Category Archives: 解雇

解雇399 ウイスキー持ち出し行為を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、ウイスキー持ち出し行為を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

坂口事件(東京地裁令和4年12月7日・労判ジャーナル135号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社において酒類等の配送業務に従事していたXが、Xによる倉庫からの商品(ウイスキー)持出行為が窃盗に当たるとしてY社が行った解雇は違法・無効であるとして、Y社の従業員である地位を有することの確認を求め、違法・無効である解雇により就労を拒否されたとして、民法536条2項に基づき、未払賃金等の支払を求め、違法・無効である解雇によりXの名誉を毀損したことは不法行為を構成するとして、損害賠償金300万円等の支払をもとめた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇有効

【判例のポイント】

1 仮にX主張のC発言があったとしても、CはY社の代表取締役ではなく、またY社の商品を処分する権限があったとは認められないこと、X主張のC発言の内容(「お金に困るなら給料が出るまで店の酒を2~3本なら持ち出し現金にしてもよい」)及びX自身が、Cから他の者に分からないように持っていってくれと言われた旨供述していることからすると、XにY社の商品を処分する権限を与える趣旨とまでは解されないから、本件持出行為は、Y社の所有物である在庫商品を権限なく持ち出すものであり、窃盗罪(刑法235条)を構成して就業規則所定の懲戒事由があるというべきである。

2 Xは、本件持出行為はC発言を踏まえて行われたものである旨主張するが、そもそもC発言があったこと自体、疑わしいといわざるを得ず、また、Xには、本件持出行為は刑事罰(故意犯)に該当する行為である上に、反復継続して行われており、本件持出行為が発覚していなければ、今後も継続して行われていた可能性があること、Xは、本件持出行為により持ち出した本件ウイスキーについて、一部を自ら費消した旨の虚偽の説明を行っていたこと、Y社の配送業務においては、配送先から鍵を預かり、配送先が不在の時間帯に納品している店舗が多数あることからすると、Xが面談では本件持出行為を認めていること及び本件持出行為による被害額が1万8700円と多額とはいえず、これによる被害弁償が完了していることを考慮しても、本件において、Y社が懲戒解雇を選択したことは相当である。

上記判例のポイント1のような事情があったときに会社としてどのように反論をすればよいかについて1つのヒントになると思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇398 飲酒を伴う歓迎会等での入社内定者の発言を理由とする内定取消が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、飲酒を伴う歓迎会等での入社内定者の発言を理由とする内定取消が有効とされた事案を見ていきましょう。

兼松アドバンスト・マテリアルズ事件(東京地裁令和4年9月21日・労経速2514号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から、採用内定を得て、その後、Y社から内定を取り消されたXが、Y社に対し、次の各請求をする事案である。
(1)主位的請求
Xが、本件内定取消しは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上の相当性を満たさない無効なものである旨主張して、Y社に対してする次の各請求
ア 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 労働契約に基づく次の各金員の支払請求
(ア)未払賃金
(イ)賞与
(2)予備的請求
Xが、本件内定取消しは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上の相当性を満たさない違法なものであり、これによって採用に係るXの期待権が侵害されたと主張して、Y社に対してする、不法行為に基づく損害賠償314万6880円+遅延損害金

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①EやFを呼び捨てにしたこと(二次会)、②Y社への入社理由について、ついでに受けただけである、たまたま採用までのスピードが早かったため、入社することにした旨の発言をしたこと(二次会。同旨の発言を本件会食前にもしている。)、③Eに対して、「やくざ」、「反社会的な人間に見えるな」と述べたこと(二次会から三次会への移動中)については、いずれもY社従業員(上司や先輩に当たる。)に対して礼を失する行為であり、特に上記③の「やくざ」、「反社会的な人間」との表現は侮辱的なものであって、同僚に対してする発言として著しく不穏当で不適切であるというべきである。Xがかかる発言をしたことは、それが飲酒の上でなされたものだとしても、従業員同士の強調に反し、職場の秩序を乱す悪質な言動であるということができる。

