Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ54 就業規則の懲戒解雇事由の適切なあてはめ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ハラスメントを理由とする懲戒解雇の可否に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人アナン学園事件(大阪地裁平成31年2月5日・労判ジャーナル88号46頁)

【事案の概要】

本件は、教員として勤務していたXが、Y社から懲戒解雇されたが、同解雇は無効であるなどとして、地位確認並びに未払賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社が主張する本件各セクハラ行為は、学校において、生徒に対して行ったとされているものであるから、「私生活上の違法行為」には該当せず、就業規則の懲戒解雇理由に該当するとは認められず、本件パワハラ行為及び本件各セクハラ行為が、就業規則上の懲戒解雇理由に該当するということはできず、Xを懲戒解雇することはできない

2 練習時に右肩を負傷し、それがXから直接新しい技を掛けられたためであるとまでは認め難く、仮にそうであるとしても、Xが故意に暴行を加えて負傷させたと評価することはできず、当該負傷を理由に合気道部を退部したとしても、そのような選択をした結果にすぎないというべきであり、Xが、後ろ回り受け身の練習をした日に、その臀部を触ったのは、補助を行う際の出来事であるところ、性的意図をもって臀部を触ったとまで認めることはできず、「彼氏はおるん?」、「彼氏とどこまでした?」、「ちゅーした?」、「今日調子悪いけど生理?」との各発言については、全幅の信用性を認めることは困難な証言のみに依拠するものであるが、仮にこれら及び「女の子は子宮に気をつけなあかん。」との発言を行った場合に、不快に感じたであろうことは想像に難くないが、これらの発言等により、Xとしての地位を失わせる以外の何らかの処分をもって自戒の機会を与えることなく直ちに解雇にまで踏み切ることは、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、普通解雇は無効である。

上記判例のポイント1のようなケアレスミスをなくすために、必ず顧問弁護士の助言に従って手続きを進めるべきです。

同様に、上記判例のポイント2についても、弁明の機会を与えること、処分の相当性等について慎重に検討する必要があります。

セクハラ・パワハラ53 わいせつ行為とレピュテーションダメージ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、わいせつ行為等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

佐賀県農業協同組合事件(佐賀地裁平成30年12月25日・労判ジャーナル86号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元職員Xが、在職中、Y社の組合員による研修旅行に随行した際、Xからわいせつ行為を受けたため心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして、Y社に対し、債務不履行(労働契約上の安全配慮義務違反)に基づく損害賠償として、約2441万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件事件の中核である行為(2)は、組合員であるAが、部会の研修旅行の際、Xの宿泊する部屋を深夜に1人で訪れ、入室させるよう求め、これに応じたXと室内で話をしていた際、30分ほどが経過したところで、いきなりXに抱き付いてキスをし、口の中に舌を入れ、着衣内に手を入れて乳房を揉み、着衣内に顔を押し込んで乳房を舐め回し、ショーツの上から臀部を撫で回すなどのわいせつ行為をしたというものであり、他方、Y社の予見可能性を基礎付ける出来事としてXが主張するのは、Y社の組合員が部会の研修旅行中に昼間から飲酒の上、移動のパスの中でXの脚を触り、背後からXに抱き付いて胸に手を当てた、全裸でサービスをするコンパニオンを懇親会に呼んだ等というものであるが、上記の出来事に係る行為者は、いずれもAではないし、行為(2)は、行為を抱いていた女性の部屋で、深夜2人きりになったことを奇貨として及んだわいせつ行為であり、部会の研修旅行に係る営農指導員としての業務の遂行に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価することは困難であり、また、Xが主張する出来事が本件事件を予見させるものであったとは認められないから、本件事件について、Y社に予見可能性があったということはできない

