配転・出向・転籍58 職種限定合意成立時における配転の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、職種限定合意成立時における配転の違法性に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会(差戻審)事件(大阪高裁令和7年1月23日・労判1326号5頁)

【事案の概要】

公の施設(地方自治法244条)である滋賀県立長寿社会福祉センター(本件事業場)の一部である滋賀県福祉用具センター(本件福祉用具センター)においては、福祉用具についてその展示及び普及、利用者からの相談に基づく改造及び製作並びに技術の開発等の業務を行うものとされており、本件福祉用具センターが開設されてから平成15年3月までは財団法人滋賀県レイカディア振興財団(レイカディア)が、同年4月以降はレイカディアの権利義務を承継した被控訴人が、指定管理者(同法244条の2第3項)等として上記業務を行っていた。
Xは、平成13年4月、本件福祉用具センターにおける上記の改造及び製作並びに技術の開発(以下「本件業務」という。)に係る技術職としてレイカディアに雇用されて以降、上記技術職として勤務していた。また、XとY社との間には、控訴人の職種及び業務内容を上記技術職に限定する旨の合意(本件合意)があった。

Y社は、Xに対し、その同意を得ることなく、平成31年4月1日付けで総務課施設管理担当への配置転換を命じた(本件配転命令)。また、Y社は、新たな人事評価制度に基づく人事評価において、Xを5段階評価のうち最低ランクに位置付け、Xの基本給を月額3000円減額するという不利益変更を行った(本件不利益変更)。

本件は、Xが、Y社に対し、〈1〉安全性に重大な問題のある福祉用具(障害児向け入浴介助用具)について安全面を確保するため寸法の一部変更を行うよう提案したものの採用されず、従前の寸法で製作するよう求められたがこれを拒否したところ、Y社から業務命令拒否等を理由に訓戒書の交付を受けたこと等により、Xは精神疾患を発病して休職に至ったとして、労働契約上の安全配慮義務違反による損害賠償請求権に基づき、通院慰謝料184万円、弁護士費用18万4000円の合計202万4000円+遅延損害金の支払を、〈2〉平成25年2月1日に復職した後も、上司のXに対する言動がパワーハラスメントに該当するとして内部相談窓口に通報したにもかかわらず、Y社は、詳細な検討を行うことなく、パワーハラスメントに該当しないとの回答を繰り返すほか、本件配転命令を強行し、本件不利益変更を行ったことにより、Xは精神疾患を再発し、再び休職に至ったとして、労働契約上の安全配慮義務違反又は不法行為による損害賠償請求権に基づき(選択的併合)、通院慰謝料52万円、弁護士費用5万2000円の合計57万2000円(一部請求)+遅延損害金の支払を、〈3〉本件配転命令は、当事者間の本件合意に反するなどとして、債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき(選択的併合)、慰謝料100万円、弁護士費用10万円の合計110万円+遅延損害金の支払(以下「本件損害賠償請求」という。)をそれぞれ求めるとともに、〈4〉本件不利益変更は、Y社による人事権の濫用に当たり、違法、無効であって、Xの賃金は、令和元年6月度支給分が9000円、同年7月度支給分が3000円の未払になるとして、労働契約による賃金請求権に基づき、上記未払賃金合計1万2000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

原判決中、110万円+遅延損害金の支払請求に関する部分を次のとおり変更する。
(1) Y社は、Xに対し、88万円+遅延損害金を支払え。
(2) Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、本件合意があったにもかかわらず、Xに対してその同意を得ることなく違法な本件配転命令を行ったものであり、しかも、Y社は、事前に本件面談において、Xに対し、同人が長年従事していた本件業務に係る技術職を廃止する旨の説明をしたり、他の職種へ変更することの同意を得るための働き掛けをするなど、違法な配転命令を回避するために信義則上尽くすべき手続もとっていないこと、Xは、これにより、長年従事していた本件業務に係る技術職以外の職種へ変更することを余儀なくされ、相当程度の精神的苦痛を受けたこと、その他、本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件配転命令によって控訴人が被った精神的損害に対する慰謝料の額は80万円とするのが相当である。

判断枠組み自体は、特段、目新しい点はありません。

雇用契約において、職種の限定がされているか否かは、雇用契約書の記載だけからは判断ができない場合がありますので注意しましょう。

配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。