Monthly Archives: 10月 2018

解雇280 懲戒(降格)処分と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒(降格)処分無効と支店長の地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

大東建託事件(東京地裁平成30年4月26日・労判ジャーナル78号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、平成28年9月30日付けのA支店支店長から担当へ降格する旨の懲戒処分は無効であると主張して、Y社に対し、平成30年3月31日まで同支店長の地位にあることの確認を求め、同処分以降に係る同処分前の賃金との差額、平成28年10月分から同年12月分までの約199万円、平成29年1月分から同年6月分までの約419万円、同年7月分から同年10月分までの約304万円、同年11月分から平成30年3月分までの約521万円等の支払を求めるとともに、Y社の従業員からパワハラを受けたとして、民法715条の使用者責任に基づき、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒処分(降格)は有効

損害賠償請求も棄却

【判例のポイント】

1 Y社において、本件通知が平成27年4月1日に発出されており、立地・家賃審査依頼書や家賃審査書において事故歴の有無を確認する欄が設けられたことに鑑みても、Xは、支店長として当然にその内容を把握し、支店内で同通知を周知徹底すべき立場にあったものであるから、本件事故歴が発覚した時点で、本件通知の内容に従って本社に一般申請すべきであったにもかかわらず、本社に報告等をしないで本件売買契約を締結したものであり、その結果、Y社は、本件土地の入居者募集等のやり直しなどを余儀なくされたことからすれば、Xの行為は、Y社の定める規程及び指示に違反し、Y社の信用等を損なう行為であるといえること等から、Xの上記各行為は、Y社の懲戒規程所定の懲戒事由に該当する

2 Xは、支店長という立場にありながら、部下であるB課長及びC課長に対し、本件通知に反する行為を指示したものであり、その結果、Y社は、組織としての本件火災死亡事故の報告を受けて認識していた状態にあったにもかかわらず、Xの通知違反の指示により、火災死亡事故の告知をせずに本件土地上のアパートの入居者を募集するに至ったものであり、入居者に対する告知義務違反ともなり得る重大な法令遵守(コンプライアンス)上の問題を生じさせた行為である上、Y社が大東建物管理の損害を補填するなど一定の実損害も発生していること等から、Xの上記各行為による責任は、相当に重いといわざるを得ず、本件懲戒降格処分によりXの基本給等が大幅に減額されたことなどXの不利益を考慮しても、本件懲戒降格処分が重すぎるものとして社会通念上相当性を欠くということはできないというべきである。

この事案で懲戒解雇までしてしまうと相当性が認められない可能性も出てくるところです。

降格処分により、大幅な賃金の減額が生じたとしても、事案の重大性からすれば相当であるという判断です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介846 だから、また行きたくなる。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。
だから、また行きたくなる。 伝説の外資系トップ営業が教える「選ばれるサービス」の本質

プルデンシャルの川田さんの本です。

さまざまなお店の「選ばれるサービス」を紹介してくれています。

こういうサービスをされると「また行きたくなる」と思ってしまいます。

やろうと思えば誰でもできることですが、多くの人がやらないほんの小さな気配りなのです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

営業の仕事で大切なのは、スキルではなく、結局は『人』として魅力的かどうかです。人は『損得』ではなく『感動』で動く生き物です。どんなに営業トークがうまくても、商品説明が上手でも、それだけではお客さまの心は動かせません。だからこそ、人間的な成長が必要なのです。」(233頁)

著者は、後輩から「ずっと売れる人って、どういう人なんですか?」という問いにこう答えています。

落ちているゴミを、またいでいかない人」(233頁)

本に載っているような営業テクニックなんてすぐばれます。

他よりも多少安くても、売っている人が魅力的でなかったら、絶対に買いません。

この人から買いたい、この人にお願いしたいと思ってもらうために必要なのは、セールストークではなく、人間的な魅力そのものです。

だからこそ、落ちているごみをまたいでいく人は売れないのです。

労働災害94 新人研修における事故と安全配慮義務違反(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、新人研修における歩行訓練後の後遺症と安全配慮義務違反の有無等に関する裁判例を見てみましょう。