2 職員でないAに対し、Y社が実効性のある措置を講ずることには困難な面があるところ、Y社は、内部的に、Aが、Xに対し、被害賠償を行う措置を講じており、Xは、懇親会にコンパニオンを呼ぶこと自体をやめるべきであるというが、部会の行為に係る意思決定は部会自身が行うのであり、研修旅行・懇親会の内容について決定するのも部会自身であるから、コンパニオンを呼ばない等の懇親会に係る監督・指示・決定の権限がY社にあるとは認められず、Y社の職員は、事務委託契約に基づき、部会の研修旅行に随行するにすぎないから、随行を要しないとするのは、再発防止に向けた措置として、より現実的なものというべきであること等から、本件事件に関し、Y社に事後措置義務違反があったとはいえず、農協に安全配慮義務違反があったとは認められないから、Xの請求は理由がない。

請求棄却とはいえ、使用者側のレピュテーションダメージは計り知れません。

それにしてもどんな研修旅行やねん・・・

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ52 コンビニ店員へのセクハラ行為と停職処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、コンビニエンスストア店員へのセクハラ行為を理由とする停職処分が適法とされた判決を見てみましょう。

A市事件(最高裁平成30年11月6日・労経速2372号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の男性職員であるXが、勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員に対してわいせつな行為等をしたことを理由に、停職6月の懲戒処分を受けたが、同懲戒処分については、処分事由の一部に該当する事実がなく、また、処分の量定において裁量権の範囲の逸脱ないし濫用があるから違法であると主張して、同懲戒処分の取消しを求める事案である。

原審は、Xの請求を認容した。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

Xの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものと解される。

2 原審は、①本件従業員がXと顔見知りであり、Xから手や腕を絡められるという身体的接触について渋々ながらも同意していたこと、②本件従業員及び本件店舗のオーナーがXの処罰を望まず、そのためもあってXが警察の捜査の対象にもされていないこと、③Xが常習として行為1と同様の行為をしていたとまでは認められないこと、④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと等を、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くことを基礎付ける事情として考慮している。
しかし、上記①については、Xと本件従業員はコンビニエンスストアの客と店員の関係にすぎないから、本件従業員が終始笑顔で行動し、Xによる身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは、客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり、身体的接触についての同意があったとして、これをXに有利に評価することは相当でない。
上記②については、本件従業員及び本件店舗のオーナーがXの処罰を望まないとしても、それは、事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される
さらに、上記③については、行為1のように身体的接触を伴うかどうかはともかく、Xが以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており(行為2)、これを理由の一つとして退職した女性従業員もいたことは、本件処分の量定を決定するに当たり軽視することができない事情というべきである。
そして、上記④についても、行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものである上、複数の新聞で報道され、Y社において記者会見も行われたことからすると、行為1により、Y社の公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたというべきであり、社会に与えた影響は決して小さいものということはできない。
そして、市長は、本件指針が掲げる諸般の事情を総合的に考慮して、停職6月とする本件処分を選択する判断をしたものと解されるところ、本件処分は、懲戒処分の種類としては停職で、最も重い免職に次ぐものであり、停職の期間が本件条例において上限とされる6月であって、Xが過去に懲戒処分を受けたことがないこと等からすれば、相当に重い処分であることは否定できない。
しかし、行為1が、客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難さ
れるべき行為であって、Y社の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり、また、Xが以前から同じ店舗で不適切な言動(行為2)を行っていたなどの事情に照らせば、本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず、市長の上記判断が、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

3 以上によれば、本件処分に裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

同じ事案でも判決を書く裁判官が違えば、こうも事実の評価の仕方が変わるという典型例です。

評価は絶対的なものではなく極めて相対的なものです。

事実なんてものはどうとでも評価できるということがよくわかりますね。

親と裁判官は選べませんので、受け入れるしかありません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ51 パワハラ行為と慰謝料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払賃金請求とパワハラ等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

プラネットシーアール・プラネット事件(長崎地裁平成30年12月7日・労判ジャーナル84号20頁)

【事案の概要】

本件は、A社に採用されて休職した労働者が、A社から時間外労働に対する賃金が支払われていないとして、A社に対し、未払賃金合計約258万円等の支払、A社との間で労働契約上の地位を有することの確認を求め、前記休職は上司であったCのパワハラ等が原因で精神疾患を発病したことによるものであり、労働者は休職後も月例賃金及び賞与の請求権を失わないと主張して、A社に対し、休職後の月例賃金及び賞与等の支払を求め、Cに対し、不法行為に基づく損害賠償金約330万円等の支払を求めるとともに、A社に対してはCの使用者(民法715条1項)として、Bに対してはA社の代理監督者(同条2項)として、それぞれ前記金員の連帯支払を求め、また、本件訴訟係属中におけるA社の労働者に対する文書送付に基づき、A社に対し、慰謝料等110万円等の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 未払賃金等支払請求は一部認容

