Category Archives: 労働時間

労働時間87 事業場外労働のみなし制の適用の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、事業場外労働のみなし制の適用の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

協同組合グローブ事件(熊本地裁令和4年5月17日・労経速2495号9頁)

【事案の概要】

本件は、(1)Y社に勤務していたXが、①Y社に対し、賃金の未払があるなどと主張して、労働契約に基づき、未払賃金82万7948円+遅延損害金の支払等を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、29万6080円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社では、業務後の報告として、訪問先への直行の有無、始業時間、終業時間、休憩時間のほか、行き先、面談者及び内容とともにそれぞれの業務時間を記載したキャリア業務日報を業務時間内に日々作成させ、毎月月末までに所属長に提出することとされていたことが認められる。
そして、Y社が提出を求めていたキャリア業務日報には、単に業務内容を記載するだけでなく、具体的な業務時間を記載することとされており、Y社は、業務の遂行の状況等につき比較的詳細な報告を受けているものというべきである。
使用者であるY社において、全ての行き先や面談者に対して業務状況を逐一確認することは困難であると考えらえるが、Xの事業場外労働では実習実施者や実習生などの第三者と接触する業務がほとんどであり、虚偽の記載をした場合にはそれが発覚する可能性が高く、実際に支所長が審査しており、業務の遂行等に疑問をもった場合、Xのほか、実習実施者や実習生などに確認することも可能であることなどからすると、同業務日報の記載についてある程度の正確性が担保されているものと評価することができる。

2 そして、労働時間の一部につき事業場外みなし制が適用される場合には、事業場外の労働について労働基準法38条の2第1項ただし書の「業務の遂行に通常必要とされる時間」を把握して労働時間を算定する必要がある。しかるに、Y社では、支給明細書上の残業時間の記載のほか、別紙労働時間算定表におけるY社の支払済み手当の残業時間等の計算を併せ見せると、Y社は、労働時間の一部が事業場外労働である場合には、キャリア業務日報に基づいて労働時間を把握した上で残業時間を算定していたことが認められる。そうすると、Y社自身、キャリア業務日報に基づいて具体的な事業場外労働時間を把握していたものと評価せざるを得ない

事業場外みなし労働時間制を採用する場合には、労働時間が算定しがたい場合である必要がありますが、過去の裁判例を参考に、裁判所が当該要件についてどのような事実に着目して判断しているのかをしっかり理解しておく必要があります。

安易に同制度を採用するとやけどしますので、ご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間86 警備員の休憩時間の労働時間該当性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、警備員の休憩時間の労働時間該当性が否定された事案を見ていきましょう。

全日警事件(静岡地裁令和4年4月22日・労経速2495号3頁)

【事案の概要】

本件は、新幹線沿線警備業務の隊員であったXら2名が、雇用主であったY社から休憩場所を指定され、携帯電話に出動要請があれば出勤できる態勢を維持し続けており、休憩時間帯が労働時間にあたるとして、主位的に時間外手当を請求し、予備的にはY社が休憩時間を自由に利用させるべき債務を履行しなかったとして慰謝料請求を行った事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきであり、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているということができる。
ただし、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられ、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が認められる場合においては、労働基準法の労働時間には当たらないと解される(最判平成14年2月28日)。

2 これを本件について見ると、2時間の休憩時間中にJRからの緊急要請があった場合には直ちに相当の対応をすることが義務付けられているものの、静岡隊の隊員が休憩時間中に出動要請を受けたのは、平成30年度に1回、令和元年度に1回であり、隊員1人当たり2年に1回程度しかない。いずれも休憩時間中に出動した後、代替の休憩時間を取得している。しかも、いずれの要請も悪天候時点検であったから、当日の天候により予測できるものであった。そもそも新幹線の線路等はJRが保守点検を尽くしており、Y社の警備業務は補佐的役割であるので、勤務時間中も含めた静岡隊への出動要請は年10回前後であるし、休憩時間中の出動要請に対して対応が遅れてもクレームや懲戒の対象にはならない
また、Y社においては、休憩時間中の過ごし方も、多くの者はY社が選定した休憩場所で仮眠を取っているが、その場所から車で移動して別の場所で仮眠を取ることやトイレやコンビニに行くなど自由に過ごすことも許されている。そして、このように休憩時間中自由に過ごせることは、マニュアルが作成され研修が行われて警備隊員は熟知しており、Xらもトイレやコンビニに行ったりして自由に過ごし、管理者から注意を受けることもなかった
以上の事実からすると、Y社における休憩時間については、JRからの緊急要請に対して直ちに対応する必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に対応すべき義務付けがされていないと認めることができるような事情があるというべきである。
したがって、Y社における休憩時間は、労働基準法の労働時間に当たるとは認められない。

