Category Archives: 配転・出向・転籍

配転・出向・転籍39(アルバック販売事件)

おはようございます。
13日目の栗坊トマト。葉っぱが大きくなってきましたね!

今日は、配転命令無効等確認及び解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

アルバック販売事件(神戸地裁姫路支部平成31年3月18日・労判ジャーナル89号36頁)

【事案の概要】

本件は、甲事件において、Y社と雇用契約を締結した元従業員Xが、Y社に対し、①配転命令が違法、無効であるとして、A営業所で勤務する義務がないことの確認を求め、また、②(1)雇用契約に基づき、未払賃金・賞与等の支払を求めるとともに、(2)Y社が不当な自宅待機命令及び配転命令を行ったこと等により、多大な精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払を求め、加えて、③上記②の請求と選択的に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、未払賃金及び賞与との差額に相当する損害、上記②(2)の慰謝料等の支払を求め、乙事件において、Xが、Y社が平成27年3月9日に行った解雇は、客観的合理的理由がなく無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払賃金・賞与の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

解雇は無効

未払賃金・賞与等支払請求は一部認容

慰謝料等請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Y社が就業規則に基づきXの配転命令権を有すること、また、労働者の採用に際し、勤務地を限定する合意がなされた事情がないことについては、当事者間に争いがないところ、A営業所においては、一人分の欠員が出ていたこと等から、本件配転命令には業務上の必要性が認められ、また、退職勧奨時にXが姫路へ行くと回答していること等からすると、本件配転命令が、Xが退職しなかったことへの意趣返しという不当な動機のみによってなされたものであるとまで認めることは困難であり、さらに、Xが、Xの長女の事情をY社に伝えたと認めるに足りる証拠は存在しないし、妻の乳がんとの関係で本件配転が不利益である事情や、本件配転への異議は一切述べていないことが認められること等から、本件配転命令が、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものであったと認めることはできないから、権利濫用に当たるというべき特段の事情は見当たらず、本件配転命令が無効であるとは認められない。

2 Y社は、変更後の就業規則を社内メールの送信や掲示板に掲載する方法で従業員に周知したものと認められるところ、Y社は、不利益の程度が大きい者については調整給を支給しており、本件就業規則変更による従業員の不利益は、著しく大きいとまではいうことはできず、そして、Y社は、遅くともA社が人事制度改革を行うことを発表した時点において、収益を改善する観点からも、A社の子会社としての経営判断の観点からも、A社に倣って労働条件を変更する高度の必要性があったものというべきであり、また、職能資格等級制度自体は、職能資格の上昇によって賃金が上昇するため公平感があり、人事として安定するとともに、労働者のモチベーション維持にもつながり、合理的な制度であり、さらに、Y社は、説明会やメールで従業員に新賃金制度の説明を行うとともに、従前の従業員代表者から通知された新従業員代表者との間で、新賃金制度について合意を形成したことが認められること等を総合して考えると、本件就業規則変更は、有効と認めることができる。

3 Xの取引先への対応に問題があるなどして、取引先との間でトラブルが複数回あったことを認めることはできるが、その全てがXのみを原因とするものであったとは認められないし、当該取引が破談となった、Y社が取引先を失ったなど、Y社の業務全体にとって相当な支障が生じたとか、Y社に大きな損害が発生したという事実も認められないから、解雇に相当するほど重大なものであるとは認めがたく、また、Xの上司が各トラブルの度に注意したことは認められるが、これを受けてXは謝罪をしたりトラブルの原因や今度の対策について報告をしたりしているから、Y社が主張するXの取引先とのトラブルの頻発は、就業規則58条6号「就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められるとき」として解雇理由に該当するものとはいえないというべきであること等から、本件解雇は、客観的に合理的な理由があるとは認められず、かつ、社会通念上相当であるとも認められないから、本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効である。

配転命令に関する判断もさることながら、上記判例のポイント2の不利益変更の手続の進め方は参考になりますね。

配転・出向・転籍38(ジャパンレンタカー事件)

