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解雇444 接待交際費の不正請求を多数回にわたって繰り返した従業員の普通解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、接待交際費の不正請求を多数回にわたって繰り返した従業員の普通解雇の有効性について見ていきましょう。

テクトロン事件(東京地裁令和7年7月18日・労経速2605号3頁)

【事案の概要】

1 第1事件
ア Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
Y社が令和3年9月6日付けで行った懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認
イ 民法536条2項に基づき、解雇日以降の未払賃金21万4400円+遅延損害金
ウ 民法536条2項に基づき、主位的には、令和3年12月以降の賞与として毎年6月末日限り42万1333円及び毎年12月末日限り141万6500円、予備的には、同年12月以降の賞与として毎年12月末日限り67万3000円+遅延損害金の支払
エ Y社が令和3年6月1日付けで行った配転命令及びこれに伴う役職手当の減額はいずれも無効であるとして、営業推進部長としての賃金体系上の地位の確認
オ 役職手当の減額分として令和3年7月分及び8月分の差額賃金の各1万円(合計2万円)+遅延損害金の支払
カ 在職中の令和元年9月1日から令和2年3月31日までの時間外労働、深夜労働及び休日労働に対する未払割増賃金合計85万0850円+遅延損害金並びに同年4月1日から令和3年9月6日までの時間外労働等に対する未払割増賃金合計112万8246円+遅延損害金
キ 前記カの割増賃金の不払につき、労基法114条に基づく付加金126万5896円の支払+遅延損害金
ク 〈1〉Y社が令和3年5月14日付けでXに譴責処分を行い、さらにX配転命令及びX懲戒解雇を行ったこと、〈2〉Y社の取締役らがA社の取締役らにXが接待交際費を不正受給したこと等を伝えたこと、〈3〉Y社の取締役がB社の代表取締役に対し、Xが接待交際費を不正受給したために懲戒解雇した旨を伝え、これが伝播したことについて、〈1〉ないし〈3〉がそれぞれ不法行為に当たると主張して、民法715条ないし709条に基づき、〈1〉〈2〉の損害として慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の賠償並びに〈3〉の損害として慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の賠償+遅延損害金の支払
を求める事案である。
2 第2事件
Y社が、Xらに対し、Xらが共謀して、虚偽の事実を申告した請求により実態のない接待交際費を被告に支払わせたことが共同不法行為に当たるとして、民法709条、719条1項に基づき、連帯して253万8154円の損害賠償+遅延損害金の支払
を求める事案である。
3 第3事件
Y社との間で労働契約を締結していたZが、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
ア Y社が令和3年9月22日付けで行った懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認
イ 民法536条2項に基づき、解雇日以降の未払賃金37万0700円及び令和3年11月以降の賃金として毎月28日限り月額40万9000円+並びに遅延損害金の支払
ウ 民法536条2項に基づき、主位的には、令和3年12月以降の賞与として毎年6月末日限り45万1000円及び毎年12月末日限り115万5000円、予備的には、同年12月以降の賞与として毎年12月末日限り59万円+遅延損害金の支払(前記第1の3(5))
エ Y社が令和3年6月1日付けで行った配転命令及びこれに伴う役職手当の減額はいずれも無効であるとして、次長としての賃金体系上の地位の確認
オ 役職手当の減額分として令和3年7月分から9月分までの差額賃金の各1万円(合計3万円)+遅延損害金の支払
カ 在職中の令和元年11月21日から令和2年3月20日までの時間外労働等に対する未払割増賃金合計47万2237円+遅延損害金並びに同月21日から令和3年9月22日までの時間外労働等に対する未払割増賃金合計163万5219円+遅延損害金の支払
キ 前記カの割増賃金の不払につき、労基法114条に基づく付加金163万5219円の支払+遅延損害金
ク Y社が令和3年5月14日付けで乙山に譴責処分を行い、さらにZ配転命令及びZ懲戒解雇を行ったことは不法行為に当たると主張して、慰謝料150万円及び弁護士費用15万円の賠償+遅延損害金(始期は不法行為以後の日)の支払

