Category Archives: 解雇

解雇440 自主退職する旨の書類に署名しないのに合意退職と扱い、解雇でもあるとする会社の主張に対し、いずれも否定したうえ、不法行為が成立するとした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、自主退職する旨の書類に署名しないのに合意退職と扱い、解雇でもあるとする会社の主張に対し、いずれも否定したうえ、不法行為が成立するとした事案を見ていきましょう。

CTW事件(東京地裁令和7年6月30日・労経速2600号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社において就労していたXが、Y社に対し、【1】上記雇用契約に基づき、令和5年9月21日から同月29日までの未払賃金34万3636円+遅延損害金の支払を求めるとともに、【2】Xが退職の意思表示をしていないにもかかわらず、Y社から退職したものと扱われたことが不法行為を構成し、これにより逸失利益として1296万円、慰謝料として100万円及び弁護士費用相当損害金として139万6000円の各損害がそれぞれ生じたと主張して、不法行為よる損害賠償請求権に基づき、損害合計1535万6000円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、34万3636円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、356万円+及び遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、令和5年9月29日、Y社を自主的に退職する旨記載された書類に署名せず、また、退職の合意に至っていないにもかかわらず、Y社から、セキュリティカード等の返却を求められ、他の従業員に伴われて退社させられ、就労を求める旨の同日付けの連絡等にも応答してもらえていないことからすれば、Xは、Y社を退職していないにもかかわらず、Y社から、同日付けで退職したものと扱われた(本件解雇)というべきである。

2 Xには当該取扱いによって逸失利益が生じたといえ、その金額は、Xが就職活動に着手した時期及び再就職先での就労開始時期等に照らし、324万円(=108万円/月×3か月)と認めるのが相当である。
また、Xは、本件訴訟を原告訴訟代理人らに委任しているところ、本件事案の内容、性質、審理経過及び認容額等に照らし、Xには当該取扱いによって32万円の弁護士費用相当額の損害が生じたと認めるのが相当である。
なお、Xは、当該取扱い(本件解雇)によって精神的苦痛を被り、金銭の支払をもって慰藉されるべき旨主張するが、本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮しても、上記逸失利益の賠償とは別に、さらに賠償すべき精神的損害が生じたと認めることはできず、Xの上記主張を採用することはできない。

不法行為構成のため、上記金額で済んでいますが、バックペイを求められたら、金額はもっと増えていたかもしれません。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇439 部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性に関する判例を見ていきましょう。

糸島市・市消防本部消防長(懲戒免職処分取消等、懲戒処分取消請求)事件(最高裁令和7年9月2日・ジュリ1616号4頁)

【事案の概要】

本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者である糸島市消防長から、部下に対する言動等を理由とする懲戒免職処分を受けたため、Y市を相手に、その取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求及び損害賠償請求の一部を認容すべきものとした。
Xがした各指導は、訓練やトレーニングとして通常行われる範囲を逸脱したものではあるけれども、逸脱の程度が特段大きいとまではいい難い。各発言についても、これにより精神的に苦痛を受けた者が相当数に上るものの、言い過ぎの面や、表現が適切でなく、口の悪さが現れたにすぎないところもある。被害を受けた職員に重大な負傷も生じていないことを踏まえると、Y市がした非違行為による他の職員及び社会に対する影響が特に大きいとまではいえない上、Xが、本件処分以前に懲戒処分を受けたことがなく、訓練やトレーニングの際の指導等につき個別に注意等を受けたとの事情も見当たらないこと、Xが一定の反省の態度を示していること等をも考慮すると、懲戒の中で最も重い免職を選択した本件処分は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものである。