おはようございます。

今日は、アルバイト職員の勤務地限定の合意に関する裁判例を見てみましょう。

ジャパンレンタカー事件(津地裁平成31年4月12日・労判ジャーナル88号2頁)

【事案の概要】

本件は、一般乗用旅客自動車運送事業、自動車の貸付業、遊技場の経営等を目的とするY社との間で、反復継続して労働契約を更新し、Y社のD店に勤務してきたアルバイト社員Xが、雇止めをされたことから、雇止めが合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、①労働者の地位確認及びそれに伴う賃金の支払を求めるとともに、②Y社には、社会保険の加入手続を取っていなかった不法行為責任があるとして、それに基づく損害の支払、③未払割増賃金の支払並びに④付加金の支払を求める訴訟を提起したところ、控訴審において、①を認容し、②ないし④を一部認容する判決がなされ、同判決は、平成29年6月3日に確定した。
Y社は、Xに対し、同月26日付けで就業場所をC店とする旨の配転命令を出した。

本件は、Xが、上記配転命令が無効であると主張して、Y社に対し、C店において勤労する労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、Y社が社会保険の加入手続をとっていなかったことが債務不履行に当たるとして、Y社に対しては債務不履行に基づき、また、代表取締役に対しては会社法429条1項に基づき、連帯して75万8746円+ちえんそんがいきんの支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

Y社はXに対し、75万8746円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社においては、アルバイトに配転を命じる旨の規定は存在するが、アルバイトは、Xが採用された当時ではなく、現時点に近いものではあるものの、基本的には、通いやすい場所を選んで、具体的な店舗に勤務するというのであり、他の店舗での勤務については、近接店舗に応援するのみであるとされていること、正社員についてさえも、通勤圏内での異動という場合もあるとされていること、Xは、平成6年3月からは、4か月ほどをE店で勤務したほかは、長年専らD店で勤務してきていること、Y社とXとの雇用契約書では、当初、「D店」とだけ限定した記載がされていたが、その後、「Y社D店及び近隣店舗」ないし「D店及び当社が指定する場所」と記載が変更されているが、このことについて、Y社からXへの説明はなされていないことからすると、XがE店からD店に異動し、D店からE店に一時異動したことがあることを考慮しても、Y社とXとの間では、Xの勤務地が必ずしもD店のみに限定されてないとしても、少なくともD店又はE店などの近接店舗に限定する旨の合意があったものと解するのが相当である。

2 仮に、Xの勤務先をD店又は近接店舗に限定する旨の合意が成立しているとまではいえないとしても、以上の事情からすれば、Y社には、Xの勤務先がD店又は近接店舗に限定するようにできるだけ配慮すべき信義則上の義務があるというべきであり、本件配転命令が特段の事情のある場合に当たるとして、権利濫用になるかどうか判断するに当たっても、この趣旨を十分に考慮すべきであるといえる。

3 Y社は、Xが、自分で働こうとせず、他の同僚に仕事を押し付けたり、他の従業員が仕事を頼んでも、冷たく威圧的な態度を取られるため、恐怖心を感じてしまうことから、他の従業員らにおいて、Xと一緒に働くことを拒絶していることから、XをD店に復帰させることも、三重県内の近接店舗に配転することも避けなければならない旨主張し、証拠にはそれに沿う部分が存在する。
しかし、Xは、これを否定する陳述及び供述をしている上、仮にそれに類する行為があったとしても、全証拠によっても、Y社がそれを会社の問題として捉えたとも、会社として正式に指導するなどしたとも認められないことからすると、Y社としては、Xを異動させなければならない事態には至っていないといわざるを得ないし、会社がそれらをし、Xをして改善の機会を何ら与えることなく、Xの異動をもって対処することは、上記の趣旨に反することを正当化する事情とはならないというべきである。

雇用契約書等に配転命令について規定されていたとしても、今回のようにそもそも合意の存在を否定されることがあることは理解しておきましょう。

仮に勤務地限定の合意がないと認定されたとしても、権利濫用該当性のハードルが待ち構えていますので、いずれにしても、慎重に対応すべきです。

配転・出向・転籍37(石田プレス工業事件)

