Category Archives: 労働時間

労働時間97 36協定の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、36協定の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人社団菅沼会事件(東京地裁令和4年12月26日・労判ジャーナル135号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、Y社が、Xの加入する労働組合が申し入れた過半数代表者の選出手段に関する協議等の要求を拒絶し、Xを過半数代表者の選出手続から排除し、Xがは関数代表者として選出されたにもかかわらずその地位を否定し、Xに無効な労使協定に基づく残業を指示し、もってXの権利を侵害したと主張して、不法行為に基づく損害賠償金約70万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件クリニックの従業員の過半数で組織する労働組合でなければ、Y社との間で、本件クリニックの従業員の36協定を締結する権限はないから、X以外の本件クリニックの従業員の加入者の有無・加入者数が明らかではなかった本件組合との間で、団体交渉事項とされていなかったにもかかわらず、Y社が、本件クリニックの過半数代表者の選出について事前に協議する義務はないというべきであるから、Y社がこれを拒否する旨の回答をしたことに違法はないというべきである。

2 過半数代表者の選出手続は、「協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法」によらなければならないが(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)、使用者において立候補者の一般募集を行うことが義務付けられているものではなく、また、労働者又は労働組合からの要求によってそのような義務が生じるとも解されないから、Xが、第2回団体交渉で、本件組合との事前協議を行わないことに抗議したことなどをもって、Y社において一般募集を行う義務が生じたということはいえず、Y社が令和元年の過半数代表者の選出に当たり立候補者の一般募集を行わなかったことが不法行為を構成するとは認められない。

労使協定締結時の過半数代表者の選出方法については、一般的なルールが定められていますので、留意点をしっかりと押さえてながら進めていきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間96 不動産会社における事業場外みなし労働時間制適用の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週もがんばりましょう。

今日は、不動産会社における事業場外みなし労働時間制適用の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

住友不動産事件(名古屋地裁令和5年2月10日・労判ジャーナル136号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に対し、雇用契約に基づき、時間外労働に対する未払割増賃金等の支払及び付加金等の支払を求め、また、Xは、パワーハラスメントを受けたとして、営業所の所長であるC及びXの指導係であるDに対しては、不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対しては、使用者責任(不法行為)、職場環境配慮義務違反又は措置義務違反(不法行為又は債務不履行)による損害賠償請求権に基づき、連帯して、330万円等の支払をもとめた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、土地の確認等のために営業所外での業務を行うことがあったと認められるが、Xは、Cに対し、一日の行動予定を毎朝メール送信しており、その中には営業所外での業務を行う予定が記載され、また、Xは営業所外での業務を行う場合でもいったん出社した上で、営業所外に移動し、再び営業所に戻っているのであるから、Y社がXの勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りないから、「労働時間を算定し難いとき」に該当するとは認められず、Xに対する事業場外みなし労働時間制は適用されない。

2 Cの行為について、Xに対する指導の中で半年程度の間、暴行、暴言が少なくない頻度で継続的に行われたことが認められ、XがY社を退職した理由の1つにもなったことが認められるが、他方で、Cによるハラスメントが業務と無関係に行われたものではなく、指導の必要性自体は否定できないこと等の事情を総合考慮すれば、Cの不法行為によってXに生じた精神的苦痛に対する慰謝料としては、70万円と認め、また、Y社は使用者責任に基づく損害賠償として連帯して、77万円等を支払う義務を負う。

事業場外みなし労働時間制については、過去の類似の裁判例と同様、有効に運用することは極めて困難です。

残業代請求リスクが高まりますので、安易な導入は控えましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間95 夜勤開始前の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、夜勤開始前の労働時間該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