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、2万円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Zに対し、3万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、5万5000円+遅延損害金を支払え。
4 Xは、Y社に対し、64万2423円+遅延損害金を支払え。
5 Zは、Y社に対し、39万3155円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 D取締役は、B社の代表取締役に対し、Xは接待交際費の不正受給により懲戒解雇にしたことを伝えた事実が認められる。
B社は、Y社が導入していたMの電子カルテシステムのサポート体制等についてY社からヒアリングをする目的で面談を打診したものと認められるところ、そのような面談の趣旨やY社の立場からすれば、Y社としてはB社に対し、Y社のガバナンスやサポート体制に問題がないことを説明する必要があったと認められるが、その限度で足りたというべきである。
仮に、サポート体制への懸念に対する対応として、多数の退職者が生じた経緯にY社の責めに帰すべき事情がなかったことを説明する必要があったとしても、B社に対して、Xという個人名を挙げて同人が接待交際費の不正受給により懲戒解雇になった事実まで伝える業務上の必要性は見出し難い。B社において、Y社との面談前にXの接待交際費の不正受給や懲戒解雇の事実まで認識していたと認めるに足りる証拠はなく、これらの事実が一般には第三者に公表されることを欲しない個人情報であることや、現にかかる事実がB社からXの雇用主であった株式会社Jに伝播したことにも鑑みれば、D取締役の上記伝達行為は、業務行為としても相当ということはできず、少なくともXに対するプライバシー侵害の不法行為を構成するというべきである。
また、D取締役は、Y社の取締役の地位にあるが、代表者として包括的な権限を有しているわけではなく、B社への伝達行為もY社の事実上の指揮監督の下でその業務を行うについてされたものというのが相当であるから、D取締役によるプライバシー侵害の不法行為について、Y社は民法715条に基づく使用者責任を負うというべきである。
したがって、B社に対する伝達行為についてプライバシー侵害による不法行為が成立し、Y社は民法715条に基づく責任を負うが、D取締役による伝達行為の態様や、伝達した事実の内容が限定的であること等の事情も考慮すれば、Xが被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては、5万円とするのが相当である。

2 Xらは、記入した日付に接待を行った事実がないにもかかわらず、虚偽の接待の事実を経費申請書に記載して接待交際費の請求を行い、Y社から相当額の支払をさせたものであって、これらの行為はY社に対する詐欺を構成し、故意によってY社の財産を侵害したものというべきである。
他方、Y社は、平成30年1月31日から令和3年8月2日までの間、Xらが、C及びIとともに4名で共謀の上、継続して、Y社に対して、虚偽の接待交際費の請求を行っており、かかる行為が共同不法行為に該当すると主張する。
たしかに、Xらは、平成30年1月頃から、C及びIとの間において、メールやLINEメッセージを通じて接待交際費に関するやりとりをしており、その中には、接待交際費の経費申請の内容をあらかじめ情報共有し、重複や矛盾が生じないように口裏合わせをしているかのように受け取れる内容も含まれていることが認められる。
しかし、かかるメールやLINEメッセージのやりとりのみをもって、別紙3のX非違行為及び別紙4のZ非違行為の個々の不正請求行為について、Xら両名ないしCやIとの間において、具体的な共謀があったと認めるには足りないし、Xらがそれぞれ個別に接待交際費を請求し、支払を受ける行為に関連共同性があったとも認め難い

金額の多寡はさておき、上記判例のポイント1は注意しましょう。

意識しておかないとやってしまいがちですから。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇443 退職願及び懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職願及び懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

宮田自動車商会ほか事件(札幌高裁令和6年3月22日・労判1343号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されたXが、使用者であるY社に対し、以下のアないしエの請求をするとともに、Y社及びその代表取締役であるAに対し、以下のオの請求をする事案である。
ア 懲戒解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 無効な懲戒解雇により就労を拒否されている旨主張して、民法536条2項に基づき、令和2年5月から本判決確定の日までの間の賃金(月額33万7000円)+遅延損害金の支払
ウ 無効な懲戒解雇により就労を拒否されている旨主張して、民法536条2項に基づき、令和2年4月から本判決確定の日までの間の賞与(夏季42万7000円、冬季79万円)+遅延損害金の支払
エ 賃金から根拠なく仮払金精算名目で1万9840円を控除した旨主張して、雇用契約に基づき、未払賃金1万9840円+遅延損害金の支払
オ A及びY社からパワーハラスメントを受けた旨主張して、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、賠償金110万円+遅延損害金の連帯支払

原審は、Xの請求のうち、前記ア及びエの全部並びにオのうち11万円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、Y社らが自らの敗訴部分に不服があるとして控訴し、Xが自らの敗訴部分のうち前記イ及びウに係る部分に不服があるとして附帯控訴した。

