賃金47(NEXX事件)

おはようございます。

さて、今日は、賃金減額、欠勤控除、普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

NEXX事件(東京地裁平成24年2月27日・労判1048号72頁)

【事案の概要】

Y社は、電子機器、システム開発及び販売等を業とする会社である。

Xは、当初、Y社のアルバイトとして稼動していたが、平成17年1月以降は正社員として、給与は月60万3500円とする契約を締結した。

Y社は、当初、Xに対し、月額60万円を基準として支給していたが、平成18年6月分の給与につき、これまでの額面から20%分(12万円)減額した48万円として、以後、同額を基準として給与を支払うようになった。

Xは、平成21年6月、Y社に対し、要求書により、従前の契約どおり月額60万円の給与の支払いを求めるまで、約3年間にわたって減額後の給与を受領し続けていた。

Y社は、業務命令の無視、反抗の継続、職務遂行能力の欠如等を理由に、平成21年7月、Xを普通解雇した。

【裁判所の判断】

賃金減額は無効
→減額分約324万円の支払を命じた

解雇は有効

【判例のポイント】

1 労働契約の内容である労働条件の変更については、労使間の合意によって行うことができるところ(労働契約法8条)、一般に、この場合の合意は、明示であると黙示であるとを問わないものとされている。しかし、労働契約において、賃金は最も基本的な要素であるから、賃金額引下げという契約要素の変更申入れに対し、労使間で黙示の合意が成立したということができるためには、使用者が提示した賃金額引下げの申入れに対して、ただ労働者が異議を述べなかったというだけでは十分ではなく、このような不利益変更を真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべきであり、この意味で、Y社側の一方的な意思表示により賃金を改訂することができるものとする本件改訂条項は、労働契約法8条に反し無効というべきである。

2 (1)本件給与減額については、その適用対象者が社長の妻である管理部長以外の正社員2名(X及びA)のみであり、反対の声を上げることが困難な状況にあったこと、(2)減額幅が20%減と非常に大幅なものであるにもかかわらず、激変緩和措置や代替的な労働条件の改善策は盛り込まれていないこと、(3)平成18年4月に実施した本件説明会において、Y社が、売上げ・粗利益ともに振るわない現状にあることから、業績変動時の給与支給水準を設けたい旨を抽象的に説明したことは認められるものの財務諸表等の客観的な資料を示すなどして、Xら適用対象者に対し、このような大幅減給に対する理解を求めるための具体的な説明を行ったわけではないことが認められる。以上によれば、たとえ、約3年間にわたって本件給与減額後の給与をY社から受領し続けていたとしても、Xが、本件給与減額による不利益変更を、その真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできない。よって、本件給与減額につき、Xとの間で黙示の合意が成立していたということはできない。

賃金減額における同意についてはよく問題となりますが、裁判所は同意の認定に非常に慎重です。

労働者の同意の取り方については、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。