【裁判所の判断】

1 原判決中Y市敗訴部分を破棄する。
 第1審判決中Y市敗訴部分を取り消す。
3 前項の取消部分につきXの請求をいずれも棄却する。
 第1項の破棄部分に関するXの附帯控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件各行為のうち各指導は、いずれも、Xが職場内における優位性を背景として、採用後間もない部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上で力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させたり、体力の限界のため倒れ込んだことに対するペナルティと称して更に過酷なトレーニングをさせるなどしたものであり、部下に傷害を負わせるものであるか否かにかかわりなく、訓練やトレーニングに係る指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱するものというほかない。
また、各発言には、部下に恐怖感や屈辱感を与えたり、その人格を否定したりするもののみならず、その家族をも侮辱したりするものも含まれている。このように、本件各行為は、部下に対する言動として極めて不適切なものであり、長期間、多数回にわたり繰り返されたものであることにも照らせば、その非違の程度は極めて重いというべきである。
また、消防職員については、火災等の現場において住民の生命や身体の安全確保のための活動等を行うという職務の性質上、厳しい訓練が必要となる場合があるとしても、指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱する各指導が許容される余地はないのであって、各指導を含む本件各行為が、部下に対する悪感情等の赴くままに行われた部分が大きかったことからしても、Xが本件各行為に及んだ経緯に酌むべき事情があるとはいえない。
さらに、本件各行為は、小隊長等として消防職員を指導すべき立場にあるXが、少なくとも10人もの部下に対し、十数年もの長期間、多数回にわたり、上記のような不適切な指導や発言を執拗に繰り返したというものであり、甚だしく職場環境を害し、Y市の消防組織の秩序や規律を著しく乱すものというべきである。消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが職務の遂行上重要であることにも鑑みれば、本件各行為が及ぼす上記のような悪影響は看過することができないものである。消防本部においてXらによるいじめやしごき等により若手の職員の退職が相次いでいるなどの記載がある文書の提出を受けたY市長の指示により調査が行われ、多数の職員がXの職場復帰に反対する旨の書面を提出したことは、以上の現れということができる。

2 以上説示したところに照らせば、Xには本件処分以外に懲戒処分歴がないこと等の事情があり、免職処分が公務員の地位の喪失という重大な結果を生じさせるものであることを踏まえても、Xに対する処分として免職を選択した消防長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

ご覧のとおり、判断する裁判官によって、同じ事案でも180度異なる判決が書けてしまいます。

どの事情に光を当てるかによって、こうも違う判決になります。

あきらめたらそこで終わり。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇438 酒気帯び運転を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、酒気帯び運転を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

静岡鐵工所事件(大阪地裁令和7年9月26日・労判ジャーナル165頁16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求並びに労働契約に基づく未払賃金等の支払及び不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件酒気帯び運転は、本件就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するところ、本件酒気帯び運転は、長時間にわたり相当量の飲酒をした後に行われたものであり、Xの血中アルコール濃度が本件酒気帯び運転から約8時間経過した時点でも高濃度であったこと、運転中の異常な運転態様及び警察官から職務質問を受けた際の異常な対応に照らせば、運転中のアルコールによる影響は非常に強いものであったというべきであり、交通事故を起こす可能性の高い非常に危険なものであったと評価するのが相当であり、本件酒気帯び運転は、Y社の業務終了後に行われたものであるものの、社用車を運転するものであり、その運転中に交通事故を起こした場合、Y社に自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任等による民事上の損害賠償責任が発生し得るものであったといえるから、単なる私生活上の行為にとどまるものであったとはいえず、加えて、警察官に対し、怒鳴りつけたり、暴言を吐いたりしたものであるから、近隣住民に与えた不安及び迷惑並びに警察官の職務を遅滞させたことは軽視できず、本件酒気帯び運転後の事情も悪質であるから、本件解雇は、懲戒権を濫用したものとは認められない。

この事案だけを見れば、結論に疑問を持つ方は多くはないと思いますが、裁判例の中には、類似の事案でも、解雇を無効と判断する例があるため、現場の判断を悩ませます。

これに退職金請求が加わるとさらに悩ませることになります。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇437 就業時間中、会社の制服を着用した状態で、外部から見える駐車場内において、社用車に接近した状態で放尿した運転手に対する解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社の制服を着用した状態で、外部から見える駐車場内において、社用車に接近した状態で放尿した運転手に対する解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

