Category Archives: 管理監督者

管理監督者49 採用権限を有する従業員の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、採用権限の有無と管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

カーチスホールディングス事件(東京地裁令和3年3月17日・労判ジャーナル113号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、所定労働時間を超える残業を行ったとして、未払割増賃金等の支払を求めるとともに、労基法114条に基づく付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求は一部認容

付加金等請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、採用面接については実質的な権限を有していたと認められるが、これは、使用者の人事権の一部に過ぎず、その他の業務内容に照らしても、Xは、基本的には財務経理業務を担当していたものであり、Xが経営上の事項について実質的な決定権限を有していたものとは認められないことからすれば、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権原があったとは認められず、また、Xが、本件請求期間中、基本的には午前9時までには出勤し、朝礼に参加し、朝礼の当番も割り振られていたことからすれば、Xは、財務経理業務の繁閑に応じて残業をする必要があったものと認められ、Xは、始業時刻及び終業時刻について制約があったものであり、自己の裁量で労働時間を管理することが許容されている立場にあったとは認められないこと等から、Xが、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を有していたとは認められず、また、Xがこのような実質的な決定権限を行使するにあたって労働時間に関する裁量を有していたとも認められないことからすれば、Y社においてXの処遇が高水準であり、管理監督者としてもふさわしい待遇であったと認められるとしても、Xが労基法41条2号の管理監督者であったと認めることはできない。

2 Y社が割増賃金を支払われなかったのは、Xを管理監督者であると認識していたためであるところ、結果として管理監督者とは認められないものの、XのY社内における肩書、業務内容及び処遇等に照らすと、Y社がXを管理監督者に該当すると認識したことには一定の理由はあると解され、Y社がXに割増賃金を支払わなかったことが悪質であると評価することはできないから、本件において、Y社に付加金の支払を命ずることは相当ではない。

いつもながらの開かずの扉です。

日本の中に、管理監督者性の要件を満たしている管理職が何人いるでしょうか・・・。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

管理監督者48 投資会社の専門社員の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、投資会社の専門社員の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

三井住友トラスト・アセットマネジメント事件(東京地裁令和3年2月17日・労判ジャーナル111号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて就労するXが、Y社に対し、①労働契約に基づく賃金請求として、平成28年1月4日から令和元年7月31日まで(以下「本件請求期間」という。)の未払残業代合計2747万1761円+遅延損害金、②労基法114条に基づく付加金請求として、2396万3762円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1978万0532円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、1402万3983円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 職責及び権限について
Xの担当する業務は、ファンドマネージャー等が示した見解を前提とした月次レポート等の内容に誤りがないかを確認したり、当該見解を踏まえてレポートを作成する業務であって、専門的かつ重要な業務ではあるものの、企画立案等の業務に当たるとはいえず、また、これらの業務が部長決裁で足りるとされていることからすれば、経営上の重要事項に関する業務であるともいえない
また、Xは、所属する部署の管理者ミーティング等に参加しておらず、月報関連業務以外に当該部署の業務を担当していたことは認められないほか、部下もおらず、人事労務管理業務に従事していたとは認められない
以上によれば、Xが経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当していたとは認められず、また、人事労務管理業務も担当していないことからすれば、Xが、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとは認められない

2 労働時間の裁量について
Xは、月次レポートの精査・準広告審査業務を毎月第3営業日から第14営業日の間に行い、共通コメントのチェックを第3営業日の午前9時頃から正午頃までの間に行い、臨時レポートについては年間10回程度行うことになっており、それらの業務がある期間は、基本的に当該業務のために時間的にも拘束されているものの、これらの業務の閑散期においては、比較的自由に時間を使うことが許容され、遅刻・早退があっても賃金から控除されることはなく、早朝及び深夜の業務についても、健康管理の観点から複数回の指摘はあったものの、自己の裁量で労働時間を決定できる環境にはあったといえることからすれば、労働時間について一定の裁量はあったといえる。

3 処遇について
本件請求期間におけるXの年俸は約1270万円(基本給部分が1140万円)であり、部長に次ぐ待遇であるといえ、Y社の社員の上位約6%に入ることからすると、待遇面では、一応、管理監督者に相応しいものであったと認められる。

4 小括
以上によれば、Xは、自己の労働時間について一定の裁量があり、管理監督者に相応しい待遇がなされているものの、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているとは認められないことからすれば、Xが、管理監督者に該当するとは認められない。