おはようございます。

今日は、配転命令無効確認に関する裁判例を見てみましょう。

石田プレス工業事件(東京地裁平成30年12月28日・労判ジャーナル87号85頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結した従業員Xが、その勤務先をY社の埼玉工場に変更した配転命令を無効であるとして、埼玉工場に勤務する雇用契約上の義務のないことの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件雇用契約において、Xの就業場所を本社とし、職種を事務的な業務に限定する旨の合意があったと主張するが、本件雇用契約が締結された当初、Xの就業場所は本社、職務は管理部における事務的な業務とされたこと、Y社において、埼玉工場に勤務する従業員は、主として製造に関連する業務に従事しており、本社に勤務する従業員は、主として事務的な業務に従事し、両者の採用方法は異なっていたこと、本件雇用契約は、Xが、父親の従事していた経理業務を引き継ぐことを想定して締結されたことを認めることができるが、これらの事実を総合しても、XとY社の間に、就業場所又は職務内容を限定する合意があったことを認めることはできない

2 Xは、本件配転命令は、権利を濫用して発せられたものとして無効であると主張するが、本件配転命令は転居を必ずしも要しないものであった上、本件配転命令後、Xが、その健康に悪影響を及ぼすような業務に従事するよう命じられたことを認めることができる証拠はなく、また、Xと顧問税理士の関係は非常に悪化し、他の従業員を介して書類の授受ややり取りをする状況が続いており、Xを経理担当者とすることにより、他の従業員の業務に支障が生じており、このような中で、Xは、注意や指導を受けていたにもかかわらず、所得税の過納付、現金出納帳や手形帳における誤記や未記載等を生じさせたほか、預金口座の残高不足を原因とする引落しの遅滞も生じさせ、Xの経理担当者としての適性に強く疑問を生じさせるものといわざるを得ず、Y社の役員会において、Xを営業の業務に従事させることが検討されたものの、コミュニケーション能力や人間関係のために、営業への異動は難しいとの結論に至っており、他にY社の本社において、Xに適した業務は見当たらず、これに対し、埼玉工場において、新たに従業員を繰り返し採用していたことからすると、人員を補充する必要性が生じていたことを認めることができるから、本件配転命令が、権利濫用に当たるということはできない。

解雇等に比べると、配転命令のほうがハードルが低いですが、それでも丁寧に合理性を主張立証する必要があります。

不当な動機目的と認定されないためには、やはりここでも事前準備がとても重要です。

配転・出向・転籍36(ハンターダグラスジャパン事件)

おはようございます。

今日は、転居命令が業務上の必要性を欠くとして無効とされた裁判例を見てみましょう。

ハンターダグラスジャパン事件(東京地裁平成30年6月8日・労経速2365号18頁)

【事案の概要】

本件は、建材及びインテリア・ブラインド等の製造販売を主たる業務とするY社の従業員であるXが、Y社が平成28年11月4日にした転居命令に従わなかったことを解雇事由として平成29年3月31日付けで解雇されたことから、Y社に対し、本件解雇は客観的合理的理由及び社会通念上の相当性を欠き、労働契約法上無効であるなどと主張して、労働契約上の地位の確認、本件転居命令に従う義務のないことの確認、平成29年4月及び5月の賃金合計125万1000円+遅延損害金等の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

転居命令も無効

Y社はXに対し、125万1000円+遅延損害金を支払え 等

【判例のポイント】

1 本件について業務上の必要性をみるに、Y社は、往復6時間の長時間通勤は、Xの健康不安、疲労や睡眠不足による工場内事故の危険、通勤途中の事故や交通遅延の可能性の増大、残業を頼みにくい不都合等から、Y社はXの長時間通勤を長期間放置することはできず、本件転居命令には業務上の必要性がある旨主張する。
しかし、本件転居命令は、本件配置転換の約1年後に出されたもので、Xは、その期間、転居せず自宅から茨城工場に通勤していたこと、Xの茨城工場での業務内容は梱包作業であり、早朝・夜間の勤務は必要なく緊急時の対応も考え難いこと、X不在時には他の従業員がXの業務に対応することができたこと、Xに残業が命じられることはなかったこと、Xは、片道3時間かけて通勤しているが、交通事故のために休職した期間と一度の電車遅延による遅刻の他は遅刻や欠勤はなく、長距離通勤や身体的な疲労を理由に仕事の軽減や業務の交替を申し出たこともほとんどなかったことが認められる。
そうすると、Xが転居しなければ労働契約上の労務の提供ができなかった、あるいは提供した労務が不十分であったとはいえず、業務遂行の観点からみても、本件転居命令に企業の合理的運営に寄与する点があるとはいえず、業務の必要性があるとは認められない