警備会社の仮眠時間の労働時間該当性が裁判で問題となることは少なくありませんが、本件のような勤務状況が保障されている現場は、実際にはそれほど多くないと思います。

多くの事案で手待時間(労働時間)と判断されていますので、運用にはくれぐれも注意が必要です。

なお、判例のポイント1記載の最高裁の判断は有名ですのでしっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間85 訪問看護師における緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、訪問看護師における緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間該当性について見ていきましょう。

アルデバラン事件(横浜地裁令和3年2月18日・労判1270号32頁)

【事案の概要】

本件は、特例有限会社であったY社と雇用契約を締結し、訪問看護ステーションの看護師としての労務に従事したXが、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成28年8月分から平成30年11月分までの時間外、休日及び深夜の割増賃金等1152万8940円+遅延損害金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、1055万8236円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金783万2119円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 緊急看護対応業務は、看護ステーションAの訪問看護利用者、介護施設Bの利用者及びホームCの入居者が緊急に看護を要する事態となった場合に、利用者ないし入居者、家族、施設職員等からの呼出しの電話があれば直ちに駆けつけ、看護、救急車の手配、医師への連絡等の緊急対応を行うことを内容とするものであり、看護師が呼出しを受ける理由としては、例えば、発熱、ベッドからの転落、認知症患者の徘徊、呼吸の異変等があり、実際に駆け付けることまではしない場合にも、救急車の手配、当面の対応の指示等をするときもあることが認められる。そして、緊急看護対応業務のための待機とは、前記緊急看護対応業務が必要となる場合に備えて、看護ステーションAの従業員が、Y社からの指示に基づき、シフトに応じて緊急時呼出用の携帯電話機を常時携帯している状況をいう。

2 このような業務の内容等を踏まえると、No1の携帯電話機を所持して緊急看護対応業務のための待機中の従業員は、雇用契約に基づく義務として、呼出しの電話があれば、少なくとも、その着信に遅滞なく気付いて応対し、緊急対応の要否及び内容を判断した上で、発信者に対して当面の対応を指示することが要求され、必要があれば更に看護等の業務に就くことも求められていたものと認められる(しかも、Y社の主張するところを前提としても、緊急出動(オンコール出勤)をした場合の稼働時間として通常は30分から1時間程度を要するというのである。)のであって、呼出しの電話に対し、直ちに相当の対応をすることを義務付けられていたと評価するのが相当である。
なお、Y社は、緊急看護対応の業務については、2名ずつの当番制を採用し、No2の携帯電話機を所持する担当者も待機させ、当番でない従業員も緊急出動(オンコール出動)するなど臨機応変に対応する態勢にあったと主張するものの、あくまでNo1の携帯電話機を所持する担当者が優先して対応するものと指示されていたことに加えて、平成29年1月16日から平成30年11月15日までの1年10か月の間に、No2の携帯電話機を所持する担当者が実際に緊急出動(オンコール出動)に従事した回数は2回、当番以外の従業員がこれに従事した回数は3回にとどまることが認められるから、緊急看護対応業務の態勢についての前記Y社の主張を考慮しても、No1の携帯電話機を所持する担当者が上記対応を義務付けられていたとの評価が直ちに左右されるものではない。

