Author Archives: 栗田 勇

本の紹介1362 誰でもできるのに9割の人が気づいていない、お金の生み出し方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

まあ、なんというか、そんなに驚くような内容ではありません。

メンタルブロックをいかに外すかがポイントになってくると思います。

すでに外れている人にとっては、当たり前のことしか書かれていません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自分を認められる、自分を好きになるということは、すべての人間の人生のゴールです。しかし、多くの人はそれに気づかずに、誰かに認められようとして苦しんでしまうのです。努力をして何かを達成しよう、何かを得ようとします。また、何者かになろうとします。そして、挫折して苦しむのです。」(182頁)

みなさんはいかがですか?

これ、特に日本人の多くが苦しめられている(否、正確には自ら苦しんでいる)要因ではないでしょうか。

他人に評価されたい、認められたいというのは、1つのモチベーションにはなりますが、それが行き過ぎると、すべての判断基準が他人に評価されるか否か、嫌われないか否かになってしまいがちです。

これでは、もはや誰の人生を生きているのがわからなくなってしまいます。

何をやってもどうせ100人のうち100人から好かれ、評価されるなんてありえないのですから、そんなことを気にしてもしかたありません。

みんなから好かれたい、誰からも嫌われたくないという気持ちが強すぎるのです。

人生なんて、みんなから、ではなく、自分が認めてほしい大切な人から認められたら、もうそれでいいのではないでしょうか。

解雇380 従業員が退職の意思表示をしていないにもかかわらず、会社が退職扱いにした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従業員が退職の意思表示をしていないにもかかわらず、会社が退職扱いにした事案を見ていきましょう。

PASS-I-ONE事件(東京地裁令和4年4月22日・労判ジャーナル128号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、XはY社に対して退職の意思表示をしていないにもかかわらず、Y社はXが退職したものとしてXの労務の提供を拒絶していると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求認容

【判例のポイント】

1 XとY社代表者との間で令和3年2月21日に大声による口論が発生し、Xは翌日以降会社に出勤していないが、同日にY社に対して退職の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない

2 Xは、令和3年2月21日、Y社代表者から、「明日から来なくてよい」、「クビだ」と言われた旨を陳述及び供述するところ、当該陳述及び供述については、①同日、XがY社代表者に対して1か月分の給与の支払を求め、その後、両者の間で大声による口論が発生したこと、②同日の勤務終了後、XがY社の店舗に置いていた私物の全部又は大部分を持ち帰ったこと、③その後、Y社がXに対して本件解雇予告通知書を送付したこと、④更にその後、Y社代理人弁護士がXに対して解雇は正当である旨を記載した通知書を送付したことと整合し、信用することができるから、Xは、同日、Y社代表者から前記の発言をされ、同月22日以降の労務の提供を拒絶されたというべきところ、XがY社に対して退職の意思表示をしたと認めることはできず、ほかに本件労働契約の終了原因の主張はないから、Xは、同日以降Y社の責めに帰すべき事由により就労不能となったと認めるのが相当であり、Y社は、Xに対し、民法536条2項により令和3年2月22日以降の賃金支払義務を負担する。

これはよくあるケースですが、感情的になって上記のような発言をしないことが肝要です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1361 神はテーブルクロス#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

須藤元気さんの本は、どれも本当にいい本です。

この本も例外ではありません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

もちろんお金は人を幸せにしてくれるツールである。しかし、それに執着すると幸せから遠ざかる。お金に限らず、何かの物や人に執着しすぎると、人生は楽しくなくなるのだろう。
『何を手に入れるかより何を手放すか、それが大切なことなんだよ』」(135~136頁)

幸せの定義は、人それぞれですから、何かを手に入れることに幸せを感じる人はそれでいいです。

私のようにモノを所有することに何のこだわりも興味もない人は、いかにモノを持たないでいられるかが幸せと密接に関連しています。

概して、モノが増えれば増えるほど、管理コストがかかり、いらぬトラブルや不安が付きまといます。

できるだけモノを持たず、また、何事にも執着せず、依存せず、ありのままで生きていくことが、自由を謳歌するための必要条件なのだと思っています。

不当労働行為298 使用者による便宜供与にかかる確認書(労働協約)の解約が不当労働行為とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、使用者による便宜供与にかかる確認書(労働協約)の解約が不当労働行為とされた事案を見ていきましょう。

