Category Archives: 解雇

解雇423 業務時間外に行った強制わいせつ行為を理由とした懲戒解雇処分を有効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、業務時間外に行った強制わいせつ行為を理由とした懲戒解雇処分を有効とした事案について見ていきましょう。

大塚商会事件(東京地裁令和6年10月25日・労経速2578号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結したXが、Y社による令和4年3月2日付け懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位確認及び民法536条2項に基づく同日以降の未払賃金の支払を求め、令和4年1月分の賃金が未払であると主張して、同月分の賃金25万2600円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件行為は、暴行を用いてわいせつな行為をしたものであり、令和5年法律第66号による改正前の刑法176条の強制わいせつ罪の構成要件に該当する。
そして、使用者は、従業員の私生活上の非行であっても、事業活動に直接関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすものについては、企業秩序維持のために懲戒の対象とすることができるところ、本件行為は、面識のない被害女性の意に反して公衆トイレに連れ込み、胸や陰部を触るというものであり、その行為態様は悪質であり、被害女性に著しい精神的被害を与えるものであって、重大な犯罪行為である。
また、Xは、Y社の多数の従業員の中の一名であるものの、Y社は中小企業等のエンドユーザーや一般消費者を対象に事業を展開しており、Xはその営業社員として取引先や一般消費者との接点も有している。そして、Y社は、ミッションステートメントを制定して、法を遵守するという行動指針を明らかにしているところ、本件行為はY社の行動指針にも明らかに反するものである。

2 さらに、本件行為はXの氏名とともにテレビ及びインターネットのニュースで報道されており、このことは、本件行為が社会的に強く非難されるべき行為であり、Y社の社会的評価の毀損をもたらすことを示している。Y社の社名が報道されなかったことは、本件行為に対する評価を左右するものではない
以上の点に鑑みれば、本件行為は、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものというべきであるから、Y社の賞罰規程25条1項(16)及び就業規則51条2項(16)の「刑法その他法規の各規程に違反する行為があったとき」の懲戒事由に該当する。

3 本件行為が悪質かつ重大であり、Y社の行動指針にも反することは、前記のとおりである。
そうすると、XがY社に対し事実関係を具体的に報告していること、Xが被害女性に解決金を支払って示談を成立させ、最終的に本件行為は不起訴処分にとどまったことなどを踏まえても、Y社がXに対し、本件懲戒解雇をもって臨むことには、客観的合理的理由があり、社会通念上も相当というべきである
なお、本件行為の内容及び態様に照らせば、Xが本件行為に先立ち飲酒をしていたことは、本件において酌むべき事情とはいえない。
よって、本件懲戒解雇は有効であるから、Xの地位確認請求及び本件懲戒解雇後の賃金請求は、いずれも理由がない。

私生活上の非違行為を理由とする懲戒解雇については、本件同様、訴訟に発展することが珍しくありません。

企業秩序を害したといえるか、という点をいかに説得的に主張・立証していくかが重要です。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇422 試用期間途中(実働日数10日)での解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、試用期間途中(実働日数10日)での解雇が有効とされた事案について見ていきましょう。

ダイトク事件(東京地裁令和6年9月18日・労経速2577号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、雇用契約に基づく賃金請求として、解雇日以降の未払賃金及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまでの民法所定の法定利率による各遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件契約上、3か月間の試用期間が定められており、本件解雇はその試用期間中にされているところ、本件退職証明書において、XにNC旋盤やノギス等による計測の経験があることから採用したが、その経験が浅いと判断した旨、指示事項に対する判断・理解に欠けていると思われることが多々あった旨、被告における機械加工には適していないと判断し、試用期間2週間ではあるが解雇とすることとした旨等の指摘がされていることにも鑑みれば、本件契約における試用期間の定めは、雇用契約の解約権を留保したものであり、本件解雇は留保解約権の行使としてされたものと認められる。この解約権の留保は、採用決定当初には、使用者が労働者の資質、能力、業務への適格性を十分に把握することができないため、後の調査や観察に基づき最終的に採否を決定する権利を留保する趣旨のものと解される。このような趣旨に照らすと、留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲で認められると解され、留保解約権の行使は、上記の解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として許される場合に有効となると解される(最高裁判所昭和48年12月12日大法廷判決参照)。