2 労働契約上の地位確認請求は却下

3 損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 上司であったCの叱責は、内容的にはもはや叱責のための叱責と化し、時間的にも長時間にわたる、業務上の指導を逸脱した執拗ないじめ行為に及ぶようになっていたところ、Xは、職場の状況から、多くの作業を抱え込み、長時間労働を余儀なくされており、更にCの前記のような嫌がらせ、いじめ行為を含む継続的な叱責を受けたため、強い精神的負荷を受け、その結果、適応障害を発病して休職を余儀なくされたと推認され、Xの休業が労働災害によるものと認められ、労働者が休業補償給付決定を受けたことからも肯認でき、Cの前記行為は、Xの人格権等を違法に侵害する不法行為(民法709条)に当たるというべきであり、Cは、Xの損害を賠償する責任を負うというべきであり、また、Cの当該行為はA社の業務を行うにつきされたものであるから、A社も、使用者責任(民法715条1項、709条)に基づき、Xの損害を賠償する責任を負うというべきである。

2 文書5、6は、文書1~4が訴訟代理人間で法的主張を交換する中でされたり、使用者の業務権限に基づいてされたものであるのと異なり、直接労働者に宛てて、全体として、労働者が自らのパワハラ被害を訴えてA社及びB社を批判し、本件訴訟で係争すること自体が非常識で分をわきまえない行為であるかのように労働者を見下して一方的に非難し、貶めたりするものであって、これらの文書を送付する行為は、労働者の名誉感情を侵害する違法な侮辱行為に当たり、不法行為を構成するものと認められ、また、文書5、6は、専らA社・B社の代表者であるDの意思で作成され、同時期に送付されたものであるから、文書5、6の送付行為は、D、B社代表者及びA社代表者の意思連絡の下でされた共同不法行為に当たると解するのが相当であるから、D、A社及びB社は、民法719条1項、709条、会社法350条に基づき、文書5、6の送付により労働者の被った損害を連帯して賠償する義務を負うと解するのが相当であり、労働者の精神的苦痛を金銭をもって慰謝するには20万円が相当である。

この類の訴訟は今も昔もとても多いです。

管理職に対して、パワハラに関する研修を定期的に実施するを強くお奨めします。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ50 暴行・人格権侵害を理由とする損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、暴行及び人格権侵害等を理由とする損害賠償責任が認められた裁判例を見てみましょう。

大島産業事件(福岡地裁平成30年9月14日・労経速2367号10頁)

【事案の概要】

甲乙事件は、Y社に雇用されて長距離トラック運転手として稼働していたXが、①Y社に対し、未払賃金929万7149円+遅延損害金を支払うよう求め、②B及びCに対し、Y社が前記①の未払賃金を支払わないことについて、Bが同社の代表取締役として、Cが同社の事実上の取締役として、それぞれ会社法429条1項又は民法709条に基づく損害賠償責任を負うと主張して、前記①の未払賃金+遅延損害金をY社と連帯して支払うよう求め、③Y社に対し、労働基準法114条に基づく付加金541万2912円+遅延損害金の支払を求め、④C及びY社に対し、CはXに対しパワーハラスメントと評価されるべき不法行為を行っていたところ、Cは民法709条に基づき損害賠償責任を負い、Y社は会社法350条の類推適用により事実上の取締役であるCがその職務を行うについてしたパワハラについて損害賠償責任を言うと主張して、165万円+遅延損害金を連帯して支払うよう求めるほか、Cに対しては前記165万円に対する不法行為の後である平成26年3月6日から平成27年8月31日まで同割合の遅延損害金の支払を求めた事案である。