3 緊急看護対応業務に従事するための待機時間中、待機場所を明示に指定されていたとは認められず、外出自体は許容されていたこと(もっとも、呼出しの電話があれば、緊急看護対応が必要な事態の内容によっては、直ちに駆け付けなけれならないことは前記のとおりであるから、外出先の地理的範囲はその限度において自ずと限定されるというべきである。)を考慮しても、上記待機時間は、全体として労働からの解放が保障されていたとはいえず、雇用契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価することができる。

待機時間の労働時間該当性が争点となることは少なくありません。

典型例は警備業や運送業ですが、本件では訪問看護師について判断されています。

いずれも認容される金額が大きくなる傾向にありますので、事前の対策が必要不可欠です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間84 パソコンのログイン時刻からログアウト時刻までが概ね労働時間と認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、パソコンのログイン時刻からログアウト時刻までが概ね労働時間と認められた事案を見ていきましょう。

学校法人目白学園事件(東京地裁令和4年3月28日・労経速2491号17頁)

【事案の概要】

本件は、時間外労働に係る賃金等を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、296万3031円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金219万3727円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に出勤するとまず研究室に向かい本件パソコンにログインの操作をしてカレンダーに時刻を記入して業務を開始し、終業時に本件パソコンにログアウトの操作をして上記カレンダーに時刻を記入していた、Xの主な業務内容の詳細は、「業務状況表」のとおりであった旨主張し、X本人もこれに沿う供述をするところ、Xの上記供述内容は自然かつ合理的なものといえ、基本的に信用できるというべきである。
これに対し、Y社は、本件パソコンのログイン・ログアウトの時刻のみでは証拠が不十分である旨主張しているが、本件雇用契約には「所定時間外労働の有無」が「無」との規定があるものの、Y社がXに所定労働時間外の各種業務を担当させていた事実が存すること自体は実質的に争いがなく、にもかかわらず、Y社がXの労働時間の管理を怠っていたのであり、上記X供述の信用性を否定すべき証拠を提出できていない

被告会社が前記のとおり。パソコンのログイン・ログアウトの時刻のみでは証拠が不十分である等と主張することはよくありますが、裁判所的には「じゃあ、会社のほうでログイン・ログアウトの時刻以上に原告の労働時間を正確に管理・把握していた証拠出してね。」という感じです。

立証責任的観点から単に信用性がないと主張するだけでは足りませんので、ご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間83 事業場外労働みなし制度適用が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、事業場外労働みなし制度適用が認められた事案を見ていきましょう。

セントリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京地裁令和4年3月30日・労経速2490号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、未払割増賃金等の支払及び未払賞与等の支払及び労働基準法114条に基づく付加金請求等の支払を求め、また、XはY社による違法な行為により精神的苦痛を被ったなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料150万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、その労働時間について事業場外で業務に従事しており、各日の具体的な訪問先や訪問のスケジュールはXの裁量に委ねられており、上司が決定したり指示したりするものではない上、業務内容に関する事後報告も軽易なものであることなどからすれば、使用者であるY社は、労働者であるXの状況を具体的に把握することは困難であったと認めるのが相当であるから、XのY社における業務は事業場外での労働に当たり、かつ、Xの事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たるといえ、事業場外労働みなし制が適用される

原告は、製薬会社のMR(医療情報担当者)のため、営業先への移動や訪問に多くの時間を割いていた方です。

周知の通り、事業場外労働みなし制の要件はかなり厳しいため、裁判所はなかなか有効だと判断してくれませんが、本件では上記のとおり、有効と判断されています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間82 保育園における保育士の時間外割増賃金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、保育園における保育士の時間外割増賃金請求について見ていきましょう。