【裁判所の判断】

本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xが令和2年1月14日に本件退職願を提出したのは、令和元年12月28日におけるAやY社の役員らとの面談で、Y社から、F牧場の件、G店の件、福岡旅行の件などについて事情聴取がされ、これらに関する顛末書と進退伺書の提出を指示されたことが契機となっている。その当時、Xにおいて、具体的な転職や独立の予定があったとは認められず、本件退職願の記載も、労働契約の解消を強く求めるといった趣旨のものではない。
以上の事情を踏まえると、Xが、本件退職願を提出した際に、Y社との間の労働契約を積極的に解消したいとの強い意向を示していたということはできないそうすると、Xによる本件退職願の提出は、労働者の一方的意思表示による労働契約の解約である辞職の申出ではなく、労働者と使用者の合意により労働契約を将来に向けて解約するための合意解約の申込みであったと解するのが相当である
以上に対し、Y社は進退伺の意義や本件退職願が提出された経緯を考慮すると、XにはY社の意思にかかわらず退職する意思があったと考えるのが自然である旨主張する。しかし、Y社の主張する上記事情を勘案したとしても、その当時、たとえY社から慰留されたとしても労働契約を解消するほどの強固な意思をXが有していたとまでは認めることはできない

2 Y社は、令和2年1月22日、Xに対し、本件退職願が正式に受理された旨伝えているから、同日の時点でY社とXとの間の労働契約が同年3月31日をもって終了する旨の合意が一旦は成立したということができる。
しかし、Xは、同年2月19日頃にY社から諭旨解雇処分を予定している旨伝えられたことがきっかけとなり、同月27日、Y社に対し、退職の意思表示を撤回する旨の意思表示をしている。これに対し、Y社は、Xに対し、同年3月6日に本件退職願の撤回はできない旨伝えたにもかかわらず、同月27日には、Xに対し、同年4月28日をもって懲戒解雇する旨の本件懲戒解雇の意思表示をしている。
本件懲戒解雇は、Y社とXとの間の労働契約が同年3月31日を経過した後も同年4月28日までは維持されることを前提に、同日をもって懲戒解雇処分により終了するとの内容であると解さざるを得ないから、Y社は、本件懲戒解雇の通知により、同年3月31日をもって労働契約を終了する旨の申込みに対する承諾を撤回し、改めて同年4月28日をもって懲戒解雇を行う旨の意思表示をしたものと評価するほかはない。
そうすると、Y社とXとの間では、同年1月22日の段階で、同年3月31日をもって労働契約が終了する旨の合意が一旦は成立したものの、その効果が発生する前の同年3月27日の段階で、X及びY社の双方が合意退職の申込み及びこれに対する承諾を撤回する旨の意思表示をした結果、合意が撤回されて退職合意の効果が生じないことになったということができる。したがって、本件退職願の提出により、Y社とXとの間の労働契約が終了したということはできない。

試験問題の題材になりそうな内容ですね。

上記判例のポイント1は重要ですので、しっかりと押さえておきましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇442 調査を尽くさずに行われた懲戒処分(出勤停止)が無効かつ不法行為に当たるとされ、その後に行われた懲戒解雇には理由があり有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、調査を尽くさずに行われた懲戒処分(出勤停止)が無効かつ不法行為に当たるとされ、その後に行われた懲戒解雇には理由があり有効とされた事案を見ていきましょう。

公益財団法人東京都学校給食会事件(東京地裁令和7年7月3日・労経速2603号13頁)

【事案の概要】

Xは、期間の定めのない労働契約に基づきY社において勤務していた者であるが、Y社から、令和5年1月11日付けで、同月12日から同月31日までのうち土曜日及び日曜日を除く14日間を出勤停止とする旨の懲戒処分を受け、また、同年6月7日付けで、同日限りで免職(懲戒解雇)とする旨の懲戒処分を受けるとともに、予備的に同日限りで普通解雇する旨を告知された。
第1事件は、Xが、本件停職処分には懲戒事由に該当する理由がなく、客観的合理性や社会通念上の相当性も認められないから、同処分は権利の濫用として無効であり、不法行為にも当たると主張して、Y社に対して各請求をする事案である。
第2事件は、Xが、本件免職処分には懲戒事由に該当する理由がなく、客観的合理性や社会通念上の相当性も認められないから、同処分は権利の濫用として無効であり、本件予備的解雇についても同様に無効である上、本件免職処分等は不法行為にも当たると主張して、Y社に対し、各請求をする事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社がXに対してした令和5年1月11日付け出勤停止処分が無効であることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、38万7624円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件免職処分の理由のうち中心的なものであると認められる本件各メールの送信行為については、取り分けY社の職員が休職に至った経緯という職員個人の高度なプライバシーに関する情報を部外者であるD事務局長に伝えた点において、重大な非違行為に当たる。
また、Xは、D事務局長のY社に対する干渉によってBと被告との間に確執が生じていることを認識していたにもかかわらず、本件各メールにおいて、職員が休職に至った経緯といったY社に対する攻撃材料となり得る情報をD事務局長に提供するとともに、C理事長やE事務局長がBに対する侮蔑的な発言を繰り返しており表向きの謝罪で解決とはいえない状態であるなど、D事務局長を助長するような記載をしている。このように、本件各メールの内容はY社とBとの対立をいっそう激しくさせかねないものであって、これらを送信したXの行為はY社に対する背信性の高いものであったといえる。
そして、Xが、Bへの出向を終えてY社に復帰した初日に、C理事長から外部情報(注:内部情報の誤りと思われる)を外部に一切出さないように指示されたにもかかわらず、その日のうちに、D事務局長に対してみずから本件メール〈1〉を送信し、また、その2日後にも本件メール〈2〉を送信していることからすれば、Y社からの指示や法人秩序を軽視するXの姿勢は顕著である。