2 社内ルールやコンプライアンスを遵守する姿勢は、Y社の従業員である以上、当然に必要な資質であるといえることに加え、本件支店は18名で構成される小規模な事業所であり、業務の正常な遂行のために従業員同士の協調性が求められること、特に営業職においては、社内外と円滑なコミュニケーションを図る協調性が重要かつ最低限必要な能力として求められる上、取引先との関係性を円滑にするために月に数回の会食の場に参加することがあることから、会食の場での社会人としての最低限のコミュニケーション能力、礼節が求められること、Y社においては、上記資質等をXが備えているものとの判断の下、本件採用内定をしたことがそれぞれ認められ、これらからすると、Xの前記言動は、これらの基本的な資質をXが欠いていたことを示すものであって、かつ、Y社はかかる資質の欠如を本件採用内定時には知り得なかったといえるから、これらの理由に基づいて本件採用内定を取り消すことは、XがB支店長及びEに対して架電して謝罪したことを踏まえても、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるというべきである。

どうしちゃったのでしょう。社交辞令が言えない方なのかもしれませんね。

いずれにせよ裁判所の判断が上記のとおりで安心しました。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇397 コロナ禍でHIV免疫機能障害者の社員に在宅勤務を認めずに特例勤務の提案を行った上で、退職勧奨した会社の対応の違法性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、コロナ禍でHIV免疫機能障害者の社員に在宅勤務を認めずに特例勤務の提案を行った上で、退職勧奨した会社の対応の違法性が否定された事案を見ていきましょう。

ブルーベル・ジャパン事件(東京地裁令和4年9月15日・労経速2514号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、東京都内の事業場に勤務していたXが、令和2年2月以降、Y社に対し、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症による免疫機能障害2級の身体障害者手帳を交付されているため、新型コロナウイルス感染症の罹患や重症化への不安があるという理由で在宅勤務等の措置を求めたところ、当該措置が認められなかったばかりか、新型コロナウイルス感染症の罹患を避けるために欠勤したことを捉えて違法な退職勧奨等を受けたほか、意に反して同年4月末日をもって合意退職したものとして取り扱われ、更には、同年4月分の賃金について合理的な理由もなく欠勤等控除をされたと主張し、Y社に対し、(1)労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、(2)労働契約に基づく賃金請求+遅延損害金の支払、(3)労働契約に基づく賞与請求+遅延損害金、(4)Xに対して在宅勤務等の措置を認めなかったことを含むY社の前記一連の対応は、Xに対する合理的配慮義務及び安全配慮義務を怠ったものとして不法行為を構成し、これにより精神的苦痛を被ったと主張し、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料300万円及び弁護士費用30万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本判決確定日の翌日以降の金員の支払を求める部分却下

その余の請求棄却

【判例のポイント】

1 令和2年3月9日時点のXの在宅勤務の申入れに対するY社の対応について不法行為が成立するかを検討すると、当時、新型コロナウイルス感染症については、平常時の通勤時間帯の公共交通機関のように特段の感染対策が施されないままに不特定多数人が密集するといった状況下においては感染の可能性があるが、頻回の換気や密集の回避あるいは衛生マスクの着用等といった感染防止対策が講じられている環境下であれば、感染可能性を一切否定はできないが、その危険性は低下するといった認識が一般化しつつあったといえ、少なくとも、かかる環境下であっても、通勤時の公共交通機関の利用あるいは職場における労務提供の際に感染の危険性が高まるといった認識が医学的知見の裏付けをもって一般化していたとまでは認められない
また、Xは、同年2月10日に本件疾病及び本件障害に係る定期診断を受けたが、検査結果から免疫状態は安定し、ウイルス学的にも良好な状態が保たれていたこと、Xは、主治医から、できるだけ人込みや不必要な外出を避けるよう指導されていたものの、日常生活上の行動制限や通勤及び就業の中止まで指示されてはいなかったこと、本件疾病を有する患者が健常者に比較して新型コロナウイルスに感染しやすいなどといった相互関連性が医学的エビデンスに根拠づけられて提示されていたものではないことが認められる。