A東京事件(東京地裁令和6年10月4日・労経速2578号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対して、Y社のXに対する解雇が無効であると主張して、次の各請求をする事案である。
(1) 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
(2) 雇用契約に基づき、賃金286万3450円(令和4年11月分から令和5年3月分までの賃金)+遅延損害金の支払
(3) 雇用契約に基づき、令和4年12月から本判決確定の日まで、毎年6月30日及び12月31日限り、賞与16万円+遅延損害金の支払

【裁判所の判断】

1 解雇無効
→バックペイ

【判例のポイント】

1 〈1〉Xは、Y社から運転マナーを身に付けるよう指導を受けていたにもかかわらず、令和4年8月2日、就業時間中、やむを得ない事情もないのに、Y社の会社ロゴが記載された被告所有の本件車両に接近した状態で本件車両に尿が掛かる可能性が高いことを認識しながら本件行為を行った(本件行為は、軽犯罪法1条26号に該当する。)。その際、本件行為を目撃した第三者からAに連絡された。
〈2〉その後、Xは、Y社に対し、本件店舗のトイレがコロナ(新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため)で使用できなかったと説明したが、かかる説明は事実に反しており、このことをXも認識していた。
〈3〉Xは、Y社からの事情聴取等に当初は応じていたものの、同年8月26日及び同年9月9日の面談を欠席し、少なくとも同年9月9日の面談の欠席に合理的な理由は認められない。
〈4〉Xは、Y社において、1か月に1回以上洗車する旨の清掃ルールが定められていたにもかかわらず、同年4月から同年8月2日までの間、本件車両の定期的な洗車を行わず、また、本件車両内の清掃を少なくとも十分に行わず業務書類13枚等を散乱させた。

2 本件行為自体は1回の行為であり、同様の行為が複数回行われる中で本件行為が行われたと認めるに足りる的確な証拠はないこと、本件行為後、Xが複数回Y社との面談に応じ、Y社に始末書を提出し、X訴訟代理人弁護士を通じ協議の意向を示していたこと、Xが本件車両内の片付け等についてY社から指導を受けたと認めるに足りる的確な証拠がなく、本件車両内部に業務書類が存在したことをもって直ちに運転手としての就業に適しないとまでは認められないこと、Xが車外を清掃しないことにより本件車両を大きく汚損したと認めるに足りる証拠がないこと、Xの運転手としての業務について、遅刻や欠勤はなく、Xが与えられた業務を行い、他に特段の問題までは認められないことからすれば、Y社が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、Xの勤務成績が不良で就業に適さず、又は、これに準ずる重要な事由があるとして、上記各解雇事由に該当するとまでは認めるに足りない。

3 仮にXが上記各解雇事由に該当すると認められたとしても、上記の事情に加え、本件行為が、第三者によりAに連絡される事態となったものの、本件行為当時に本件車両がBの名称が記載されたトレーラーを牽引しておらず、Bとの取引に影響を及ぼしていないこと、本件行為は故意に本件車両を汚損する行為であるが、本件車両の使用が困難になるなどしたという事情までは直ちに認められないこと、Xが本件車両の清掃等を怠ったことによってY社の業務に影響を及ぼしたとまでは認められないこと、Xが過去に懲戒処分等を受けたことがないことからすれば、Y社が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、本件解雇が社会通念上相当であるとは認められない

諸般の事情からすれば、Y社がXを解雇すると判断したことは無理もないと思いますが、裁判所の判断は上記のとおりです。

解雇のハードルの高さがよくわかります。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇436 賃金額等を記した雇用契約書などの書面作成に応じなかった会社が、従業員に自宅待機命令後の出社命令違反などがあったとして行った解雇が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、賃金額等を記した雇用契約書などの書面作成に応じなかった会社が、従業員に自宅待機命令後の出社命令違反などがあったとして行った解雇が無効と判断された事案について見ていきましょう。