2 Y社が製作しているのは、自動車のエンジンの部分の製造に必要なプランジャーチップ等であり、業務上、その加工品の寸法の計測が正確に行われることが必要かつ重要といえる。また、チャッキングして高速回転させた材料を刃物で削るNC旋盤での作業のミスは、作業者や周囲の従業員に怪我をさせたり、機械自体を毀損したりする危険がある。
Y社は、Xに対し、寸法計測の重要性やNC旋盤の危険性を説明・指導しているから、Xもそのことを理解し得たといえる。また、NC旋盤での具体的な作業は、指定された口径の材料をチャッキングし、作動ボタンを押すという単純なものであるし、Xは、その職歴において、NC旋盤での加工作業やノギス等の計測器具を用いた測定作業の経験を有しており、証人Aの前では計測器具を適切に使用できていたのであるから、上記のミスの改善に困難な事情があったということもできない。
それにもかかわらず、Xは、実働3日目頃以降、証人AやY社代表者から注意指導を繰り返し受けていながら、NC旋盤での加工作業におけるミス(2度目のミスは、機械の芯をずらしてしまうほどの事故につながっている)や寸法の計測ミスを繰り返しており、寸法の計測ミスについては本件解雇時まで改善されていない
以上からすれば、Xは、Y社の業務に関する資質や適格性等を欠いており、実働日数10日間で本件解雇がされたという事情を踏まえても、本件解雇は、本件契約の解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と認められる。
したがって、本件解雇は有効である。

中途採用でそれなりの経験を有している方の場合と新卒の方の場合では資質や適格性等の判断が異なりますので、注意しましょう。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

解雇421 原告が履歴書及び職務経歴書に真実と異なる記載をしたことを理由とした内定取消しが有効であるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、原告が履歴書及び職務経歴書に真実と異なる記載をしたことを理由とした内定取消しが有効であるとされた事案について見ていきましょう。

アクセンチュア事件(東京地裁令和6年7月18日・労経速2574号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から採用内定を受けていたXが、その後の経歴調査により虚偽の経歴の申告が判明したなどとして同内定を取り消されたことにつき、Y社に対し、同内定取消しが無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、Y社との雇用契約による雇用期間の始期である令和4年9月1日以降の未払賃金として、同月から本判決確定の日まで毎月25日限り48万8333円+遅延損害金の支払を求めるとともに、違法な内定取消しにより著しい精神的損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料等合計110万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが虚偽の申告をした事項は、Xの経歴のうち、職歴という労働者の職務能力や適格性を判断するための重要な事項であった。そして、使用者が労働者を雇用するに当たり、職歴を申告させる理由は、その申告された職歴に基づいてその労働者の職務能力や従業員としての適格性の有無を的確に判断するためであり、そうであるからこそ、Y社においても、本件履歴書及び本件職務経歴書の提出に当たり「提出した書類の記載内容はすべて正確であり、採用審査で誤判断を招くような虚偽の記載や隠れた事実はありません。」との免責事項の確認を求めているものと推認できる。Xは、上記免責事項に「はい。」と回答した上で本件履歴書及び本件職務経歴書を提出した以上、信義に従い真実を記載すべきであったにもかかわらず、F社及びG社について、本件履歴書及び本件職務経歴書にそもそも雇用関係があった旨の記載をせず、虚偽の申告をしたものであって、背信行為といわざるを得ない

2 そこで、その背信性に関し、Xが本件履歴書及び本件職務経歴書に真実の職歴を記載しなかった動機について検討を進めると、Xは、Y社への応募に先立つ直近1年間に、まず、F社との有期雇用契約を雇止めとなり、同雇止めを巡って同社との間で紛争になり、同社からは雇止めの理由として原告のM社におけるコミュニケーション不足が主張されていたこと、また、その後に雇用されたG社との間でも、Xは、Xが同社の業務命令に従わず個別の注意等による反省も見られないなど通常の業務遂行が困難なためとの解雇理由により、雇用開始から約1か月後の試用期間中に普通解雇されたことが認められる。これらの事実に加え、Xが本人尋問において、本件履歴書に上記各社の職歴を記載しなかった理由として「自分から、よく分からない理由で解雇されましたなんて言えないわけじゃないですか。」などと供述していたことも併せ鑑みると、Xは、F社及びG社の職歴を本件履歴書及び本件職務経歴書に記載すれば、これらの雇用関係の解消を巡り上記各社との間で紛争が生じたことが明らかになる可能性があり、自己の採用に不利益に働くと考えたからこそ、上記各社との紛争の存在がY社に発覚する端緒となるような上記各社との雇用関係や上記各社との雇用関係の間の職歴の空白期間について、真実を申告しなかったものと推認される。かかる動機からするとXの背信性は高い。

