賃金196 固定残業制度が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業手当の合意の有無と配転命令の可否に関する裁判例を見てみましょう。

ソルト・コンソーシアム事件(東京地裁令和元年12月6日・労判ジャーナル100号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、会社在職中の平成28年1月稼働分から平成29年8月稼働分までの間の時間外・深夜・休日労働の割増賃金に未払いがあるなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、割増賃金約680万円等の支払を求め、労働基準法114条に基づき、同額の付加金等の支払を求め、Xに対する違法な配転命令があったなどと主張して、不法行為に基づき、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求は認容

配転命令に関する不法行為に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件固定残業代の合意が認められるべき旨主張するところ、証人Dは、Xの採用面接時に、Xに時間外手当等の説明をした旨証言するが、Xとの2度にわたる面接のいずれにおいても各手当の具体的な金額を説明していないことを自認し、かかる合意内容を証する雇用契約書や労働条件通知書の作成もしていないところであって、その証言はたやすく措信できるものではなく、また、Y社は、本件雇用契約書を作成したことによって、Xが本件固定残業代の合意を追認したとみるべきであるなどとも主張するが、本件雇用契約締結時において本件固定残業代の合意を認めることができない以上、その変更は労働者であるXの労働条件の不利益変更に該当し、その不利益性に係る変更内容の具体的説明のない本件において、これがXの自由な意思に基づいてされたものとは認め難く、かかる不利益変更を有効とみる余地もないから、いずれにしても会社の主張は採用できない。

2 Xは、X・Y社間に、職種等の限定を含む本件限定合意が成立していた旨を主張し、本件配転はこれに反するものであった旨主張するが、この点を裏付ける的確な証拠はないから、採用することができず、また、Xは、Y社において配転命令権の濫用があった旨の主張もするが、業務上の必要性がおよそなかったことやXに著しい不利益が生じたとみるべきことを根拠付けるに足らず本件配転の時期が、XがY社に残業代の請求をした後であったからといって直ちにこれが不当な動機・目的に出たものであったとも認めるに足りず、損害も認めるに足りないから、不法行為の成立をいうXの主張は採用することができない。

いまだに固定残業制度についての争いが数多く起こっています。

残業代の消滅時効が延びており、いずれ5年になった際に、今と同じように有効要件を欠く固定残業制度を使い続けている会社は、とんでもないことになります。

今のうちに制度を見直すことを強くおすすめします。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。