Y社事件(東京地裁令和7年4月30日・労経速2596号32頁)

【事案の概要】

本件は、令和3年10月にY社と労働契約を締結し、理容師として稼働していたXが、Y社に対し、上記労働契約における月毎の賃金額は35万円であり、同年10月分につき9460円、同年11月分につき2万円が未払となっていると主張して、労働契約に基づき、同年10月分の未払賃金として9460円及び同年11月分の未払賃金として1万8280円+遅延損害金、Y社による自宅待機命令により労務を提供することができなかったと主張して、民法536条2項に基づき、上記自宅待機命令期間中の未払賃金として11万7894円+遅延損害金、上記労働契約では交通費を支払う旨の合意がされていたと主張して、労働契約に基づき、交通費として2万8160円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社による令和4年3月23日付けの解雇が不法行為を構成し、逸失利益として210万円、慰謝料として50万円の合計260万円の各損害を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、260万円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、154万5634円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件自宅待機命令は、令和3年12月23日にXの施術内容について客が苦情を述べたことを契機として発せられたものであるが、同日以前にXが客から苦情を受けたとはうかがわれない。そして、Xに限らず、Y社の従業員において客から施術内容について苦情を受けることはあり、これまでX以外に無期限の自宅待機を命ぜられた者はいないことを踏まえれば、単発の上記出来事を契機に、本件自宅待機命令を発し、期限を定めずにXを就労させないこととする合理的な理由及び必要性があったと認めることはできない
そうであるとすれば、本件自宅待機命令はY社の業務上の都合により発せられたものというべきであり、Xは、これによって労務を提供することができなかったのであるから、民法536条2項により、これに対応する期間である令和3年12月23日から令和4年2月6日までの期間につき賃金請求権を有することとなる。

2 確かに、〈1〉Xは、令和4年2月に発せられた本件出勤命令に応ぜず、それ以後、労務の提供をしていない。そこで検討するに、本件雇用契約における賃金額については、原告が令和3年10月に被告で就労を開始した当初の頃から当事者間に認識の相違があり、Xは、本件雇用契約に係る労働条件を書面にするよう求め続け、このことは、Y社においても本件雇用契約に関するトラブルとして認識されていた。そうであるからこそ、Xは、同年12月にされた本件自宅待機命令が解除され、改めて本件出勤命令に応ずるに当たっても、本件雇用契約に係る労働条件を書面により明示するよう求めていたのであるが、Y社は、これに応じなかった。
使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならず(労基法15条・同施行規則5条)、その趣旨は、労働条件をめぐる紛争を回避することを含むものと解されるところ、上記のとおり、Xの就労中に労働条件である賃金額をめぐって既に紛争が生じていた。そうであるとすれば、Xが本件出勤命令に応じ、改めて被告での就労を開始するに当たって、労働条件を明示した書面の交付を求めたことは、上記法令の趣旨に沿うものであり、正当な要求であるといわざるを得ない。他方で、本件記録を精査しても、Y社が上記書面を実際に何らか準備したともうかがわれず、Xが本件出勤命令の前から継続して上記要求をしていたことを踏まえると、Y社がこれに応じなかったことに合理的な理由はうかがわれない

3 本件解雇は無効であり、使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならないとされているところ、Y社は、Xから労働条件を明示した書面の作成を繰り返し求められ、この点について令和4年3月16日頃には労基署より是正勧告を受けるに至っているにもかかわらず、これに対応しないままだったのであるから、漫然と本件解雇に及んだといわざるを得ない。したがって、本件解雇は不法行為を構成するというべきである。
そして、Xは、本件解雇により、Y社において就労する機会を喪失しているところ、本件解雇後にX自身がそれにより被った損害を回復するために行った各種手続の利用状況、就職活動の状況や現に再就職に至った時期等に照らし、本件解雇によって生じた逸失利益としては、140万円(=35万円/月×4か月)と認めるのが相当である。