サニックス事件(広島地裁福山支部平成30年2月22日・労判1183号29頁)

【事案の概要】

XがY社に入社して新人研修を受けたが、研修カリキュラムの1つである24キロメートルの歩行訓練を受けた際に、右足及び左足を負傷したとして、主位的には、Y社の安全配慮義務違反が過失を構成するとして、不法行為に基づき、損害賠償と歩行訓練の日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求したもので、予備的には、Y社の安全配慮義務違反が債務不履行を構成するとして、損害賠償とY社に対して請求した日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、2222万4145円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 健康状態チェック表等でY社は参加者の体調を把握しようとしており、業務日報の記載からa訓練であまり無理をしないよう講師が述べていることが認められ、Y社が全く参加者の体調等に配慮していなかったわけではない。
しかし、Y社は、研修参加者の外出を禁止しており、参加者が自己の意思で医療機関を受診する機会を奪っているにもかかわらず、発熱者が出たときの対応でも明らかなように、Y社側から医療機関を受診させることに積極的ではない
a訓練は、参加者全員が完歩することを目的としており、参加者の年齢が幅広く、体力にも大きな差があるにもかかわらず、個人差や運動経験の有無等に全く配慮していない点で、無理があるプログラムである
そして、Xが歩行訓練中に転倒して右足関節を痛め、歩行訓練の中断や病院受診を求めても、これを拒絶して歩行訓練を継続し、a訓練に参加させたことが、Xの現在の症状の原因となっていること等に照らすと、Y社には、債務不履行の原因となる安全配慮義務違反が存在したと認められる。
Y社は、Y社にとって望ましい社員を選別するための手段としてa訓練を用いる意向があるかも知れないが、仮にそうであれば、その際に負傷した参加者に対しては、責任を負わなければならない。
なお、上記のとおりY社が参加者の安全について一定の配慮をしていることに照らすと、不法行為の原因となる過失があったということはできない

2 Xの足関節、膝関節には、軽度の変形性関節症が認められるが、軽度であり、Y社の研修に参加する前にはXには何も症状がなかったこと、軽度の変形性関節症がXの治療の長期化とどのように影響したか不明であること等に照らすと、素因減額を要するほどの素因に該当するとはいえない。
なお、Xは、肥満体であることが認められ、体重が重いために膝関節、足関節にかかる負荷が大きくなってXの傷害の悪化、長期化に影響したことが予想されるが、病的肥満といえる程度には達していない。
したがって、Xの肥満は病的ではないから、素因には該当せず、素因減額を検討することはできない。

3 本件は、債務不履行に基づく請求であり、弁護士費用の請求は認められない。

ニュースにもなった事案です。

認容額がかなり高額ですね。

みんながみんな体育会系ではないので、このような研修(?)はやはり避けるべきですね。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

本の紹介845 「稼げる男」と「稼げない男」の健康マネジメント(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
「稼げる男」と「稼げない男」の健康マネジメント (アスカビジネス)

食事、睡眠、運動、ストレスケアの4項目についてマネジメントのしかたを説いています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

思い返してみれば、香港でさまざまな企業がグローバル会議などでホテルを予約するときは、ジムがついているホテルから埋まっていきました。上級職になるほど、朝から身体を動かす習慣があるからです。
あるデンマークに本拠地を置く企業が香港で会議を行った際は、全員で朝6時からランニングをしていました。ウイニングエッジを勝ち抜くために、普段からの「準備のレベル」が違うのです。」(39頁)

前回紹介した本とも共通する内容です。

日本でも、出勤前にジムへ行き、トレーニングをするという文化がもっと広がるといいですね。

筋トレに関して言えば、30分もやれば体がパンパンです。

わずか30分を続けられるか、ただそれだけの話です。

30分のトレーニングすら続けられないのであれば、結局、何をやっても結果は出ないことは想像に難くありません。

三日坊主からは何も生まれません。

解雇279 産業医意見の信用性が否定される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、産業医意見の信用性が否定され休職期間満了に伴う退職扱いが無効とされた裁判例を見てみましょう。

神奈川SR経営労務センター事件(横浜地裁平成30年5月10日・労経速2352号29頁)

