Category Archives: 管理監督者

管理監督者60 取締役統括部長であった原告の管理監督者性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、取締役統括部長であった原告の管理監督者性が否定された事案を見ていきましょう。

アスク事件(東京地裁令和5年4月12日・労経速2547号32頁)

【事案の概要】

1 本訴は、Y1社において営業職として勤務していたXが、Yらに対し、次の各請求をする事案である。
ア Y1社に対し、時間外労働等に対する未払賃金として594万5288円+遅延損害金の支払
イ Y1社に対し、付加金として497万0113円+遅延損害金の支払
ウ Y1社に対し、退職金として、424万6504円+遅延損害金の支払
エ Xは、Y1社から退職金の現物給付として本件自動車を支給することが決まっていたのに、これが履行されていないと主張し、①Y2社に対し、Y2社との間の退職金の支給に係る債務引受合意に基づき、本件自動車の所有権移転登録手続の請求(主位的請求)、②Y1社に対し、本件自動車を支給しなかったとの債務不履行に基づき、損害賠償として230万円(本件自動車の時価)+遅延損害金の支払(予備的請求)
2 反訴は、①Y1社が、XにはY1社に在任中に労働契約上の義務違反(債務不履行)及び不法行為を構成する行為があったとして、Xに対し、これらの行為による損害賠償(債務不履行による損害6万2670円、不法行為による損害232万3269円)+遅延損害金を請求するとともに、②Y2社が所有権に基づき、Xに対し、Xが占有する本件自動車の引渡しを請求する事案である。

【裁判所の判断】

 Y1は、Xに対し、448万8522円+遅延損害金を支払え。
 Y1は、Xに対し、100万円+遅延損害金を支払え。
 Y2は、Xに対し、別紙2車両目録記載の自動車について所有権移転登録手続をせよ。
 Xは、Y1に対し、6万2670円+遅延損害金を支払え。
 Xのその余の本訴請求を棄却する。
 Y1のその余の反訴請求及びY2の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 ①Xは、従業員の人事考課を行っていたものの、最終的な決定は代表取締役が行っており、Xの意見が覆されることもあった。
②Xは、人材の採用に関して、応募してきた者の面接を行い、社長に意見を述べていたものの、Y社代表者が最終的な決定を行い、Xが採用すべきとの意見を述べた場合(6件)のうち、2件についてはY社代表者がこれと異なる意見を述べて、不採用となった。
③Xは、部下の異動について代表取締役に意見を述べていた。
④Xは部下の日報を確認していた。
以上の認定事実を踏まえて検討すると、たしかに、Y1社の機材の購入計画及び廃棄計画並びに売上管理表の原案を作成していた点では経営に関与しているとともに、人事考課、人材の採用等の場面において、代表取締役に意見を述べて、人事・労務管理に一定の役割を果たしたこと自体は否定できない
しかしながら、①Xは取締役ではあったものの、取締役会を通じて経営に参画していたとはいえないこと、②合同会議で議題されていた内容は経営方針そのものというよりは、それぞれの部門の実務的な課題と評価されるものであること、③統括部営業会議は、部門長が出席する会議であり、会議の内容を考慮しても、経営に関する意思決定が行われていたとはいえないこと、④Xには建設機械を購入する権限がなかったことからすると、Xが経営上の決定に参画していたとはいえない。
また、人事・労務管理上の権限に関しても、Xは意見を述べるにとどまり、最終的な決定権限は代表取締役にあり、代表取締役の権限が形骸化していたとも評価できない。Y社代表者は、Y社代表者が面接をしないで採用が決まったこともある旨供述するが、その数は少ないとも供述しており、採用の決定権限がY社代表者にあったとの認定を左右しない。また、日報については、Y社代表者は、日報は労務管理のためのものである旨供述する一方で、Xは部下に営業の指導、アドバイスをするために部下の日報を見ていた旨供述しており、C専務もXは日報とタイムカードの双方を確認していない旨供述していることからすると、日報が労務管理を目的として作成されていたとまでは認められない。そうすると、Xが部下の日報を見ていたとしても、人事・労務管理上の権限を有していたこととはいえない。
以上によれば、Xは機材の購入計画及び廃棄計画並びに売上管理表の原案を作成していた等の点で一定程度経営に関与していたことは否定できないものの、それ以外に経営に関与していたと評価できる事情はなく、特に人事・労務管理上の権限に関しては、最終的にはY社代表者に権限があったと認められるのであって、Xは、経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとまではいえない。

