Daily Archives: 2012年8月30日

労働時間29(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件)

おはようございます。

さて、今日は、国内・海外旅行添乗員の事業場外みなし時間制適用に関する高裁判決を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件(東京高裁平成24年3月7日・労判1048号・26頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xらを雇用した。

Xらは、A社が作成した行程表に従って業務を遂行するとともに、実際の旅程結果について添乗員日報を作成して報告するように指示されていた。また、携帯電話が貸与されており、随時電源を入れておくように指示されていた。

Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されていた。

Xは、Y社に対し、(1)派遣添乗員には、労働基準法38条の2が定める事業場外労働のみなし制の適用はなく、法定労働時間を超える部分に対する割増賃金が支払われるべきである、(2)7日間連続して働いた場合には、最後の1日は休日出勤したものとして休日労働に対する割増賃金が支払われるべきであると主張し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたらない。

【判例のポイント】

1 この制度は、労働者が事業場外で行う労働で、使用者の具体的な指揮監督が及ばないため、使用者による労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定が困難な場合に対処するために、実際の労働時間にできるだけ近づけた便宜的な労働時間の算定方法を定めるものであり、その限りで使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものと解される。
そして、使用者は、雇用契約上、労働者を自らの指揮命令の下に就労させることができ、かつ、労基法上、時間外労働に対する割増賃金支払義務を負う地位にあるのであるから、就労場所が事業場外であっても、原則として、労働者の労働時間を把握する義務を免れないのであり(労基法108条、同規則54条参照)、同法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され、客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合をいうと解するのが相当である。
本通達は、事業場外労働でも「労働時間を算定し難いとき」に当たらない場合についての、発出当時の社会状況を踏まえた例示であり、本件通達除外事例(1)(2)(3)に該当しない場合であっても、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従って判断すれば、使用者の具体的な指揮監督が及びものと評価され、客観的にみて労働時間を把握・算定することが可能であると認められる場合には、事業場外労働時間のみなし制の適用はないというべきである

2 指示書等の記載は確定的なものではなく、合理的な理由による変更可能性を有するものというべきである。しかし、指示書等は、募集型企画旅行契約に基づき参加者に対して最終日程表に記載された旅行日程どおりの旅行サービスを提供する義務を負っている旅行主催会社である阪急交通社が、その義務を履行するために、添乗員に対して最終日程表に記載された旅行日程に沿った旅程管理をするよう業務指示を記載した文書であるものと認めるのが相当であって、上記変更可能性を有するからといって指示書等の添乗員に対する拘束力そのものが否定されるべきものではないことは明らかである。

3 ・・・そうすると、本件添乗業務においては、指示書等により旅行主催会社である阪急交通社から添乗員であるXに対し旅程管理に関する具体的な業務指示がなされ、Xは、これに基づいて業務を遂行する義務を負い、携帯電話を所持して常時電源を入れておくよう求められて、旅程管理上重要な問題が発生したときには、阪急交通社に報告し、個別の指示を受ける仕組みが整えられており、実際に遂行した業務内容について、添乗日報に、出発地、運送機関の発着地、観光地や観光施設、到着地についての出発時刻、到着時刻等を正確かつ詳細に記載して提出し報告することが義務付けられているものと認められ、このようなXの本件添乗業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、Xの本件添乗業務には阪急交通社の具体的な指揮監督が及んでいると認めるのが相当である

やはり適用範囲はかなり狭いですね。

むやみにみなし制度を使うとやけどしますので注意しましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。