【事案の概要】

本件は、労働保険事務組合であるY社の従業員であったXらが、X1はうつ状態を、X2は適応障害を発症してそれぞれ休職したところ、休職期間満了日の時点で復職不可と判断され自然退職の扱いとされたことについて、主位的には、Xらは復職可能であったことから本件各退職扱いはY社の就業規則の要件を満たさず無効であるとして、予備的には、仮にXらが復職可能でなかったとしても、XらとY社との間の従前の経緯に照らし本件各退職扱いは信義則に反し無効であるとして、Y社に対し、X1は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求め、X2は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

【判例のポイント】

1 X1が本件退職扱いAの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたことの証拠としては、うつ状態の病状改善により復職可能とのG医師の診断書(平成27年5月21日付け)があるところ、①X1は、本件休職命令Aの際には、不安、気分の落ち込み、眠れない、食欲不振、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態で、投薬も受けていたが、本件退職扱いAの当時は、睡眠がとれるようになり、食欲も出て、投薬も終わっており、気分の落ち込み、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態も認められなかったこと、②本件面談Aにおいても、X1は、体調がよく、復職の意欲があることを話し、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかったこと、③X1は、平成26年10月17日、平成27年1月30日、同年5月11日に行われた第2訴訟の各期日に、何ら問題なく出廷できていることからすれば、上記診断書は、信用できる。
そして、X1は労働保険事務組合関係業務、庶務関係業務等、具体的には、窓口業務、電話対応、書類整理に従事していたところ、これらの業務の内容からすれば、X1は、同年6月7日の本件退職扱いAの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。

2 H医師は、Xらについて、①自分の行動分析も含めて客観的な振り返りができず、冷静に内省できているとは言い難い、②再発予防対策として必須の、組織の一員としての倫理観、周囲との融和意識に乏しい、③自分の症状発現には、組織の対応及び周囲の職員の言動が一義的原因であるとして一貫して組織及び職員を誹謗するに終始したと判断している。
しかしながら、上記判断は、一定の基準ないし価値判断、すなわちXら自身が、Y社や他の職員とのトラブルの原因であるとの見解を前提としたものと解されるところ、第1訴訟が本件和解条項を含む和解で終了していること、第2訴訟もX1の主張が認められ、請求認容判決が宣告され、これが確定していることからすれば、その見解には疑問がある上、本件面談A及び本件面談Bにおいて、XらにH医師の上記評価の根拠となり得るような発言があったとの事情も窺われないことからすれば、H医師の上記評価は、採用できない
H医師は、本件各退職扱いの時点において、X1については、人格障害、適応障害であり、統合失調症の症状も診られると指摘し、X2については、自閉症スペクトラム障害、うつ状態、不安症状、自律神経失調症状があり、依存性の性格傾向があると指摘する。
しかしながら、H医師自身も、上記精神障害の指摘は診断ではなく判断であると述べており、Xらは医学的には病気ではなかったと認めていること、さらに、精神科医であるJ医師が、X1について統合失調症、人格障害であることを否定し、同じく精神科医であるI医師も、X2について自閉症スペクトラム障害、人格障害であることを否定していること、そもそも本件面談Aは1回約40分、本件面談Bは3回で、各回約30分から約40分にとどまり、このような限られた時間での面談により、上記のような判断が可能であるかについても疑問が残ることからすれば、H医師の前記各指摘は、合理的根拠に基づくものであるとは認められず、採用できない
以上によると、Xらが本件各退職扱いの時点で復職不可の状態であったとするH医師の意見書及び証言は、到底信用できない。

休職期間満了時に、主治医意見と産業医意見が相反する場合に会社としてはどのように判断すべきかという問題は、判断がとても難しいですが、よく発生する問題です。

裁判所の考え方を踏まえて、慎重に対応しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介844 30代ビジネスマンの「太らない」「疲れない」21の習慣(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
「太らない」「疲れない」21の習慣

食事、睡眠、運動に関する習慣について解説しています。

ダイエット等が成功しない理由は、シンプルです。

継続できない。 ただそれだけです。

つまりは、習慣化のしかたさえわかっていれば、勉強もダイエットもたいていのことは結果が出ます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