3 これらの虚偽の申告事項や動機からすれば、Xが本件履歴書及び本件職務経歴書において虚偽の申告をして秘匿した事項は、単にF社及びG社との各雇用関係という事実それ自体のみならず、上記各社との雇用関係の解消を巡る紛争の存在であったと認めるのが相当である(なお、上記各社との紛争の存在自体は、本件内定取消し前に、本件バックグラウンドチェックを踏まえて行われた面接時に初めてY社に判明している。)。そして、F社及びG社とXとの紛争の態様は上記のとおりであり、上記各社のいずれも、従業員であったXに帰責事由があるとの認識でXとの雇用関係の解消に至ったものであったことが認められることからすると、その法的な当否はおくとしても、これらの事実は、Y社にとって原告の採否の判断において従業員としての適格性に関わる重要な事項たり得るものであったといえる。

4 また、Xによる虚偽申告の方法や態様について見るに、Xは、本件履歴書及び本件職務経歴書に真実とは異なる記載をしていることを当初から認識していたにもかかわらず、上記のとおり、本件履歴書及び本件職務経歴書の提出時に免責事項の記載においても「はい。」と回答していた。その上、前記1の認定事実によれば、Xは、二次面接前のY社からの職歴の空白期間の有無に関する質問に対しても、「元請け会社」や「請負」などの言葉を用いて、本件履歴書には個人事業主として締結した契約先の一部に限って記載していると読める回答をするにとどめ、空白期間がある旨を回答せず、さらには、一次面接及び二次面接のいずれにおいても令和3年6月以降の自らの立場をM社の準委任の契約社員であると称して説明を行っていたことが認められる。これらのXの行為は、故意による経歴詐称というべきものであり、詐称の態様としても、上記動機の下に、なるべく秘匿の事実が発覚しないようにしていたと推認できるものであって、不正義である。
 これらに加え、本件バックグラウンドチェックによって判明したF社及びG社との雇用関係のみならず、I社との雇用関係についてもXが本件履歴書及び本件職務経歴書に記載していなかったことが、本件バックグラウンドチェックを踏まえたY社との面談により、本件内定取消し前に判明していた(なお、本件訴訟手続において、B社との契約が個人事業主としての契約ではなく雇用契約であったことも判明した。)。このように、Xによる経歴詐称の程度は、本件履歴書に記載された期間の半分近くを占めるものであり、履歴書や職務経歴書の提出意義を没却させるものである。

5 以上によれば、Xが本件履歴書及び本件職務経歴書に真実と異なる記載をしたことは、Y社において本件採用内定当時は知ることができなかった事実であって、Xが虚偽の申告を行った動機や秘匿した事項、秘匿の方法や態様などを考慮すれば、XがY社の運営に当たり円滑な相互信頼関係を維持できる性格を欠き、企業内にとどめおくことができないほどの不正義性が認められるのであるから、本件内定取消しは、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものといえる。

このような裁判例の射程をどこまで広げるかは意外と悩ましいところです。

詐称の程度、職務との関連度合い等について慎重に検討する必要があろうかと思います。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

解雇420 解雇を争う労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他社で就労を開始した場合の復職の意思の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、解雇を争う労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他社で就労を開始した場合の復職の意思の有無に関する裁判例を見ていきましょう。

フィリップ・ジャパン事件(東京地裁令和6年9月26日・労経速2573号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されたXが、〈1〉Y社から能力不足を理由として令和4年1月15日限りで解雇されたことにより同日以降にY社で労務を提供することができなかったと主張し、Y社との間の雇用契約に基づく本件解雇の後の令和4年3月から本判決確定の日までの月例賃金請求として、毎月25日限り51万5300円+遅延損害金の支払を求めるとともに、〈2〉令和4年及び令和5年の各年の賞与の支払がされていないと主張し、XとY社との間の雇用契約に基づく令和4年分及び令和5年分の賞与請求として、合計125万7835円+遅延損害金の支払を求め、さらに、〈3〉本件解雇に伴って行われた丙川及び丁田による退職勧奨及び各言動には違法があると主張し、上記各被告らについては民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償として、上記各被告らの使用者である被告会社には民法715条の使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、令和4年3月から令和5年6月まで毎月25日限り月額30万9180円及び同年7月25日限り4万9868円+遅延損害金を支払え。
2 XのY社に対するその余の請求並びに丙川及び丁田に対する請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、令和3年12月3日に丁田の作成による本件通知書を受領すると、直ちにX訴訟代理人弁護士に相談した上で、同月7日付けで、同弁護士を通じて、Y社に対して丙川及び丁田によるPIP等を止めるよう求める通知書を発出したこと、Xは、同月13日、Y社から、令和4年1月15日限りで本件解雇をする旨の本件解雇通知書を受領すると、本件解雇に先立つ同月12日にはX訴訟代理人弁護士を通じて、東京地方裁判所に対し、本件解雇が無効であるとして、Y社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めて本件訴訟を提起したことが認められる。これらの事実を総合すると、XがY社への復職を求めて本件訴訟の提起に至ったものであることが認められる。