Y社が頑なに労働条件に関する書面の作成を拒否した結果、上記のような結論となりました。

賃金の支払いをせず、無期限の自宅待機命令が有効とされることはありません。

仮に賃金を支払っていたとしても、違法と判断されることもありますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇435 出社義務の不履行を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、出社義務の不履行を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

セールスフォース・ジャパン事件(東京地裁令和7年1月15日・労判ジャーナル160号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して就労したが、解雇されたXが、Y社に対し、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でなく無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、労働契約に基づき、未払賃金等の支払と求めるとともに、上記解雇が不法行為を構成し精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、慰謝料160万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが本件雇用契約上、出社義務を負っており、その不履行のみでも本件解雇の合理的かつ社会通念上相当な理由となる旨主張するところ、出社義務の不履行については、その出社回数、履行状況に加え、メールや書面などを通じ、複数回にわたり改善が求められていたにもかかわらず改善しなかったこと、また、出社していないことによって、Xの業務に関連する複数の人物から多数の懸念点が示されていたことに照らし、その程度が著しいというべきであり、上記不履行の程度に加え、Xは、いわば即戦力として採用されたものであり、その職務経歴経験等を活かした業務遂行が期待され、このことはX自身認識するところでもあり、変動賞与等とは別に基本給(年間)約1400万円との待遇も受けていたことを踏まえれば、本件解雇には、客観的合理的な理由があり、また、社会通念上も相当であるというべきであるから、本件解雇は有効である。

つまり、出社義務の不履行のみで解雇できるわけではない、ということです。

裁判例の結論部分だけを抜き出して、対応を誤らないように気を付けましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇434 中途採用者の試用期間中の解雇の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、中途採用者の試用期間中の解雇の適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

北野嘉哉事務所事件(東京地裁令和7年6月13日・労判1338号55頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社による解雇は無効であると主張して、〈1〉労働契約上の地位確認、〈2〉民法536条2項に基づく解雇後の賃金(月額83万3333円)の支払、〈3〉解雇前の未払賃金42万5927円の支払をそれぞれ求める事案である(遅延損害金は、月額賃金の支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による。)。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、30万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和5年9月以降、本判決確定の日まで、毎月25日限り、66万6666円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Y社の営業社員には、これまでの職歴等から、既に富裕層の人脈を持ち、さらなる人脈形成が得意な者であることを求めていたところ、Xは、本件名簿を提出して、掲載者と信頼関係があり、営業をかけることができる旨述べたが、実際はそのほとんどが知人ではなく、Xには超富裕層を紹介できる人物との人脈などないことが判明したから、留保解約権の行使には合理的理由がある旨主張する。
そこで検討するに、Y社の事業内容、営業社員の業務内容、求人広告の記載内容及びXの履歴書の記載を総合すれば、Y社は、Xを含む中途採用する営業社員に対し、従前の職歴を生かす等して、富裕層との繋がりを有する人物に接触しての営業活動を期待していたことが認められる。
しかしながら、Xは、二次面接において、本件名簿に掲載された者に対し積極的なアプローチをしていく旨述べているものの、本件名簿の掲載者との関係についてどのような説明をしていたかは、本件全証拠によっても明らかではない
また、Y社代表者は、Xが実際に知人に営業資料を渡したことを確認した後に二次面接を実施した一方で、二次面接においては、本件名簿の掲載者に営業を行うことができるかという質問をするものの、掲載者とXとの人的関係については確認していない
以上によれば、Xが、本件名簿の掲載者との間に人的関係がある旨の説明をしたと認めるには足りないし、Y社にとっても、Xと本件名簿の掲載者との人的関係の存在及び内容が、本件労働契約を締結する上で必要な条件であったとも認められない
そうすると、Xが富裕層との折衝経験を持っていなかった又は富裕層の人脈を持っていなかったとしても、そのことをもって、「従業員として勤務させることが不適格」(就業規則4条2項)であったり、「業務に適性を欠く」(本件労働契約・2条2項2号)ということはできず、留保解約権行使の客観的合理的理由ということはできない。