開かずの扉です。

認容額をご覧ください。

管理監督者として対応することは、もはや百害あって一利なしです。

・・・とかれこれ言い続けていますが、一度、痛い目にあわないとわからないのが実情です。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

管理監督者47 カフェ部門従業員の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、カフェ部門従業員の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

andeat事件(東京地裁令和3年1月13日・労判ジャーナル111号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして、Y社に対し、雇用契約に基づき、割増賃金合計1246万9252円+遅延損害金、並びに、労基法114条に基づく付加金請求として640万6611円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1029万6845円及びうち954万3690円に対する令和元年6月1日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。

Y社は、Xに対し、609万1044円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、カフェ部門のシフトの作成や本件店舗全体のシフトの調整、アルバイト従業員の人事評価は行っていたものと認められるが、シフト作成や調整は労務管理の一部でしかなく、人事評価についても昇給の最終判断は社長が行っていたというのであるから、これらの事情のみで、Xが、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を有していたとは認め難い。
これに対し、Y社は、Xはアルバイト従業員の採用につき実質上の最終判断をしていた、アルバイト従業員の解雇についても相当程度の権限が付与されていた、マネージャー(代理)就任後は各部門で作成したシフトを承認する権限を有していたなどと主張するが、前記認定事実の限度を超えて、これらを認めるに足りる的確な証拠はなく、いずれも採用することができない。
また、Y社は、Xは平成30年6月以降、経営再建計画の立案業務に従事していたとも主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はなく,採用することができない。

2 Xは、店長時代のみならず、マネージャー代理及びマネージャーとなった後も、シフトに入ることが多かったことが認められ、後記のとおり恒常的に長時間労働を余儀なくされていたことにも鑑みれば、Xが自己の勤務時間に対する自由裁量を有していたとはいい難い

3 Xには、当初は月額35万円、マネージャー代理の肩書を付与された後は月額40万円、平成30年4月以降は特別手当ないしその他手当を含めて月額45万円の固定給が支給されていたが、これは、同じカフェ部門の平社員であったBが月額35万円の固定給に加えて10万ないし15万円程度の時間外手当を支給されていたこと、シェフ部門の料理長の給与が月額約70万円、ベテランシェフの給与が月額約50万円であったことと比較して、高待遇とはいえない上、後記のとおり認定できる実労働時間を基に時給を計算すると、前記認定のアルバイト従業員の時給と同程度の水準となることから、その地位に相応しい処遇を受けていたとはいえない
これに対し、Y社は,Bはフランス人であり、本件店舗のブランド価値の向上のために必要不可欠な人材であることや、本件店舗の立ち上げに尽力してもらった人物からの紹介であったことから、特別に給与が高額であった旨主張するが、Bがどの程度本件店舗のブランド価値の向上に寄与していたのかも本件証拠上明らかでなく、上記人物からの紹介であったことを認めるに足りる的確な証拠もないから、Y社の上記主張は採用することができない。
また、Y社は、シェフ部門の従業員は、料理人として高度の技術等が要求されることに鑑みて、他部門の従業員と比較して給与が高くなっている旨主張するところ、そのような可能性は一般論としては考え得るものの、本件において同人らが、管理監督者とされるXと比して、有意に高額な給与を得ていたことの具体的な合理性を基礎づけるまでの事情とはいえないから、Y社の上記主張は採用することができない。

4 上記のとおり、店長時代のみならず、マネージャー代理及びマネージャーとなった後についても、Xが、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を有していたとは認め難い上、勤務態様についても、自己の勤務時間に対する自由裁量を有していたとはいい難く、待遇についても、その地位に相応しい処遇を受けていたとはいえないことから、これらを総合的に考慮すると、Xが前記のような労基法41条2号の規定の趣旨が充足されるような立場にあったと認めることはできず、同項所定の管理監督者に該当するとは認められない。

金額見てください。

管理監督者性が肯定されることはもうあきらめたほうがいいですよ。

雇用でいくのであれば、無駄な仕事を減らし、労働時間を短くし、残業代を支払う。

これが王道です。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

管理監督者性46 統括バイヤーの管理監督者性+職務手当の固定残業代としての有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、統括バイヤーの管理監督者性と未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

石田商会事件(大阪地裁令和2年7月16日・労判1239号95頁)