2 また、Xは、令和4年3月1日に、賃金月額77万9200円、所定労働時間7時間などの労働条件でA社に就職したものであるが、一般に、解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、解雇後直ちに他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他の就労先で就労を開始した事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと直ちに認めることはできない。そこで、XがA社に就職するまでの経緯に関して更に検討を進めると、〈1〉Xは、平成28年9月20日にY社に採用され、同年10月16日から令和2年12月頃まで法務部での業務に従事し、同月以降、司法修習、第一子の懐妊、出産のためにY社を休職し、令和3年5月1日にY社に復職したこと、〈2〉Xは、第一子の育児休業からY社に復職する際、第一子を保育園に入所させ、復職後には第一子を保育園に通わせながらY社で勤務していたこと、〈3〉Xは、令和3年12月13日に本件解雇通知書(書証略)をもってY社から本件解雇の予告をされた頃以降、本件解雇により無職となれば第一子の保育園への入所資格が喪失することを危惧して、就職活動を始め、令和4年1月24日頃にはA社への同年3月1日付けでの入社が決まったこと、以上の事実が認められる。これらの事実に加え、第一子の保育園への入所ができないとX自身がずっと仕事に復帰することができなくなってしまうので、何でもよいから職を探していた旨のXの供述を併せて考慮すると、Xにおいては保育園の入所資格を確保し自らの職歴を確保するとの観点から直ちに就職活動を行う必要性に迫られ、その就職活動の結果として、A社への就職が決まったと認めるのが相当であるから、たとえ賃金額や所定労働時間に関してA社での労働条件がY社よりも良好なものであるとの評価をし得るとしても、Xにおいて、A社に就職した時点で、Y社への就労意思が喪失したものとは認め難い

3 したがって、XがA社に就職した令和4年3月1日時点で、XのY社への就労意思を喪失していたと認めることはできない。そして、Xは、A社での6か月間の試用期間が経過した後の時点でも明確にY社への就労意思の喪失を争っており、その他、XがA社に就職した令和4年3月1日以降、XがY社への就労意思を喪失したことを自認する令和6年1月31日までの間、同日に先立ち、XのY社への就労意思を喪失したと認めることができるような具体的な事情は認められない

以前は、本件のような事情がある場合、復職の意思が否定される事案も散見されましたが、近年は、本裁判例のような考え方が大勢を占めます。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

解雇419 PIP(業務改善計画)の実施には合理的な理由があるとした一方、原告の能力不足を理由とした普通解雇は無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、PIP(業務改善計画)の実施には合理的な理由があるとした一方、原告の能力不足を理由とした普通解雇は無効とした事案について見ていきましょう。

華為技術日本事件(東京地裁令和6年3月18日・労経速2563号20頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社による2020年3月13日付け普通解雇が無効であると主張し、Y社に対して、各請求をする事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 項目2については、自らの責任で作成すべきAMS広告の計画案として代理店作成の資料をそのまま提出した行為であり、Xの責任感の欠如を窺わせる事情と言わざるを得ない。この点については、直前の提出期限変更や夏季休暇直前という点で酌むべき事情がないとはいえないものの、同様の責任感の欠如は項目9においても露呈している。項目9については、チームで業務遂行する上で必要な協調性の欠如を窺わせる事情でもある。そして、項目12は、担当業務につき数字による結果報告にとどまらないXなりの分析や考察を加える能力の欠如を示す出来事であって、Senior Digital Marketing Managerとしてデジタルマーケティングにおける専門的能力の発揮が求められる従業員の適格性を疑わせる事情というべきである。
こうしてみると、Y社がXの就労状況を踏まえ、本件PIPを実施したことは相当であったというべきである。しかしながら、本件PIP期間を終えて退職勧奨に踏み切る前に、Y社において求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す余地はあったと考えられる。一例を挙げれば、H本部長は繰り返し数字の報告にとどまらない「分析」を求めたが、XはY社において求められる「分析」がいかなるものか理解できないまま、従前どおりY社には「分析」とは評価し得ない程度のコメントを付することを繰り返していたことが窺われる
本件PIPについても、その目標設定はXの就労状況に照らして適切なものと考えられるが、実施の過程でXと上長との面談等がどの程度行われ、Y社がXに求める業務改善の具体的内容についてXとの間で共有されていたのか、本件PIP実施中のXの取り組みにつきどのようなフィードバックがされていたのか等の詳細については、本件証拠上明らかでない