2 本件転居命令を巡る交渉において、Xが不満とした家賃の負担や別居手当の不支給は、Y社の旅費規程で定められたものであるから、Y社がXの不満に対応することが出来なかったことはやむを得ない。また、本件転居命令を出したことにつきY社に不当な動機・目的の存在は認められないし、Y社がXに対して転居することを強く求めたのも安全配慮義務の履行のためであったことは否定できない。そうすると、本件転居命令が無効であり、それに従わないことを理由にした本件解雇が無効であるからといって、Y社がXに対して、本件転居命令に従うよう求めたことが直ちに不法行為に当たるとは認められない。
したがって、Xの不法行為に基づく慰謝料請求は理由がない。

会社の考えもわからないではありませんが、判決となるとこういう結果になりますね。

それにしても、毎日片道3時間の通勤ですか・・・。考えただけでしんどいです。

片道3分のところに住んでしまうと、もう長時間勤務ができない体になってしまいます。

配転・出向・転籍35(KSAインターナショナル事件)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用社員に対する配転命令の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

KSAインターナショナル事件(京都地裁平成30年2月28日・労判1177号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、違法無効な配転命令により損害を受けたと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき426万5800円の損害賠償+遅延損害金の支払を請求している事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、214万5000円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、平成27年1月16日にA監査室長から外す旨の配転命令を発しており、同月16日にはXが一度提出した始末書を書き直させることもしており、さらにXは同月22日に労働組合に加入して本件配転命令の撤回を求めていることからすると、Xが同月16日に嘱託契約書に署名捺印したのは、本件配転命令に不服があったものの、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
また、Y社では、同月26日に、同年2月1日付けでXを関西営業本部B事業部参事に異動させる配転命令をしたのであるから、それに基づいてXが引き継ぎをしたことについても、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
そして、配転命令が、その本来の適法性いかんにかかわらず、労働者の同意によって有効とされるためには、配転命令が違法なものであってもその瑕疵を拭い去るほどの自由意思に基づく同意であることを要すると解するのが相当であるから、本件では、Xがこのような同意をしたとは認められない
したがって、本件配転命令がXの同意を理由に有効であるとは認められない。

2 ・・・A監査室長の地位が、Y社の業務の内部監査と社員の研修を行う立場にあることを考慮しても、この社内メールをもってXがA監査室長として不適格であると認定することは、いささか早計に過ぎるというべきである。そして、XをA監査室長から外すことにより、Xが本件特約による退職金の補てん措置の対象外に減給措置を伴うものといえ、Xに経済的な不利益を及ぼすものでもある。これらの点を考慮すると、本件配転命令は、Xに経済的な不利益を及ぼしてまで行う業務上の必要性に欠けるというべきである。

3 本件配転命令により、Xは、月額5万円の退職金の補てんを得られなくなり、これは本件配転命令の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。そして、平成27年2月から本件口頭弁論終結日の属する月である平成29年12月までの間の35か月間の合計額は、175万円である。Xは、それ以後の分の損害も請求するが、XとY社との労働契約に職種限定がないことからすると、Xは業務上の必要があれば配置転換を命じられるべき立場にあるから、将来分の請求については未だ損害として認めるに足りない。
また、Xは、本件配転命令により精神的苦痛を受けたと認められるところ、経済的な不利益は前記により償われること、Xにも、A監査室長の立場にありながらY社の財務状況が悪いと根拠なく社内メールで述べたことに責められるべき点があることを考慮すると、本件での慰謝料は20万円と認めるのが相当である。

上記判例のポイント1はとても大切です。

当該同意が自由意思に基づいているかという論点はさまざまな事案で登場します。

裁判所がどのような点に着目して判断しているのかを理解しておきましょう。

配転・出向・転籍34(ホンダ開発事件)

おはようございます。 みなさん、よいGWを!

