確となる形でされるべきであり、本件の事実関係の下で、そのような合意があったとの推認ないし評価をすることはできず、Y社の上記主張は採用することができない。

上記判例のポイント3は、一般論としては異論がないところですが、通常、夜勤帯のほうが時間給が高くなることから、業務量が相対的に少ないことをもって、日中の時間給よりも減額することはそう簡単なことではないと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2180 おカネは「使い方」が9割#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

コスパや損得だけで生きていると、わからないことがたくさんあります。

お金は何にどう使うかがすべてです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

信用というのは、たとえば約束の時間に遅れない。言ったことは実行する。何事も公明正大、ズルは絶対しない・・・といった日常の処し方の積み重ねで築いていくものだ。カネにたとえれば、小銭をコツコツと貯めるような努力が求められる。カネは使って生かし、信用は貯めて築く。」(100~101頁)

これまでの人生において、時間とお金を何にどれだけ投下してきたのかが、今の自分を形成していると言っても過言ではありません。

人生を階段を上っていくイメージを持っている人とずっと平坦な道を歩いていくイメージの人では、日々の過ごし方が大きく異なると思います。

投資するか、消費するか。

時間もお金も同じことです。

人生をいきなり大きく変えることはできません。

すべては日々の小さな小さなの積み重ねの結果です。

労働者性56 工事従業者の労務提供の内容自体を被告が決定するという関係にはなく、請負契約の性質を有するため、労契法上の労働者性を否定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、工事従業者の労務提供の内容自体を被告が決定するという関係にはなく、請負契約の性質を有するため、労契法上の労働者性を否定した事案を見ていきましょう。

ワットラインサービス事件(東京地裁令和6年10月21日・労経速2570号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との契約により電気メーターの取付・据付及び交換工事(以下「計器工事」という。)に従事し、a労働組合b地方本部c労働組合d分会(以下「分会」という。)に所属するXらが、Y社に対し、Y社が、労働組合攻撃のため、令和2年度、Xらに割り当てる計器工事数を減少させ(以下、割当計器工事数を「割当工事数」ということがある。)、令和3年2月20日、前記各契約の更新を拒絶したとして、以下の請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xら作業者の労務提供の内容(計器工事の内容)は、本件一連の契約書及び仕様書等によって明確にされており、Y社のその都度の指示により変更する余地はない。また、Xら作業者が担当すべき計器工事数についても、Y社とXら作業者の合意により、Y社には割当工事数の計器工事を依頼すべき義務が、Xら作業者には同数の計器工事を完成させるべき義務が生じ、本件各契約の内容になると解され、労働契約における業務命令のように、使用者たるY社が単独で決定することにより、Xら作業者に原則としてその決定に応じる法的義務が生じると解することはできない。OJTの担当についても、Xら作業者の同意なく義務付けることができると認めるに足りる証拠はない。なお、研修や夕礼への参加は、対応する対価がなく、本件各契約に基づく技能の維持や必要な事項の共有のためのXら作業者の義務ではあっても、労務の提供とはいえない

2 Xらは、Xら作業者はY者の業務指示(割り当てた工事の全部完了など)を拒むことができないこと、Y者は、日常的にXら作業者を指揮監督するとともに、場所的時間的に拘束し、Xら作業者に代替性がないことを指摘する。しかしながら、労務提供の内容をY社が決定するという関係になく、時間的拘束性は、その間のいずれかの時点で計器工事を行うことを求めるという趣旨での時間枠を設定するにとどまる。場所的拘束性については、担当地域を定めた契約であることや、顧客宅で行うことが必要であるという計器工事の性質によるものである。代替性については、これがあることは、指揮監督下にあるかどうかの判断において重要な事情であるが、これがないことは重要な事情とはいえない

3 また、Xらは、計器工事の報酬が作業量により増減し労務対償性がある旨主張するが、Xら作業者の報酬の大部分を占める「請負金」は、工事の完成に対する出来高であり、計器工事に時間をどれだけ費やしても完了しなければ、報酬の支払請求権は発生せず、その余の手当等の額はわずかであるから、労務の提供それ自体に対して報酬が支払われる関係にあるとはいえない。平成28年3月に支払われた最低補償金及び評価金は、計器生産の遅れという突発的な事態のためにY社が発注することとなっていた工事を発注することができなかったというY社側の事情でXら作業者の得ることができる請負金が大幅に減少したことを受けて支払われたものであって、労務対償性を欠く。