TSK事件(東京地裁令和4年12月3日・労判ジャーナル135号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結して物品の検品及び警備業務等に従事していたXが、Y社に対し、未払時間外割増賃金等の支払を求め、年次有給休暇の時季指定権を行使し、40日の年休を取得したにもかかわらず、そのうち20日分に相当する賃金の支払を受けていないとして、賃金19万円等の支払を求め、労働基準法114条に基づく付加金約785万円等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、日勤時の昼休憩を取るときは、制服を着たまま、駐車場に停めている自らの車で休憩を取り、車内で食事などをしていたところ、夜勤開始前時間においても、駐車場に停めている自らの車の中で食事をしていること、本件施設の構内に出ることも可能であったことが認められ、X自身も当法廷において、「仕事してもしなくてもいい時間」である旨供述していることに照らせば、夜勤開始前時間においては労働からの解放が保障されていたというべきであるから、夜勤開始前時間において、実質的にXに労働契約上の役務の提供が義務付けられているとはいえず、夜勤開始前時間はXが使用者の指揮命令下に置かれているとはいえず、労働基準法上の労働時間に当たらない。

この内容からすれば、指揮命令下に置かれていたとは評価できませんね。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間94 勤務時間短縮を理由とする未払賃金等支払請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、勤務時間短縮を理由とする未払賃金等支払請求に関する裁判例を見ていきましょう。

クオール事件(東京地裁令和4年12月2日・労判ジャーナル134号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間でパートタイマーとして労働契約を締結し、Y社の運営するコンビニエンスストアにおいて労務を提供していたXが、Y社によって夜勤シフトの始業時間が一方的に変更され、勤務時間が短縮されたことは無効であり、また、時間外労働及び深夜労働に係る割増賃金にも未払があるとして、Y社に対し、労働契約に基づき、短縮された勤務時間に係る未払賃金及び同期間の未払の割増賃金等の支払に加え、労働基準法114条に基づく付加金等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件雇用契約において夜勤の始業時刻を午後10時とする旨の合意をしたにもかかわらず、XがD店へ異動した後に、Y社が一方的に夜勤の始業時刻を午後11時に変更し、勤務時間を1時間短縮したことは無効であると主張するが、XがY社に入社する際に交わされた成立に争いのないパートタイマー雇用契約書には、終業時間について、「月~日 23:00~翌8:00」、「上記時間帯で週5日間、週39.5時間のシフト制」と記載されていることから、XとY社との間で始業時刻に関する別段の合意をするなどの特段の事情が認められない限り、本件雇用契約書記載のとおり始業時刻については午後11時とする合意があったものと認めるのが相当であるところ、XとY社との間で、本件雇用契約書の記載内容とは異なる始業時刻に関する別段の合意をしたなどの特段の事情は認められないから、本件雇用契約書により、Xの入社の時点から夜勤の始業時刻を午後11時からとする雇用契約が成立したと認めるのが相当であり、本件賃金請求は理由がない。

これだけを読むと結論に異論がないように見えますが、「別段の合意」の有無が争点となることは少なくありません。

最終的に合意の存在が認定できない場合には、原則通り、契約書記載の内容が雇用契約の内容となります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間93 タイムカード等により機械的に労働時間が記録されていない場合の労働時間の算定方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、タイムカード等により機械的に労働時間が記録されていない場合の労働時間の算定方法に関する裁判例を見ていきましょう。

クロスゲート事件(東京地裁令和4年12月13日・労判ジャーナル134号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていた元従業員114条所定の付加金等の支払を求め、Xが令和元年10月7日から10日までの間のアルバイトをしていたときの未払アルバイト代等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求、付加金等請求一部認容

未払アルバイト第等請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社においては、Xの労働時間をタイムカード等により機械的に記録しておらず、その把握は、従業員が所定の勤務簿(MicrosoftExcelのデータ)に各日の出退勤時刻等を入力して提出する方法によりなされていたことが認められ、Y社がXの提出した出勤簿に記載された勤務時間について疑義を述べた形跡も見当たらないことに照らすと、別段の反証のない限り、Xの始業時刻及び終業時刻は当該出勤簿により認定するのが相当であり、Y社からかかる反証はなされておらず、そして、本件労働契約においては各日の休憩時間が1時間と定められているから、別段の主張立証のない限り、各日について1時間の休憩がとられていたものと認めるのが相当であり、Xからかかる主張立証はなされていないから、Xは、令和2年1月6日から5月20日までの間、「裁判所 時間シート」のとおり労務を提供したものと認められる。