今日は、転勤命令の有効性ならびに上司らの言動等による不法行為の成否に関する裁判例を見てみましょう。

ホンダ開発事件(東京高裁平成29年4月26日・労判1170号53頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として採用され、そのA5事業部総務係に配属されたXが、その後、上司であるC及びDらの言動により精神的に苦痛を与えられた上、合理的な理由なく、不当な動機・目的によりY社のA3事業部ケータリングサービス課ランドリー班に異動させられたとして、Y社に対し、A3ランドリー班において勤務する労働契約上の義務を負わないことの確認を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求権により、慰謝料500万円+遅延損害金の支払いを求める事案である。

原審は、請求棄却。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、100万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社の労働協約及び就業規則には、業務上の都合により、配置転換等を命ずることがある旨が規定されており、Y社には社員の配置転換等について、裁量が認められるところ、Xも出張精算業務や常便業務等の一定の総務業務は担当していたが、担当する業務においてミスが多く見受けられていたこと、A5総務では総務係の人数等から総務業務以外の業務も内部で手分けして担当する必要があった反面、A3ランドリー班では洗濯物の数量が増加し、人員の補強が求められており、本件異動命令が不当な動機・目的をもってなされたとまでは認めるに足りる証拠がないことからすれば、C及びDがしたXへの業務分担の在り方や本件異動を命ずることなどは、新卒社員に対する対応としては配慮に欠ける部分が多く見られるものの、これを違法と評価し、本件異動命令が無効であるとまで認めることはできない

2 しかしながら、Xが、大学院卒の新入社員でありながら、配属直後に、X以外誰も経験していない配属先の部署とは異なる部署で約1か月半もの間の研修を命じられたこと、その後も2年以上にわたって、配属先の部署の業務に専念し、同業務を修得する十分な機会を与えられないままの状態にありながら、本来達するべきレベルに達していないとの評価をされた上、それまでの業務とは関係がなく、周囲から問題がある人と見られるような部署に異動させられたことが認められる。また、Xは、総務係の仕事を担当することを希望しながら、実際には、C又はDの指示により、販売部門の所管する自販機の在庫集計作業やOJTプログラムには記載がない社員寮の契約社員の面接事務を担当した上、自販機の在庫集計作業では、自らの提案が認められなかったのに、Jの同様の提案は採用され、Cから、Jを見習うように指導されたことが認められる。そして、Cの平成23年12月の面談の際の発言は、X本人尋問の結果からうかがわれるXの内向的な性格に加え、同期会が関東地区で行われたことに鑑みると、Y社における上司で、先輩社員であることからの助言であるとしても、配慮を欠いたものというべきである。また、Cの平成24年8月の面談の際の発言についても、ミスは重ねながらも、ケアレスミスをなくし、少しずつではあるができる役割を増やそうとしているXに対し、配慮を欠いた言動であり、これを聞いたXが悔しい気持ちを抱いたことは十分に理解できる。さらに、平成25年7月の新入社員の実習終了後の送別会の二次会でのDの「多くの人がお前をばかにしている。」との発言に至っては、Xに対する配慮が感じられない発言であり、内向的な性格のXが「多くの人って誰ですか」と問いただしたことからも、Xの屈辱感には深いものがあったというべきである
以上のC及びDの言動並びに本件異動は、一体として考えれば、Xに対し、労働者として通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すものと評価すべきであり、かつ、前記のC及びDの言動はY社の業務の執行として行われたものであることから、全体としてY社の不法行為に該当する。

通常、このようなケースでは、裁判所は多額の慰謝料を認めない傾向にあります。

本件では、100万円を認めており、金額としては比較的高額になっています。

配転・出向・転籍33(廣川書店(配転)事件)