裁判所がどのような考慮要素に基づき労働者性を判断しているのかがよくわかりますね。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、判断に悩まれる場合には、事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介2179 ラクをしないと成果は出ない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

タイトルは非常にキャッチーですが、言わんとするところは理解できると思います。

ただがむしゃらに仕事をすればいいわけではなく、「Do more with less」の発想が大切なのだと思います。

時間は限られていますので。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

期待値を下げる 
過剰な期待は、不満の原因になります。理想が高すぎると、何一つ行動できず、身動きがとれなくなります。」(74頁)

「期待値を下げる」「過剰な期待は、不満の原因になる」ということは、私がパワハラに関するセミナーでずっと言い続けていることです。

過度な期待と現実とのギャップが大きければ大きいほど、不満(怒り)が生じ、結果、パワハラにつながるというのが私の見解です。

怒りをぶつけたところで、人の能力は向上しません。

現実のレベルを引き上げるのではなく、期待のレベルを引き下げることこそがパワハラやカスハラの予防につながるのだと考えています。

多くの人は、人の能力を過信しすぎのように見えます。

継続雇用制度36 従前の労働条件を下回る再雇用の提案に同意のないまま、定年後再雇用者の契約期間が満了し、雇止めが有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従前の労働条件を下回る再雇用の提案に同意のないまま、定年後再雇用者の契約期間が満了し、雇止めが有効とされた事案を見ていきましょう。

東光高岳事件(東京高裁令和6年10月17日・労判1323号5頁)

【事案の概要】

本件は、A社との間で期間1年の有期労働契約(本件契約1)を締結していたXが、A社を吸収合併したY社に対し、本件契約1の期間満了時、Xには契約更新の合理的期待があり、本件契約1と同一の労働条件によるXの更新申込みを被控訴人が拒絶したことは客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められないため、本件契約1の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約2)が成立し、同様の理由で、本件契約2の期間満了時、本件契約2の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約3)が成立し、本件契約3の期間満了時、本件契約3の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約4)が成立したと主張して、Y社に対し、本件契約4に基づき労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をするとともに、本件契約2ないし4に基づく令和3年10月分以降の賃金として、同月から本判決確定日まで毎月25日限り30万7100円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、本件契約1の期間満了の時点において、Xが、本件契約1が更新されると期待したことにつき合理的な理由はなく、仮に、これがあると認められる場合でも、Y社が本件更新申込みを拒絶したことについて、客観的合理的な理由があり、社会通念上相当であるとして、Xの請求を全部棄却したところ、これを不服として、Xが本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 A社継続雇用規程では、定年後再雇用者の労働契約は期間1年とされ、初回及び更新後の労働時間・日数、月例賃金等の労働条件については、継続雇用者の希望を聴取した上で諸事情を勘案して、その都度決定することとなっている上(A社継続雇用規程6条ないし8条)、実際、定年後再雇用者の労働条件は、上記のとおり運用され、1回目の労働契約の賃金より50%以上低下した条件で契約を更新した者もいたというのであるから、A社継続雇用規程において、1回目の労働契約と同じ労働条件による契約更新が保障されていたとは認め難い
2 A社は、平成30年度から3年連続で経常赤字を続け、直近2期には連続で1億円近くの赤字を出し、従業員の昇給停止及び賞与削減などの経費削減措置を行っていたが、続く令和3年5月には、売却できなかった商品等を減損処理した結果2億8000万円余の債務超過になり、同年7月30日には、本件契約1の期間満了日の翌日をもって被控訴人に吸収合併されることが決定したことが認められる。さらに、A社の経営が厳しく債務超過となる見込みであること、A社がY社に吸収合併される可能性があることは、吸収合併の約5か月前から控訴人を含む従業員に対する説明会で説明がされたほか、吸収合併が決定した後の説明会でも、A社が本件契約1の期間満了日の翌日にY社に吸収合併されることは説明されていたことから、Xは、本件契約1の更新の相手方がA社ではなく、その地位を承継したY社となることを認識できる状況にあったと認められる。そして、A社のB社長は、上記説明会において、Xを含む従業員に対し、Y社に吸収合併された後、A社継続雇用規程をY社の定年後再雇用の制度であるY社シニア嘱託規程の内容に変更することを伝え、その内容をA社の従業員が見ることができるイントラネットに掲載していたところ、Y社シニア嘱託規程には、定年後再雇用者の賃金は基本給と諸手当であること、基本給は時給1200円を原則とすることが記載されていたから(Y社シニア嘱託規程10条)、本件契約1の期間満了後のXとY社との労働契約の賃金が、本件契約1の基本賃金月額30万3600円とはならず、これを下回るものとなることは客観的に避けられない状況であったと認められ、X自身も、本件更新申込みをするに当たり、A社がY社に吸収合併されるのであれば、ある程度、労働条件を変更する提案がされる可能性があることを認識していたと認められる。
3 そして、Y社は、Y社シニア嘱託規程及びY社管理職賃金内規という定年後再雇用者が非管理職又は管理職として就労する場合の各労働条件についての基準を設けていたところ、A社及びY社は、Xに対し、本件契約1の期間満了の約1か月前には、上記基準に沿った具体的労働条件を内容とする本件提案1、2を提示し、これがY社の定年後再雇用者に適用される条件に沿ったものであることを説明していたこと、当時、Y社の定年後再雇用者約120名は、Y社の定年後再雇用者に適用される労働条件の基準に従い労働契約を締結しており、それ以外の条件で雇用された者はいなかったことが認められる。
4 以上によれば、Xにおいて、本件契約1の期間満了時点で、Y社との間で、従前と同一の労働条件で本件契約1が更新されると期待することについて、合理的理由が存在したとは認め難い。