2 Xは、以前、E事務局長に対する不適切な記載をしたファイルをY社の共有フォルダ内において管理していたとして前件懲戒処分を受けたことがある。Xは、その際、Y社から指導を受け、始末書を提出してE事務局長に対する振る舞い等について研さんを図る旨を述べていたにもかかわらず、本件メール〈2〉において再びE事務局長を誹謗中傷するような行動に及んでいる
また、本件降格処分を告げられた際のC理事長に対するXの発言についても、法人の代表者に対する態度としては不適切といわざるを得ない。これらの点においてもXの法人秩序の軽視には根深いものがある。

3 以上からすると、本件免職処分には客観的合理性が認められ、社会通念上も相当であるといえる。

タイトルのとおり、出勤停止処分については無効とされましたが、判例のポイントのとおり、免職処分については有効という判断です。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇441 医療従事者としての適格性を欠くとして行われた内定取り消しを有効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、医療従事者としての適格性を欠くとして行われた内定取り消しを有効とした事案を見ていきましょう。

Y眼科事件(東京地裁令和7年7月30日・労経速2603号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から採用内定を得て、これを取り消された亡Aの父母であるXらが、Y社に対し、以下の各金員をそれぞれ法定相続分である各2分の1の割合で相続したとして、上記相続分に対応した金員の各支払を求める事案である。
(1)上記内定取消しが無効であると主張して、労働契約に基づき、令和4年9月から同年12月まで、約定(毎月20日締め毎月25日支払)の支払日限り、各賃金(基本給月額相当額。ただし、令和4年12月分については9万0322円)+遅延損害金
(2)上記内定取消しが不法行為を構成すると主張して、不法行為に基づき、慰謝料200万円+遅延損害金

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件採用内定における就労の始期は令和4年8月2日であったところ、Y社は、要旨、同月1日、亡Aに対し、これを同月15日にしたい旨伝えたものの、亡Aがこれに対して不合理な対応に終始したことから、亡Aにおいて医療従事者としての適格性に著しく欠け、また、普通解雇事由を定めた就業規則47条1項4号に該当するものと主張する。

2 Y社が亡Aに対し、上記のとおり伝えた根拠は、亡Aにおける新型コロナウイルス感染症の発症日を同月1日としていることにあるところ、亡Aにおいて、同年7月30日に実施したPCR検査の結果が陰性だったものの、同年8月1日に実施した抗原検査キットによる検査の結果では陽性となっている。同年7月30日の時点でPCR検査を実施していたということは、亡Aにおいて同日頃には何らかの症状が出ていたことがうかがわれるが(現に亡Aは令和4年8月1日に受診したクリニックにおいて同年7月27日からの症状として咽頭痛等を訴えている。)、同月30日に実施したPCR検査の結果が陰性であったことから、陽性の反応が出た同年8月1日より前の日を発症日と扱うことが可能かは明らかではなかったといえる。
そして、厚生労働省のホームページにおいて、その頃、「発症日が明らかでない場合には、陽性が確定した検体の採取日とする。」とされていたことからすれば、Y社が同年8月1日を発症日としたことには合理性があったということができる。
そして、同省のホームページにおいて、「症状がある場合は10日間」「が経過するまでは、感染リスクがあります。」「高齢者等ハイリスク者との接触、ハイリスク施設への不要不急の訪問」「を避けること」とされ、療養期間に関し、「症状が出た日から7日間以上経過」などとされ、他の自治体のホームページにおいても、「療養期間:発症日から10日間が経過」などとされ、亡A代理人自身、本件内定取消し後の交渉経緯において、10日間を一般的な療養期間としていたことからすれば、Y社が発症日である同日から10日間の療養期間を要すると考えていたことにも合理性があったということができる。
Y社が亡Aに伝えた内容は、就労の始期を同月15日とするものであるところ、上記発症日である同月1日から10日経過後の同月11日が本件眼科における同月10日から14日までの夏季休暇期間に該当してしまうことからすれば、Y社による上記伝達内容は、合理性を有するものであったということができる。

