Monthly Archives: 9月 2018

セクハラ・パワハラ42 休職期間満了に伴う復職の可否の判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラに基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ビーピーカストロール事件(大阪地裁平成30年3月29日・労判ジャーナル76号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に在籍中、上司Aからパワーハラスメントの被害を受けたとして、Y社及び上司Aに対し、不法行為に基づき、慰謝料等を請求し、また、上司Aのパワハラによってうつ病を発症し、会社を休職しており、その後に復職できる状況となったが、Y社が職場環境調整義務を怠ったため、復職をすることができず賃金相当額の損害が毎月発生しているとして、不法行為に基づき、賃金相当損害金を請求し、さらに、復職の許可を受けたものの会社に復職しなかったことを理由にY社から解雇されたが、Xが、Y社が職場環境調整義務を怠ったため復職できなかったものであり、当該解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 休職期間中であった従業員が復職するに際しては、使用者においては、復職のための環境整備等の適切な対応を取ることが求められるが、もっとも、その個別具体的な内容については、法令等で明確に定められているものではなく、使用者が事業場の実情等に応じて、個別に対応していくべきものといえるところ、Xについて、一応の業務軽減が図られていること、Xは、直行直帰を主たる勤務形態とする営業担当従業員であり、業務の遂行はX自身の判断で調整可能であったこと、d支店における営業担当従業員の業務が特に負担の重い業務であるとまではいえず、Xが休職中は、4名で行っていた業務を3名で対処できていたこと、取引先に対し、同行しての引継は予定されていなかったが、平成28年5月17日のやり取りからすれば、Xが同行しての引継を求めれば、上司も対応する余地があったと考えられ、このような措置が取られなかったのは、Xからの要望がなかったためであること等から、本件において、Y社において、法的義務に違反したとまでは認められない。

2 Xは、休職期間満了後も会社に出勤せず、Y社は、再三にわたって出勤を求め、欠勤を続けた場合は解雇とすることもあり得ることまで明示したものの、Xは出勤しなかったものであり、かかる行為は、Y社の就業規則における解雇事由に該当し、そして、労務の提供は、労働契約における労働者の中核をなす債務であるところ、Xは自らの意思でそれを行わず、しかもその期間が半年以上の長期にわたっていること等の本件の事情を総合すれば、本件においてY社がした解雇が解雇権を濫用したものとは認められないから、本件解雇は有効である。

休職期間満了後の復職に関する問題です。

会社としてどのような対応をとるべきかについてはなかなか判断が難しいと思いますので、弁護士と方針について検討しながら進めていきましょう。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介835 人はカネで9割動く(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
人はカネで9割動く: 成功者だけが知っている「生き金」のつかい方 (知恵の森文庫 t む)

刺激的なタイトルですが、内容はとても参考になります。

サブタイトルは「成功者だけが知っている『生き金』のつかい方」です。

本全体がこの「生き金」の使い方についてのレクチャーとなっています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・値切らないことによって、大きな実を得る-。お金の生かし方を熟知するヤクザならではの発想と言えようか。一般人に、こうした発想はない。値切れば得をすると考える。違うのだ。値切れば『損』をするのだ。」(149頁)

一般人でもこういう発想の人は普通にいます。

病院で自由診療を受けて、治療終了後に「まけてほしい」と言う人がいるでしょうか。

銀座の値段が書かれていないお寿司屋さんに行って、食べた後に「まけてほしい」と言う人がいるでしょうか。

少しでも安く買えればそれでよいということでしょう。

それはそれで好きにすればいいですが、こういう方と長いお付き合いはしたくありません。

自分本位で取引相手に対するリスペクトがないからです。

要は、嫌な仕事、嫌いな人のために仕事をしたくない、ただそれだけのことです。

お互い気持ちよく仕事をするためにも「金払い」がせこい人には近寄らないことにしています。

解雇276 不正行為を理由とする懲戒解雇と事前調査の相当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不正行為等に基づく懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

埼玉県森林組合連合会事件(さいたま地裁平成30年4月20日・労判ジャーナル77号30頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がした懲戒解雇及び普通解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位の確認並びに未払賃金及び未払賞与等の支払及び、Y社の理事を務める理事らが、一体となって本件解雇を画策し、極めて悪性の強いパワーハラスメントを行い、Y社をして、本件解雇を行わせたとして、連帯して、慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇及び普通解雇は無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社が主張する事由のうち、西川広域森林組合への発注、公印の無断使用(農協分受託契約)及び扶養手当の受給に関しては、Xの行為は、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき」に当たり、Xに懲戒の事由があると認めることができるものの、西川広域森林組合への発注については、Y社に実損害を生じさせたと認めることはできず、また、公印の無断使用(農協分受託契約)については、3件中2件につき事後の決裁が得られており、扶養手当の受給についても、Xはその過誤を認め返納を申し出ているから、これらを懲戒解雇を相当とするほどの事由であると認めることはできず、Xには一定の懲戒事由がある上、代理人弁護士による相当の弁明の機会も行われているが、その前提となる調査委員会の調査は十分なものでなく、前記懲戒事由が、それ自体で懲戒解雇を相当とするほどの事由であるとは解されないことからすれば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、懲戒権の濫用に当たるから、労働契約法15条に反し、無効である。