丙事件は、Y社が、Xに対し、Xが平成25年9月28日及び平成26年3月7日に業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したため、Y社は受注していた運送業務を履行できず損害を被ったと主張して、不法行為又は債務不履行に基づき、229万7635円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、937万0829円(未払賃金)+遅延損害金を支払え

2 Y社はXに対し、494万8855円(付加金)+遅延損害金を支払え

3 C及びY社はXに対し、連帯して110万円(パワハラの慰謝料等)+遅延損害金を支払え

4 CはXに対し、110万円に対する平成26年3月6日から平成27年8月31日までの遅延損害金を支払え

5 XはY社に対し、12万2609円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、本件失踪1の後に復職を認めてもらおうとしてY社に戻った際、E常務に指示されて、社屋入口前で、Cが出社して来るまで土下座をし続け、出社して来たCはこれを一瞥したが土下座を止めさせることはなく、Xはその後も数時間にわたり土下座を続けたことが認められる。
従業員が数時間にわたり社屋入口で土下座し続けるという行為は、およそ当人の自発的な意思によってされることは考えにくい行為であり、Cとしても、Xが強制されて土下座をしていることは当然認識し得たものとみられる。にもかかわらず、前記認定のとおり、Cは制止することなくXに土下座を続けさせたのであるから、XはCの指示で土下座させられたのと同視できるというべきである。したがって、Cは、民法709条に基づき、土下座を続けさせられたことによりXが受けた身体的、精神的苦痛について不法行為責任を負う。
また、上記Cの行為は、XのY社での就労再開に関して行われたもの、すなわち事実上の代表取締役としての職務を行うについてされたものであるから、Y社は、会社法350条の類推適用により前記のXが受けた身体的、精神的苦痛について賠償責任を負う。

2 C名義のブログ記事は、これが他人から閲覧されればXの名誉を棄損する内容であり、前記のXに関する記事が掲載されることによって、Xの名誉を棄損するものであると認められる。そして、Cは従業員に対する名誉毀損行為を防止すべき義務を負っていたといえるから、ブログ記事の掲載を放置したことについて、民法709条に基づき不法行為責任を負う。
また、Cは事実上の代表取締役であると認められるから、Y社は、会社法350条に基づき、Cが職務を行うについてXに与えた精神的苦痛を賠償すべき責任を負う。

認容された未払賃金額もさることながら、事案の性質から来るレピュテーションダメージの方がよほど影響が大きいと思われます。

どこかの段階で口外禁止条項を付した和解ができなかったのでしょうか・・・。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ49 労災認定されている事案で裁判所が業務起因性を否定?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司による暴行が違法なパワーハラスメントと評価されたが、暴行を受けた労働者が発症した適応障害の業務起因性が否定された裁判例を見てみましょう。

共立メンテナンス事件(東京地裁平成30年7月30日・労経速2364号6頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、適応障害に罹患し、その後休職となり、休職期間満了により自動退職とされたところ、Xは、同適応障害は、上司等から継続的にパワーハラスメントを受け、かつ、上司であったCからも勤務中に暴行を加えられたことによるものであると主張して労働契約上の地位確認を求めるとともに、Cの上記暴行につき、Cに対しては民法709条に基づき、Y社に対しては民法715条に基づいて、連帯して200万円の損害賠償(慰謝料)+遅延損害金の支払を請求し、さらに、前記の上司等による継続的なパワーハラスメントに加えて、Y社から一方的に年俸額を減額され、休職後には、Y社がXの標準報酬月額を不当に減額して届け出たことが原因で健康保険組合から受領する傷病手当金を不当に減額されたなどと主張して、Y社に対し、民法709条に基づき562万円の損害賠償+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社らは、連帯して、Xに対し、20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Cは、平成27年7月11日午前、Xに対し、Xの仕事ぶりを非難して、Xの腕を掴んで前後に揺さぶる暴行を加えた上、別の客室で、再度、恫喝口調でXを詰問し、「やれよ。」「分かったか。」などと繰り返し述べて迫り、壁にXの身体を押し付け、身体を前後に揺さぶる暴行を加え、逃れようとしたXが壁に頭部をぶつけるなどし、Xに頭部打撲、頸椎捻挫の傷害を負わせたものであって、このようなCの行為が、Xに対する不法行為を構成することは明らかである。