2 Xはデジタルマーケティングの経験者として中途採用されたとはいえ、管理職ではないデジタルマーケティングの1担当者にすぎず、給与水準もそれなりに高いとはいえ、Y社内部における相対的位置付けは明らかでないこと、Y社への入社からはそれほど長い期間を経過していたわけではないことにも鑑みれば、上記のような指導、教育が十分に行われた事実が認められないにもかかわらず、能力不足を理由に行われた本件解雇については、客観的合理的理由があり社会通念上相当であるとはいえず、無効であるというべきである。

能力不足を理由とする解雇の難しさ、大変さがよくわかります。

求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す必要があるとのことです。

「学校じゃないんだから・・・」という嘆きが聞こえてきそうですが、日本における雇用契約では通用しないようです。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

解雇418 盗撮行為による懲戒解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、盗撮行為による懲戒解雇が無効とされた事案を見ていきましょう。

日本郵便(懲戒解雇)事件(名古屋地裁令和6年8月8日・労経速2569号3頁)

【事案の概要】

 本件は、Y社の従業員であるXが、令和5年9月21日付けの懲戒解雇が無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約の賃金請求権に基づき、令和5年10月から本判決確定の日までの賃金及び賞与の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【裁判所の判断】

1 本件行為の内容自体は、Xが電車内で女性の乗客のスカート内を撮影しようとしたものであるところ、被告は、職務外非行による信用失墜行為の根絶に向け、ミーティングにより従業員に対して周知するなどの取組を行っていたことが認められる。
そうすると、本件行為について報道がされず、被告の社会的評価を低下させることはなかったとの原告の主張を考慮しても、本件行為は、Y社の企業秩序に直接の関連を有するものであり、Y社の社会的評価の毀損につながるおそれがあると客観的に認められるから、懲戒の対象となり得るということができる。そして、Xは、被害者を撮影したことを認めているから、本件行為は、愛知県迷惑行為防止条例に違反する行為であるといえ、法令に違反したとして就業規則81条1項1号に該当する。また、従業員による盗撮行為は、会社の信用を傷つけ、又は会社に勤務する者全体の不名誉となるような行為といえるから、就業規則81条1項15号にも該当するというべきである。

2 本件行為については、前記のとおり、行為時においては条例違反にとどまり、その法定刑に照らせば、他の法令違反行為と比較して重い法令違反行為であるとまではいえない。Xは被害者と示談をし、令和5年11月16日には不起訴処分がされており、刑事手続において有罪判決を受けたものではない
また、懲戒標準においては、職務外の非違行為において刑事事件により有罪とされた者は、基本として「懲戒解雇~減給」とされているのに対し、それ以外の非違行為については、基本として「減給~注意」、重大なものとして「懲戒解雇~停職」とされているところ、本件行為は、それ以外の非違行為に分類されるものであり、刑事事件において有罪判決を受けた場合と比して、類型的に、会社の業務に与える影響や被告の社会的評価に及ぼす影響は低いということができる。
さらに、本件行為が行われて以降、本件行為ないし本件行為に係る刑事手続について報道がされておらず、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったことが認められ、X自身も本件行為日の翌日には釈放されており、通常の勤務に復帰できる状態になったことが認められる。
そうすると、本件懲戒解雇時点において、本件行為及びXの逮捕によって、Y社の業務等に悪影響を及ぼしたと評価することができる具体的な事実関係があるとはいえない。
これらの事情に加え、Xが過去に懲戒処分歴を有していないこと等も考慮すると、本件行為を懲戒事由として、懲戒解雇を選択したことは、懲戒処分としての相当性を欠き、懲戒権を濫用したものとして無効であるといわざるを得ない。 