おはようございます。

今日は、組合員2名に対する配転命令の有効性と不当労働行為該当性に関する事案を見てみましょう。

廣川書店(配転)事件(東京地裁平成29年3月21日・労判1158号48頁)

【事案の概要】

本件は、東京都文京区所在の出版社であるY社の従業員であり、労働組合の組合員であるX1及びX2が、Y社から、平成28年2月1日付けで、埼玉県所在のZ分室で勤務するように命じられたこと(本件配転命令)について、これは就業場所の変更を伴う配転命令であるところ、Y社には配転を命じる権限がないので、本件配転命令は法的根拠を欠き違法、無効である、そうでなくとも、本件配転命令は裁量権の濫用に当たり、又は労働組合法7条1号所定の不当労働行為に当たり違法、無効であって、不法行為を構成すると主張して、Y社に対し、それぞれ、Z分室に勤務する義務のない地位にあることの確認と、精神的苦痛の慰謝料50万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、30万円+遅延損害金を支払え

2 X2が、Yに対し、Z分室に勤務する義務のない地位にあることを確認する。

3 Y社は、X2に対し、30万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 XらがZ分室で行っている業務は、それらが業務の全てであるかどうかは別にして、基本的に従前と同様の内容であるから、それらを敢えて本社社屋から片道約1時間かかるZ分室まで赴いて行う意味があるのか、大いに疑問がある上、Y社が命じた勤務形態が、午前9時に本社社屋に出社し、タイムカードを打刻してからZ分室に向かい、同所で作業後、午後5時には本社社屋に戻るということであり、Z分室への往復に要する2時間程度の間は業務が処理できず、停滞を余儀なくされることも勘案すれば、本件配転命令は明らかに不合理であり、Z分室にXらを配転する業務上の必要性があるとは容易に認めることはできず、むしろ、このような配転には業務上の必要性がないという推定が働くというべきである。

2 ・・・加えて、Xらは外気を壁や扉で遮断する措置が講じられていない倉庫の一角という、およそ事務作業をするのに適さないと思われる作業場におり、同所は、Xらが平成28年3月10日に調査した際には、暖房の近くでも摂氏14度しかなく、そのことを伝えられたY社がヒーターを設置した経緯があることからしても、本件配転命令に当たってのY社の準備等はいかにも場当たり的であって、この点も、本件配転命令の不合理性を示すものといえる。

3 しかも、本件配転命令には、他の組合員の継続雇用に関する非組合員との差別的取扱いや団交拒否について、Y社に対し、複数の不当労働行為救済命令が出されている中で発せられたという経緯があり、その経緯からは、Y社が労働組合を嫌悪し、本社社屋から組合員を排除するという不当な目的をもって本件配転命令を発したことが推認されるというべきところ、・・・この推認を覆すような証拠は見当たらず、前述のとおり、業務上の必要性が認められないことも、この推認を支えるものである。

わかりやすく配転の必要性がないケースですね。

これではさすが無効です。

配転・出向・転籍32(大王製紙事件)

おはようございます。

今日は、降格処分は有効であるが出向命令は無効とされた裁判例を見てみましょう。

大王製紙事件(東京地裁平成28年1月14日・労経速2283号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社による配置転換命令、降格処分、出向命令、懲戒解雇はいずれも無効であると主張して、Xが労働契約上の権利を有し、降格処分前の地位にあること、配置転換先及び出向先に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成25年2月分の未払賃金、解雇後である同年4月以降の月例賃金及び賞与+遅延損害金の各支払を求め、また、Y社がXの内部告発に関するプレスリリースを発出したことによりXの名誉を毀損し、懲戒委員会を開催してXを難詰し、全く合理性のない配置転換命令等を乱発し、無効な降格処分及び懲戒解雇をするなどした一連の行為が、Y社のXに対する不法行為を構成すると主張して、民法709条、715条に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 XとY社との間で、Xがダイオーロジスティクス株式会社赤平営業所に勤務すべき労働契約上の義務がないことを確認する。