バックペイの金額を考えると、被告会社としては、手痛い判決内容かと思います。

被告会社の求める内容は理解できるところですが、解雇事由として、従業員としての適格性を欠くといえるためには、もう少し厳密に特定しておく必要があったということなのでしょう。

実際はなかなか難しいと思いますが。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇433 解雇無効判決後の自宅待機命令の違法性等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、解雇無効判決後の自宅待機命令の違法性等に関する裁判例を見ていきましょう。

西日本総合保険事件(福岡高裁令和6年6月25日・労判1337号79頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結したXが、Y社に対して、〈1〉雇用契約に基づき令和4年7月分から同年10月までの各月の未払賃金+遅延損害金の支払、〈2〉雇用契約に基づき令和4年11月から雇用契約終了までの間、毎月25日限り16万8000円の賃金+遅延損害金の支払、〈3〉雇用契約に基づき令和2年4月分から雇用契約終了までの間、毎月25日限り図書カードNEXT1000円分の交付、〈4〉賞与に係る期待権侵害(債務不履行又は不法行為)に基づき令和2年12月から雇用契約終了までの間の賞与相当損害金+遅延損害金の支払、〈5〉違法な自宅待機命令等(不法行為)に基づき慰謝料等及び同割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、上記〈2〉、〈3〉、〈4〉のうち、判決確定日の翌日以降に履行期が到来する部分について、将来請求に係るもので訴えの利益がないとして訴えを却下し、上記〈4〉のうち、令和2年12月から令和3年12月までのものについて訴訟上の信義則に反し不適法であるとして訴えを却下し、上記〈1〉の請求を認容し、その余の上記〈2〉のうち令和4年11月から令和5年1月までの賃金の一部及び遅延損害金の支払並びに同年2月から判決確定までの間の月額賃金16万8000円及び遅延損害金の支払を認容し、その余を棄却し、その余の上記〈3〉、〈4〉の請求及び上記〈5〉の請求はいずれも理由がないとして棄却した。

【裁判所の判断】

1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日から毎月25日限り16万8000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める部分、本判決確定の日の翌日から毎月25日限り図書カードNEXT1000円分の交付を求める部分、令和2年12月25日、令和3年6月25日及び同年12月25日限り各10万8550円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める部分、本判決確定の日の翌日から毎年6月25日及び12月25日限り各10万8550円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める部分をいずれも却下する。
(2) Y社は、Xに対し、本判決別紙未払賃金一覧表の「未払賃金額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。
(3) Y社は、Xに対し、令和6年4月から本判決確定の日までの間、毎月25日限り16万8000円+遅延損害金を支払え。
(4) Y社は、Xに対し、55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当裁判所も、本件自宅待機命令は、当初は業務上の必要性があり、Y社に対する不法行為を構成するものではなかったと判断する。
しかしながら、Y社は、もともと令和4年7月中にはXに復職後の担当業務を伝える予定であったものであり、にもかかわらず令和5年6月30日時点で本件自宅待機命令は1年にも及んでいるもので、上記の事情があることを考慮しても、Y社としては、同日までには検討を済ませ、Xを復職させていて然るべきであったといわざるを得ない。
したがって、本件自宅待機命令は、令和5年7月1日をもって、業務上の必要性を欠く違法なものとなっており、Xの雇用契約上の地位を脅かし、その人格権を侵害するものとして不法行為を構成するに至っているといわざるを得ない。

2 本件自宅待機命令が不法行為に転化した令和5年7月1日以降、Y社は月額16万8000円の賃金を支払い続けていることなども総合考慮すると、令和5年7月以降、Xが本件自宅待機命令により被った精神的損害に対する慰謝料としては50万円が相当と判断する。また、弁護士費用としては5万円を認めるのが相当である。