原告側の主張も十分理解できるところですが、証拠からの認定としては上記のとおり、会社側の対応は問題なしとされました。

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解雇396 運転免許停止処分中の自動車運転行為を理由とした懲戒解雇が社会通念上の相当性を欠くとして無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運転免許停止処分中の自動車運転行為を理由とした懲戒解雇が社会通念上の相当性を欠くとして無効とされた事案を見ていきましょう。

トヨタモビリティ事件(東京地裁令和4年9月2日・労経速2513号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社のXに対する懲戒解雇が無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和2年3月分の未払賃金26万6725円+遅延損害金等の支払を求め、上記地位確認請求が認容されない場合の予備的請求として、退職金513万6550円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件賞罰規程9条1項及び2項において具体的に列挙された事由は刑法典に規定された犯罪を構成するものに限られていないこと、かつ、犯罪の重大性にかかわらず、あえて特別法に規定された犯罪を懲戒事由から除外する合理性も見いだし難いことからすれば、同条1項⑧及び同条2項⑤の「刑法」は、「刑法その他の刑罰法規」と解釈すべきである。

2 本件運転行為は、事故の発生を伴っていないところ、本件賞罰規程上、事故の発生を伴わない飲酒運転が懲戒解雇事由とされていないこと及び無免許運転(免停処分を受けている期間中の運転)が危険性や悪質性の点において飲酒運転のそれを超えるとは直ちにいい難いことに照らせば、これについて懲戒解雇を行うことの相当性は慎重に検討せざるを得ない
・・・以上に加え、本件運転行為が、本件店舗と近隣の商業施設との間の約1.3㎞を1回走行したにとどまること、本件運転行為によりY社に明らかな損害が発生したとは認められないこと、Xが、Y社に入社してから本件懲戒解雇(及びこれに先立つ諭旨退職)を受けるまでの約27年間にわたり、Y社から懲戒処分を受けたことがないこと等の酌むべき事情をも勘案したとき、本件運転行為について懲戒解雇を行うことは、懲戒処分の量定の均衡を欠くといわざるを得ない

相当性の要件を欠くという理由で無効と判断されています。

現場での判断がとても難しいですね。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇395 会社情報の営業秘密性が否定され、その漏洩の事実もないにも関わらず、情報保存行為が私的目的と推認され、懲戒解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社情報の営業秘密性が否定され、その漏洩の事実もないにも関わらず、情報保存行為が私的目的と推認され、懲戒解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

伊藤忠商事ほか事件(東京地裁令和4年12月26日・労経速2513号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して勤務し、Y社に対して自主退職をする旨の意思表示をした後、予定されていた退職日までの間に懲戒解雇されたXが、当該懲戒解雇は懲戒権及び解雇権の濫用に当たり、労働契約法15条及び16条に反し、違法かつ無効であって、Xは、予定されていた退職日に自主退職したものであると主張して、①Y社に対し、退職をする旨の意思表示をした後にY社から支給に関する説明を受けた、変動給(夏期賞与)の按分支払分164万4140円+遅延損害金を求めるとともに、②Y社の企業年金基金であるZ社に対し、退職金210万2400円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件アップロード行為は、Y社において重要であり、合理的な体制により管理されていた有用性及び非公知性のある機密情報を含む大量の情報を、X自身又はY社以外の第三者のために退職後に利用することを目的として、Y社の管理が及ばない領域に無差別に移転する行為であって、本件データファイル等の全部又は一部がXの転職先において有用な情報であったと認めることができないことを踏まえても、Y社の社内秩序において看過することのできない、極めて悪質な行為といわざるを得ない。
なお、本件アップデート行為後に本件データファイル等がXの支配領域から出ていないことは、Y社がサイバーセキュリティ対策を行って、システム監視やログ分析を行った結果、本件アップロード行為が早期に発覚した結果であるに過ぎないことが推認され、Xに特に有利に考慮すべき事情ということはできない。