ご覧のとおり、もはや管理監督者性についてはあきらめたほうが無難かと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。   

管理監督者59 工場部門に置かれた業務部(製造部門)の責任者の管理監督者性が否定された事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、工場部門に置かれた業務部(製造部門)の責任者の管理監督者性が否定された事案を見ていきましょう。

三栄事件(大阪地裁令和5年3月27日・労判ジャーナル140号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、平成30年9月21日から令和2年3月4日までの未払割増賃金合計745万4359円+遅延損害金、②労基法114条に基づき、付加金510万8321円+遅延損害金、③雇用契約に基づき、本件請求期間における未払の食事手当合計12万4950円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 Y社は、Xに対し、562万7090円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、付加金374万1093円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、13万0692円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、工場部門に置かれた業務部(製造部門)の練りの責任者であったことが認められ、Y社の役員を除けば、工場部門の長である工場長、業務部(製造部門)の長である総責任者に次ぐ地位にあったことが認められる。
しかしながら、他方、Y社の経営方針は幹部会議において決定されていたところ、幹部会議の出席者は、会長、社長、専務その他の役員のみであり、Xが出席したことは一度もなかったこと、Xは、労務管理や人事の権限を有していなかったことが認められ、これらのことからすると、XがY社の経営に参画していたとはいえず、Xが経営者と一体的な立場にあったとは認められない。
Y社は、Xが製造部門の中核かつ最も重い責任のある立場にあったと主張するが、そのことは、Y社が出荷する生コンの質の良し悪しを決定づけるという意味においてその立場が重視されていたというにすぎず、Xが経営者と一体的な立場にあったことを基礎づけるものとはいえない。
また、Xが他の従業員に対し業務上の指示を行い得る立場にあったことをもってXが経営者と一体的な立場にあったともいえない
   
2 Xが遅刻や欠勤をした場合でも賃金控除がされていなかったものの、Xの労働時間は、タイムカードによって管理されていたほか、Xは、就業時間中に被告営業所を中抜けして本件歯科医院に通院していたことが発覚してY社に始末書を提出していることが認められることからすると、Xが勤務時間に関する裁量を有していたとは認め難い。日曜日や大型連休に出勤を要することは直ちに勤務時間に関する裁量を有していたことに結びつくものではない。
   
3 Xの年収は、平成30年は729万円余り、平成31(令和元)年も679万円余りであったことが認められ、その金額自体はそれなりに高額であるといえるものの、かかる金額は、他の従業員と比較しても、時間外手当を含めれば、その年収が特に高額であったとは認められない。また、Xの平成24年4月分以降の給与の額は、X自身の同年1月分から同年3月分までの給与と比較しても、時間外手当を含めれば、その差は最大でも2万円程度にとどまり、遜色はないものと認められる上、平成30年1月から令和2年2月分までとの比較でも、基本給の増額分が2万0375円又は2万8486円が加算されるにすぎず、その差が大きいとまではいい難い。これらのことからすると、Xが管理監督者として相応の待遇を得ていたとまではいい難い。

4 以上によれば、Xは労基法41条2号にいう管理監督者には当たらないというべきである。

ご覧のとおり、管理監督者に該当する労働者はほぼ存在しませんのでご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者58 管理本部経理部長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理本部経理部長の管理監督者性に関する裁判例を見ていきましょう。

国・広島中央労基署長(アイグランホールディングス)事件(東京地裁令和4年4月13日・労判1289号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、業務上の事由により適応障害を発症したとして、処分行政庁に対し、労災保険法に基づく休業補償給付の請求をし、平成30年3月23日付けで休業補償給付の支給決定を受けたのに対し、Xは労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(以下に該当せず、本件処分には給付基礎日額の算定に誤りがあるとして、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