懲戒事由には該当するが、処分が重すぎるという理由で無効とされています。

特に私生活上の非違行為に基づき懲戒処分を行う場合には、相当性要件については慎重に検討する必要があります。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

解雇417 諭旨解雇及び懲戒解雇が無効である場合における諭旨解雇を社内に公示した行為の不法行為該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、諭旨解雇及び懲戒解雇が無効である場合における諭旨解雇を社内に公示した行為の不法行為該当性について見ていきましょう。

東和産業事件(東京地裁令和6年5月30日・労判ジャーナル149号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社から令和2年12月15日に受けた懲戒処分としての譴責処分に関し、本件譴責処分が無効であることの確認を求めるとともに、違法な本件譴責処分をしてY社の社内に公示したY社には不法行為責任が成立すると主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円等の支払を求め、また、Y社から令和3年5月18日に受けた諭旨解雇処分及び同年6月1日に受けた懲戒解雇処分に関し、Y社に対し、本件各解雇処分には懲戒権及び解雇権を濫用した違法があると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、本件各解雇処分後の未払賃金等の支払を求めるとともに、違法な本件諭旨解雇を社内に公示したY社はXの名誉を毀損したものであると主張して、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円等の支払と、民放723条に基づく名誉を回復させるための処分として、Y社の全従業員が加入するメーリングリストへの謝罪広告の投稿を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料請求一部認容

【判例のポイント】

1 本件各解雇処分は権利濫用の違法があるとはいえるものの、本件各解雇処分以前においてY社がXの非違行為に対して十分な調査や注意、指導を行うことができなかったことについては、XがY社の指示に従わずにe所長やd次長に対して日報を提出しないなど、Y社がXの営業活動を十分に認識する機会を得ることができなかったことも一つの要因となっていたものというべきであること等から、本件各解雇処分が著しく相当性を欠き、Xに対する不法行為を構成するものということはできない。

2 Y社は4日間程度、Y社がXを本件諭旨解雇に処したことについて、公示したことが認められ、そして、本件諭旨解雇が無効であることからすると、Y社による上記公示行為は、たとえ本件就業規則に基づき行われたものであるとしても、Xが諭旨解雇に処せられるべき非違行為を行った者であるとの真実に反する事実がY社の社内に公表され、Xの社会的評価を低下させたものといえるから、Xの名誉を毀損したものとして不法行為を構成するといわざるを得ず、慰謝料としては、公示方法が社内のみであり短時間の公示であったことなどの事情を考慮すれば、10万円をもって相当と認めるが、他方、Xの名誉回復処分として、謝罪広告の投稿を命ずる必要まではない。

上記判例のポイント2は、しっかりと押さえておきましょう。

懲戒処分が無効と判断された場合には、公示した行為が違法とされますのでご注意ください。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

解雇416 機密情報の私的領域への複製等を理由とした退職予定者の懲戒解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、機密情報の私的領域への複製等を理由とした退職予定者の懲戒解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