2 従業員の非違行為により情報が事業者の管理が及ばない領域に一旦流出した場合には、その後に当該情報が悪用されるなどして事業者に金銭的な損害が生じたとしても、その立証が困難なことや、当該従業員が会社に生じた損害賠償を支払うだけの資力に欠けることもあり得るところであり、情報の社内流出に関わる非違行為に対し、損害賠償による事後的な救済は実効性に欠ける面がある。さらに、このような非違行為は、退職が決まった従業員において、特にこれを行う動機がああることが多い一方で、このような従業員による非違行為に対しては、退職金の不支給・減額が予定される懲戒解雇以外の懲戒処分では十分な抑止力とならないから、事業者の利益を守り、社内秩序を維持する上では、退職が決まった従業員による情報の社内流出に関わる非違行為に対し、事業者に金銭的損害が生じていない場合であっても、比較的広く懲戒解雇をもって臨むことも許容されるというべきである。

非常に重要な裁判例です。

本件と同種の事案は決して珍しくありませんので、是非参考にしてください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇394 新型コロナウイルスの影響による整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、新型コロナウイルスの影響による整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

ジャパンホリデートラベル事件(大阪地裁令和4年12月15日・労判ジャーナル133号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社に対し、XがY社からされた整理解雇は無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることを求めるとともに、労働契約による賃金支払請求権に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって営業面で壊滅的な打撃を受ける一方で、そのままでは毎月約1億円の人件費及び管理費の支出が続くのであって、本件解雇の時点において、Y社が人員削減によって業務全般に支障を来す部署を除いて各部署の4割から5割程度の人員削減を行ったことは、企業経営上のやむを得ない措置といえ、人員削減の必要性に欠けるところはなく、また、Y社は、管理費の削減を行いながら、休業や雇用調整助成金の利用、希望退職の募集等を順次実施しているのであるから、解雇回避に向けた措置を講ずるという信義則上の義務を果たしたものといえ、さらに、経理部においては、①会計伝票の登録数によって仕事量を比較し、②簿記資格の有無又は資格取得に向けた姿勢の有無によって専門性の高さを比較し、その上で、③他の従業員により代替困難な業務に従事していない者を整理解雇の対象としており、これらは経理部内における業務に関連する指標を用いて被解雇者を選定するものであって合理的なものであるといえるところ、Xは、①会計伝票の登録数は本部長であるCを除くと最も少なく、②本件解雇時において簿記資格を有せず、③Xの業務内容は代替困難な業務ではないから、XはY社の設定した選定基準に沿うと被解雇者に該当するのであって、人選の合理性に欠けるところはなく、そして、Y社は、人員削減に至る経緯と必要性に加えて、希望退職の時期・規模・方法について適時に周知をした上で、Xを含む従業員に対して必要な説明を行っているのであるから、解雇手続は相当なものであるといえるから、本件解雇は、適法な整理解雇であるといえる。

整理解雇の有効要件(要素)は、とても厳格に判断されますが、上記の事情が認められる場合には、さすがに裁判所も有効と判断してくれます。

押さえるべきポイントをしっかり押さえることが大切です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇393 出張に係る経費の不正請求等を理由とした普通解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、出張に係る経費の不正請求等を理由とした普通解雇の有効性について見ていきましょう。