3 Y社はXに対し、36万0841円+遅延損害金を支払え

4 Y社Xに対し、平成25年5月から月例賃金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社において、Xを重要な機密情報を取り扱わない部署に再配置する必要があったことは認められるものの、赤平営業所所長という役職は、業務内容の観点からみてXの配置転換先としての合理性を欠くといわざるを得ないものであった。・・・加えて、赤平営業所署長という役職は、実質的には赤平製紙業務課の物流業務の一担当社にすぎず、関係会社の取締役総務部長を歴任したXの配置転換先として余りに不相応なものであった。これらの事情に、赤平出向命令が、本件降格処分を告知した直後にその場で発せられたものであり、Y社において、懲戒処分の検討と平行してXの配置転換先の検討が進められたと考えられることをも併せ考慮すれば、Y社は、懲戒事由に該当する非行をしたXの処遇として、本件降格処分と赤平出向命令とを併せて決定したものであり、実質的にXを懲戒する趣旨で赤平出向命令を発したとの評価を免れないというべきである
そうすると、赤平出向命令は、その動機・目的が不当なものであるといわざるを得ないことになるから、出向命令権を濫用したものとして、無効であるというべきである(最判昭和61年7月14日)。

2 出向命令権や懲戒権の行使が無効であることから直ちに不法行為が成立するものではなく、別途、不法行為に成立要件を充足するか否かを検討すべきであるところ、赤平出向命令は、実質的に懲戒の趣旨で配置転換先を決定したと評価される点において不当というべきものであったが、他方において、その当時、Xを暫定的な配置先であった総務人事本部人事部付から配置転換する必要があったことまで否定されるものではなく、その際、XがY社の秘密に属する情報を漏らしていたことに照らし、重要な機密情報を取り扱わない部署に配置する必要があると判断したことにも合理が認められること、Xは懲戒事由に該当する程度の思い非行をしていたのであり、懲戒事由がない者に対して懲戒の趣旨で配置転換をした場合とは異なること、Xは赤平出向命令に従っておらず、出向に伴う事実上の不利益を実際に受けたわけではないことに鑑みれば、Y社が赤平出向命令を発出し、これに従わなかったことを理由として本件懲戒解雇をしたことが、社会的相当性を逸脱し、不法行為法上違法であるとまでいうことはできないというべきである。

懲戒的意味合いで出向命令を行う場合、上記判例のポイント1のような判断につながってしまいます。

配転・出向後の役職や仕事の内容が大幅に下がる場合、当該業務命令の有効性は、合理的な理由を説明ができるかどうかにかかってきます。

配転・出向・転籍31(社会福祉法人奉優会事件)

おはようございます。

今日は、出向命令が有効とされた裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人奉優会事件(東京地裁平成28年3月9日労経速2281号25頁)

【事案の概要】

本件は、主位的に、Y社のXに対する違法な出向命令により、Xの出向後の給与及び賞与が出向前よりも減額したとして、その差額について、不法行為に基づく損害賠償を求め、予備的に、出向命令が有効であるとして、上記差額について、出向規程に基づく補償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件限定合意がある以上、Xの同意のない本件出向命令は違法・無効であると主張する。確かに、労働条件通知書には、「就業の場所」として、「特別老人ホーム白金の森」と記載されているが、当該記載は、採用時の労働条件の明示事項(労働基準法15条1項)である勤務の場所を記載したものであり、採用直後の勤務場所を記載したものにすぎないと認められる。また、Xは、募集要領に「法人内異動:有」と記載されているところ、Xの就業場所としてY社が経営する施設以外への出向等がないかについて、就職時、特に確認していたと主張する。しかし、Y社は本件限定合意の成立を否認しており、Y社職員のうちXだけ出向規程の適用を排除すべき特段の事情があったと認められないこと、他に上記合意の成立を認めるに足りる的確な証拠がないことからすれば、本件限定合意が成立していたと認めることはできない

