Category Archives: 管理監督者

管理監督者4(コトブキ事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する最高裁判例を見てみましょう。

なお、この事案は、ほかにも不正競争防止法上の営業秘密、競業避止義務等の争点があります。

コトブキ事件(最高裁二小平成21年12月18日・労判1000号5頁)

【事案の概要】

Y社は、美容室及び理髪店を経営する会社である。

Xは、Y社の従業員であり、「総店長」の地位にあった。

Xは、Y社を退社するに際し、Y社の営業秘密に属する情報が記載された顧客カードを無断で持ち出し、他の店舗で新たに始めた理美容業のためにこれを使用した。

Y社は、Xに対し、不正競争防止法4条、民法709条に基づき損害賠償請求をした。

これに対し、Xは、Y社に対し、XがY社勤務中の時間外割増賃金、深夜割増賃金などを請求する反訴を起こした。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、深夜割増賃金に係る反訴請求に関する部分を破棄し、東京高裁に差し戻す

【判例のポイント】

1 管理監督者性について(東京高裁の判断)
管理監督者とは、一般には労務管理について経営者と一体的な立場にある者を意味すると解されているが、管理監督者に該当する労働者については労基法の労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されないのであるから、役付者が管理監督者該当するか否かについては、労働条件の最低基準を定めた労基法の上記労働時間等についての規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有し、これらの規制になじまない立場にあるといえるかを、役付者の名称にとらわれずに、実態に即して判断しなければならない。

(1)Xは、Y社の総店長の地位にあり、代表取締役役に次ぐナンバー2の地位にあったものであり、Y社の経営する理美容業の各店舗(5店舗)と5名の店長を統括するという重要な立場にあった

(2)Y社の人事等その経営に係る事項については最終的には代表取締役の判断で決定されていたとはいえ、Xは、各店舗の改善策や従業員の配置等といった重要な事項について実際に意見を聞かれていた

(3)Xは、毎月営業時間外に開かれる店長会議に出席している

(4)待遇面においては、店長手当として他の店長の3倍に当たる月額3万円の支給を受けており、基本給についても他の店長の約1.5倍程度の給与の支給を受けていた

(5)これらの実態に照らせば、Xは、名実ともに労務管理について経営者と一体的な立場にあった者ということができ、管理監督者に該当する。

2 深夜割増賃金について(最高裁の判断)
労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者であっても、同項に基づく深夜割増賃金を請求することができる

管理監督者性を肯定した判例です。

この事案の興味深い点は、東京高裁が、Xの管理監督者性を肯定し、それを理由に、深夜割増賃金を含む時間外賃金の支払請求は認めなかった点です。

管理監督者1(概要)でも書きましたが、深夜労働については適用除外になっていないため、管理監督者であるというだけでは、深夜労働の割増賃金を支払わない理由にはなりません。

なお、最高裁は、管理監督者に対する深夜割増賃金の支払いについて以下のように述べています。

もっとも、管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者3(東和システム事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き、管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。

東和システム事件(東京高裁平成21年12月25日・労判998号5頁)

【事案の概要】

Y社は、ソフトウェア開発等を営む会社である。

Xは、Y社において、SEとして勤務していた。

Xは、課長代理の職位にあり、職務手当(1万5000円)の支給を受けていた

Y社では、管理職には職務手当のほか、基本給の30%に相当する「特励手当」が毎月の所定内賃金として支払われていた

Xは、Y社に対し、時間外手当および付加金等を請求した。
(Xが一定量の時間外労働をした事実については争いがない。)

Y社は、(1)Xは管理監督者にあたる、(2)仮に管理監督者でなくても、「特励手当」を時間外手当の算定基礎に含めるべきである、などと主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金、付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとわられず、実態に即して判断すべきであると解される。
具体的には、
(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
(2)部下に対する労務管理上の決定権等につき一定の裁量権を有し、部下に対する人事考課、機密事項に接していること
(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
(4)自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること
以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
→Xは、上記要件をみたさない。

2 Xに支給されていた本件「特励手当」は、超過勤務手当の代替または補填の趣旨を持つものであって、特励手当の支給と超過勤務手当の支給とは重複しないものと解せられるから、Xが受給しうる未払超過勤務手当から既払いの特励手当を控除すべきである

3 Y社に対し、付加金の支払いを命じるのが相当ではあるが、Y社の態度がことさらに悪質なものであったとはいえず、その額は未払超過勤務手当額の3割が相当である。 

昨日、見た「日本マクドナルド事件」と規範が異なります。

マクドナルド事件では、「企業全体の事業経営」に関与することが要件とされていました。

ところが、東和システム事件では、「ある部門全体の統括的な立場」にあることが要件となっています。

企業全体か部門全体か、かなり要件が異なります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

付加金について。

労働基準法第114条
「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は違反のあったときから2年以内にしなければならない。」