社会福祉法人セヴァ福祉会事件(京都地裁令和4年5月11日・労判1268号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間の労働契約に基づき、Y社の経営する保育園において、平成17年4月1日から退職した令和2年3月31日まで保育士として勤務したXが、未払割増賃金等の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、849万2883円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、10万0411円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金633万7251円を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、令和元年度には、幼児クラスの一人担任を務めていたところ、本件事業場では、保育士の配置基準を満たす最低限の人数の職員で運営がされていたことから、一人担任の保育士は、休憩時間であっても保育現場を離れることができず、連絡帳の記載など必要な業務を行って過ごしていたこと、また、食事さえも、業務の一部である食事指導として基本的には園児と一緒にとることになっていたこと、Xは、平成30年度には、保育の担任はしていなかったものの、一人担任の保育士に交替で30分間の休憩を取らせるために、それらの保育士の担当業務を肩代わりしていたことからすれば、Xは、本件事業場では、休憩をとることができていなかったと認めるのが相当である。

2 Y社は、Xが、残業禁止命令に違反し、申請手続も履行していなかったとして、Xの主張する残業時間をもって、Y社の指揮命令下にある時間であるとも、Y社の明示の指示により業務に従事した時間であるともいえないと主張するが、Y社が主張する残業禁止命令や申請手続は、X以外の職員からも遵守されていなかったことが認められるから、この点に関するY社の主張は、そもそもその前提を欠くものであって、採用することはできない。

3 Y社は、本件事業場では、1か月単位の変形労働時間制を採用しているから、Xの時間外割増賃金はこれに従って計算されるべきと主張する。
労基法32条の2は、同法32条による労働時間規制の例外として、1か月以内の期間の変形労働時間制を定めるところ、これが認められるための要件の1つとして、就業規則等により、1か月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間である週40時間を超えない定めをすることを要求している。この点、本件事業場に適用される勤務シフト表は、週平均労働時間が常時40時間を超過するものであって、労基法32条の2所定の要件を満たさないものであるから、Y社の主張する変形労働時間制の適用は認められないものと解するのが相当である。

4 Y社は、本件労働契約書記載の基本給額には、1か月あたり15時間分の時間外割増賃金が含まれていることから、時間外・深夜割増賃金を算定する際の基礎となるのは、本件労働契約書に記載されている基本給額から時間外割増賃金額を控除した金額と主張する。
しかしながら、本件年俸規程4条、6条によれば、基本給はその全額が時間外・深夜割増賃金の算定の基礎となるものとされていることから、かかる基本給の中に1か月あたり15時間分の時間外割増賃金が含まれているかのような本件労働契約書の記載は、就業規則の最低基準効に抵触し、無効と解するのが相当である(労働契約法12条)。

事前承認制も変形労働時間制も固定残業制も要件を満たしておらず無効と判断されています。

上記判例のポイント1は、人手不足社会日本において、今後ますます避けて通れない問題です。

これまでのような過度なサービス提供社会から大きくシフトチェンジしなければ会社の運営ができなくなると思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間81 不活動待機時間の労基法上の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不活動待機時間の労基法上の労働時間該当性について見ていきましょう。

システムメンテナンス事件(札幌高裁令和4年2月25日・労判1267号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、夜間当番中の労働時間のうち、実作業に従事した時間及び移動に要した時間に係る賃金の支払はあるが、待機時間に係る賃金の支払がないなどと主張して、Y社に対し、平成28年7月21日から平成30年9月20日までの期間に係る時間外労働等に対する未払賃金1185万0044円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金963万8110円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審が、未払賃金52万4315円+遅延損害金の支払を求める限度でXの請求を認容したところ、Xは敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、111万1884円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金22万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 当番従業員は、午後9時より後の時間帯については、事務所での待機を求められていたものではない。そして、Y社は、メンテナンス部門の従業員に対し、月10回程度の当番を割り当てた上、当番従業員に対し、当番従業員用の携帯電話を携行させ、社用車で帰宅させて、架電があった場合に応答し、必要な場合には現場対応するよう求め、札幌から遠方に出かけたり、飲酒したりすることを禁止していたが、それ以上に登板従業員の行動を制約してはおらず当番従業員は、帰宅して食事、入浴、就寝等をしたり、買い物に出かけたりなど、私的な生活・活動を営むことが十分に可能であると認められる
以上に加え、ベル当番の日に1回以上入電のある確率は約33%、入電のあった日における平均入電回数は約1.36回、入電があってから現場に到着し、作業を終了するまでに要する時間の合計は、平均すると、1時間13分程度であって、これらが多いとまではいえないことも併せると、Xが事務所に待機していない時間帯における不活動待機時間については、いわゆる呼出待機の状態であり、Xが労働契約上の役務の提供を義務付けられていたものではなく、労働からの解放が保障され、使用者の指揮命令下から離脱したものと評価することができるから、これが労働時間に当たると認めることはできない。