2 Xは、理事らは、何らの解雇理由もないのに、一体となってXを解雇しようと画策し、極めて悪性の強いパワーハラスメントを行って、結論ありきで解雇の手続を推し進め、Xを不当解雇したと主張するが、Xには一定の懲戒事由があることからすれば、理事らが何らの事由もなく一体となってXを解雇しようと画策したなどと認めることはできないこと等から、Y社のXに対する本件解雇は違法であるものの、理事らのXに対する不法行為の存在は認められず、そして、Y社がした本件解雇が違法であるとしても、Xには一定の懲戒事由の存在が認められることからすれば、本件解雇により賃金及びその遅延損害金の支払によってまかなわれない精神的損害を生じたと認めることはできないから、Xの不法行為に基づく慰謝料請求には理由がない。

相当性の要件の判断を使用者自ら適切に行うことは本当に難しいです。

顧問弁護士の客観的な判断を参考にして判断するというのが現実的だと思います。

本の紹介834 いい言葉は、いい男をつくる(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
いい言葉は、いい男をつくる (知的生きかた文庫)

かれこれブログで紹介をしている里中さんの本です。

今回の本では、著名な方の言葉について、里中さん独特の解釈をした上で解説をしてくれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私は弱者よりも、強者を選ぶ。積極的な生き方を選ぶ。この道が実際は苦難の道なのである。(坂口安吾/『恋愛論』
・・・弱者になるのは簡単である。何もしなければいいのだ。現状維持でもいいのだ。わざと堕ちてもいいのだ。『強者になりたい』そう思わなければ、人生は本当に楽である。男たちよ。それでいいのか。それでいいのなら、もう何もいわない。多くの弱体化した日本の男たちと一緒に弱まっていくといいだろう。」(20~21頁)

今の世の中、「男たるものは強くあるべし」なんて価値観はもはや存在しないのでしょうが、

そう思っている男性が存在するのもまた事実です。

当然のことながら、みんな好きに生きればいいわけです。

だからこそ、強くありたいと思う人はそのための努力を続ければいいだけの話です。

肉体も精神も強くありたいと思う人は、まずは人よりも早起きをしてとりあえず筋トレをしましょう(笑)

日々の鍛練が足りているかどうかは、体つきを見れば一目瞭然なので。

セクハラ・パワハラ41 職場環境配慮義務違反が否定されるために求められる具体的内容(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、自死した亡従業員の会社等に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

関西ケーズデンキ事件(大津地裁平成30年5月24日・労判ジャーナル77号22頁)

【事案の概要】

本件は、亡従業員Xの遺族らが、Xが勤務していたY社運営の本件店舗の店長が、Xに対し、注意書の徴求、競合店舗の価格調査の強要等のパワハラを行ったことにより、同人が自死したとして、店長には不法行為が成立し、また、店長の使用者であるY社には使用者責任又は安全配慮義務違反を原因とする債務不履行が成立すると主張し、Xの遺族らが、店長に対しては不法行為に基づき、Y社に対しては主位的に使用者責任に基づき損害賠償金約3508万円等の連帯支払を求め、Y社に対して予備的に債務不履行に基づき、損害賠償金同額の損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料100万円を認容

【判例のポイント】

1 店長がXに本件配置換えについての意向を打診した際に説明した価格調査業務の内容は、Y社の親会社であるA社が編成するマーケットリサーチプロジェクトチームの業務内容に匹敵する業務量であるにもかかわらず、これをフルタイムで勤務する時給制の非正規雇用労働者1人が地域で競合する1店舗のみに専従するという意味において、極めて特異な内容のものであり、たとえ、店長に、Xに対して積極的に嫌がらせをし、あるいは、本店店舗を辞めさせる意図まではなかったとしても、本件配置換えの結果、Xに対して過重な内容の業務を強いることになり、この業務に強い忌避感を示すXに強い精神的苦痛を与えることになるとの認識に欠けるところはなかったというべきであるから、店長による本件配置換え指示は、Xに対し、業務の適正な範囲を超えた過重なものであって、強い精神的苦痛を与える業務に従事することを求める行為であるという意味で、不法行為に該当すると評価するのが相当であるから、Xに対する店長の行為のうち、本件配置換え指示については、Xに対する不法行為を構成する。