伊藤忠商事事件(東京地裁令和5年11月27日・労経速2554号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を退職予定であったXが、令和2年7月3日付け懲戒解雇の無効を主張して、Y社に対し、①本件懲戒解雇が無効であることの確認を求めるとともに、②不法行為に基づく損害賠償として本件懲戒解雇の翌日から退職予定日までの給与等に相当する逸失利益及び慰謝料の合計1323万2143円+遅延損害金並びに③退職金として70万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、Y社がXに対して行った令和2年7月3日付け懲戒解雇の無効確認を求める部分を却下する。
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、職務上知り得た会社及び取引関係先の機密情報を不正に第三者に開示又は目的外に利用すること、その他情報管理規程に違反した場合を機密保持違反として懲戒事由に該当すると定められている(就業規則66条5号)。そして、Y社は情報管理規程及びその下位規則において、機密情報の保持の厳守を定め、機密情報を管理責任者の許可なく複写(複製)することを禁止し、電子化情報の保管・保存には被告が一元管理する会社標準のオンラインファイルストレージ基盤を利用すべきこと等の規律を設け、イントラネットで周知を図ると共に、社内通達で注意喚起するなどして、機密情報の流出・漏洩防止を図っていたものであり、そのことを従業員も認識可能であったということができる。
また、Y社では、Y社Box環境を採用し、所属部署ごとのアクセス制限を行い、本件データファイル1については、プラント・プロジェクト部に所属する従業員にアクセス権限を設定しており(Xには異動後の暫定措置としてアクセス権限付与)、Y社Box環境へのアクセスについても、貸与PCか、Boxのアプリケーションがインストールされた私物スマートフォンやタブレットから、IDとパスワードの入力や、ワンタイムパスワードの入力を要求するなどのアクセス制限措置がとられていた。
2 他方で、証拠によれば、プラント・プロジェクト部内においては、部員が自らの所属課以外の課の案件に関する情報が保存されているフォルダにアクセスすることは可能であったことが認められる。この点、C室長は、各課の共有フォルダにアクセスする場合には、当該フォルダを管理する課の課長などから許可を得るという運用であった旨証言しているが、そのような運用を定めた文書や申請書式は用意されておらず、自身が課長職にあった2年間で一度も申請されたことがないとも証言していることからすれば、共有フォルダに保存されている情報の閲覧範囲は、部内においては事実上制限されていなかったことがうかがわれる。つまり、本件データファイル1が保存されていたY社Box環境は、プラント・プロジェクト部に所属する従業員約50名が、自身の担当案件とは関係なくアクセスできる状況であり、閲覧する情報の範囲についても事実上制限はされていなかったことになる。そして、本件データファイル1が保存されていたフォルダには、極めて多数・多量のデータファイルが保存されており、その中には、同一の用途に用いる作成途上の様々なバージョンのファイルや、過去に利用したレストランの一覧のフォルダなど、およそ機密情報に当たらないものも含まれるなど、ファイルごとの機密性の程度に相当な幅があったこともうかがわれる。
加えて、情報管理規程における機密情報の定義は抽象的で、従業員において、その対象となる機密情報か否かが一見して明らかなものとはいえない状況であった。さらに、個々のファイル等に機密情報であること(例えば、極秘やConfidentialといった記載)が明示されていたとか、情報を取り扱う担当者内でのパスワードによる秘密管理措置が施されていた等の事情も、これを認めるに足りる証拠はない
3 このような就業規則並びに情報管理規程及びその下位規則の定めやY社Box環境における情報の管理・保管状況をも踏まえると、機密情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理されていたとはいえず、本件データファイル1について秘密管理性を肯定することは困難というべきである。
以上によれば、本件データファイル1について「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当すると認めることはできない。

秘密管理性要件の厳しさがよくわかります。実際、営業秘密として保護するのであれば、実務上の利便性はかなりの部分捨てなければなりません。このトレードオフを甘受できるかどうかだと思います。

なお、懲戒解雇自体は別の懲戒事由の規定により有効と判断されています。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

解雇415 採用内定辞退扱いは採用内定の取消であるとして、地位確認請求が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、採用内定辞退扱いは採用内定の取消であるとして、地位確認請求が認められた事案を見ていきましょう。

FIREST DEVELOP事件(東京地裁令和5年12月18日・労判ジャーナル149号62頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、XがY社に対し、Y社においてXが内定を辞退したと扱ったことは違法無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料200万円等の支払を求め、反訴において、Y社がXに対し、Xによる恐喝及び詐欺行為があったとして、不法行為に基づき、慰謝料405万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴:地位確認請求認容、未払賃金等請求一部認容、損害賠償請求一部認容(30万円)

反訴:請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、令和4年3月、XがY社で受講していた研修の進捗状況に不満を持ち、その旨をXに伝えていたこと、Y社は、同月22日には、Xに対し採用内定の辞退を促し、Xの研修を打ち切っていること、同月28日、Xに対し本件内定辞退通知を送付し、その中においてもXの入社前の研修の大幅な進捗遅れを指摘していたこと、Xは、Y社の上記対応について、東京都労働相談情報センターに相談に行っていたことなどが認められ、これらの事実からすれば、本件内定辞退扱いは、Y社代表者がXの研修内容等に不満を持ち、Xからの内定辞退の申出がないにもかかわらず、Xが採用内定を辞退したものとY社が取り扱ったものと認めるのが相当であるから、本件内定辞退扱いは、Y社による労働契約の一方的な解約の意思表示(採用内定の取消し)であるところ、客観的合理的理由を欠き、権利濫用に当たり、無効である。