【事案の概要】

本件は、日用雑貨、食料品、書籍雑誌、服飾雑貨、タバコ、酒類の販売等を目的とするY社の従業員であったXがY社に対し、労働契約に基づき、未払時間外、休日及び深夜割増賃金計346万3286円+遅延損害金、労基法20条1項に基づき、解雇予告手当の一部である21万9519円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、267万4781円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、5万0032円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、4万5601円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社における4番目のポジションである統括バイヤーとして、どのような商品をどの程度仕入れ、当該商品をどの店舗にどのように割り振るかという仕入れ業務及び各店舗への商品の振分け業務等を行い、Y社代表者、B専務及びC本部長が出席する会議に出席してi店対策等を担当し、また、自らが幹部であるとの認識の下、他のバイヤーに指示したり、店長に指導を行うこともあった。Y社が小売業者であることからすると、商品の仕入れや各店舗の振分けを行うXの業務は、相当程度重要なものであったといえる。また、Xが仕入れを行うに当たっては決裁を要しなかった
しかしながら、Xは、統括バイヤーという地位にあったとはいえ、営業本部の下に3部門あるうちの商品部という一部門の責任者にすぎず、自らもヤング・ヤングミセス・服飾等の部門のバイヤーとして、その仕入れ作業、売り場の設営等を行っていた。また、他の部門のバイヤーは、雑貨部門のJのほかは、B専務やC本部長というXより上のポジションの者であった。
さらに、Xの下のアシスタントバイヤーも1名ないし3名であり、専従ではなく、店舗の従業員も兼ねるなどしていた。加えて、上記会議も商品部の会議である以上、その責任者であるXが出席するのは当然であり、そのことから直ちにXがY社の経営に関与していたといえるものではなく、同会議において各対策を決めるに当たってXが果たした寄与・貢献についても必ずしも明らかでない。
そうすると、Xが管理監督者に相応しい業務内容や権限及び責任の重要性があったとまで認めることができない

2 Xの賃金額計約31万円は、Y社の従業員の中では高額な給料であるが(店長で22万円から27万円)、Y社の求人票記載の賃金額が計20万6420円から計49万1180円であったことからしても、客観的に特に高額な金額とはいえない
以上の検討を総合すると、②労働時間管理が緩やかではあったものの、①業務内容や権限及び責任の重要性や③賃金等の待遇については管理監督者に相応しいものとまではいえず、Xが管理監督者であったとは認められない。

3 Y社は、Xの職務手当には、76時間の超過勤務手当が含まれている旨主張する。確かに、試用期間中の雇用契約書には、職務手当には26時間以内の超過勤務手当を含む旨記載されている。しかしながら、試用期間経過後については、X・Y社間で雇用契約書が取り交わされていない。また、あくまで名目が職務手当である上、Y社の主張によっても、その中に統括バイヤーの役職に対する手当も含まれるというのであるから、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分が明確に区分されておらず、仮に職務手当を固定残業代とする合意があったとしても、そのような合意が有効とはいえない

管理監督者性のハードルの高さはいつものとおりです。

また。判例のポイント3で争点となっている固定残業代の有効性についても、試用期間経過後の契約書を作成していないことから有効性を否定されています。おしいです。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

管理監督者性45 タイムカードの打刻がない日の時間外労働時間はどう判断する?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、管理監督者該当性と未払割増賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

マツモト事件(東京地裁令和2年6月3日・労判ジャーナル104号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として稼働していたXが、①平成28年9月21日から退職日である平成30年10月18日までの間の労基法37条1項、4項所定の法定外時間外・深夜・休日労働の割増賃金に不払いがあるなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、別紙1のとおり、本件請求期間の未払残業代463万7110円+確定遅延損害金24万0539円及び上記未払残業代のうち449万5360円+遅延損害金の支払を求め、併せ、②労基法114条に基づき、付加金400万1144円+遅延損害金の支払を求めた(同2)事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、297万4765円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金243万0603円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社においては、少なくとも本件請求期間当時、従業員にタイムカードを打刻させる方法により労務管理がされていたものであるところ、Y社の主張を踏まえても、タイムカードの打刻の信用性を疑わせる事情として的確なものは本件証拠上見出し難いから、Xのタイムカードに出勤及び退出の打刻があると認められる稼働日については、所定の休憩時間とされている1時間を挟んで、同時間帯、稼働があったものと推認するのが相当である。
他方、タイムカードに出勤又は退勤のいずれかの打刻しかない稼働日も数多く認められるところ、Xは、かかる稼働日についても別紙1労働時間集計表のとおりの労働時間を認めるべきである旨主張する。
しかし、被告は、上記Xの主張事実を否認しているところ、Xの主張事実を裏付ける的確な証拠はない。かえって、証拠からすると、深夜時間帯を過ぎた日中午前に稼働を開始した稼働日もまま認められるし、他方、午前11時台の時刻などX主張の退勤時刻(午後2時)より相当早い時刻に退勤している稼働日が相当数あることも認められる。この点、X本人は、X本人尋問において、闘病のため入院していた内妻に面会するため業務時間中に病院に行ったことはあるものの、その数は10回ほどにとどまるなどとも供述しているけれども、そもそもこれが10回にとどまる証拠は何らないし、タイムカードからうかがわれるところの稼働状況も以上のとおりであって、他に的確な裏付けのない以上、やはり前記Xの主張はたやすく採用し難いものといわなければならない。
以上のとおりであるから、タイムカードに出勤又は退勤のいずれかの打刻しかない稼働日については、X主張のような法定外労働時間があると認めることはできない