つまり、会社としては、未払金の倍額を支払わなければならない可能性があるわけです。

あくまで可能性です。

裁判所は、会社による労働基準法違反の態様、労働者の受けた不利益の程度等諸般の事情を考慮して、支払義務の存否、額を決定します。

本件裁判例では、付加金として3割の支払いを命じました。

 
ちなみに、労基法20条、26条、37条、39条6項は以下のとおりです。
20条・・・解雇予告手当
26条・・・休業手当
37条・・・時間外・休日・深夜労働の割増賃金
39条6項・・・年次有給休暇中の賃金

上記4つのほかは、付加金の請求はできません。

また、付加金については、判決確定の日の翌日から民事法定利率である年5%の遅延損害金も請求できます江東ダイハツ自動車事件・最一小判昭和50年7月17日・労判234号17頁)。

そして、付加金の請求は違反のあったときから2年以内にしなければなりません。この期間は除斥期間であると解されています。

 

管理監督者2(日本マクドナルド事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

やはりトップバッターは、マクドナルドです

日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日・労判953号10頁)

【事案の概要】

Y社は、ハンバーガーの販売等を業とし、多数の直営店を展開している株式会社である。

Xは、Y社の従業員であり、直営店の店長を務めている。

Y社の就業規則では、店長以上の職位の従業員を労基法41条2号の管理監督者として扱っているため、Xに対しては、時間外労働、休日労働の割増賃金は支払われていない。

Xは、Y社に対し、過去2年分の時間外、休日労働分の割増賃金の支払い等を求めた。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 (職務内容・権限・責任等)
Xは、店長として、人事において、「クルー」の採用、昇格・昇級権限を融資、店舗勤務の社員の人事考課の一次評価を行うなど、労務管理の一端を担っているといえるが、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとは言い難いし、各店舗の勤務スケジュールを作成し、三六協定や就業規則変更時の意見聴取における使用者側担当者となっていること、店舗の損益計画や販売促進活動、一定範囲の支出などに決裁権限があるといっても、その権限は店舗内に限られており、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない

2 (勤務態様・労働時間管理の状況)
店長の勤務態様につき、労働時間が相当長時間に及んでおり、形式的には労働時間決定に裁量があるとはいっても、勤務体制上の必要性から長時間の時間外労働を余儀なくされているのであり、そのような勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない

3 (待遇)
処遇面でも、店長の平均年収が非管理職である下位職制よりも約117万円高いといっても店長全体の10%の年収は、下位職制の平均を下回っており、その40%は44万円上回る程度にとどまっている。また、「インセンティブ」賃金があるとしても、業務達成を条件とし、かつそのうちの多くは店長に限らない措置であるため、代償措置として重視することはできない。

この裁判例によれば、「管理監督者」とは、「経営者と一体的な立場」にあることを要求されます。

店長が、マクドナルドの経営者と一体的な立場で企業全体の事業経営に関与することなどあり得ません。

「管理監督者」の範囲が相当狭いことがわかります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者1(概要)

おはようございます。

さて、以前から検討してみたいと思っていた「管理監督者」の問題について検討していきたいと思います。

今日は、概要だけです。

管理監督者にあたるか否かという問題は、従業員が会社に対し、時間外労働、休日労働の割増賃金等を請求する中で検討されることが多いです。
(深夜労働については適用除外になっていないため、管理監督者に対しても深夜労働の割増賃金は支払わなければいけません。)

労働基準法第41条
この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

「管理監督者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
(なお、「機密の事務を取り扱う者」(略して「機密事務取扱者」)とは、秘書その他職務が経営者もしくは管理監督者の活動といったい不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者をいいます。)

名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるとされています

具体的には、職務内容、責任と権限、勤務態様等に着目して、(1)労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、(2)現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として認められるとされています。

また、管理監督者にあたるかどうかの判断に当たっては、賃金等の待遇面についても考慮要素となります。基本給、役付手当等でその地位にふさわしい待遇がなされているか、ボーナス等の一時金の支給率等について、一般従業員と比べて優遇措置が講じられているか等についても留意する必要があります。

基本的には3つの要素により判断しています。
1 職務内容、権限、責任等

2 勤務態様、労働時間管理の状況

3 待遇

以上のとおり、管理監督者の範囲は極めて限定されています。

これまで多くの会社で、本来は管理監督者に該当しないにもかかわらず、管理監督者であると解釈し、時間外労働、休日労働の割増賃金を支払ってきませんでした。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

次回以降、裁判例を検討していきたいと思います。