2 Xは、Y社の指示に従い入社前に事前研修を受けたが、その内容・進捗状況等について、Y社からXが不足する部分について具体的な指摘はなかったこと、採用内定辞退の申出をしていないにもかかわらず、Y社から一方的にXが辞退したという扱いをされたこと、本件内定辞退扱いの数日後には説明もなく出社を命じられるなどしたことなどが認められ、また、Y社に対し、Xから、Y社の対応について説明を求めても、Xからの連絡に応答しないなどXからの連絡自体を拒絶されていたこと、Xは、Y社に入社できなかったことにより、就労可能な在留資格を維持するため、3か月以内に新しい仕事を見つけられなければ帰国せざるを得ない状況に置かれたこと、このような状況に労働者が精神的に追い詰められたことなども認められ、本件内定辞退扱いは、留学生であったXの生活状況を著しく不安定な状態に陥れるものであり、著しく相当性を欠くといえ、労働者に対する不法行為を構成するというべきであり、Xには、財産的損害を回復してもなお償えない精神的損害が存在すると認めるに足りる特段の事情があるというべきであり、その慰謝料は30万円と認めるのが相当である。

内定取消しについても、考え方は、解雇の場合と同じく、合理的な理由が求められます。

場面的には、感情的になってしまいがちですが、しかるべきプロセスを経ているかをできるだけ冷静に検討することが求められます。

内定取消しを有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

解雇414 試用期間中の解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

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今日は、試用期間中の解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

日本コーキ事件(東京地裁令和3年10月20日・労判1313号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、試用期間中に解雇されたXが、解雇が無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の地位を有することの確認を求め(請求1項)、②未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払(請求2~4項)を求めるとともに、③解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払(請求5項)を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、採用の申込みに当たり、①添え状に、ステンレス、アルミニウム、チタン等のTIG溶接を主に経験してきたことや、板厚も1mmから20mm位までのあらゆる形状のものを製作してきたこと、②履歴書に、TIG溶接が得意であること、③職務経歴書にも、c社においてTIG溶接の技術指導を行ってきたことや、金属加工業を営む会社でアルミ溶接の専任として勤務したことなどを記載している。これらの記載を素直に読めば、Xが、母材の種類や厚みを問わず、商品化に耐え得るだけのTIG溶接の技術力、あるいは、少なくとも専門学校等を卒業したばかりの者に期待される水準を上回る技術力を有し、溶接グループにおける即戦力として期待できるものと受け取るのが自然である。

2 Xは、採用面接と併せて実施された作業テストにおいて、ステンレスのTIG溶接を満足に行うことができなかったものの、①ステンレスの薄物のTIG溶接についても、経験があり、勘を取り戻せばできる旨や、すぐに勘を取り戻せる旨を述べていたこと、②TIG溶接の手順自体は習得していたこと、③作業テストは長くても20分ないし30分程度のものであったこと、④前記の添え状、履歴書及び職務経歴書が提出されていたことからすれば、Xの上記発言を信じ、試用期間中の作業内容を吟味して本採用するか否かを決定することとしたことには、合理的な理由があるというべきである。
しかるに、Xは、濾過機を構成する部品のうち、専門学校等を卒業したばかりの者が製作目標とするような、上蓋ストッパーや圧力スイッチカバーを満足に製作することができず、複数の母材を溶接することさえ要しない引っ掛けドライバーについても曲げる部分の位置や角度を統一することができず、Xが製作した製品のほとんど全てが商品にならないものであったから、Xの実際の技術水準と、履歴書等の各書類や作業テスト時におけるXの言動から期待される水準との間には、相当程度の乖離があったと認められる。
さらに、Xは、C課長から溶接不良の箇所をマーカーで示しながら、溶接が過剰な部分があり、ムラが生じていることや、溶接すべき部分がずれていることなど、溶接不良の原因について具体的な指摘を受けていたにもかかわらず、Y社代表者との面談において、溶接のポイントがずれているという指摘がいかなる趣旨であるか理解できないなどと述べ、その後も溶接不良が改善されなかった
そして、Xが本件解雇までに製作した製品の数は合計で数百点に及び、Xの技術水準を判断するには十分であったと認められるから、Y社において、試用期間の満了を待たずに、Xが期待された技術水準に達する見込みがないと判断したことにも合理的な理由があるというべきである。
以上の諸事情に照らせば、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。

理屈は非常にわかりやすいですね。

大切なのは、裁判所にこのように認定してもらうために、上記の事実を裏付ける証拠をどのように収集するかという点です。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。