Daily Archives: 2013年11月7日

賃金66(ヒロセ電機事件)

おはようございます。

さて、今日は、入退館記録表ではなく、時間外勤務命令書による労働時間管理を認めた裁判例を見てみましょう。

ヒロセ電機事件(東京地裁平成25年5月22日・労経速2187号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において勤務していたXが、時間外労働に対する賃金及び深夜労働に対する割増賃金と付加金の支払いを求めるとともに、内容虚偽の労働時間申告書等をXに作成、提出させたとして不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の旅費規程には、出張(直行、直帰も含む)の場合、所定終業時間勤務したものとみなすと規定されており、出張の場合には、いわゆる事業場外労働のみなし制(労基法38条の2)が適用されることになっている。
実際にも、Xの出張や直行直帰の場合に、時間管理をする者が同行しているわけでもないので、労働時間を把握することはできないこと、直属上司がXに対して、具体的な指示命令を出していた事実もなく、事後的にも、何時から何時までどのような業務を行っていたかについて、具体的な報告をさせているわけでもないことが認められる。Xも、出張時のスケジュールが決まっていないことや、概ね1人で出張先に行き、業務遂行についても、自身の判断で行っていること等を認めている
以上からすると、Xが出張、直行直帰している場合の事業場外労働については、Y社のXに対する具体的な指揮監督が及んでいるとはいえず、労働時間を管理把握して算定することはできないから、事業場外労働のみなし制が適用される

2 Xは、出張や業務内容について具体的な指示を受け、事前に訪問先や業務内容について具体的な指示を受け、指示どおりに業務に従事していたと主張する。
しかしながら、Xの訪問先や訪問目的について、Xが指示を受けていたことは認められるが、それ以上に、何時から何時までにいかなる業務を行うか等の具体的なスケジュールについて、詳細な指示を受けていた等といった事実は認められず、Xの事業場外労働について、Y社の具体的な指揮監督が及んでいたと認めるに足りる証拠はない。

3 Y社の就業規則70条2項によれば、時間外勤務は、直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めないこと等が規定されている。また、平成22年4月以降の時間外勤務命令書には、注意事項として「所属長命令の無い延長勤務および時間外勤務の実施は認めません。」と明記されていること、かかる時間外勤務命令書についてXが内容を確認して、「本人確認印」欄に確認印を押していることが認められる。以上からすると、Y社においては、所属長からの命令の無い時間外勤務を明示的に禁止しており、Xもこれを認識していたといえる

4 ・・・実際の運用としても、時間外勤務については、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたこと、実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載し、翌日それを所属長が確認することによって、把握されていたことは明らかである。したがって、Y社における時間外労働時間は、時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであって、時間外労働の認定は時間外勤務命令書によるべきである

使用者側のみなさんは、是非、参考にしてください。

既に多くの会社で本事案と同様の制度を取り入れられています。

ポイントは、単に制度をつくるのではなく、実際にちゃんと運用することです。

上記判例のポイント4がミソです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。