2 当番従業員は、ベル当番の際、事務所における待機中は、コンビニエンスストアに買い物に出かけたり、インターネットで動画を閲覧するなど自由に過ごすことができてはいたものの、当番従業員が2名とも事務所に待機していることで、顧客からの電話連絡が入ると、速やかに2名で現場に向かうことができるように事務所に待機していたこと、Y社代表者においても、Xを含む当番従業員が、所定の業務終了後も事務所に待機していることを認識し、これを容認していたと認めることができる。そうすると、Xが、事務所に待機していたと認められる時間帯については、労働からの解放が保障されているとはいえず、Y社の指揮命令下に置かれていたものとして、労働時間に当たるものと認めるのが相当である。

上記判例のポイント1と2は比較して押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間80 シフト制勤務医の勤務日・勤務時間削減の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間がんばりましょう。

今日は、シフト制勤務医の勤務日・勤務時間削減の有効性について見ていきましょう。

医療法人社団新拓会事件(東京地裁令和3年12月21日・労判1266号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社とアルバイトの雇用契約を締結していた医師であるXが、Y社から一方的に勤務日及び勤務時間を削減されるという労働条件の切り下げを受けた後に違法に解雇されたと主張して、賃金支払請求権に基づき差額賃金369万9952円+遅延損害金の支払を求め、解雇予告手当支払請求権に基づき解雇予告手当130万6938円+遅延損害金の支払を求め、付加金支払請求権に基づき付加金130万6938円+遅延損害金の支払を求め、上記労働条件の切下げ及び上記解雇が違法であるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害1768万3256円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、189万9833円+遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、30万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが、令和元年5月16日、Y社に対し、「了解しました。よろしくお願いいたします。」というLINE上のメッセージを送り、勤務日及び勤務時間の削減に同意したと主張する。
しかし、Xは、勤務日及び勤務時間の削減について同意していない旨をLINE上で明確に伝え本件雇用契約書への押印を拒否しているのであり、Cとの交渉の過程で発せられた上記メッセージを取り出してこれをもってXが勤務日及び勤務時間の削減に同意したものと認めることはできない。

2 Y社は、Xが、令和元年5月15日、Y社に対し、「勤務につきましては週に3~4日程度定期的に入れれば幸いです。」というLINE上のメッセージを送ったことにより、週3日の勤務とすることに合意した旨主張する。
しかし、上記メッセージは、XがY社と交渉する経緯の中での妥協案として提案したものと認められるところ、Y社は、結局、この提案を受け容れたものとは認められないことに照らせば、上記メッセージをもってXとY社が週3日の勤務日とする合意をしたものと認めることはできない。

3 Y社がしたXの勤務日及び勤務時間の削減は、違法であるところ、これによりXは、約67%(日額2万8729円÷日額4万2618円=0.674…)もの減収を受けて多大な精神的苦痛を受けたものと認められ、Xの精神的苦痛を慰謝するには30万円が相当である。

珍しく慰謝料請求まで認められています。

LINE等で労働条件の不利益変更に同意したような記載があったとしても、雇用契約書への押印を拒否しているという事情からすれば、真意に基づく同意があったとはなかなか認定しにくいです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間79 タクシー運転業務の労働時間性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タクシー運転業務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

洛東タクシー事件(京都地裁令和3年12月9日・労判ジャーナル122号1頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたタクシー乗務員Xらが、未払いの時間外割増賃金があると主張して、Y社に対し、未払割増賃金及び付加金の支払を請求した事案である。

