従業員に対する損害賠償請求17 営業秘密の開示・使用による不正競争防止法違反及び在職中に取引先と競業企業間の契約を成立させた行為による不法行為責任が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、営業秘密の開示・使用による不正競争防止法違反及び在職中に取引先と競業企業間の契約を成立させた行為による不法行為責任が認められた事案について見ていきましょう。

ビットウェア事件(東京地裁令和6年9月24日・労経速2577号7頁)

【事案の概要】

本件は、コンピューターハードウェア・ソフトウェアの開発、製造、販売業務等を目的とする株式会社であるXが、〈1〉主位的請求として、Xの従業員であったA1及びA2が本件各取引先から業務を受注した行為は、不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密に該当する本件各情報を使用して行われたものであり、同号所定の不正競争行為に該当し、A3及びY社は、これを認識しながら、A1及びA2の不正競争行為に加担したものであり、その行為は同項8号及所定の不正競争行為に該当し、これによりXに合計8222万2142円の損害が発生したと主張して、Aらに対し、連帯して8222万2142円+遅延損害金の支払を求め、〈2〉第1次予備的請求として、Xの就業規則には従業員による在職中及び退職後2年間の競業を禁止する定めがあるところ、A1及びA2が、Y社代表者であったA3と共謀の上、Y社の従業員として又は少なくともY社の指揮監督の下、本件受注行為を行ったこと等により、本件各取引先に係る売上減少額の20%に相当する額の損害が発生したと主張して、不法行為(Y社については使用者責任)に基づき、A1、A2及びY社に対し、連帯して上記損害合計4266万4157円、A3に対し、A1及びA2と連帯して、上記損害の合計額のうちA3がY社代表者であった令和3年4月20日までの間に発生した3352万2717円及び遅延損害金の支払を求め、〈3〉第2次予備的請求として、債務不履行に基づき、A1及びA2に対し、連帯して4266万4157円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Aらは、Xに対し、連帯して121万5500円+遅延損害金を支払え。
2 Aらは、Xに対し、連帯して229万5946円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件競業禁止規定は、Xの従業員が、退職後の2年間にわたって、SEとして活動すること自体を事実上不可能とし、その後においても、その知識、技術、経験等を生かしてSEとして活動することを困難にする可能性が否定できず、Xの技術上の秘密や顧客情報等の保護といった目的を考慮しても、上記のように広汎かつ長期間にわたって職業選択の自由を制限する合理性を基礎付ける事情があると認めるに足りる証拠はないから、前記の判断は左右されるものではない。
また、就業規則の規定である本件競業禁止規定の合理性を検討する際に、個別に行われた代償措置の内容等を考慮することはできないというべきである上、この点をしばらくおき、A1及びA2が、在職中、Xの代表取締役である乙山らと同水準の賃金の支払を受けていたという事情を考慮するとしても、これらは、在職中の業務に対する対価というべきであって、上記で説示したXを退職した者が被る不利益の大きさを考慮すると、本件競業禁止規定に基づく競業避止義務を負うことの代償措置としては、なお不十分というほかない。
さらに、本件競業禁止規定は、競業企業への関与という以上にその対象となる行為を制限する文言がなく、他にXの当時の取引先からの受注を内容とする競業行為のみを禁止したものと合理的に限定して解すべき根拠は見当たらず、その適用を受ける労働者において、自己の行為が規制の対象となるか否かを判断することもできないから、Xの主張は採用することができない。

2 B社は、Xに対し、1箇月毎に心電計開発支援業務を発注していたところ、Xにおいては、経営層とされた乙山、H、A1及びA2が、それぞれ担当する取引先に対する営業活動等を行い、担当者と取引先の結びつきが強いことを考慮すると、従来から一貫して心電計開発支援業務の窓口となっていたA1がXを退職した後については、B社が引き続き本件心電計開発支援業務をXに発注していたかは明らかではなく、むしろ、B社が、引き続きA1に本件心電計開発支援業務を担当させることに主眼を置き、Y社を含めた他の事業者に発注していた可能性も相応に認められる(なお、A1が退職後にB社の求めに応じてX以外の事業者を紹介すること等が不法行為に該当しないのは前記で説示したとおりである。)。
そうすると、前記の不法行為と相当因果関係の認められる売上の喪失は、A1の退職日が属する同月末日までに行われた業務に対する報酬相当額に限られるというべきである。

3 Xから派遣されたSEがソリューション事業本部で行っていた業務は、特定のアプリの開発、更新業務等の継続的なものであったことに照らせば、B社は、A2がXを退職した後においては、Xから後任者の派遣を受けるのではなく、X以外から引き続き当該SEの派遣を受けること等により、業務の継続性を維持する可能性が相応に認められるというべきである。これらの事情を総合考慮すると、Xが、B社との間の個別派遣契約に基づいて対価の支払を受けることができたと認められる期間(終期)は、A2に係る個別派遣契約については、A2の退職日である令和元年11月28日を超えるものとは認められず、N、O及びLの後任者に係る個別派遣契約については、A2の退職日の翌営業日(同年12月1日)から3箇月を超えるものとは認められない

請求額と認容額の差を見ると、いろいろと考えさせられますね。

この手の事案を現実的に予防することは至難の業であることに加え、事後的な賠償水準もご覧のとおりですので、これらを前提に別途、ジョブローテーションを主とした労務管理を考えざるを得ません。

より戦略的な労務管理を行う場合には、日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。