広島中央労働基準監督署長が原告に対し平成30年3月23日付けでした労働者災害補償保険による休業補償給付を支給する旨の処分を取り消す。

【判例のポイント】

1 労基法41条2号の管理監督者とは、労務管理について経営者と一体的な立場にある労働者をいい、具体的には、当該労働者が労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担い、責任を負っているか否か、労働時間に関する裁量を有するか否か、賃金等の面において、上記のような管理監督者の在り方にふさわしい待遇がされているか否かという三点を中心に、労働実態等を含む諸事情を総合考慮して判断すべきである。
そして、ここでいう経営者と一体的な立場とは、あくまで労務管理に関してであって、使用者の経営方針や経営上の決定に関与していることは必須ではなく、当該労働者が担当する組織の範囲において、経営者が有する労務管理の権限を経営者に代わって同権限を所掌、分掌している実態がある旨をいう趣旨であることに留意すべきであり、その際には、使用者の規模、全従業員数と当該労働者の部下従業員数、当該労働者の組織規定上の業務と担当していた実際の業務の内容、労務管理上与えられた権限とその行使の実態等の事情を考慮するとともに、所掌、分掌している実態があることの裏付けとして、労働時間管理の有無、程度と賃金等の待遇をも併せて考慮するのが相当である。

2 Xは、経理部の部下に対する労務管理や人事考課につき何らの権限を持たず、決定権限を与えられていたのは、所掌事務のうち仕訳についてのみであったことになる。権限の範囲が限定されていたことにつき、Xが入社間もないことに伴う時限的措置であったと認めるに足りる証拠もない。
Y社においては経理業務の整備が上場へ向けた重要課題であったことを踏まえても、上記の権限しか有しないXについて、経営者と一体となって労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担っていたと評価することは困難である。

3 Xには、労働時間や出退勤に関し、労基法による労働時間規制の対象外としても保護に欠けないといえるような裁量はなかったと評価するのが相当である。

ここでも管理監督者性が否定されています。

上記判例のポイント1の「経営者と一体的な立場」の意味はしっかりと理解しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者57 管理監督者該当性と深夜業(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、管理監督者該当性と深夜業に関する裁判例を見ていきましょう。

F.TEN事件(大阪地裁令和4年8月29日・労判ジャーナル130号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく未払割増賃金及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の組織図をみると、Xより上位に配置されているのはY社代表者とA専務のみであったこと(なお、A専務は非常勤勤務)、Xは本社の営業部長であったこと、本社を含めてX以外に「部長」は配置されていないこと、X自身が、本社営業部長より上の地位は役員ぐらいである旨自認していること、また、Xは、ルート営業部の売り上げ目標を立てているところ、本社の営業部門という主要部門の売上目標を立てるということは、Y社の経営に関する重要な事柄であるということができ、さらに、Xは、韓国にバカンスを兼ねた重役会議に行っているところ、その参加者に照らせば、経営の首脳陣のみが参加するものであったということができ、加えて、Xは、商品の値段決定等に関する権限を有していたこと、また、労働時間についても、一定の裁量を有していたということができ、さらに、管理監督者としてふさわしい待遇であったと評価することができること等から、Xは、管理監督者の地位にあったと認めることができる

2 仮に、役職手当に、残業代として支払われる部分が含まれていたとしても、Y社の賃金規程では、役職手当のうち、時間外労働の対価部分と職責の対価部分とが区別されておらず、ほかに、明確に区分されていたことを的確かつ客観的に裏付ける証拠もなく、また、そもそも、Y社の賃金規程をみると、割増賃金の算定に際して、基本給と役職手当の合計を月平均所定労働時間で除したものを基礎賃金と定めているから、Y社の賃金体系において、役職手当は基礎賃金に入るものとされているということができるから、役職手当は基礎賃金に含まれることとなる。

珍しく管理監督者性が肯定されています。

一般的な営業部長とは全く異なる状況のようですので、役職名だけを参考しないように気を付けましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者56 語学教室校長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、語学教室校長の管理監督者性に関する裁判例を見ていきましょう。

ビーチャイニーズ事件(東京地裁令和4年3月30日・労判ジャーナル128号24頁)