2 上記Xの頭部打撲、頸椎捻挫の程度は、経過観察7日間を要する程度に止まっている上(Xは、本件事件から約2か月後の同年9月16日にもY1病院を受診しているが、医師の診察所見として意識清明で神経学的にも異常はなく、頭部CTの結果でも異常はないとされている。)、Cの行為態様としても、Xが主張するような頭部を壁に打ち付けるようなものではなかったことは前記で認定したとおりであり、その行為態様が強度なものであったとまではいい難いことや、Cの暴力行為としては、本件事件時の1日のみに止まっていることからすると、かかるCの暴行が、客観的にみて、それ単体で精神障害を発症するほどの強度の心理的負荷をもたらす程度のものと認めることには、躊躇を覚えざるを得ない。
そして、Xが、Y1病院のみならず本件事件当日に受診したY4病院でも、医師に対し錯乱状態や不眠症といった症状を訴えていることからすると、Xの適応障害の原因が本件事件以外の業務外の要因にもあるとの合理的な疑いを容れる余地がある

3 行政庁の上記判断が裁判所の判断を拘束する性質のものでないことはいうまでもないところであるし、前記のとおり、Cの暴力行為は本件事件当日のみのことであることや、Xの受けた傷害の程度が外傷を伴わないものでさほど重いものとはいえないことなどを考慮すると、上記労災医員の意見を過度に重視することは相当でないというべきである。

4 以上のとおり、Xに発病した適応障害が業務上の傷病に当たると認めることはできないから、本件自動退職が労基法19条1項により効力を生じないとするXの主張は、その前提を欠くものである。したがって、Xについては、平成28年1月12日の休職期間満了によりY社を退職したと認められ、これによりXとY社との間の本件雇用契約関係は終了したものであるから、Xの労働契約上の地位確認請求は理由がない。

非常に重要な裁判例です。

労災認定がされているにもかかわらず、裁判所は業務起因性を否定し、労基法19条1項の適用は認めませんでした。

裁判所がいかなる要素からこのような結論を導いたのかをしっかり理解することが大切です。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ48 パワハラと指導の境界線とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、人事評価の濫用に基づく差額賞与等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

住商インテリアインターナショナル事件(東京地裁平成30年6月11日・労判ジャーナル81号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されている従業員がY社に対し、賞与に関して違法な人事評価をされたと主張して、雇用契約における賞与請求権に基づき、平成26年から平成28年までの各6月及び12月支給の賞与の差額として合計約7万円等の支払を求め、Y社の管理本部長であったA及び代表取締役であるBから、コンプライアンス上の問題に関するメールの送信を禁止されたり、厳重注意処分をされたりするなどのパワーハラスメントを受けたと主張して、安全配慮義務の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料200万円等の支払を求め、Y社の取締役兼管理本部長兼業務管理部長であるCからもコンプライアンス上の問題に関して被害申告すること自体を禁止されるなどのパワハラを受けたとして、安全配慮義務の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円等の支払を求め、XがCの指示に反して、コンプライアンス上の問題に関するメールを送信したことを理由としてY社がXに対してした譴責処分は権利濫用に当たり無効であると主張して、同処分の無効確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

差額賞与等支払請求は棄却

パワハラに関する損害賠償請求も棄却

【判例のポイント】

1 Xは、業務管理部長兼取締役管理本部長兼総務・人事リーダーであったDや業務管理副部長であったEの言動に関して、自らの考えに固執し、元社長であったFやAらに対し、特段の根拠も示さずにDやEに対する誹謗中傷、個人攻撃にわたるようなメールの送信等を繰り返していたものであり、AがXに本件メールの撤回ないし取下げを促して口頭注意をし、Bが警告のため本件通知をしたことは、会社の秩序を維持するためにやむを得ないものといえ、Xの人格権を違法に侵害するものと認めることはできず、AがXに対して本件メールの撤回ないし取下げを促し口頭注意をしたことや、Bが本件通知をしたことが従業員の人格権を違法に侵害するものと認めることはできないから、A及びBによるXへのパワハラを認めるに足りず、これに基づくXのY社に対する損害賠償請求は、理由がない