上記判例のポイント2記載の事情があることから、原審の判断が維持されました。

手続面についても考慮の対象となっていますので注意しましょう。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。
 

本の紹介2178 ビジネスは30秒で話せ!#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

簡潔に話ができるか否かは、日々のトレーニングによるところが大きいです。

とはいえ、人はそう簡単に変わりませんので、実際のところはなかなか難しいです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

このコミュニケーション不協和音の中で、自分の主張を確実に相手へ伝えなければならないのである。では、どうすればいいのだろうか?
●話を簡潔にする。
●自分の言いたいことをしっかり理解して、それをできる限り簡潔に話す。
-これに尽きる。」(22頁)

話が長い人というのは、根本的に、他者への想像力が低い傾向にあります。

延々と自分が話したいことを話し続け、聞き手のことなんてそっちのけです。

悦に浸って終わりの見えない武勇伝・自慢話をしてしまう方は気を付けましょう。

太鼓持ちの皆さんが、「へ~、すごいですね~」「さすがですね」と心にもないことを言ってくれますが、鵜呑みにしてはいけません。

心では「また始まったよ」「もうその話聞くの何回目だろ」と思っているのですから。

偉くなればなるほど、自分のことを話すのではなく、若い世代に質問をし、話を聞いてあげるくらいがちょうどいいのです。

管理監督者63 執行役員兼医薬品担当部長の管理監督者性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、執行役員兼医薬品担当部長の管理監督者性が認められた事案を見ていきましょう。

日本硝子産業事件(静岡地裁令和6年10月31日・労経速2573号3頁)

【事案の概要】

(1)甲事件
Xは、Y社に対し、時間外労働及び休日労働に従事したことで割増賃金が発生したと主張し、下記ア及びイの各請求をしている。また、通勤手当のうち未払分があると主張し、下記ウの請求をしている。
ア 労働契約に基づき、割増賃金+遅延損害金の支払請求
イ 労基法114条に基づき、付加金+遅延損害金の支払請求
ウ 労働契約に基づき、未払通勤手当+遅延損害金の支払請求
(2)乙事件
Xは、Y社に対し、休職期間経過前に休職事由が消滅したから、休職期間が経過してもY社との労働契約は終了しておらず、Xを復職させなかったことについて不法行為が成立すると主張し、主位的請求として、下記ア、イ及びカの各請求をしている。また、休職の原因とされた疾病が業務に起因すると主張し、下記ウからオまでの各請求をしている。さらに、Xが休職中に受けた健康診断費用は、Y社が負担すべきものであると主張し、下記キの請求をしている。
加えて、下記イからエまでの請求につき、予備的請求として、労基法26条に基づき、賃金及び賞与のそれぞれ60%の休業手当及びこれらに対する主位的請求と同様の遅延損害金の支払請求をしている。
(3)丙事件
Y社は、Xに対し、不当利得に基づき、立替金+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