【事案の概要】

本件は、令和元年9月17日までY社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、①労働契約に基づく賃金請求として平成30年8月から令和元年8月までの就労に係る割増賃金の一部である203万9775円+遅延損害金の支払、②労基法114条に基づく付加金請求として、203万9775円+遅延損害金の支払、③XはY社代表者及び被告役員から日常的にパワーハラスメントを受けたなどと主張して、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、21万6748円+遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、付加金21万6748円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の語学教室のa校の校長を務めていたところ、X自身もY社の非常勤講師と同様に相当数の講座を担当しており、Xの業務内容の大半は、中国語の講師としての業務であったものと認められる。
Y社は、Xがa校の講師のシフトを決定していた旨主張するところ、他方で、Xは、講師のシフトはBが決定しており、Xにはシフトを決定する権限はなかった旨主張しており、Xが当該権限を有していたと認めるに足りる的確な証拠はないことからすれば、Y社の主張は採用することはできない。
また、Y社は、Xはa校の講師の採用等に関する権限を有していたと主張するが、他方で、Xは、そのような権限は一切与えられていなかった旨主張しているところ、証拠によれば、Xが非常勤講師の採用面接を担当したことがあることは認められるものの、証拠上当該講師の採用過程は明らかではなく、Xに採用等に関する決定権限があるかは証拠上明らかではない
以上によれば、Xが、非常勤講師等のシフト、採用、人事考課等に関して権限を有していたとは認め難く、いずれにせよ、Xが経営者に代わって他の労働者の労働時間等を決定し他の労働者の労務を管理監督する権限と責任を有していたとは認められない
また、Xは、Y社のシフト表に基づいて勤務し、休日に出勤する場合には、事前にBの許可を得た上で出勤していることに加え、Xの上記業務内容も考慮すれば、その勤務態様について自由な裁量を有していたとまでは認められない
さらに、Y社がXに対し、管理監督者の職責に応じた手当等を支給したことを認めるに足りる証拠はなく、Xの給与額等を踏まえても、Xが厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けることはないといえる程度の待遇を受けていたと評価することはできない。
したがって、Xは、労基法41条2号の管理監督者に該当するとは認められない。

開かずの扉ですからね。

もうそろそろ管理職を管理監督者として取り扱うのはやめましょう。

賃金の消滅時効期間を考えるとえらいことになりますので。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者55 民泊グループの責任者の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、民泊グループの責任者の管理監督者性について見ていきましょう。

ニューアート・テクノロジー事件(東京地裁令和4年3月16日・労判127号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社により普通解雇されたことから、Y社に対し、Y社による解雇は無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記解雇後に生ずる未払賃金等の支払を求め、また、解雇前の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払割増賃金請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、民泊グループの責任者であり、同グループには他に5人程度の従業員が所属していたことが認められるが、他方で、Xが部下従業員の採用、人事考課、勤務割等に関して何らかの権限を有し、また、経営者に代わって他の労働者の労働時間等を決定し、他の労働者の労務を管理監督する権限と責任を有していたことを認めるに足りる証拠はなく、また、Xは、他の従業員と同様に勤怠記録によって出退勤が管理されていたところ、所定始業時刻に遅れた場合にはその都度遅延証明書を提出し、Y社から承認を得ており、遅刻した場合には1時間単位で賃金を減額されたこともあったことからすれば、Xは、その勤務態様について自由な裁量を有していたとまでは認められず、Y社は、Xは職務手当として月15万円を支給されており、Xの給料は他の従業員と比較して高額であったと主張するが、その一方で、他の従業員の給与の額については明らかにしないため、Y社の主張を採用することはできないから、Xは、管理監督者に該当するとは認められない。

このような働き方で管理監督者性が肯定される可能性は0です。

管理職で管理監督者に該当する方はほとんどいませんのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者54 未払残業代請求訴訟において管理監督者性や変形労働時間制が争点となった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、未払残業代請求訴訟において管理監督者性や変形労働時間制が争点となった事案

辻中事件(大阪地裁令和4年4月28日・労判ジャーナル126号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、総務部長として勤務していたXが、平成30年4月から令和2年3月までの間、時間外労働を行ったとして、Y社に対し、時間外労働に対する賃金432万0706円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、付加金+遅延損害金を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、298万3613円+遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、149万1806円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが労基法41条2号所定の管理監督者に当たる旨を主張する。
そこで検討すると、XはY社の総務部長の職にあったことが認められるが、その職務の内容は、経理事務や行政機関に提出する文書の作成など、事務的性格の強いものであり、Xが、Y社の事業経営に関する意思決定に影響を及ぼし、部下の採用及び解雇等の人事権を有していたことを認めるに足りる証拠はない。また、支払われた給与の額(年間約500万円又は約600万円)に照らしても、Xが、管理監督者としてふさわしい待遇を受けていたとはいえない
すると、Xが労基法41条2号に定める管理監督者に当たるとは認められない。