コロナ(に限りませんが)、このような現象に対し、どの程度、センシティブかは、人によって大きく異なります。

これだけ猛暑の夏ですら、日中マスクを着用されている方も散見される中で、本件同様の問題について全員が納得できる労務管理は存在しないのでしょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇440 自主退職する旨の書類に署名しないのに合意退職と扱い、解雇でもあるとする会社の主張に対し、いずれも否定したうえ、不法行為が成立するとした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、自主退職する旨の書類に署名しないのに合意退職と扱い、解雇でもあるとする会社の主張に対し、いずれも否定したうえ、不法行為が成立するとした事案を見ていきましょう。

CTW事件(東京地裁令和7年6月30日・労経速2600号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社において就労していたXが、Y社に対し、【1】上記雇用契約に基づき、令和5年9月21日から同月29日までの未払賃金34万3636円+遅延損害金の支払を求めるとともに、【2】Xが退職の意思表示をしていないにもかかわらず、Y社から退職したものと扱われたことが不法行為を構成し、これにより逸失利益として1296万円、慰謝料として100万円及び弁護士費用相当損害金として139万6000円の各損害がそれぞれ生じたと主張して、不法行為よる損害賠償請求権に基づき、損害合計1535万6000円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、34万3636円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、356万円+及び遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、令和5年9月29日、Y社を自主的に退職する旨記載された書類に署名せず、また、退職の合意に至っていないにもかかわらず、Y社から、セキュリティカード等の返却を求められ、他の従業員に伴われて退社させられ、就労を求める旨の同日付けの連絡等にも応答してもらえていないことからすれば、Xは、Y社を退職していないにもかかわらず、Y社から、同日付けで退職したものと扱われた(本件解雇)というべきである。

2 Xには当該取扱いによって逸失利益が生じたといえ、その金額は、Xが就職活動に着手した時期及び再就職先での就労開始時期等に照らし、324万円(=108万円/月×3か月)と認めるのが相当である。
また、Xは、本件訴訟を原告訴訟代理人らに委任しているところ、本件事案の内容、性質、審理経過及び認容額等に照らし、Xには当該取扱いによって32万円の弁護士費用相当額の損害が生じたと認めるのが相当である。
なお、Xは、当該取扱い(本件解雇)によって精神的苦痛を被り、金銭の支払をもって慰藉されるべき旨主張するが、本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮しても、上記逸失利益の賠償とは別に、さらに賠償すべき精神的損害が生じたと認めることはできず、Xの上記主張を採用することはできない。

不法行為構成のため、上記金額で済んでいますが、バックペイを求められたら、金額はもっと増えていたかもしれません。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇439 部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、部下への不適切な指導や発言を理由とする消防職員に対する懲戒免職処分の適法性に関する判例を見ていきましょう。

糸島市・市消防本部消防長(懲戒免職処分取消等、懲戒処分取消請求)事件(最高裁令和7年9月2日・ジュリ1616号4頁)

【事案の概要】

本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者である糸島市消防長から、部下に対する言動等を理由とする懲戒免職処分を受けたため、Y市を相手に、その取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求及び損害賠償請求の一部を認容すべきものとした。
Xがした各指導は、訓練やトレーニングとして通常行われる範囲を逸脱したものではあるけれども、逸脱の程度が特段大きいとまではいい難い。各発言についても、これにより精神的に苦痛を受けた者が相当数に上るものの、言い過ぎの面や、表現が適切でなく、口の悪さが現れたにすぎないところもある。被害を受けた職員に重大な負傷も生じていないことを踏まえると、Y市がした非違行為による他の職員及び社会に対する影響が特に大きいとまではいえない上、Xが、本件処分以前に懲戒処分を受けたことがなく、訓練やトレーニングの際の指導等につき個別に注意等を受けたとの事情も見当たらないこと、Xが一定の反省の態度を示していること等をも考慮すると、懲戒の中で最も重い免職を選択した本件処分は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものである。