1 Xの甲事件請求及び乙事件請求をいずれも棄却する。

2 Xは、Y社に対し、86万9474円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に入社した当初から執行役員に就任しており、品質保証室長や品質保証グループ等の所属管理者よりも上位にあったこと、医薬品担当部門の長の地位にあったことが認められる。また、令和3年5月29日以降は、品質保証部長代理の地位にあり、同部長と同等の権限を有してしたこと、正医薬品製造管理者として、医薬品製造事業を統括する地位にあったことも認められる。
これらのことからすると、Xは、Y社の品質保証部門において、全体の統括的な立場にあったものということができる。

2 Xが、Y社から、労働時間を指示され又は早朝に出勤することをやめるよう指示されたことはない
Xは、遅刻、早退、半欠又は欠勤した場合であっても減給されたことはなかった
Xは、欠勤等について、人事評価上、不利益に取り扱われたこともなかった
原告は、自らの労働時間に関し、広い裁量を有していたと認められる。

3 Xは、基本給30万円に加え、職能給5万円、資格手当3万5000円、役職手当10万円、諸手当10万円など月額合計58万7000円の給与を得ていたことが認められる。
これは、一般的に見て相当に高額な報酬であり、社会通念上、執行役員としての待遇にふさわしいものであったといえる。Xも、本人尋問において、上記の月額報酬には満足しており、不満はなかったと陳述している。
また、Xに対する上記報酬額は、Y社の従業員のうち非管理監督者の報酬と比べると、著しく高額なものであったことも認められる。

4 以上によれば、Xは、職務内容等、勤務実態及び給与のいずれの面からしても、経営者と一体的な立場にある者に当たると認められるから、労働基準法41条2号の管理監督者に当たる。

珍しく管理監督者性が認められています。

今回は、結果オーライですが、予測可能性に乏しい論点のため、リスクヘッジのため、管理監督者扱いにするのではなく、役職手当等を固定残業代として支給する選択肢もあり得るところです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

本の紹介2177 JUST KEEP BUYING#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

自動的に富が増え続ける『お金』と『時間』の法則」が書かれています。

脱法行為やトリックではなく、極めて健全かつ確実な方法が紹介されています。

この本に限りませんが、書かれているとおりにやり続けられるかどうかが問題です。

実行に移せる人は1%弱でしょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

お金は後からでも稼げる。だが、時間は取り戻せない。」(388頁)

この発言の賛否は、つまるところ、「お金と時間、どっちが大事?」という問いに帰着します。

お金を払って、時間を節約するか、

時間を使って、お金を節約するか。

日常生活もビジネスも健康も、すべての分野において、この問いがあてはまります。

解雇420 解雇を争う労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他社で就労を開始した場合の復職の意思の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、解雇を争う労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他社で就労を開始した場合の復職の意思の有無に関する裁判例を見ていきましょう。

フィリップ・ジャパン事件(東京地裁令和6年9月26日・労経速2573号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されたXが、〈1〉Y社から能力不足を理由として令和4年1月15日限りで解雇されたことにより同日以降にY社で労務を提供することができなかったと主張し、Y社との間の雇用契約に基づく本件解雇の後の令和4年3月から本判決確定の日までの月例賃金請求として、毎月25日限り51万5300円+遅延損害金の支払を求めるとともに、〈2〉令和4年及び令和5年の各年の賞与の支払がされていないと主張し、XとY社との間の雇用契約に基づく令和4年分及び令和5年分の賞与請求として、合計125万7835円+遅延損害金の支払を求め、さらに、〈3〉本件解雇に伴って行われた丙川及び丁田による退職勧奨及び各言動には違法があると主張し、上記各被告らについては民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償として、上記各被告らの使用者である被告会社には民法715条の使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、令和4年3月から令和5年6月まで毎月25日限り月額30万9180円及び同年7月25日限り4万9868円+遅延損害金を支払え。
2 XのY社に対するその余の請求並びに丙川及び丁田に対する請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、令和3年12月3日に丁田の作成による本件通知書を受領すると、直ちにX訴訟代理人弁護士に相談した上で、同月7日付けで、同弁護士を通じて、Y社に対して丙川及び丁田によるPIP等を止めるよう求める通知書を発出したこと、Xは、同月13日、Y社から、令和4年1月15日限りで本件解雇をする旨の本件解雇通知書を受領すると、本件解雇に先立つ同月12日にはX訴訟代理人弁護士を通じて、東京地方裁判所に対し、本件解雇が無効であるとして、Y社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めて本件訴訟を提起したことが認められる。これらの事実を総合すると、XがY社への復職を求めて本件訴訟の提起に至ったものであることが認められる。