2 Y社は、ケアマネージャーとして勤務したいというXの希望を踏まえた上で、本件出向命令に至っているのであって、出向を命ずる業務上の必要性はあったと認められ、他に本件出向命令について、不当性をうかがわせるような事情はない。また、本件出向命令によってXの労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容(SPM)について、事前に説明会が実施されており、Xは自分が担当するSPMの業務内容について十分理解していたこと、出向規程において、出向中の職員の地位、賃金、退職金その他処遇等に関する規定等、特に本件補償規程を設けて、経済的不利益が大きくならないように配慮していることを勘案すれば、Xが労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。そして、本件出向命令に至る経緯及び本件出向命令後、Xは何ら異議を述べることなく出向先での勤務を開始していることからすれば、Y社において、Xが出向に同意したものと認識し、出向同意書の返送を催促せず、その結果、出向同意書が未提出のままになっていたことも理解できるものであり、当該事実が、本件出向命令の不当性をうかがわせるような事情であるとはいえない
これらの事情にかんがみれば、本件出向命令が権利の濫用に当たるということはできない。

X側とすれば、限定合意の存在を強く主張しましたが、この点について裁判所が否定したためにかなり厳しい戦いとなりました。

出向命令自体、特に不当な目的のためになされたものでもなく、かつ、経済的不利益を減らすための措置を講じていることからこのような判断となりました。

配転・出向・転籍30(L産業(職務等級降級)事件)

おはようございます。

今日は、職務変更に伴うグレード格下げと賃金減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

L産業(職務等級降級)事件(東京地裁平成27年10月30日・労判1132号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社が採用するいわゆる職務等級制の人事給与制度の下で、Y社によって職務を変更され、これに伴い職務等級(グレード)が降級され賃金が減額されたこと等について、当該措置が無効であるとして、降級前の等級(マネジメント職のグレード「E1」)につき労働契約上の地位を有することの確認、降級前後の月額給与の差額及び賞与の差額+遅延損害金の支払を求めるとともに、当該措置が違法であり、これによって精神的苦痛を被ったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料+弁護士費用)+遅延損害金を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Gチームの解散により、Xがそれまで就いていたGチームのチームリーダーの職務、役職自体はなくなったものであるから、Xを同チームリーダーの地位からはずすことについては業務上の必要性が認められる。また、Xが本件人事発令により就いた臨床開発部医薬スタッフという職務は、医薬情報部がXをチームリーダーとして受け入れられなくなって、急きょXに割り当てるポストを探したところ、臨床開発部の人員が足りないので、Xの配置先となったという経過からすると、Xをそこに配置する業務上の必要性自体は認められるというべきである。

2 確かに、上記異動時にはH部長からXに医薬情報部の元のポストに戻ることを念頭に置いた説明があったにもかかわらず、Gチーム解散時には専らH部長の反対によってXの上記ポストへの復帰が実現せず、本件人事発令に至ったとの経過が認められ、前言を翻したかのような配転、処遇を強いられたXにおいて、期待・信頼を裏切られたと考えても無理からぬところがあったといえる。
とはいえ、Gチームの解散時期すら当初は未確定であり、H部長の説明にしても、その間に事情変更が生じかねないことも織り込んだ上で、将来にわたる人事異動・配置の見とおしを述べた程度のものとみるべきであり、Y社においてXに対する何らかの義務を負うような合意が成立したとみることはできない。本件人事発令と同時期にJを医薬情報部チームリーダーに充てたことについても、XとJのいずれが適任であるかについては人事上の裁量判断に属し、Xがかつて同じポストに就いていたことや、XがGチームグループへ異動する際に上記のとおりの経緯、H部長の説明があったことだけでは人事上の裁量権の範囲の逸脱を基礎付けるに足りるものとはいえない。

3 もとより、ここで生じた減収を少額ということはできず、超過勤務手当の支払額は労働実態に呼応して変動し得る不確定なものであるとの事情も無視はできないが、本件人事発令により管理職に相当するマネジメント職の地位からはずれ、その職務内容・職責に変動が生じていることも勘案すれば、Xに生じた上記減収程度の不利益をもって通常甘受すべき程度を超えているとみることはできない

マネジメント職から一般職への配転命令に伴い、減収が生じる場合、どうしても訴訟リスクが高まります。

裁判所は、本件配転命令の有効性について、東亜ペイント事件最高裁判例の規範に基づき判断しています。

参考にしてください。