【裁判所の判断】

1 原判決中Y市敗訴部分を破棄する。
 第1審判決中Y市敗訴部分を取り消す。
3 前項の取消部分につきXの請求をいずれも棄却する。
 第1項の破棄部分に関するXの附帯控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件各行為のうち各指導は、いずれも、Xが職場内における優位性を背景として、採用後間もない部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上で力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させたり、体力の限界のため倒れ込んだことに対するペナルティと称して更に過酷なトレーニングをさせるなどしたものであり、部下に傷害を負わせるものであるか否かにかかわりなく、訓練やトレーニングに係る指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱するものというほかない。
また、各発言には、部下に恐怖感や屈辱感を与えたり、その人格を否定したりするもののみならず、その家族をも侮辱したりするものも含まれている。このように、本件各行為は、部下に対する言動として極めて不適切なものであり、長期間、多数回にわたり繰り返されたものであることにも照らせば、その非違の程度は極めて重いというべきである。
また、消防職員については、火災等の現場において住民の生命や身体の安全確保のための活動等を行うという職務の性質上、厳しい訓練が必要となる場合があるとしても、指示や指導としての範ちゅうを大きく逸脱する各指導が許容される余地はないのであって、各指導を含む本件各行為が、部下に対する悪感情等の赴くままに行われた部分が大きかったことからしても、Xが本件各行為に及んだ経緯に酌むべき事情があるとはいえない。
さらに、本件各行為は、小隊長等として消防職員を指導すべき立場にあるXが、少なくとも10人もの部下に対し、十数年もの長期間、多数回にわたり、上記のような不適切な指導や発言を執拗に繰り返したというものであり、甚だしく職場環境を害し、Y市の消防組織の秩序や規律を著しく乱すものというべきである。消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが職務の遂行上重要であることにも鑑みれば、本件各行為が及ぼす上記のような悪影響は看過することができないものである。消防本部においてXらによるいじめやしごき等により若手の職員の退職が相次いでいるなどの記載がある文書の提出を受けたY市長の指示により調査が行われ、多数の職員がXの職場復帰に反対する旨の書面を提出したことは、以上の現れということができる。

2 以上説示したところに照らせば、Xには本件処分以外に懲戒処分歴がないこと等の事情があり、免職処分が公務員の地位の喪失という重大な結果を生じさせるものであることを踏まえても、Xに対する処分として免職を選択した消防長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

ご覧のとおり、判断する裁判官によって、同じ事案でも180度異なる判決が書けてしまいます。

どの事情に光を当てるかによって、こうも違う判決になります。

あきらめたらそこで終わり。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇438 酒気帯び運転を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、酒気帯び運転を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

静岡鐵工所事件(大阪地裁令和7年9月26日・労判ジャーナル165頁16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求並びに労働契約に基づく未払賃金等の支払及び不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件酒気帯び運転は、本件就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するところ、本件酒気帯び運転は、長時間にわたり相当量の飲酒をした後に行われたものであり、Xの血中アルコール濃度が本件酒気帯び運転から約8時間経過した時点でも高濃度であったこと、運転中の異常な運転態様及び警察官から職務質問を受けた際の異常な対応に照らせば、運転中のアルコールによる影響は非常に強いものであったというべきであり、交通事故を起こす可能性の高い非常に危険なものであったと評価するのが相当であり、本件酒気帯び運転は、Y社の業務終了後に行われたものであるものの、社用車を運転するものであり、その運転中に交通事故を起こした場合、Y社に自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任等による民事上の損害賠償責任が発生し得るものであったといえるから、単なる私生活上の行為にとどまるものであったとはいえず、加えて、警察官に対し、怒鳴りつけたり、暴言を吐いたりしたものであるから、近隣住民に与えた不安及び迷惑並びに警察官の職務を遅滞させたことは軽視できず、本件酒気帯び運転後の事情も悪質であるから、本件解雇は、懲戒権を濫用したものとは認められない。

この事案だけを見れば、結論に疑問を持つ方は多くはないと思いますが、裁判例の中には、類似の事案でも、解雇を無効と判断する例があるため、現場の判断を悩ませます。

これに退職金請求が加わるとさらに悩ませることになります。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇437 就業時間中、会社の制服を着用した状態で、外部から見える駐車場内において、社用車に接近した状態で放尿した運転手に対する解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社の制服を着用した状態で、外部から見える駐車場内において、社用車に接近した状態で放尿した運転手に対する解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

A東京事件(東京地裁令和6年10月4日・労経速2578号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対して、Y社のXに対する解雇が無効であると主張して、次の各請求をする事案である。
(1) 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
(2) 雇用契約に基づき、賃金286万3450円(令和4年11月分から令和5年3月分までの賃金)+遅延損害金の支払
(3) 雇用契約に基づき、令和4年12月から本判決確定の日まで、毎年6月30日及び12月31日限り、賞与16万円+遅延損害金の支払