2 Y社においては、店長等の管理職従業員に対してパワハラの防止についての研修を行っていることパワハラに関する相談窓口を人事部及び労働組合に設置した上でこれを周知するなど、パワハラ防止の啓蒙活動、注意喚起を行っていることが認められるし、本件においても、Xは店長からの本件配置換え指示について、パワハラに関する相談窓口となっているY社労働組合の書記長に対して相談したところ、書記長は、これを受けて部長に対して本件配置換えを実行させないように指示されたいとの連絡をしているのであって、Y社における相談窓口が実質的に機能していたことも認められるから、Y社としては、パワハラを防止するための施策を講じるとともに、パワハラ被害を救済するための従業員からの相談対応の体制も整えていたと認めるのが相当であるから、Y社の職場環境配慮義務違反を認めることはできない

たとえ、積極的に嫌がらせをする意図まではなかったとしても、不法行為に該当することは当然あり得ます。

また、ハラスメントに対する対応策については、上記判例のポイント2が参考になります。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介833 大人がマジで遊べば、それが仕事になる。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
大人がマジで遊べば、それが仕事になる。

帯には「『好き』を『仕事』にして、望み通りに『生きる』には?」と書かれています。

簡単なことです。

今の仕事を好きになればいいだけのことです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

みんなが見ているようなものをやったって、失敗するっていう話よ。これやったら当たる、なんていうのは、絶対に当たらない。自分の感覚だけを頼りに、みんなが見てない『鼻先』を狙うんだよ。これ、ヒッチハイクで乗せてくれた、サワラ漁の漁師のおじさんが教えてくれたんだけどさ。」(202頁)

やっぱり、成功は、安心とか安定とは反対のところにあるのです。

あまりよく考えないで、とりあえずみんながやっているから自分もやるという人生を歩んでいると、それが習慣となってしまい、もうその道から抜け出すことがだんだんできなくなってくるのです。

常にどうしたらもっと良くなるかを考えて、試して、失敗して、改善してっていうのを繰り返す。

言ってみればそんなたいした話ではないのですが、そういう習慣が身についていないとなかなかできないのです。

どのような習慣を身につけるかで人生が決まります。

労働者性22 元代表者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

ネットショップN社事件(高松地裁平成29年4月18日・労判1180号147頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、XらとY社との間の労働契約に基づき、①時間外労働等による平成25年3月から12月までの割増賃金、②労働基準法114条に基づく付加金、③平成25年の冬季賞与及び④退職金を請求し、⑤いわゆるパワーハラスメントによって精神的苦痛を受けたことを理由とする不法行為、債務不履行(安全配慮義務違反)又は会社法350条に基づく慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 X1は平成25年9月1日以降、Y社の代表取締役として経済紙のインタビューに応じ、また、政策金融公庫に自ら出向き、現に800万円の融資を受け、その連帯保証人になるなど、代表取締役として業務を行っていたと認められる。他方で、残業手当の支給があること等X1が主張する事情は、X1とY社との間の労働契約関係の存在を推認するに足りない。

2 勤怠報告書は、Y社が労働時間管理に用いていたものではなく、Xらが平成27年5月22日に本訴を提起するに先立ち、自身の記憶に基づいて作成したというのであるから、客観的な資料とは言い難く採用できない
Xらは、Y社がY社事務所の入退室記録の開示を拒み、Xらの立証活動を妨害したというが、入退室記録から直ちにXらの個々の出退勤時刻が明らかになるわけではなく、開示を拒んだことが直ちに立証活動の妨害とは評価できない。また、Y社が従業員の労働時間を管理していたとは認められないものの、Xらの時間外労働を概括的に推認させる証拠すらない以上、Xらの主張は採用できない。

ときどき代表者の労働者性が問題となることがありますが、かなりハードルは高いですね。

また、使用者が適切に労働時間の管理をしていない場合、労働者側としては、そのことを理由に概括的な認定を要求しますが、裁判所としてもある程度判断の拠り所になる資料がないといかんともしがたいと考えるのです。

ここは難しいところで、この考えを突き詰めると、結局、ちゃんと労働時間を管理している使用者の方が不利になるように思えて、正直者がバカを見る感じになります。

和解でなんらかの解決が可能であればいいのですが、判決まで行くと今回の裁判例のような判断も十分考えられるので、注意が必要です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介832 一流の人は小さな「ご縁」を大切にしている(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
一流の人は小さな「ご縁」を大切にしている

著者は弁護士の方です。

労務管理を専門にしている弁護士でとても有名な先生です。

タイトルのとおり、「ご縁」を大切にしましょう、と説いています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

縁を得た方に対しては常に『相手のために何ができるのか』を考え、行動することが非常に重要です。と言っても、相手に直接『何か、私にできることはありますか?』などと尋ねるのは無粋の極み。会話のなかから相手の要望を汲み取り、自分にできることを考えるのです。・・・ポイントは『想像力』。相手の身になって考えること。」(90頁)

ここでも他者への想像力のお話が出てきます。

会話を含めて、一挙手一投足から目の前の方が望んでいることを察することができるか。

できる人はできるし、できない人はできない。

どこからその差が生じるのかよくわかりませんが、その差が成果として表れることは言うまでもありません。