2 Y社は、Y社の株式譲渡前にあっては従業員6名程度、その後においてもXと訴外Dのほか事務方の従業員1名程度の極めて小規模な事業体であったものであり、そもそも、経営者の身代わり的存在を置いて、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとはおよそ認め難い。
また、以上の点を措くとしても、Xの所定労働時間は一応1日8時間と定められてはいたところであって、およそ所定労働時間の稼働の有無や稼働の程度を随意にできたと認めることのできる証拠はない。かえって、Y社は、本件訴訟において、Xに無断欠勤があったなどと主張している。確かに、証拠によれば、Xのタイムカード上の始業時刻や終業時刻が区々となっている傾向は看取できるが、これも、所定始業・終業時刻が定時に定まっていなかったことの結果とみることもできるから、そのことから直ちにXに上記説示のような意味における出退勤の自由があったということはできない。結局、本件において、出退勤がXの自由に委ねられていたとは認め難い。
さらに、Xに対する待遇も前記前提事実記載の程度であって、基本給のほかは、役職給その他の支給項目による支給はなく、Xの基本給に労働時間規制を超えて労働をすることの対価が含意されていたと認めるに足りる証拠もない。平成30年3月支払分からの賃金増額分も、Y社主張のように、業績好転への寄与への期待から増額されたものとはいえても、管理監督者としての稼働に対する対価として増額されたと認めるべき的確な証拠はない。結局、Xに対し、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめることの対価としての十分な待遇がなされていたともたやすく認め難い
以上の次第であって、本件において、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとは認め難い一方、Xに出退勤の自由や十分な待遇がなされていると認め難く、労働時間規制の枠組みを超えた稼働をさせたとしても労働者保護にかける嫌いがないとも評価し難いから、労基法41条2号が管理監督者について特に労働時間規制の例外を設けた趣旨にも鑑みると、そもそもXが管理監督者に該当すると認めることは困難である。

管理監督者性についてはいつものとおり、否定されております。

上記判例のポイント1は非常に参考になります。

タイムカードの打刻がない日について、他の日の労働時間から推認させないために、いかなる主張立証をするかによって勝敗を決します。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

管理監督者44 退職届に清算条項が入っていた場合、残業代請求はできない?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と管理監督者該当性に関する裁判例を見てみましょう。

はなまる事件(大阪地裁令和元年12月20日・労判ジャーナル96号64頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員XがY社に対し、雇用契約に基づき、未払時間外割増賃金等の元本約1099万円等の支払とともに、労働基準法114条所定の付加金903万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払時間外割増賃金等請求は一部認容

付加金等請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件退職届に記載されたいわゆる清算条項は、実質的に本訴請求に係る時間外割増賃金等を放棄する趣旨を含むものであり、このような賃金債権の放棄については、労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに有効となるところ、医師作成の診断書に記載された診断内容及び無断欠勤を継続していたXの行動状況等に照らせば、Y社が指摘するごとく、Y社から書面の送付を受けた後に数日程度の時間経過があったとしても、十分な判断能力を備えた状態において検討がされたものではない可能性があり、さらには、このような賃金債権を放棄することによってXが得られるそれに見合った利益の存在等を認めることはできないのであって、上記にいう合理的な理由が客観的に存在しているとは評価し得ないから、本件退職届の記載によってXが本訴請求に係る賃金債権を放棄したとは認定できない。