日本人は、頭脳だけで仕事をしている。頭に知識を入れることには一生懸命だけど、食事、睡眠、運動などには驚くほど気を遣っていない。私たちは、健康なビジネスマンでい続けることも含めて、仕事で成果を上げようとしている。長期的には、どっちがいい結果を出すだろうね?」(25頁)

これは、アラブ系のビジネスマンが著者に語った言葉です。

このビジネスマンは、日頃からドバイと香港を行き来しており、出張先にもランニングシューズを持っていき、朝はランニング、夜はホテルのジムやプールで体を動かすことを日課としているそうです。

日頃、ランニングや筋トレをするのが習慣になっている人からすると、特に驚くことではありません。

何もしていなければ、年齢とともに体力がだんだん落ちてくるのは当然のことです。

トレーニングをしているかどうかは、年齢が上がれば上がるほど一目瞭然ですぐにわかります。

忙しいのはみんな同じです。

やるかやらないか、ただそれだけの違いです。

解雇278 事前承認のない休日出勤中の事故後の解雇と解雇制限の適用の是非(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、事前承認のない休日出勤中の事故後の解雇と労基法19条1項に関する裁判例を見てみましょう。

日本マイクロソフト事件(東京地裁平成29年12月15日・労判1182号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対し、平成25年6月29日付け解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 AがXに対して同月9日の休日出勤を指示したとはいえないものの、事前承認を得ずに勤務することの多いXが同月9日から同月11日までの間に宿題提出のために作業すること、すなわち休日出勤をすることは想像に難くなく、許容していたといえる。そうすると、Xは、業務遂行のためY社の支配下にある事業場で本件事故に遭ったと認められ、業務起因性があるといえる。

2 本件事故があったとされる平成25年2月9日からY社が本件解雇を通知し以後の就労を免除した同年5月29日までの間において、Xは、午前休や全休を取得したと主張するが、Xの主張する日は、所定休日あるいは、所定労働日に所定労働時間7.5時間以上の勤務実績がある日であり、休業の事実が認められない。
したがって、労働基準法19条1項の解雇制限の適用はない

3 Xは、形式的に休業していなかったとしても、身体的状態として本来欠勤して療養すべき健康状態にあった以上、労働基準法19条第1項の解雇規制が直接適用ないし類推適用されるべきであると主張する。
しかし、労働基準法19条1項はあくまで業務上の傷病の「療養のために休業する期間」の解雇の意思表示を禁止している規定であることは文理上明らかであるから、Xの上記主張は採用しない。

労基法19条1項の解雇制限は、あくまでも「療養のために休業する期間」についてのものなので、休業していない場合には同条の適用はありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介843 これからの時代のお金に強い人、弱い人(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
これからの時代のお金に強い人、弱い人

大富豪インド人のビリオネア思考」の著者サチン・チョードリーさんの本です。

細かいお金の稼ぎ方についてではなく、物事の考え方、人生の捉え方について書かれた本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

何かのせいにしない人は、それを自分のこととして受け止めます。だから、素直になれる。謙虚になれるし、学ぼうとする。そして、学んだことの大切さをよくわかっている。
ジム・ロジャーズさんも言っていました。『自分が知っていること、学んでいること以外のものに手を出してはいけない』と。お金は実は、すべては学びから始まるのです。」(155頁)

「自分が知っていること、学んでいること以外のものに手を出してはいけない」という教訓は投資に限らず、あらゆる仕事にもいうことができますね。

人に勧められるがままにうまい話に乗ってしまい、大やけどをするなんてことがありますが、まずは自分でしっかりその分野のことを勉強することがとっても大切です。

おいしい話のときこそ、冷静になってリサーチをする。

こんな姿勢がいざというときに役に立つのではないでしょうか。

有期労働契約82 雇止めの合理性要件の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇止め無効地位確認等請求が棄却された裁判例を見てみましょう。

YIDATEC日本事件(東京地裁平成30年2月1日・労判ジャーナル78号50頁)