会社から具体的な反証がなく、単に原告である労働者の主張立証が不十分であると反論するだけでは足りません。

労働時間を管理する義務を使用者が負っていることの帰結といえるでしょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間92 位置情報を把握できる勤怠管理システムの導入後、直行直帰の営業職に事業場外みなし労働時間制の適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、位置情報を把握できる勤怠管理システムの導入後、直行直帰の営業職に事業外場みなし労働時間制の適用が否定された事案を見ていきましょう。

セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京高裁令和4年11月16日・労経速2508号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、未払割増賃金等の支払及び未払賞与等の支払及び労働基準法114条に基づく付加金請求等の支払を求め、また、XはY社による違法な行為により精神的苦痛を被ったなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料150万円等の支払を求めた事案である。

現存は、Xの請求をいずれも棄却したところ、Xが請求の確認を求めて控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、労基法38条の2第1項により事業場外労働みなし制の適用を受けるためには、雇用契約書又は就業規則により同項の適用があることを明記しなければならないと主張するが、事業場外労働のみなし制は、労基法の規定に基づく制度であり、雇用契約書又は就業規則に別途定めを置くことは要件とされていない

2 週報は、エクセルの1枚の表に、1週間単位で、当該MRが担当する施設ごとに、業務を行った日付とその内容とを入力するものであり、内容欄のセルには相当の文字数の文章を自由に入力することができるから、Y社は、MRに対し、週ごとに、事後的にではあるが、MRが1日の間に行った業務の営業先と内容とを具体的に報告させ、それらを把握することが可能であったといえる。
また、週報には始業時刻や終業時刻等の記入欄はないものの、Y社は、平成30年12月、従業員の労働時間の把握の方法として本件システムを導入し、MRに対して、貸与しているスマートフォンから、位置情報をONにした状態で、出勤時刻及び退勤時刻を打刻するよう指示した上、月に1回「承認」ボタンを押して記録を確定させ、不適切な打刻事例が見られる場合には注意喚起などをするようになった。そうすると、平成30年12月以降、Y社は、直行直帰を基本的な勤務形態とするMRについても、始業時刻及び終業時刻を把握することが可能となったものといえる。
そして、Y社は、本件システムの導入後も、MRについては一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとして扱っているが、月40時間を超える残業の発生が見込まれる場合には、事前に残業の必要性と必要とされる残業時間とを明らかにして残業の申請をさせ、残業が必要であると認められる場合には、エリアマネージャーからMRに対し、当日の業務に関して具体的な指示を行うとともに、行った業務の内容について具体的な報告をさせていたから、本件システムの導入後は、MRについて、一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとすることなく、始業時刻から終業時刻までの間に行った業務の内容や休憩時間を管理することができるよう、日報の提出を求めたり、週報の様式を改定したりすることが可能であり、仮に、MRが打刻した始業時刻及び終業時刻の正確性やその間の労働実態などに疑問があるときには、貸与したスマートフォンを用いて、業務の遂行状況について、随時、上司に報告させたり上司から確認をしたりすることも可能であったと考えられる。
そうすると、Xの業務は、本件システムの導入前の平成30年11月までは、労働時間を算定し難いときに当たるといえるが、本件システムの導入後の同年12月以降は、労働時間を算定し難いときには当たるとはいえない

この裁判例の理屈でいえば、今の時代、もはや労働時間を算定し難いことなんて想定できないのではないかと思えますがいかがでしょうか。

事業場外みなし労働時間制を導入する際は、必ず事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間91 就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案を見ていきましょう。

日本マクドナルド事件(名古屋地裁令和4年10月26日・労経速2506号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、
①Y社が、XとY社との労働契約が平成31年2月10日付け退職条件通知書兼退職同意書による合意解約により終了したと主張するのに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②主位的に退職の意思表示が無効であることを理由とする労働契約に基づく賃金請求として、予備的に違法な退職強要があったことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、退職日の翌日である令和元年5月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り45万4620円+遅延損害金の支払、
③時間外労働を行ったと主張して、労働契約に基づき平成29年3月13日から平成31年2月12日までの未払割増賃金合計486万0659円の一部である61万0134円+遅延損害金の支払、
④付加金+遅延損害金の支払
⑤(ア)Y社における業務や違法な退職強要等により労作性狭心症及びうつ病を発病したことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求若しくは(イ)上司らによるパワーハラスメント等により人格的利益を侵害されたことを理由とする使用者責任(民715条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の一部である200万円+遅延損害金の支払
を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、61万0134円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金61万0134円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現にXが勤務すしていたQ1店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすとY社が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定していたものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない

2 Y社は、全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は、就業規則に基づくものであると主張する。
しかし、労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(通達)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない
加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(通達)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することはできない。
よって、Y社の定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。

管理監督者性に関する別の日本マクドナルド事件同様、他の従業員への波及効果が大きいですね。

シフト表で事前に出勤日を管理するだけでなく、就業規則上でも特定をする必要があることをしっかりと押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間90 警備現場からの移動時間など勤務実績報告書の提出等に要した時間が労働時間に該当するとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、警備現場からの移動時間など勤務実績報告書の提出等に要した時間が労働時間に該当するとされた事案を見ていきましょう。

テイケイ事件(東京地裁令和4年6月1日・労経速2502号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結したXが、Y社に対し、平成30年10月から平成31年9月までの期間における時間外労働に対する割増賃金及び交通費の不払がある旨主張して、①労働契約及び労基法37条1項に基づき、8万3715円+遅延損害金、②労基法114条に基づき、付加金7万3860円+遅延損害金、③労働契約に基づき、交通費7110円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、6万1179円+遅延損害金を支払え。

2 Y社は、Xに対し、2万8728円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、毎週水曜日に、本件支社に赴き、勤務実績報告書を提出していたほか、制服等を着用し、内勤の従業員による点検を受け、シフト希望表を作成して提出し、賃金支払票の交付を受けていたことが認められるところ、これら本件業務報告等はXの業務に関連する行為であることは明らかである。
そして、本件書面には、警備員には、週に1度、水曜日に会社に来てもらい、勤務希望表及び勤務報告書の提出、給料明細の受取り、制服の点検等を行う旨記載されていること、Xは現場における業務がない日もわざわざ自宅から本件支社に赴いて本件業務報告等を行っていることを踏まえると、本件業務報告等は、Y社の明示又は黙示の指示により行った業務というべきであり、これに要した時間は労働時間に該当するというべきである。

2 Y社は、警備員に対し、勤務実績報告書を本件支社に持参することを義務付けておらず、郵送やファクシミリにより行うことも可能であった旨主張し、郵送での提出が認められたことがあることを示す証拠を提出している。
しかしながら、勤務実績報告書の提出自体は業務命令であることは明らかであるし、警備員の本件業務報告等の対応を行っていたP1課長は、警備員の7割程度は勤務実績報告書を本件支社に持参していたにもかかわらず、持参する警備員に対し、郵送やファクシミリでの対応が可能であることを明確に指示していたとはうかがわれないのであるから、例外が認められる場合はあるにせよ、原則としては本件支社に勤務実績報告書を持参することを求めていたというべきであって、勤務実績報告書の提出に要した時間は、Y社の指示により業務を行った時間というべきである。

理屈からするとこのような結論になることはほとんど争いがないところかと思います。

決して警備員に限った話ではないのでみなさんも気を付けましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間89 事業場外労働のみなし時間制適用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、事業場外労働のみなし時間制適用の可否に関する裁判例を見ていきましょう。

ヨツバ117事件(大阪地裁令和4年7月8日・労判ジャーナル129号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく割増賃金等の支払を求め、また、不当な天引きがあったとして、雇用契約に基づく未払賃金等を求め、さらに労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 事業場外労働のみなし時間制の「労働時間を算定し難いとき」(労基法38条の2第1項)に該当するか否かについて、Y社ではタイムカードの打刻が義務付けられており、Xは、タイムカードが残存する月以外の月についてもタイムカードを打刻していたことがうかがわれ、そして、タイムカードは打刻した時刻を客観的に記録するものであること、Xのタイムカードをみると、一部手書きの時刻もあるものの、おおむね出勤時刻及び退勤時刻が打刻されていることからすれば、Y社とすれば、Xのタイムカードの打刻内容を確認することで、Xの労働時間を把握することが容易に可能であったということができること等から、本件におけるXの業務が、「労働時間を算定し難いとき」に当たると認めることはできない。