住友重機精機販売事件(東京地裁令和4年6月1日・労経速2507号41頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して労務を提供していたXが、Y社がXに対してした普通解雇が無効である旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、令和元年11月30日以降の未払賃金月額52万3120円(なお、Xは、第3回口頭弁論期日において、賃金月額が51万2000円であると主張を変更したが、請求の減縮は行わなかった。)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、本判決確定日の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を却下する。
 Y社は、Xに対し、77万6258円+遅延損害金を支払え。
 Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xについては、解雇事由に該当する行為が認められるところ、このうちXによる岡山出張及び福岡出張に係る経費精算の申請は、虚偽の申請により本来Y社が負担する必要のない金銭の支出をさせ、又はさせようとしたもので、Y社に対する背信性の高い行為であるということができ、これらは本件就業規則44条2号ないし8号に該当する行為であると認められる。また、Xによる社用車の私的利用も、Y社の財産を軽視する行為であって、本件就業規則44条2号ないし8号に該当する行為であると認められる。
そして、Xは、福岡出張に係る経費精算の申請について、申請に係る旅費にXの子の旅行代金が含まれていることが窺われる記載のない領収証を一人分の旅費の確証として提出し、金額が過大であるとの疑いが生じたことからY社による調査が開始された後も、当初は実際に使用したのは新幹線であったなどと虚偽の説明をしたり、同行した代理店の担当者に作成を依頼して、実際は業務を行わなかった平成30年8月30日にも業務を行った旨の内容の書面をY社に提出するなど、不正請求の事実が発覚しないよう積極的な行動をとっていたことに加え、本件仮処分手続においても本件訴訟と異なる主張をしていた(Xは本件仮処分手続において、福岡出張の際の旅費9万1000円の半額の4万5500円に、別の出張費用等の代金を上乗せして請求した旨主張していたことが認められる。)ものであって、主張を二転三転させている上、X本人尋問に至っても、当該行為の問題性について認識しているとはいい難い
以上によれば、Xについては、Y社による指導等により改善を図ることは困難であったといえ、Y社がXとの雇用関係を維持できないと判断し、解雇を選択したことが不相当であるということはできない。

同種の解雇事案においては、解雇前の非違行為のみならず、解雇後の言動や態度についても、裁判所は、相当性判断の材料とすることを知っておきましょう。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。
   

解雇392 競業避止義務違反等を理由とする懲戒処分の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、競業避止義務違反等を理由とする懲戒処分の有効性について見ていきましょう。

不動技研工業事件(長崎地裁令和4年1月16日・労経速2509号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から競業避止義務違反又は競業行為への加担等を理由として懲戒処分等を受けたA・B・Cが、各懲戒処分等の違法、無効等を主張して、Y社に対し、Aが、懲戒解雇無効地位確認及び未払賃金等の支払を求め、Cが、諭旨解雇無効地位確認等請求及び未払賃金等支払を求め、Bが、降格処分無効管理職群1級の地位確認等請求及び降格処分に伴う差額分等の支払を求め、また、Aらが、Y社が懲戒処分をしたことによる不法行為に基づく損害賠償等の請求及びY社が懲戒処分を従業員等に公表等したことによる不法行為(名誉毀損)に基づく損害賠償等の支払を求め、さらに、A及びCが、未払割増賃金等の支払及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認等請求認容

未払割増賃金等支払一部認容

慰謝料等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の元従業員Dは、Y社の現職従業員らを引き抜き、Y社と競業する業務を行う新会社を設立し、新会社へ転職させることを計画していたと認められ、Aは、同計画が具体化する当初から、Dから相談を受け、随時、協議を重ねてきたということができるから、同計画について、Dと通謀したと認められ、そして、等級面談の再に所属課員に対し、新会社への転職意向を確認したことは、同計画への参加への働きかけに当たると認められること等から、Aの行為は、就業規則119条24号所定の懲戒事由に該当することが認められるところ、就業規則116条は、服務規律違反について、1項で、適切な指導及び注意を行い、改善を求める旨規定し、2項で、1項にもかかわらず、改善が行われず、企業秩序維持のため必要があるときに、懲戒処分を行う旨規定するが、上記Aの行為について、本件懲戒解雇前に、Y社が指導又は注意をした形跡は認められないから、Aについて、本件懲戒解雇をしたことは、懲戒権を濫用したものとして、労働契約法15条により無効であると認められる。

2 Cは、Dの計画に関与したと認められるが、その関与の程度に照らして、Dと通謀したとは認められず、また、Cは、Dに新会社に引き連れていくことができそうな部下の名前を挙げたが、部下に対して実際に働きかけたことを認めるに足りる証拠はなく、就労時間中にDと連絡し、引き連れていくことができそうな部下等の名前を挙げて、上記計画を助長したことは、就業規則所定の職務専念義務に違反するものであるが、同行為の性質、態様に鑑み、重大な違反行為に該当するとはいえず、就業規則所定の懲戒事由に該当するとは認められず、本件諭旨解雇は無効である。