2 Y社の就業規則には、休憩時間は、基本的に12時から13時までであり、別に午前及び午後にそれぞれ15分の休憩を与える旨の定めがあることが認められる。
もっとも、12時から13時については一斉に休憩時間とされているから、実際に休憩を取得することができたと考えられるが、就業規則上、午前及び午後の15分間は時間が特定されておらず、各自が個別に取得するものとされているところ、同一部署で勤務していたDの証言によっても、Xは、業務中に自席でお茶を飲んだりすることがあったという程度であり、その間、Xが労務から解放されていたとは認められない
すると、Xが12時から13時の1時間とは別に、休憩を取得していたとは認められない。
したがって、休憩時間については、各労働日につき1時間とするのが相当である。

3 変形労働時間制が有効となるためには、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者との間で協定を締結し、その具体的な内容(変形期間やその内容等)を定める必要があるところ(労基法32条の4第1項)、被告が、本件訴訟において賃金が請求されている平成30年4月から令和2年3月までの間、過半数代表者等との間でどのような内容の協定を締結したかについて、具体的な主張立証はされていない
すると、労働基準監督署への届出(労基法32条の4第4項、32条の2第2項、労働基準法施行規則12条の2の2第2項)をXが怠ったか否かに関わらず、Y社において、前記認定が左右されるような変形労働時間制が効力を有するものと認めることはできない。

複数の論点がありますが、特に上記判例のポイント2はしっかり理解しておかないともったいないですね。

なお、部長クラスで管理監督者性が肯定されることはありません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

管理監督者53 人事上の最終権限を有しない社員の管理監督者性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、人事上の最終権限を有しない社員の管理監督者性が認められた事案を見ていきましょう。

土地家屋調査士法人ハル登記測量事務所事件(東京地裁令和4年3月23日・労経速2490号19頁)

【事案の概要】

本件は、土地家屋調査士法人であるY社の社員兼従業員であったXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、令和2年2月分以前の未払残業代527万9952円+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、同年3月分以降の未払残業代86万1219円+遅延損害金、③労働基準法114条に基づき、付加金407万4886円+遅延損害金の支払、④Y社がXに対してした同年7月10日付け普通解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、並びに、⑤民法536条2項に基づき、本件解雇後の賃金+遅延損害金の支払を、各求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、1万2121円+遅延損害金を支払え。

Y社はXに対し、付加金1万2121円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 職務権限について、Xは、Y社代表者とともに、Y社設立時からの社員であり、社内でY社代表者に次ぐ地位であった。Y社における人事上の最終権限はY社代表者が有していたが、これは、Y社代表者が経営と営業、Xが登記申請等の現場実務の取り仕切りという社員間の役割分担があったことに起因する
現場実務の遂行方法の取り決めや現場での従業員の指導はY社代表者が口を挟むことはなく、Xに一任されていた。名古屋事務所の開設等の重要な経営事項についても、Xに相談の上で決定されていたことがうかがわれる。

2 勤務態様について、Xは、勤務時間中に歯科医院に通院するなどしていたが、仕事を抜けた時間に指導もなかった。また、平成31年1月以降は、自らの裁量で休日出勤や代休の日を決めていた

3 待遇について、Xは平成30年以降は月額60万円の報酬を得ていて、同じ土地家屋調査士の資格者である他の社員2名よりも月額で10万円以上も高く、他の従業員の基本給やXの前職での報酬水準(年収450万円程度)よりも大幅に高い

4 以上によれば、Xは、経営者(Y社代表者)と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに、待遇及び勤務態度においても、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられていたということができ、実質的に上記のような法の趣旨が充足されるような立場にあったと認められるから、労基法41条2号の管理監督者に該当するものと認めるのが相当である

開かずの扉で有名な管理監督者性ですが、今回の事案では珍しく扉が開きました。

いずれにせよ、世の管理職の圧倒的多数は管理監督者としては認められませんのでご注意ください。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

管理監督者52 年収約1100万円の従業員の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、年収約1100万円の従業員の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