社会福祉法人ハートフル記念会事件(神奈川県労委令和4年4月8日・労判1271号94頁)

【事案の概要】

本件は、①使用者による便宜供与にかかる確認書(労働協約)の解約が不当労働行為にあたるか、また、②組合掲示板不設置が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

①は不当労働行為にあたる

②は不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 Y社は、本件協約に基づく便宜供与について業務上に支障がなく、ただちに本件協約を解約すべき必要性及び緊急性といった合理的な理由がないにもかかわらず、組合と一切労使協議を経ることなく、一方的に解約するに至っているのである。
したがって、Y社が確認書を一方的に解約したことは、組合組織の弱体化の意図のもとに行われた労組法7条3号の支配介入に当たると解される。

2 組合が掲示板を設置するよう要求したことに対し、Y社は、本件協約に基づく便宜供与について実情に即した内容になるよう組合とリモート方式により協議したい旨述べている。
新型コロナウイルス感染症の感染状況、Y社が老人福祉施設を運営していること等を勘案すると、施設内での感染拡大を危惧したY社が、リモート方式での団体交渉を希望したことに一定の合理的な理由があることは否定できない。しかしながら、組合は、結審日まで、リモート方式の団体交渉に消極的であった。このことが、老人ホームCの掲示板設置問題が解決しなかった一因であることは否定できない。
したがって、老人ホームCに掲示板が設置されず、組合が掲示板を利用できなかったことが、ただちにY社の組合の運営に対する支配介入によるものということはできない。

上記命令のポイント1は特に争いがないと思います。

上記命令のポイント2は、昨今の状況を踏まえた判断ですね。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

本の紹介1360 仕事の技法#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度読み返してみました。

帯には、「相手からの『言葉以外のメッセージ』を感じ取る この一つの技法を身につけるだけで『仕事力』は、圧倒的に高まる」と書かれています。

いかなる仕事においても、うまくいっている人は、観察力、洞察力、想像力に長けています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

このように、『話を聞く』という立場の人から、むしろ様々な『無言のメッセージ』が伝わってくるということを理解するならば、逆に、我々が『話を聞く』という立場に立ったときには、そうした状況だからこそ、自分の『無言のメッセージ』が相手に伝わっていくということを、自覚しておく必要がある。」(185頁)

人は、他人のことには敏感ですが、自分のことになると途端に鈍感になります。

Look who’s talking.

それはさておき、話の聞き方の巧拙は、その人の印象にそのまま直結するように思います。

いわゆる「できる人」の聞き方は、話し手の邪魔になるような相槌や大袈裟な反応とは無縁です。

例の「はい、はい、はい、はい」なんていう相槌をしたり、話をかぶせたり、途中で遮ったりするのはまさに下手な聞き手の特徴です。

これでは話し手は鬱陶しくて話す気が失せてしまいます。

会話を支配しているのは、いつだって、話し手ではなく、聞き手なのです。

セクハラ・パワハラ72 分限免職処分の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、分限免職処分の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

長門市・長門消防局事件(最高裁令和4年9月13日・労判128号2頁)

【事案の概要】

本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者であるY市消防長から、地方公務員法28条1項3号等の規定に該当するとして分限免職処分を受けたのを不服として、Y市を相手に、その取消しを求める事案である。

原審(広島高裁令和9月30日)は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求を認容すべきものとした。
Y市の消防吏員としての素質、性格等には問題があるが、上告人の消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、ある意味で開放的な雰囲気が従前から醸成されていたほか、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件各行為も、こうした独特な職場環境を背景として行われたものというべきである。Xには、本件処分に至るまで、自身の行為を改める機会がなかったことにも鑑みると、本件各行為は、単にX個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとはいい難いから、Xを分限免職とするのは重きに失するというべきであり、本件処分は違法である。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

Xの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数であるばかりか、Y市の消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして、その内容は、現に刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑わいな言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたる
こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れたXの粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。
また、本件各行為の頻度等も考慮すると、上記性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらない。
さらに、本件各行為により上告人の消防組織の職場環境が悪化するといった影響は、公務の能率の維持の観点から看過し難いものであり、特に消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが、消防職員や住民の生命や身体の安全を確保するために重要であることにも鑑みれば、上記のような影響を重視することも合理的であるといえる。