Y社は、乗務員らのタクシー乗車時間のうち、長時間の客なし走行などを労働時間から除外し、また、基準外手当の支給が割増賃金に当たると主張した。

【裁判所の判断】

請求一部認容(公休出勤手当を割増賃金算定基礎に含めないことを除き、請求認容)

【判例のポイント】

1 タクシー営業において、乗車希望の客を見つけるために、乗客なしに一定時間走行することは当然に想定されるところ、そのような時間であっても、乗車希望の客が見つかった場合には、当該客を乗せて走行することになると考えられる上、実際に、Xらは、それぞれが慣れた経路や地域を中心に、各自の経験に基づいて客を見つけることができると考える場所を「流し」で走行していたものであって、乗客なしの走行をしている間、Xらが行燈の表示を回送等にするなど、およそ客の乗車が想定されない状態にしていたことはうかがわれない

2 そうとすれば、Xらが、客を乗せることなく、長時間走行していたとしても、そのことから直ちに、当該時間について労働から解放されていたとは認め難く、むしろ乗車を希望する客がいた場合には、すぐに客を乗車させて運送業務を行うこととなるのであるから、当該時間についても労働契約上の役務の提供が義務付けられていたものであり、Y社の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。

まあ、そう解さざるを得ないでしょうね。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

労働時間78 ラブホテル従業員の休憩時間の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、ラブホテル従業員の休憩時間の労働時間該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

ホテルステーショングループ事件(東京地裁令和3年11月29日・労経速2476号29頁)

【事案の概要】

Xは、平成26年4月、Y社(都内で16店舗のラブホテルを経営)との間で労働契約を締結し、以降Y社の経営する複数の店舗において、客室清掃などを担当する「ルーム係」として勤務していた。
Xは、平成30年8月から令和2年8月頃までは、Y社の店舗の一つであるA(11部屋の客室を有する)で勤務し、通常は出勤してタイムカードを打刻した後、所定始業時刻以前の労働時間については賃金が支払われていなかった。

Xは、令和2年12月にY社を退職したが、令和3年2月に、未払賃金及び休業手当の支払を求めて本件訴訟を提起した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、合計148万5130円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、タイムカードを打刻してから所定始業時刻の午前10時までの間、リネン類の準備作業などを行っており、Xのこれらの作業の性質はY社の業務遂行そのものである。このことに加え、その作業がY社が労務管理のために導入したタイムカードの打刻後に行われていたこと、Y社の管理が及ぶ店舗内で行われていたものであること、ほぼ全ての出勤日で同じように行われ続けていたことなどからすると、Y社はこのような常態的な所定始業時刻前の作業の実態を当然に把握していたというべきところ、これを黙認し、業務遂行として利用していたともいえるから、上記作業はY社の包括的で黙示的な指示によって行われていたものと評価すべきである。

2 Xにおいては、ルーム係として客室清掃等の業務を行うことが労働契約上定められた業務であるところ、その業務を行う態様としては、Y社からの包括的な指揮命令に基づいて、フロント係からの連絡が客室の煙草処理や忘れ物の確認を行ったり、客室の空き状況や当日の混雑状況などを踏まえて必要があると自身らが判断すれば、客室清掃を行うといった状況であった。
そうすると、Xは、所定就業時間内においては、実作業に従事していない時間であっても、状況に応じてこれらの業務に取り掛からなければならない可能性がある状態に置かれていたというべきであり、その結果、原則的にルーム係控室に常に在室することを余儀なくされていたものと認められる。
そうすると、労働契約上の形式的な45分間の休憩時間や実際に昼食をとっていた時間を含めて、所定就業時間内は、Xには労働契約上の役務の提供が義務付けられていたというべきであり、労働からの解放が保障されていたとはいえない
したがって、所定就業時間内は、全て労基法上の労働時間に当たるものと認められる。

上記判例のポイント2については、仕事の性質上、仮に実作業に従事していない時間があったとしても、1人体制では、労働からの解放は否定されてしまうのはやむを得ないところです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。