業務上の必要性を欠く自宅待機命令は、仮に賃金を支払い続けていたとしても、不法行為となり得ますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇432 調査協力指示違反等を理由とする普通解雇が有効された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、調査協力指示違反等を理由とする普通解雇が有効された事案を見ていきましょう。

X社事件(東京地裁令和7年2月7日・労経速2589号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され特定有料老人ホームの施設長等を務めていたXが、Y社に対し、雇用契約に基づき、①令和3年4月16日付でした同年5月30日をもって普通解雇する旨の意思表示が無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②本件解雇前に支払われた令和3年4月分及び同年5月分の給与につき、されるべきであった昇給がされなかったと主張して、支払われた賃金と昇給後の賃金との差額1万円(各月5000円)+遅延損害金の支払、③民法536条2項に基づき、本件解雇後の賃金(令和3年6月分から本判決確定まで。ただし令和3年から令和6年まで毎年4月に月額5000円の定期昇給がされたとした場合の賃金額。)及び賞与(令和3年夏季から令和5年冬季)+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの上記各業務命令違反行為のうち、特に本件調査協力指示違反については、Y社の従業員に対する安全配慮義務の履行を困難にするものと言わざるを得ず、企業秩序の維持に重大な影響を与えたといえる。また、本件立入禁止命令違反についても、これまで良好な関係を維持していた重要な取引先である本件医療法人及びXグループとの関係を破壊しかねないものであり、実際、Y社が、本件病院から、口頭での叱責にとどまらず、院長名義の書面での抗議を受けたことからしても、その影響が小さいとはいえない。
したがって、違反の程度が軽度であるとは到底いうことができない

2 また、Xは、Y社から本件訪問1に係る報告書の提出を求められた際、B専務に対し、激しい口調で「よくこういうメールが来れるなと。報告書出せと。親分(判決注:A会長)のこと助けに行ったのが。」、「Aも守れない人たちだったら辞めたらどうですか。」と述べ、本件訪問1はA会長の妻であるDの依頼でA会長を助けたのであるから何ら問題はなく、むしろ報告書を出すように命令する社長やB専務がY社を辞めるべきである旨の発言をし、その後、報告書を求める理由(本件病院で混乱が生じたと聞いており、今後、本件訪問1について病院側から詳細な説明を求められた場合の対応として必要であること)を説明した上で出した2度にわたる提出命令に対しても、「報告書を提出するのであればDに提出する」などと独自の見解を述べてこれを拒否した。
また本件立入禁止命令のわずか3日後に本件訪問2を敢行し、その理由として、A会長の親族から「A会長が快適に療養生活を送れるよう、医師及び看護師の医療的ケアの及ばない精神的なケアをするように個人的に依頼」されたと回答し、「貴社がその内容をあれこれ詮索すべき範疇を超えていると考えられます。」として、Y社が本件訪問を制限する理由もなければ、報告を求める権限もないとの考えに固執し、全く歩み寄りの姿勢を見せることがなかった

3 さらに、本件調査に当たっても、Y社から、本件調査委員会が中立性及び公平性に配慮して組織されたこと、及びY社に安全配慮義務違反がなかったとの結論を得るためにはXによる事実・資料の提示が必要であることを説明され、協力を指示されたにもかかわらず、不公正な調査が行われているとの考えを変えることなく、本件調査委員会への協力を拒み、本件接触行為に至ったといえる。
このようなXの姿勢は、本件調査委員会による調査結果が出された後、Y社から、本件調査委員会の調査における言動やそれによってY社や役職員に与えた影響等について、どのように受け止めているかを回答するよう求められた際、「事前に関係者への接触については、株式会社Xより、禁止されていませんでした」、「お会いしてくれた方は自らの意思で応じてくれました。」、「私の言動が貴社や役職員へどのような影響を与えたのでしょうか。」と述べるなど、本件解雇に至るまで変わることがなかったと言わざるを得ない。
そうすると、Xは、今後も、Y社からの指揮命令に対し、自己の考えに固執し、歩み寄りをせず、これに従わない可能性が相当程度あると言わざるを得ない

