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今日は、原告が履歴書及び職務経歴書に真実と異なる記載をしたことを理由とした内定取消しが有効であるとされた事案について見ていきましょう。
アクセンチュア事件(東京地裁令和6年7月18日・労経速2574号9頁)
【事案の概要】
本件は、Y社から採用内定を受けていたXが、その後の経歴調査により虚偽の経歴の申告が判明したなどとして同内定を取り消されたことにつき、Y社に対し、同内定取消しが無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、Y社との雇用契約による雇用期間の始期である令和4年9月1日以降の未払賃金として、同月から本判決確定の日まで毎月25日限り48万8333円+遅延損害金の支払を求めるとともに、違法な内定取消しにより著しい精神的損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料等合計110万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Xが虚偽の申告をした事項は、Xの経歴のうち、職歴という労働者の職務能力や適格性を判断するための重要な事項であった。そして、使用者が労働者を雇用するに当たり、職歴を申告させる理由は、その申告された職歴に基づいてその労働者の職務能力や従業員としての適格性の有無を的確に判断するためであり、そうであるからこそ、Y社においても、本件履歴書及び本件職務経歴書の提出に当たり「提出した書類の記載内容はすべて正確であり、採用審査で誤判断を招くような虚偽の記載や隠れた事実はありません。」との免責事項の確認を求めているものと推認できる。Xは、上記免責事項に「はい。」と回答した上で本件履歴書及び本件職務経歴書を提出した以上、信義に従い真実を記載すべきであったにもかかわらず、F社及びG社について、本件履歴書及び本件職務経歴書にそもそも雇用関係があった旨の記載をせず、虚偽の申告をしたものであって、背信行為といわざるを得ない。
2 そこで、その背信性に関し、Xが本件履歴書及び本件職務経歴書に真実の職歴を記載しなかった動機について検討を進めると、Xは、Y社への応募に先立つ直近1年間に、まず、F社との有期雇用契約を雇止めとなり、同雇止めを巡って同社との間で紛争になり、同社からは雇止めの理由として原告のM社におけるコミュニケーション不足が主張されていたこと、また、その後に雇用されたG社との間でも、Xは、Xが同社の業務命令に従わず個別の注意等による反省も見られないなど通常の業務遂行が困難なためとの解雇理由により、雇用開始から約1か月後の試用期間中に普通解雇されたことが認められる。これらの事実に加え、Xが本人尋問において、本件履歴書に上記各社の職歴を記載しなかった理由として「自分から、よく分からない理由で解雇されましたなんて言えないわけじゃないですか。」などと供述していたことも併せ鑑みると、Xは、F社及びG社の職歴を本件履歴書及び本件職務経歴書に記載すれば、これらの雇用関係の解消を巡り上記各社との間で紛争が生じたことが明らかになる可能性があり、自己の採用に不利益に働くと考えたからこそ、上記各社との紛争の存在がY社に発覚する端緒となるような上記各社との雇用関係や上記各社との雇用関係の間の職歴の空白期間について、真実を申告しなかったものと推認される。かかる動機からするとXの背信性は高い。
3 これらの虚偽の申告事項や動機からすれば、Xが本件履歴書及び本件職務経歴書において虚偽の申告をして秘匿した事項は、単にF社及びG社との各雇用関係という事実それ自体のみならず、上記各社との雇用関係の解消を巡る紛争の存在であったと認めるのが相当である(なお、上記各社との紛争の存在自体は、本件内定取消し前に、本件バックグラウンドチェックを踏まえて行われた面接時に初めてY社に判明している。)。そして、F社及びG社とXとの紛争の態様は上記のとおりであり、上記各社のいずれも、従業員であったXに帰責事由があるとの認識でXとの雇用関係の解消に至ったものであったことが認められることからすると、その法的な当否はおくとしても、これらの事実は、Y社にとって原告の採否の判断において従業員としての適格性に関わる重要な事項たり得るものであったといえる。
4 また、Xによる虚偽申告の方法や態様について見るに、Xは、本件履歴書及び本件職務経歴書に真実とは異なる記載をしていることを当初から認識していたにもかかわらず、上記のとおり、本件履歴書及び本件職務経歴書の提出時に免責事項の記載においても「はい。」と回答していた。その上、前記1の認定事実によれば、Xは、二次面接前のY社からの職歴の空白期間の有無に関する質問に対しても、「元請け会社」や「請負」などの言葉を用いて、本件履歴書には個人事業主として締結した契約先の一部に限って記載していると読める回答をするにとどめ、空白期間がある旨を回答せず、さらには、一次面接及び二次面接のいずれにおいても令和3年6月以降の自らの立場をM社の準委任の契約社員であると称して説明を行っていたことが認められる。これらのXの行為は、故意による経歴詐称というべきものであり、詐称の態様としても、上記動機の下に、なるべく秘匿の事実が発覚しないようにしていたと推認できるものであって、不正義である。
これらに加え、本件バックグラウンドチェックによって判明したF社及びG社との雇用関係のみならず、I社との雇用関係についてもXが本件履歴書及び本件職務経歴書に記載していなかったことが、本件バックグラウンドチェックを踏まえたY社との面談により、本件内定取消し前に判明していた(なお、本件訴訟手続において、B社との契約が個人事業主としての契約ではなく雇用契約であったことも判明した。)。このように、Xによる経歴詐称の程度は、本件履歴書に記載された期間の半分近くを占めるものであり、履歴書や職務経歴書の提出意義を没却させるものである。
5 以上によれば、Xが本件履歴書及び本件職務経歴書に真実と異なる記載をしたことは、Y社において本件採用内定当時は知ることができなかった事実であって、Xが虚偽の申告を行った動機や秘匿した事項、秘匿の方法や態様などを考慮すれば、XがY社の運営に当たり円滑な相互信頼関係を維持できる性格を欠き、企業内にとどめおくことができないほどの不正義性が認められるのであるから、本件内定取消しは、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものといえる。
このような裁判例の射程をどこまで広げるかは意外と悩ましいところです。
詐称の程度、職務との関連度合い等について慎重に検討する必要があろうかと思います。
解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。