2 Xは、上司であるCからコンプライアンス違反に当たらないようなことについてメールを送信することを禁止する旨の職務命令を受けていたにもかかわらず、これに従うことなく、その後もCやBに対し、同命令の撤回や謝罪を求めるメールの送信を繰り返していたというのであって、本件譴責処分は会社の秩序維持のためやむを得ず行われたものと解され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえず、権利の濫用に当たらない

一連の経緯についてどれだけ裏付けがとれるかが勝敗を決します。

訴訟まで発展しそうな場合には、労使ともにエビデンスの確保がキモとなります。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ47 パワハラによる精神疾患発症と解雇制限の適用の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司の暴行等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

共立メンテナンス事件(東京地裁平成30年7月30日・労判ジャーナル81号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していた元従業員Xが、適応障害に罹患し、その後休職となり、休職期間満了により自動退職とされたところ、Xが、同適応障害は、上司等から継続的にパワーハラスメントを受け、かつ、上司からも勤務中に暴行を加えられたことによるものであり、業務上の傷病であるから労基法19条1項により同自動退職は無効であると主張して労働契約上の地位確認を求めるとともに、上司の上記暴行につき、上司、Y社に対して、連帯して200万円の損害賠償等の支払、さらに、前記の上司等による継続的なパワハラに加えて、Y社から一方的に年俸額を減額され、休職後には、Y社がXの標準報酬月額を不当に減額して届け出たことが原因で健康保険組合から受領する傷病手当金を不当に減額されたなどと主張して、Y社に対し、民法709条に基づき562万円の損害賠償等の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

上司の暴行に基づく損害賠償請求は一部認容(20万円)

その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの頭部打撲、頸椎捻挫の程度は、経過観察7日間を要する程度に止まっている上、上司の行為態様としても、その暴行態様が強度なものであったとまでは言い難いことや、上司の暴行行為としては、本件事件時の1日のみに止まっていることからすると、かかる上司の暴行が、客観的にみて、それ単体で精神障害を発病するほどの強度の心理的負荷をもたらす程度のものと認めることには、躊躇を覚えざるを得ず、そして、Xが、東京臨海病院のみならず本件事件当日に受診した木場病院でも、医師に対し錯乱状態や不眠症といった症状を訴えていることからすると、Xに発病した適応障害が業務上の傷病に当たると認めることはできず、本件自動退職が労基法19条1項により効力を生じないとするXの主張は、その前提を欠くものであるから、Xは、休職期間満了によりY社を退職したと認められる。

2 Y社がXについての標準報酬月額の変更要件に関する解釈を誤ってその変更の届出を行った結果、Xの傷病手当金の支給額の減額がされたと認められるが、その後、Xからの健康保険被保険者資格確認請求手続を経て、Xの標準報酬月額は是正され、傷病手当金の追加支給がされて、その経済的損失は回復されているもので、Y社が故意に事実に反する内容の届出をしたものではないことに鑑みると、この点に関して、Xに慰謝料請求を認めるべき精神的損害が発生したと認めることはできないというべきである。

上記判例のポイント1のように、労基法19条1項の適用を巡って、精神疾患とその原因行為との間に相当因果関係が認められるかどうかが争われることがあります。

医療記録等をしっかり確認をしながら判断をする必要があります。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ46 パワハラ発言の客観的証拠がない場合の裁判所の判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、パワハラ及び違法な雇止めに基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