2 Xが管理監督者に該当するか否かについて、Xが担当していた主な業務内容は、コンピュータシステムに関しての問合せへの対応業務、コンピュータの基幹システムの保守管理等といったもので、これらについてY社における経営上の決定に参画するような性質があるとは認められず、部下職員の候補者の採用面接に立ち会うなどしていたことはうかがわれるものの、上位者であるD部長の存在、その他課長という役職から想定される地位等に照らせば、Xは現場担当者として意見を述べる立場にはあったものの、人事上の採用権限を有していたとは認め難く、また、Y社が、Xに係る勤怠管理資料を証拠提出していることなどからすれば、Xが労働時間の拘束を受けない立場にあったとは認められず、たとえXにおいて遅刻や早退に関する所定の手続を怠ったことがあったとしても、それは、Y社が厳密に制度運用していなかったにすぎないとみる余地があるから、Xに支給された賃金額等の待遇面をはじめ、本件に現れたその他一切の事情を考慮しても、Xが管理監督者に該当するとは認められない

本件に限らず、上記判例のポイント1のような認定は十分ありえますので、退職合意書に清算条項が入っていたとしても、それだけで本件同様の紛争を回避できるとは思わないほうがいいです。

管理監督者該当性については、言うまでもなくこのレベルでは絶対に認められません。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者43 総務人事課長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総務人事課長の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

エルピオ事件(東京地裁令和元年9月27日・労判ジャーナル95号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、所定労働時間を超える残業を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金請求権に基づき、平成26年10月分から平成28年6月分までの間の割増賃金合計約375万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金請求として約367万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払時間外割増賃金請求は一部認容

付加金等請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xが実質的な決定権限を有していたのは、人事関係業務の一つである採用面接のうち一次面接までで採否を決することができる応募者に関する採否権限という使用者が有する人事権の一部にすぎず、その業務内容に照らしても、労働時間規制の枠を超えた活動を要請されざるを得ない重要な職務や権限を有していたとか、その責任を負っていたとまでは評価できず、また、Xがこのような実質的な決定権限を行使するにあたって労働時間に関する裁量を有していたことを認めるに足りる適切な証拠もないから、Y社におけるXの処遇が高水準であると評価できる点を最大限斟酌するとしても、Xが労基法41条2号の管理監督者であったと認めることはできない

2 Y社が割増賃金を支払わなかったのは、Xを管理監督者と認識していたためであるところ、結果としては管理監督者とは認められないものの、Xの会社内における肩書や処遇に照らすと、Y社がXを管理監督者に該当すると認識したことには一応の理由があると解され、Y社がXに割増賃金を支払わなかったことが悪質であるとは評価できないから、本件において、Y社に付加金の支払を命ずるのは相当でない。

管理監督者に関する主張を会社側で主張するメリットとすれば、付加金の支払を免除してもらえる可能性があることくらいでしょうか。

ほぼ管理監督者性は否定されますので、賃金に関する消滅時効が2年から3年、5年と延長されることを考えれば、すべての管理職の管理監督者扱いにメスを入れることを強くお勧めします。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者42 課長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労働時間の裁量と管理監督者該当性に関する裁判例を見てみましょう。

日産自動車事件(横浜地裁平成31年3月26日・労判ジャーナル88号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の課長職を務めていた亡Xの妻が、Xの死亡によりその賃金請求権の3分の2を相続したとして、Y社に対し、雇用契約による賃金請求権に基づき、平成26年9月から平成28年3月までの時間外労働分につき、労働基準法上の割増率による割増賃金約525万円等並びに労働基準法114条の付加金支払請求権に基づき、未払時間外割増賃金と同額の付加金等の支払を求めた事例である。

【裁判所の判断】

管理監督者に該当しない
→請求の一部認容

付加金等支払請求は棄却

【判例のポイント】

1 D部に配属されていた当時のXのその他の職責及び権限を考慮しても、その当時のXが、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていたとは認められず、また、N部に配属されていた当時のXのその他の職責及び権限を考慮しても、その当時のXが、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていたとは認められず、Xは、自己の労働時間について裁量があり、管理監督者にふさわしい待遇がなされているものの、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責と責任、権限を付与されているとは認められないから、Xが、管理監督者に該当するとは認められない。