2 そして、本件各行為の中には、Xの行為を上司等に報告する者への報復を示唆する発言等も含まれており、現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、Xを消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難であるといえる。
以上の事情を総合考慮すると、免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、Xに対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。そして、このことは、Y市の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない

ちなみに、Xの本件各行為の主な内容は以下のとおりです。

①訓練中に蹴ったり叩いたりする、羽交い絞めにして太ももを強く膝で蹴る、顔面を手拳で10回程度殴打する、約2㎏の重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの暴行
②「殺すぞ」、「お前が辞めたほうが市民のためや」、「クズが遺伝子を残すな」、「殴り殺してやる」などの暴言
③トレーニング中に陰部を見せるよう申し向けるなどの卑わいな言動
④携帯電話に保存されていたプライバシーに関わる情報を強いて閲覧した上で「お前の弱みを握った」と発言したり、プライバシーに関わる事項を無理に聞き出したりする行為
⑤Xを恐れる趣旨の発言等をした者らに対し、土下座を強要したり、被上告人の行為を上司等に報告する者がいた場合を念頭に「そいつの人生を潰してやる」と発言したり、「同じ班になったら覚えちょけよ」などと発言したりする報復の示唆等

第一審、控訴審ともに分限免職処分は無効と判断しましたが、最高裁は有効と判断しました。

第一審、控訴審判決によれば、消防職員になると、上記のような滅茶苦茶な状況でも解雇は重すぎると。私、こんな職場、絶対やだ。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介1359 いい言葉を喰らう!(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から15年前の本ですが、再度、読み返してみました。

いわゆる名言集です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人は生まれて学ばざる者は、生まれざると同じ。学んで道を知らざるは、学ばざると同じ。知って行なうことあたわざるは、知らざると同じ-貝原益軒」(116頁)

学び続けて、動き続ける。

「もうこれでいい」なんて諦めたら、本当にそこで終わってしまいます。

日々勉強。

日々行動。

忙しい毎日の中でいかに「自分への投資」のための努力を続けるか。

やっている人は息を吸うがごとくやっていることです。

管理監督者56 語学教室校長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、語学教室校長の管理監督者性に関する裁判例を見ていきましょう。

ビーチャイニーズ事件(東京地裁令和4年3月30日・労判ジャーナル128号24頁)

【事案の概要】

本件は、令和元年9月17日までY社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、①労働契約に基づく賃金請求として平成30年8月から令和元年8月までの就労に係る割増賃金の一部である203万9775円+遅延損害金の支払、②労基法114条に基づく付加金請求として、203万9775円+遅延損害金の支払、③XはY社代表者及び被告役員から日常的にパワーハラスメントを受けたなどと主張して、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、21万6748円+遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、付加金21万6748円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の語学教室のa校の校長を務めていたところ、X自身もY社の非常勤講師と同様に相当数の講座を担当しており、Xの業務内容の大半は、中国語の講師としての業務であったものと認められる。
Y社は、Xがa校の講師のシフトを決定していた旨主張するところ、他方で、Xは、講師のシフトはBが決定しており、Xにはシフトを決定する権限はなかった旨主張しており、Xが当該権限を有していたと認めるに足りる的確な証拠はないことからすれば、Y社の主張は採用することはできない。
また、Y社は、Xはa校の講師の採用等に関する権限を有していたと主張するが、他方で、Xは、そのような権限は一切与えられていなかった旨主張しているところ、証拠によれば、Xが非常勤講師の採用面接を担当したことがあることは認められるものの、証拠上当該講師の採用過程は明らかではなく、Xに採用等に関する決定権限があるかは証拠上明らかではない
以上によれば、Xが、非常勤講師等のシフト、採用、人事考課等に関して権限を有していたとは認め難く、いずれにせよ、Xが経営者に代わって他の労働者の労働時間等を決定し他の労働者の労務を管理監督する権限と責任を有していたとは認められない
また、Xは、Y社のシフト表に基づいて勤務し、休日に出勤する場合には、事前にBの許可を得た上で出勤していることに加え、Xの上記業務内容も考慮すれば、その勤務態様について自由な裁量を有していたとまでは認められない
さらに、Y社がXに対し、管理監督者の職責に応じた手当等を支給したことを認めるに足りる証拠はなく、Xの給与額等を踏まえても、Xが厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けることはないといえる程度の待遇を受けていたと評価することはできない。
したがって、Xは、労基法41条2号の管理監督者に該当するとは認められない。