上記判例のポイント1のように、適切なプロセスを経ることは、懲戒処分(特に懲戒解雇)を行う上ではとても重要です。

懲戒解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇391 暴力団構成員との交友等を理由とした解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、暴力団構成員との交友等を理由とした解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

高松テクノサービス事件(大阪地裁令和4年9月15日・労判ジャーナル131号26頁)

【事案の概要】

本件は、建設会社であるY社との間で労働契約を締結し、現場監督等として勤務していたXが、暴力団構成員と共に保険金の詐欺未遂被疑事件で逮捕、勾留され、その後、Y社から、身柄拘束期間中に無断欠勤し、その際、虚偽の欠勤理由を報告したこと及び暴力団構成員と交友していることを理由に普通解雇されたが、これに基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社から、反社会的勢力との関係が存在しないことを証明しない限り退職しなければならないなどと言われて退職を強要されたと主張して、使用者責任に基づき、慰謝料等230万円等の支払をもとめた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Cが暴力団幹部であることを知りながら交友関係を維持して保険金請求手続に関与させ、詐欺未遂罪を被疑事実としてCと共に逮捕及び交流をされながら、Cとの関係について具体的な説明をしなかったのであって、Y社は、このようなXとの間の雇用関係を維持すれば、取引先との契約全般について解除される危険を負う状況にあったと認められるから、Y社に、Xを解雇する以外の選択をすることができたとはいえず、Xの本件交友等及びその後の経緯に照らして、これが社会通念上相当でないともいえないから、本件解雇は就業規則所定の解雇事由である「その他のやむを得ない事由」に当たり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性を欠くものとも認められないから、本件解雇は有効である。

2 Xは、釈放されてから3日後、Y社のD及びEと面談し、その際、Dらは、Xに対し、Cとの関係を説明するように求めたことが認められるが、DやEが、面談の際、これを超えて、Xに対して反社会的勢力との交友関係について客観的に不可能な行為を要求したことは認められず、また、Dらが、Xの自由意思を抑圧する態様で退職を求めたことを認めるに足りる証拠もないから、Y社が、Xに対し、違法な退職勧奨を行ったとは認められない。

上記判例のポイント1は、会社側としてはむしろ必要な対応といえるでしょう。

訴訟を恐れて尻込みをしてしまうと、取引先等との別の問題が生じてしまいます。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

解雇390 法人格否認の法理の適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解散に伴う整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

TRAD社会保険労務士法人事件(東京地裁令和4年6月29日・労判ジャーナル131号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して主に社会保険労務士補助業務に従事してきたXが、Y社に対し、Y社の解散に伴って解雇されたことは無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めたほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社の唯一の社員であり、代表者であったBに対し、法人格否認の法理により、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払賃金等支払請求一部認容

【判例のポイント】

1 法人格否認の法理の適用について、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該法人に対し他の法人や出資者が権利を行使し、利用することにより、当該法人に対して支配を及ぼしているというだけでは足りず、当該法人の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して、法人としての実態が形骸にすぎないか判断すべきであるところ、Y社の社員はBであったが、Y社が解散するまでの間にこれとは別にB個人が個人事業主として社会保険労務士としての業務を行っていたような事情はうかがわれないし、Y社としての財産管理がされ、決算が行われていたと認められ、このような事情を考慮すると、Y社が実体がなく、形骸化していたとは認められず、また、法人格の濫用とは、法人の背後の実態が法人を意のままに道具として支配していることに加え、支配者に違法又は不当の目的がある場合をいうところ、BがY社の支配者といえるかはひとまず措くとして、Y社を解散させる必要性、合理性があったと認められるのであって、Xが主張するように、Y社の使用者としての責任を不当に免れる目的で本件解雇に及び、Y社を解散させたとは認められないから、支配者に違法又は不当の目的があったということはできず、BがY社の法人格を濫用したとは認められない。

法人格否認の法理の考え方がよくわかりますね。

ご覧のとおり、要件がかなり厳しいので、裁判所は、そう簡単には法人格の否認を認めてくれません。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。