賃金274 免許取得のための教習費用相当額貸付け制度が労基法16条に違反しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、免許取得のための教習費用相当額貸付け制度が労基法16条に違反しないとされた事案を見ていきましょう。

東急トランセ事件(さいたま地裁令和5年3月1日判決・労経速2513号25頁)

【事案の概要】

本件第1事件は、Y社が、Y社の従業員であったXに対し、消費貸借契約に基づき、貸金31万0800円+遅延損害金の支払を求める事案である。

本件第2事件は、Xが、Y社で就労中、上司らから、退職強要、パワハラ、不当な減給等を受けたために、精神的苦痛を受け、退職や離婚を余儀なくされたなどと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として、民法709条、715条1項に基づき、損害合計1882万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Xは、Y社に対し、31万0800円+遅延損害金を支払え。

2
 Xの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、本件消費貸借契約の契約書は、必ず提出するよう言われ、書くことを強要されたもので、自由な意思ではないから無効である旨主張する。
しかしながら、入社経緯に加え、そもそも、教習所の費用については、一般に、借り入れしなくても支払う選択肢もあり得るのであること、本件消費貸借契約には利息の定めもなく、Y社がかかる契約を強制するメリットも考えられないことに照らすと、Xが、本件消費貸借契約書の契約書について、記載を強要されたものと認めることはできない。

2 本件においては、本件消費貸借契約は、労働契約の履行、不履行とは無関係に定められており、単に労働した場合には返還義務を免除するとされている規定である。加えて、確かに、大型二種免許は、Y社のバス運転士としての業務に不可欠の資格であるが、国家資格として、X本人に付与される資格であり、他の業務にも利用できること(なお、Xは、後に交通事故に遭い、資格を生かすことができない旨主張するが、かかる事後的な事情が本件消費貸借契約の有効性に影響を与えるものではない。)、X自身も、Y社の養成制度を理解した上で本件消費貸借契約を締結したものと認められること、その金額も、31万0800円とXの月額給与二か月分程度であることなどに照らせば、本件消費貸借契約が、Xの自由意思を不当に拘束し、労働関係の継続を強要するものということはできない。
以上によれば、本件消費貸借契約は、Y社がXに対して貸付をしたものとして、本来労働契約とは別に返済すべきでものであるが、一定期間労働した場合に、返還義務を免除する特約を付したものと解するのが相当であって、労働契約の不履行に対する違約金ないし損害賠償額の予定であると解釈することはできない。

この種の事件は比較的多く発生していますので、ポイントをしっかりと押さえてください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。