スター・ジャパン事件(東京地裁令和3年7月14日・労判ジャーナル117号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して就労している従業員Xが、Y社に対し、平成28年6月から令和元年11月までの期間における時間外労働、深夜労働及び休日労働に対する割増賃金の不払がある旨を主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、未払割増賃金等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づき、付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金請求認容

付加金等請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの管理監督者性について、経営上重要な事項の決定、採用、人事考課、業務の割当て、労働時間の管理のいずれについてもXの権原や影響力は限定的なものであったといわざるを得ず、これに加え、Xの部下の人数は3ないし4名と少なく、Xの労働時間の中でマネジメント業務を行っている時間はわずかであり、Xは主として部下が担当する業務と同様の業務に従事していたと認められることを踏まえると、Xは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者ということはできず、また、Y社においてはフレックスタイム制が採用され、Xも同制度の適用対象となっているところ、Xは、Y社に対し、出社時刻及び退社時刻を申告し、B社長から勤務時間を記録した出勤簿の承認を受け、概ねフレックスタイム制の始業時間帯及び終業時間帯の間で出退勤しており、有給休暇についてもB社長の承認が必要とされていたということも踏まえると、Xには事故の労働時間についての裁量があったとはいい難いから、Xの待遇について、給与が年収1080万円ないし1170万2220円と比較的高額であることを考慮しても、Xが管理監督者に該当するとは認められない

2 Y社は、Xが、雇用契約当初からその後本訴提起の直前に至るまで一貫してY社がXを管理監督者として扱うよう誘導し、Xに対して時間外労働の抑制などの時間管理をする機会を奪わせ、他方で自分で勝手に労働時間を長くしてから、長期にわたりその状態を自ら放置して時間外の請求をすることなく、2年半以上過ぎてから請求したことを理由に、本件請求は禁反言の原則、信義則に違反する旨主張しているが、Xは、Y社に正社員として入社した当時、自己が残業代の支払を受けることができる立場ではないと認識してはいたものの、就労する中で管理監督者としての権原を有していないという認識に至ったことから本件請求を行ったというのであるから、入社後2年半以上過ぎてから請求したからといって、禁反言の原則や信義則に反するとはいい難く、また、Xが自ら不当に労働時間を長くしているとはいえないし、Xの時間外労働を抑制する機会を失ったというのも、Y社が管理監督者に該当しない者を管理監督者として扱ったことによる帰結にすぎないから、XのY社に対する割増賃金請求が信義則に反するということはできない。

年収が高い分、未払残業代の金額も自ずと跳ね上がります。

この程度の働き方では、開かずの扉はまず開きません。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

管理監督者51 ビル建材部施工管理課の課長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ビル建材部施工管理課の課長の管理監督者性が争われた事案を見ていきましょう。

三誠産業事件(東京地裁令和3年6月30日・労判ジャーナル116号40頁)

【事案の概要】

本件は、平成30年11月16日までY社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、労働契約に基づく賃金請求をした事案である。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定

【判例のポイント】

1 Xは、ビル建材部施工管理課の課長であり、同課にはC及びDが在籍していたが、Xは、C及びDの担当業務を決定する権限は有しておらず、同人らの人事評価を行ったこともなかったこと、Xの業務内容の大半は、C及びDの業務内容と同様の施工管理業務であったこと等から、Xが経営者に代わって他の労働者の労働時間等を決定し、他の労働者の労務を管理監督する権限と責任を有しているとは認められず、また、Xは、他の従業員と同様にタイムカードによって出退勤が管理されていたところ、所定始業時刻に数分遅れた場合にはその都度遅刻の届出を会社に提出していることが認められる上、残業許可申請書を提出せずにタイムカードに21時以降打刻した場合には、その都度「残業未承認」というゴム印を押されていたことが認められることからすれば、Xは、その勤務態様について自由な裁量を有していたとまでは認められず、さらに、Xは、毎月4万円の役付手当の支給を受けていたが、同手当は、再雇用された後も毎月支給されており、同手当等の支給により、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けることはないといえる程度の待遇を受けていると評価することは困難であるから、Xは、労働基準法41条2号の管理監督者に該当するとは認められない。

はい、いつものとおりです。

課長レベルで管理監督者性が認められることは1000%ありません。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。