2 Y社が、割増賃金を支払わなかったのは、Xを管理監督者と認識していたためであるところ、Xは、結果として管理監督者とは認められないものの、間接的とはいえ経営意思の形成に影響する職責及び権限を有し、自己の労働時間について裁量も有しており、管理監督者にふさわしい待遇を受けていたことからすれば、Y社がXを管理監督者に該当すると認識したことに、相応の理由があるというべきであり、Y社がX及びXの妻に割増賃金を支払わなかったことについて、その態様が悪質であるということはできないから、本件において、Y社に付加金の支払を命じるのは相当でない

管理監督者の制度運用はもうあきらめたほうがいいかもしれませんね。

要件が厳しすぎてほとんど認められる余地がありません。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者41 バーの店長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、バーの店長の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

日比谷Bar事件(東京地裁平成30年9月28日・労判ジャーナル84号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、時間外労働に従事していたと主張して、雇用契約に基づく賃金支払請求として約437万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金請求として約421万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xは管理監督者に該当しない

【判例のポイント】

1 Xには本件店舗の従業員のシフト作成、アルバイトの本件店舗への配属にかかる面接、本件店舗の予算案の作成、PLの作成といった本件店舗の労務管理に直接ないし間接に関わる職責を果たしている点があるものの、アルバイトの採否自体の判断はXが基本的に関与することはなくY社において行われているなど、アルバイト等の採用、解雇等に関する実質的な権限がXに存するとまでは評価できず、また、本件店舗におけるXの具体的な労務内容が必ずしも明らかではなく、他の従業員とは異なりもっぱら労務管理に関する業務に従事していたとは認められず、さらに、Xの賃金が他の従業員と比較して管理監督者としての職責に見合う程度有意に高額であったことを認めるに足りる証拠もなく、かえって、店長を含めた出勤表が存在することからすれば、店長も他の従業員と同様の業務に従事していたことが推認される上、Xの賃金額は基本給が21万円、店舗管理給等の諸手当を含めても24万5000円ないし25万円とさほど高額であるとは認められず、以上の点を総合考慮すると、Xが労働基準法41条2号の管理監督者に該当するものとは評価できない。

従業員の採用、解雇等に関する実質的な権限の有無が重要な考慮要素となると、世の中の多くの管理職は管理監督者ではないことになります。

だからこそ、多くの裁判で管理監督者性は否定されているわけです。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者40 スポーツクラブ支店長の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、スポーツクラブ支店長の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

コナミスポーツクラブ事件(東京高裁平成30年11月22日・労判ジャーナル84号24頁)

【事案の概要】

本件は、会員制のスポーツクラブを運営するY社の元従業員X(支店長職又はマネージャー職)が、Y社に対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金(割増手当)合計約317万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条所定の付加金として割増賃金と同額の支払を求めたのに対し、Y社が、Xは労働基準法41条2号に定める管理監督者に該当し、時間外労働及び休日労働に対する割増賃金請求権は発生しないなどと主張して争った事案である。

原判決は、Xは、管理監督者に該当しないとして、Xの請求を、割増賃金につき約312万円等の支払、付加金につき90万円等の支払を求める限度で認容した。

Y社が控訴し、Xが付帯控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、XがM2級からM3級に昇格してSM職層になって更に支店長に昇進することで月額9万円の増額となるところ、Xの残業時間が1月当たり約37時間にとどまる限り、支店長昇進前の時間外割増賃金相当分と大差ないことから、管理監督者に相当する処遇を受けていたと評価されるべきであると主張するが、そもそもXが本件請求期間中に支店長であった期間の1か月平均の時間外労働時間数は41時間11分であって、上記の約37時間を超えているのであり、支店長の広範な職責を踏まえると、管理監督者としての地位にふさわしい待遇がされていたと認めることはできないこと等から、Xの職責や権限、勤務態様や待遇等に照らせば、Xが労働基準法41条2号に定める管理監督者の地位にあったと認めることはできない。

2 Xは、Xが労働基準法上の管理監督者に該当しない場合には、労働基準法12条によりY社の給与規程22条及び23条が適用される旨主張するが、労働契約法12条は労働契約が就業規則に違反する場合に無効部分については就業規則によるというものであるが、本件はY社の就業規則が労働基準法に反するものであるから、労働基準法13条により無効部分については労働基準法によることになり、当事者の合理的意思解釈としてもそのように解すべきであることは原判決が説示するところである。

ファストフードの店長やスポーツクラブの支店長ですら管理監督者に該当しないわけですから、一般的な会社の部長クラスを管理監督者と考えることはもはやあきらめたほうがいいでしょう。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。