【裁判所の判断】

1 解雇無効
→バックペイ

【判例のポイント】

1 〈1〉Xは、Y社から運転マナーを身に付けるよう指導を受けていたにもかかわらず、令和4年8月2日、就業時間中、やむを得ない事情もないのに、Y社の会社ロゴが記載された被告所有の本件車両に接近した状態で本件車両に尿が掛かる可能性が高いことを認識しながら本件行為を行った(本件行為は、軽犯罪法1条26号に該当する。)。その際、本件行為を目撃した第三者からAに連絡された。
〈2〉その後、Xは、Y社に対し、本件店舗のトイレがコロナ(新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のため)で使用できなかったと説明したが、かかる説明は事実に反しており、このことをXも認識していた。
〈3〉Xは、Y社からの事情聴取等に当初は応じていたものの、同年8月26日及び同年9月9日の面談を欠席し、少なくとも同年9月9日の面談の欠席に合理的な理由は認められない。
〈4〉Xは、Y社において、1か月に1回以上洗車する旨の清掃ルールが定められていたにもかかわらず、同年4月から同年8月2日までの間、本件車両の定期的な洗車を行わず、また、本件車両内の清掃を少なくとも十分に行わず業務書類13枚等を散乱させた。

2 本件行為自体は1回の行為であり、同様の行為が複数回行われる中で本件行為が行われたと認めるに足りる的確な証拠はないこと、本件行為後、Xが複数回Y社との面談に応じ、Y社に始末書を提出し、X訴訟代理人弁護士を通じ協議の意向を示していたこと、Xが本件車両内の片付け等についてY社から指導を受けたと認めるに足りる的確な証拠がなく、本件車両内部に業務書類が存在したことをもって直ちに運転手としての就業に適しないとまでは認められないこと、Xが車外を清掃しないことにより本件車両を大きく汚損したと認めるに足りる証拠がないこと、Xの運転手としての業務について、遅刻や欠勤はなく、Xが与えられた業務を行い、他に特段の問題までは認められないことからすれば、Y社が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、Xの勤務成績が不良で就業に適さず、又は、これに準ずる重要な事由があるとして、上記各解雇事由に該当するとまでは認めるに足りない。

3 仮にXが上記各解雇事由に該当すると認められたとしても、上記の事情に加え、本件行為が、第三者によりAに連絡される事態となったものの、本件行為当時に本件車両がBの名称が記載されたトレーラーを牽引しておらず、Bとの取引に影響を及ぼしていないこと、本件行為は故意に本件車両を汚損する行為であるが、本件車両の使用が困難になるなどしたという事情までは直ちに認められないこと、Xが本件車両の清掃等を怠ったことによってY社の業務に影響を及ぼしたとまでは認められないこと、Xが過去に懲戒処分等を受けたことがないことからすれば、Y社が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、本件解雇が社会通念上相当であるとは認められない

諸般の事情からすれば、Y社がXを解雇すると判断したことは無理もないと思いますが、裁判所の判断は上記のとおりです。

解雇のハードルの高さがよくわかります。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇436 賃金額等を記した雇用契約書などの書面作成に応じなかった会社が、従業員に自宅待機命令後の出社命令違反などがあったとして行った解雇が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、賃金額等を記した雇用契約書などの書面作成に応じなかった会社が、従業員に自宅待機命令後の出社命令違反などがあったとして行った解雇が無効と判断された事案について見ていきましょう。

Y社事件(東京地裁令和7年4月30日・労経速2596号32頁)

【事案の概要】

本件は、令和3年10月にY社と労働契約を締結し、理容師として稼働していたXが、Y社に対し、上記労働契約における月毎の賃金額は35万円であり、同年10月分につき9460円、同年11月分につき2万円が未払となっていると主張して、労働契約に基づき、同年10月分の未払賃金として9460円及び同年11月分の未払賃金として1万8280円+遅延損害金、Y社による自宅待機命令により労務を提供することができなかったと主張して、民法536条2項に基づき、上記自宅待機命令期間中の未払賃金として11万7894円+遅延損害金、上記労働契約では交通費を支払う旨の合意がされていたと主張して、労働契約に基づき、交通費として2万8160円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社による令和4年3月23日付けの解雇が不法行為を構成し、逸失利益として210万円、慰謝料として50万円の合計260万円の各損害を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、260万円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、154万5634円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件自宅待機命令は、令和3年12月23日にXの施術内容について客が苦情を述べたことを契機として発せられたものであるが、同日以前にXが客から苦情を受けたとはうかがわれない。そして、Xに限らず、Y社の従業員において客から施術内容について苦情を受けることはあり、これまでX以外に無期限の自宅待機を命ぜられた者はいないことを踏まえれば、単発の上記出来事を契機に、本件自宅待機命令を発し、期限を定めずにXを就労させないこととする合理的な理由及び必要性があったと認めることはできない
そうであるとすれば、本件自宅待機命令はY社の業務上の都合により発せられたものというべきであり、Xは、これによって労務を提供することができなかったのであるから、民法536条2項により、これに対応する期間である令和3年12月23日から令和4年2月6日までの期間につき賃金請求権を有することとなる。