【事案の概要】

本件は、本訴事件において、Y社との間で有期雇用契約を締結しこれに基づいて就労していたXが、契約更新の申入れをしていたがY社から雇止めをされたため、労働契約法19条1号及び2号に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、時間外労働等に係る割増賃金等の合計額である約542万円等、労働基準法114条所定の付加金約308万円等の支払を求め、さらに、会社代表者からパワーハラスメントを受けたと主張して、不法行為(会社法350条)に基づく損害賠償請求として100万円等の支払を求め、反訴事件において、Y社がXに対し、過払であった通勤交通費について、Xは通勤経路を変更した旨Y社に申告した平成24年5月7日以降、受領する法律上の原因がないことについて悪意であったにもかかわらず、これを受領していたと主張して、民法703条、704条に基づき、約40万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

未払割増賃金等請求は一部認容

損害賠償請求は一部認容(10万円)

反訴:不当利得返還請求は一部認容(24万6330円)

【判例のポイント】

1 本件雇用契約は6回更新され、契約期間も6年以上と長く、更新の際労働条件の交渉等のために雇用契約書が取り交わされる前の段階でもXが引き続き就労していたこと、就業規則4条において正社員と契約社員とで個別契約がない限り基本的な労働条件が同一とされていることは認められるものの、賃金等の労働条件は更新の際に見直され、必ず雇用契約書が作成されていることに鑑みれば、本件雇用契約を就労させることが「期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる」(労契法19条1号)とまではいうことができない。

2 Xは通勤交通費を不正に受給し、これに関する聴聞の手続を放棄した上、法律上の原因なくして利得した通勤手当の返済に関する協議に一切応じなかったばかりか、親会社関係者にまで副部長の不正疑惑を申し出て、職場における人間関係を破壊し、会社代表者との関係においても問題のある業務指示についてそれを指摘するにとどまらず、あえて反抗的な態度をとるなど強固な反発心を示していたことからすれば、Y社においてXによる有期雇用契約の締結の申込みを拒絶することが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相違であると認められない」(労契法19条柱書)とはいえず、Xの地位確認等の請求は理由がない。

3 Xは少なくとも平成25年6月以降肩書住所地から通勤していたのであり、副部長が就業規則に反してバス通勤を認めるとは解されないこと、仮にそのようなことがあったとしても単に会社に対する同部長の業務懈怠にすぎず、Xにおいて同部長にそのような許可権限があると信頼することを正当化する事情があるとは解されないことからすれば、Xは悪意の受益者であると認めるべきであるから、Y社の反訴請求は、24万6330円等の支払を求める限度で理由がある。

上記判例のポイント1のように、更新時の手続きを行っていれば、1号事案として判断される可能性は低くなります。

これに対して、更新回数が多くなり、契約期間が長期になってくると、2号事案に該当することはほとんどですので、結局、雇止めの合理性が問題となってくるわけです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介842 手ぶらで生きる(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
手ぶらで生きる。見栄と財布を捨てて、自由になる50の方法

著者は「ミニマリスト」の方です。

本書のサブタイトルは「見栄と財布を捨てて、自由になる50の方法」です。

帯には「お金、時間、人間関係・・・不安を手放し、自分の人生を取り戻すコツ。」と書かれています。

確かに所有物が増えてくると重くなって動きにくくなりますよね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

もっと広い家に住みたい、もっといい車に乗りたい、もっと稼ぐ夫・もっと美人な妻がよかった、子どもをもっといい学校に入れたい・・・住む家があって、お金を稼ぐ手段も確保し、家族もいて十分幸せなはずなのに、他人と比較し『最大化』が行き過ぎた結果、自ら不幸になっている。こんな人はけっこう多いと思う。」(175頁)

「足るを知る」ということでしょうか。

「見栄」と「欲」を捨てると、必要以上のお金を求めることがなくなります。

もっといい車に乗りたい、もっと高い時計をつけたい・・・

こういうことが働く動機になる人はそれでいいでしょうが、

それほど物欲がない人にとってみれば、車なんて動けばいいし、時間は携帯電話で見ればいいからそもそも時計はいらないということになるのでしょう。

こういう考えの人は、収入の多さと幸せの度合いが必ずしも比例しないことを知っています。

求めれば求めるほど幸せから遠のくという感じでしょうか。