開かずの扉ですからね。

もうそろそろ管理職を管理監督者として取り扱うのはやめましょう。

賃金の消滅時効期間を考えるとえらいことになりますので。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1358 メンタル・タフ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から14年前の本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは「ストレスに強い自分をつくる法」です。

普段、ほとんどストレスを感じない生活をしているとあまり必要ありませんが、ストレスを感じやすい人は読んでみるといいかもしれません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

従来のポジティブ発想のように『できる、できる』とだけ考えて悪い部分を見ないのは、自分のマイナス面、つまり本当の自分を認めていないため、スタートできない状態です。」(60頁)

私はやや異なる意見を持っています。

「できる、できる」と考えることは当然のことです。

「どうせできない」と考えて行動するメリットがありません。

問題は、結果を出すために日々、どれだけの準備と努力を積み重ねられるか。

そして、「もう無理」と投げ出さずに最後までやり遂げられるか。

ただそれだけのこと。

どれだけ大きな目標を掲げても、日頃の地道な努力を続けられなければ、何1つ達成することはできません。

賃金242 管理監督者、事業場外みなし労働時間制、固定残業制度すべての適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、管理監督者、事業場外みなし労働時間制、固定残業制度すべての適用が否定された事案を見ていきましょう。

イノベークス事件(東京地裁令和4年3月23日・労判ジャーナル128号32頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払割増賃金等の支払並びに労基法114条に基づく付加金等請求の支払を求め、反訴において、Y社が、Xに対し、不当利得に基づき、欠勤控除分の過払賃金の返還、不法行為に基づき、不当な賃上げ要求により被った損害に係る損害賠償金の支払い、及び、不当利得に基づき、過払の残業代の返還等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

管理監督者性否定

事業場外みなし労働時間制否定

固定残業制度否定

【判例のポイント】

1 Xの労働時間は、基本的に現場の勤務時間に従うこととされ、Xが毎月Y社に提出していた作業実績報告書の記載によれば、Xは基本的に定時である午前9時から午後6時までは勤務していたことが認められるから、Xが勤務時間について裁量を与えられていたことはうかがわれず、さらに、Xの給与額は、当初は月額32万5000円(諸手当込み)、その後も最大で月額40万円であったというのであり、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところはないといえるほど待遇面で優遇措置を講じられていたと評価することはできないから、Xは、管理監督者に該当するということはできない。

2 Xの業務は、勤務場所は当該客先、勤務時間は現場の勤務時間に従うこととされていて明確であり、業務内容も一定の定型性を有していることから、Y社において事前にある程度その勤務状況や業務内容を把握することができたものということができ、また、Xは、業務時間中に常に携帯電話を所持し、Y社と連絡のつく状態でいるよう指示され、Y社代表者から連絡があった場合にはすぐに対応し、Y社代表者の指示に従い、現場で面談を行う、別の現場に移動するなどしていたというのであるから、Y社としては、勤務時間中に必要に応じてXに連絡を取り、その勤務状況等を具体的に把握することができたということができ、さらに、Xは、Y社に対し、月ごとに、毎日の始業時刻、終業時刻及び実働時間を記録した作業実績報告書を提出していたというのであるから、Y社においてXの勤務の状況を具体的に把握することが困難であったということはできず、同項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるということはできない。

3 プロジェクト手当は、就業規則第48条の事業場外みなし労働時間制に該当する者について一定額を支給するものとされているが、時間外労働に対する対価である旨の規定はなく、かえって、事業場外みなし労働時間が、労働時間を算定し難い場合に所定労働時間働いたものとみなす制度であることからすれば、上記手当は時間外労働に対する対価として支払われるものではないとみるのが自然であり、また、仮に同手当に時間外労働に対する対価の趣旨が含まれているとみるにしても、その全額が同趣旨で支払われるものであるか否かは不明といわざるを得ないから、プロジェクト手当は、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているとはいえないか、仮にそうであっても通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるとはいえないから、時間外労働に対する対価として支払われたものとは認められない。

ご覧のとおり、すべて否定されております。

管理監督者性に関しては、開かずの扉ですので、やむを得ませんが、固定残業制度については、要件を満たせば有効に運用することができますので、専門家に事前に確認しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。