2 確かに、〈1〉Xは、令和4年2月に発せられた本件出勤命令に応ぜず、それ以後、労務の提供をしていない。そこで検討するに、本件雇用契約における賃金額については、原告が令和3年10月に被告で就労を開始した当初の頃から当事者間に認識の相違があり、Xは、本件雇用契約に係る労働条件を書面にするよう求め続け、このことは、Y社においても本件雇用契約に関するトラブルとして認識されていた。そうであるからこそ、Xは、同年12月にされた本件自宅待機命令が解除され、改めて本件出勤命令に応ずるに当たっても、本件雇用契約に係る労働条件を書面により明示するよう求めていたのであるが、Y社は、これに応じなかった。
使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならず(労基法15条・同施行規則5条)、その趣旨は、労働条件をめぐる紛争を回避することを含むものと解されるところ、上記のとおり、Xの就労中に労働条件である賃金額をめぐって既に紛争が生じていた。そうであるとすれば、Xが本件出勤命令に応じ、改めて被告での就労を開始するに当たって、労働条件を明示した書面の交付を求めたことは、上記法令の趣旨に沿うものであり、正当な要求であるといわざるを得ない。他方で、本件記録を精査しても、Y社が上記書面を実際に何らか準備したともうかがわれず、Xが本件出勤命令の前から継続して上記要求をしていたことを踏まえると、Y社がこれに応じなかったことに合理的な理由はうかがわれない

3 本件解雇は無効であり、使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならないとされているところ、Y社は、Xから労働条件を明示した書面の作成を繰り返し求められ、この点について令和4年3月16日頃には労基署より是正勧告を受けるに至っているにもかかわらず、これに対応しないままだったのであるから、漫然と本件解雇に及んだといわざるを得ない。したがって、本件解雇は不法行為を構成するというべきである。
そして、Xは、本件解雇により、Y社において就労する機会を喪失しているところ、本件解雇後にX自身がそれにより被った損害を回復するために行った各種手続の利用状況、就職活動の状況や現に再就職に至った時期等に照らし、本件解雇によって生じた逸失利益としては、140万円(=35万円/月×4か月)と認めるのが相当である。

Y社が頑なに労働条件に関する書面の作成を拒否した結果、上記のような結論となりました。

賃金の支払いをせず、無期限の自宅待機命令が有効とされることはありません。

仮に賃金を支払っていたとしても、違法と判断されることもありますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇435 出社義務の不履行を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、出社義務の不履行を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

セールスフォース・ジャパン事件(東京地裁令和7年1月15日・労判ジャーナル160号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して就労したが、解雇されたXが、Y社に対し、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でなく無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、労働契約に基づき、未払賃金等の支払と求めるとともに、上記解雇が不法行為を構成し精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、慰謝料160万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが本件雇用契約上、出社義務を負っており、その不履行のみでも本件解雇の合理的かつ社会通念上相当な理由となる旨主張するところ、出社義務の不履行については、その出社回数、履行状況に加え、メールや書面などを通じ、複数回にわたり改善が求められていたにもかかわらず改善しなかったこと、また、出社していないことによって、Xの業務に関連する複数の人物から多数の懸念点が示されていたことに照らし、その程度が著しいというべきであり、上記不履行の程度に加え、Xは、いわば即戦力として採用されたものであり、その職務経歴経験等を活かした業務遂行が期待され、このことはX自身認識するところでもあり、変動賞与等とは別に基本給(年間)約1400万円との待遇も受けていたことを踏まえれば、本件解雇には、客観的合理的な理由があり、また、社会通念上も相当であるというべきであるから、本件解雇は有効である。

つまり、出社義務の不履行のみで解雇できるわけではない、ということです。

裁判例の結論部分だけを抜き出して、対応を誤らないように気を付けましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。