労働時間の例外規定については、有効要件が厳しいので、安易に導入するのは非常に危険です。

残業代を減らすための王道は、残業時間を減らすことです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間88 控除された乗継ぎが遅れた2分間分の賃金(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、控除された乗継ぎが遅れた2分間分の賃金に関する裁判例を見ていきましょう。

西日本旅客鉄道事件(岡山地裁令和4年4月19日・労判ジャーナル129号52頁)

【事案の概要】

Xは、旅客鉄道事業等を営むY社との間で雇用契約を締結した運転士であるところ、電車入区作業(回送列車をa電車区に移動させて留置する作業)を行う際、乗継ぎのために待機すべきホームの番線を間違えたために、指定された時刻より2分遅れて乗継ぎ作業を開始し、1分遅れて入区作業を開始・完了した。Y社は、乗継ぎが遅れた2分間は勤務を欠いたものであるとして、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、当該2分間分のXの賃金を控除した(ただし、うち1分間分は後に返還された)。
本件は、Xが、Y社に対し、上記賃金控除は違法であり、不法行為にも該当すると主張して、雇用契約に基づく未払賃金56円及び不法行為に基づく慰謝料200万円と弁護士費用20万円の合計220万0056円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、56円+遅延損害金を支払え。

 Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 賃金請求権の発生根拠は、労働者と使用者との間の合意(労働契約)に求められるところ、労働者が債務の本旨に従った労務の提供をしていない場合であっても、使用者が当該労務の受領を拒絶することなく、これを受領している場合には、使用者の指揮命令に服している時間として、賃金請求権が発生するものと解される(前記前提事実のとおり、Xは、午前7時09分から午前7時11分までの間、全く労務を提供しなかったものではなく、本件は、労務の提供が履行不能となった事案ではない。)。
したがって、Y社が、午前7時09分から午前7時11分までの間の原告の労務を受領したといえるか否かについて検討する。

2 本件につき検討すると、午前7時09分から午前7時11分までの間のXの労務について、Y社による明示の受領拒絶はなされておらず、実際に労務が行われたこと自体に争いはない。
Xは、午前6時48分までに乗務点呼を終えた後、勘違いにより2番線ではなく5番線で待機し、午前7時08分頃、自身が乗り継ぎをするはずの回送列車が2番線に向かっているのを見て当直係長に電話をかけたところ、ホームを間違えていたことに気付いたため、直ちに2番線の〔5〕地点に向かい、午前7時11分に乗継ぎ作業を開始したものである。
そうすると、午前7時09分から午前7時11分の間にXが提供した労務内容は、自身の待機場所の誤りの有無を確認し、その誤りに気付いて、小カード所定の正しい待機場所へ向かい、小カードで指示されていた乗継ぎ作業を開始したものであって、直ちに小カード所定の業務内容に修正すべく行動したものであり、遅滞は生じつつも被告が指定した小カード所定の業務の実現に向けて行われた労務であって、Y社にとっても有益性を有するものといえる。
Y社において、Xのこのような労務の受領を予め拒絶して、急きょ他の乗務員等に午前7時09分以降の小カード所定の作業を行わせ、あるいは同作業の実施を取りやめるなどする意思があったものとは解し難く、小カードにより時刻を指定して業務を指示したことをもって、これに反する上記労務の受領を予め黙示に拒絶していたなどと認めることはできない。
Xは、午前6時33分に出勤点呼を受け、午前6時48分に乗務点呼を受けてから、ホームに出場し、自身の待機場所の誤りを修正して指定された正しい待機場所に向かい、入区作業を行うという小カード所定の業務の遂行に向けた一連の労務を行っている間、Y社の指揮命令に服していたものといえ、Y社において、このような労務のうち一部を切り取って、当該部分の労務を受領していないなどということはできない。
したがって、Y社は、午前7時09分から午前7時11分までの間のXの労務を受領したものと認められ、Y社の上記主張は採用できない

2分間の賃金56円の請求が認められました。

本訴訟対応に要する費用を考えると、費用対効果では到底説明がつきませんね。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。