おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。
今日は、業務時間外に行った強制わいせつ行為を理由とした懲戒解雇処分を有効とした事案について見ていきましょう。
大塚商会事件(東京地裁令和6年10月25日・労経速2578号29頁)
【事案の概要】
本件は、Y社と労働契約を締結したXが、Y社による令和4年3月2日付け懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位確認及び民法536条2項に基づく同日以降の未払賃金の支払を求め、令和4年1月分の賃金が未払であると主張して、同月分の賃金25万2600円の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件行為は、暴行を用いてわいせつな行為をしたものであり、令和5年法律第66号による改正前の刑法176条の強制わいせつ罪の構成要件に該当する。
そして、使用者は、従業員の私生活上の非行であっても、事業活動に直接関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすものについては、企業秩序維持のために懲戒の対象とすることができるところ、本件行為は、面識のない被害女性の意に反して公衆トイレに連れ込み、胸や陰部を触るというものであり、その行為態様は悪質であり、被害女性に著しい精神的被害を与えるものであって、重大な犯罪行為である。
また、Xは、Y社の多数の従業員の中の一名であるものの、Y社は中小企業等のエンドユーザーや一般消費者を対象に事業を展開しており、Xはその営業社員として取引先や一般消費者との接点も有している。そして、Y社は、ミッションステートメントを制定して、法を遵守するという行動指針を明らかにしているところ、本件行為はY社の行動指針にも明らかに反するものである。
2 さらに、本件行為はXの氏名とともにテレビ及びインターネットのニュースで報道されており、このことは、本件行為が社会的に強く非難されるべき行為であり、Y社の社会的評価の毀損をもたらすことを示している。Y社の社名が報道されなかったことは、本件行為に対する評価を左右するものではない。
以上の点に鑑みれば、本件行為は、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものというべきであるから、Y社の賞罰規程25条1項(16)及び就業規則51条2項(16)の「刑法その他法規の各規程に違反する行為があったとき」の懲戒事由に該当する。
3 本件行為が悪質かつ重大であり、Y社の行動指針にも反することは、前記のとおりである。
そうすると、XがY社に対し事実関係を具体的に報告していること、Xが被害女性に解決金を支払って示談を成立させ、最終的に本件行為は不起訴処分にとどまったことなどを踏まえても、Y社がXに対し、本件懲戒解雇をもって臨むことには、客観的合理的理由があり、社会通念上も相当というべきである。
なお、本件行為の内容及び態様に照らせば、Xが本件行為に先立ち飲酒をしていたことは、本件において酌むべき事情とはいえない。
よって、本件懲戒解雇は有効であるから、Xの地位確認請求及び本件懲戒解雇後の賃金請求は、いずれも理由がない。
私生活上の非違行為を理由とする懲戒解雇については、本件同様、訴訟に発展することが珍しくありません。
企業秩序を害したといえるか、という点をいかに説得的に主張・立証していくかが重要です。
日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。