セイハネットワーク事件(大阪地裁平成30年7月6日・労判ジャーナル81号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、上司から叱責等のパワーハラスメントを受け、これによって生じた欠勤を理由にY社から違法な雇止めをされたとして、Y社及び上司に対し、不法行為又は使用者責任に基づく慰謝料500万円の損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、上司が、Xに対し、長年にわたり、「風邪をひいてはいけない」、「欠勤3回目はクビやで」、「仕事があるのはありがたいんやで」などと叱責し続けた旨主張するが、Xの上記供述を裏付けるに足りる的確な証拠はないこと、Xは、上司が、平成25年4月以降、変則的なスケジュールを組んでXに休養を与えなかった旨主張するが、同月以降のXの休日や具体的な勤務日(シフト)の決定に上司が関与したことを認めるに足りる証拠はないこと、上司は、Xに対し、平成25年4月以降の勤務形態について、Xの健康状態に配慮して、日曜日を含む週休2日のフルタイムBを提示しているのであり、あえてXについて変則的なスケジュールを組んだり、組むよう指示したりする理由はないことに鑑みれば、Xの上記主張は理由がないというほかないから、Xに対して、上司によるパワハラがあったとは認められない。

2 Xは、多数回にわたり欠勤しただけでなく、事前に連絡することなく欠勤(無断欠勤)したことが複数回あり、事前に連絡できなかった合理的な理由も明らかではなく、Xが主張するように、何らかのストレスが原因で欠勤する場合であっても、事前に連絡することすらできないという事態は通常想定し難いのであり、無断欠勤に対してY社から繰り返し注意を受けていたにもかかわらず、Xが平成25年10月に無断欠勤を繰り返したことに照らせば、本件雇止めが客観的に合理性を欠くとか、社会的に相当性を欠くと評価することはできず、ましてや本件雇止めに不法行為を校正するほどの違法性があるということはできない。

ハラスメントの客観的裏づけがない場合、上記判例のポイント1のような認定になってしまいます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ45 上司の不適切発言に基づく損害賠償請求と会社のレピュテーションダメージ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不適切な言動に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

システムディ事件(東京地裁平成30年7月10日・労判ジャーナル81号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、賃金及び賞与を理由なく減額したと主張して、減額分の賃金・賞与、合計約491万円等の支払を求め、また、Y社に対し、上司らの退職強要等に係る債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(休業損害、治療費及び通院交通費並びに慰謝料の損害金合計約539万円等)の支払を求め、代表取締役であるAの暴言に係る不法行為に基づく慰謝料に関し、Aに対しては不法行為、会社に対しては会社法350条又は使用者責任に基づき、連帯して慰謝料50万円等の支払を求め、また、会社に対し、民法536条に基づく休職期間満了後の賃金・賞与請求、合計約501万円等の支払を求め、また、上記復職後の減額分の賃金約12万円及び未払賞与約47万円等の支払を求め、さらに、有給休暇分の賃金・通勤手当等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

減額分等未払賃金・賞与等支払請求の一部認容(休業損害254万7963円、治療費及び通院交通費8万9900円、慰謝料80万円等)

不適切な言動等に基づく損害賠償等請求の一部認容(慰謝料20万円)

【判例のポイント】

1 Xは、A及び事業部長であるGから、不適切な言動により罵倒されるなどしながら繰り返し退職を迫られ、退職に応じなければ会社C本社に転勤させてそれまでの営業以外の業務に就かせて賃金を更に減額するなどと言われ、複数回欠勤するようになり、Gから担当業務の変更や賃金の減額を通告され、その後、医師からうつ状態と診断され、これを原因として休職するに至ったことが認められるから、Y社は、Xに対し、本件雇用契約に基づく注意義務を怠り、AやXの上司らにおける不当な言動や一方的な賃金の減額等を行ってXの意思決定を不当に制約するとともにその人格権を違法に侵害し、これによって、Xはうつ状態を発症するに至ったものと認められ、Y社は、Xに対し、債務不履行に基づき、Xに生じた損害を賠償する責任を負う。

2 AのXに対する発言等が、Xがうつ状態による1年6か月に及ぶ休職期間の満了後に、ようやくこれが寛解して臨んで面会の席上で行われたこと、上記発言中において、AはXに対して「裏切り」「寄生虫」という言葉を複数回用いたこと、AがXに対してこのような発言をしたのはこれが初めてではないことなどの事情を総合考慮すれば、AのXに対する上記発言によって生じたXの精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円が相当である。

使用者側とすれば、この裁判による金銭的負担のみならず、上記のような内容の裁判例が会社名とともに残ることによるレピュテーションリスクについても事前に検討しなければなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。