4 さらに、Y社は、全従業員が60名程度の中小企業であり、東京本社(従業員8名程度)、本件秘書室、本件施設及び北海道A市にて営業する「グループホームX」で構成されているところ、Xが本件ハラスメント言動及び本件不適切言動をしたと認識している以上、Xを本件施設及び同様の介護施設である「グループホームX」に配置することはできず、本件秘書室も、本件病院が了承しないため、配属の可能性はない。そして、上記各業務命令違反はいずれも、Xを東京本社に配属し、社長及びB専務が上司として業務上の指揮命令を直接に及ぼす体制のもとにおいて生じたことからすれば、Xを配置可能な他の部署は見当たらず、配置転換によって解雇を回避することも困難であったと認められる。
そうすると、Y社において、今後も予想される、XがY社の指揮命令に従わないことによる業務上の支障を回避するために取り得る手段は乏しいものと評さざるを得ず、普通解雇という手段を選択することも、やむを得ないものであったと解される。

解雇事案においては、業務命令違反行為の悪質さのみならず、上記判例のポイント2、3のような視点も忘れないようにしましょう。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。 

解雇431 グループホームの従業員の懲戒解雇を有効した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、グループホームの従業員の懲戒解雇を有効した事案について見ていきましょう。

社会福祉法人B会事件(千葉地裁令和7年3月21日・労経速2591号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社がした懲戒解雇は解雇権を濫用したもので無効である旨主張し、Y社に対し、以下の請求をするものである。
 (1) 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
 (2) 賃金請求権に基づき
 ア 解雇に先立つ自宅待機命令後の未払賃金として令和4年7月分及び8月分の合計50万4000円(月額25万2000円)の支払
 イ 解雇後の未払賃金として令和4年9月分から令和5年1月分の合計75万6000円(月額は25万2000円の6割)の支払
 ウ 上記ア、イの各支払日からの遅延損害金の支払
 エ 令和5年2月分以降の賃金として、令和5年3月から本判決確定の日まで、毎月25日限り25万2000円+遅延損害金の支払

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件では、Y社主張の懲戒解雇事由が認められるところ、Y社は、令和3年5月申立てに係る本件仮処分事件において、本件報告書により、勤務時間中の私的行為や食品の紛失を含むXの問題行動を指摘して、上記懲戒解雇事由に該当する行為について問題視していることを明確に伝えており、これに対して、Xは事実を認めなかったこと、令和3年10月の団体交渉に同様の指摘をするも、証拠を出すように求めて、事実を認めない態度に終始したこと、令和4年1月の団体交渉においても、同様の態度であって、「テレビを見たことはない」と明確に虚偽の回答をしたことが認められる。
Xは問題行動があることを再三指摘されながらこれがないと主張し、現認の上指摘されたことがあってもそれ自体を否定し、録画等の客観証拠の証拠がなければ指摘すること自体を名誉毀損であるとして相手を糾弾する態度に終始し、防犯カメラ映像が確認された後のXの対応を見ても、不合理な弁解を展開し、食事の試食やお菓子の持ち出しについてはI氏に責任を転嫁する方向に弁解を変遷させている。このようなXの対応を見ると、Xの基本的な姿勢につき指導・教育により改善をすることを期待し難く、短くない期間にわたって非違行為を継続してきたこと、この期に及んで反省をしていないことを踏まえると、本件懲戒解雇が重きに失するもので懲戒処分としての相当性を欠くものとはいえない。

懲戒解雇の相当性判断にあたっては、懲戒解雇事由に対する当該労働者の反省の態度の有無、弁解の不合理さ等も斟酌されますので、油断は禁物です。

懲戒解雇をする場合には事前に顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。