2 また、Xは、令和4年3月1日に、賃金月額77万9200円、所定労働時間7時間などの労働条件でA社に就職したものであるが、一般に、解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、解雇後直ちに他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他の就労先で就労を開始した事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと直ちに認めることはできない。そこで、XがA社に就職するまでの経緯に関して更に検討を進めると、〈1〉Xは、平成28年9月20日にY社に採用され、同年10月16日から令和2年12月頃まで法務部での業務に従事し、同月以降、司法修習、第一子の懐妊、出産のためにY社を休職し、令和3年5月1日にY社に復職したこと、〈2〉Xは、第一子の育児休業からY社に復職する際、第一子を保育園に入所させ、復職後には第一子を保育園に通わせながらY社で勤務していたこと、〈3〉Xは、令和3年12月13日に本件解雇通知書(書証略)をもってY社から本件解雇の予告をされた頃以降、本件解雇により無職となれば第一子の保育園への入所資格が喪失することを危惧して、就職活動を始め、令和4年1月24日頃にはA社への同年3月1日付けでの入社が決まったこと、以上の事実が認められる。これらの事実に加え、第一子の保育園への入所ができないとX自身がずっと仕事に復帰することができなくなってしまうので、何でもよいから職を探していた旨のXの供述を併せて考慮すると、Xにおいては保育園の入所資格を確保し自らの職歴を確保するとの観点から直ちに就職活動を行う必要性に迫られ、その就職活動の結果として、A社への就職が決まったと認めるのが相当であるから、たとえ賃金額や所定労働時間に関してA社での労働条件がY社よりも良好なものであるとの評価をし得るとしても、Xにおいて、A社に就職した時点で、Y社への就労意思が喪失したものとは認め難い

3 したがって、XがA社に就職した令和4年3月1日時点で、XのY社への就労意思を喪失していたと認めることはできない。そして、Xは、A社での6か月間の試用期間が経過した後の時点でも明確にY社への就労意思の喪失を争っており、その他、XがA社に就職した令和4年3月1日以降、XがY社への就労意思を喪失したことを自認する令和6年1月31日までの間、同日に先立ち、XのY社への就労意思を喪失したと認めることができるような具体的な事情は認められない

以前は、本件のような事情がある場合、復職の意思が否定される事案も散見されましたが、近年は、本裁判例のような考え方が大勢を占めます。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

本の紹介2176 引き算する勇気#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には、「シンプルは、パワフル!」と書かれています。

まさにタイトルのとおり、足し算ではなく、不要なものを削ぎ落していくことを推奨しています。

あとは、それをやる「勇気」があるか、だけですね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

企業体の中にあって、何をやめるべきかが、非常に大切なことである。新しいよい分野に展開する秘訣は、必ず捨てなければならない分野のものを捨てることであろう。資力に限界があり、スペースに限度があり、特に能力のある人に限度があることを知らなければならない(ソニー創業者 井深大)」(63頁)

やるべきことを決めるよりも、やらないことを決めるほうが勇気が必要です。

限られたリソースで何かを成し遂げようとするならば、あれもこれも手を広げている余裕はありません。

今後ますます人手が足りなくなってきます。

今ですら、もう余計なことに人を割ける余裕は全くない状態ですから。

これまでのような過剰とも思えるサービスの提供は、早晩、考え直すときがくるものと思います。

無駄を削ぎ、やるべきことを絞り、本質に専念する、ということです。