Category Archives: 解雇

解雇407 頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

建設会社S事件(大阪地裁令和5年10月27日・労判ジャーナル144号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、勤務していたXが、Y社による解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成30年4月3日にY社の従業員に対する傷害事件を起こした後、令和2年3月6日及び同月9日に立て続けにY社の協力業者に対する傷害事件を起こし、いずれもY社の業務遂行中に起こしたものであり、Y社の企業秩序を害したものというべきであるし、特に、同月9日のGに対する傷害事件は、手術を要するものであり、結果が重大であり、Xは、Y社代表者からF及びGに対する謝罪を求められたにもかかわらず、同人らに対し、一切謝罪をせず、損害賠償についても、Y社が行い、Xは何ら対応しないなど、態度を改めることがなかったところ、Y社は、Xを直ちに解雇せず、現場作業員から営業職への配置転換を行ったものであり、これは解雇回避措置と評価できるものであるが、Xは、F及びGに対する傷害事件の約1年5か月後に実父に対する傷害事件を起こし、逮捕、勾留、起訴及び公判を経て、執行猶予付き有罪判決を言い渡されたものであるから、Xの粗暴傾向は、非常に根深く、もはや改善の余地はないと評価し得る状況であったと認められ、Y社は、保釈前にXを直ちに解雇することなく、保釈後にXと面談し、事情を聴取した上で、退職勧奨をし、Xがこれに応じなかったことから、最終的に本件解雇の意思表示をしたものであることに照らせば、本件解雇は、客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当として是認できる場合に当たると認められる。

丁寧に丁寧に手続きを進めたということがよくわかります。

民事事件でありながら刑事事件の判決を見ているようです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

解雇406 業務によって貯まったポイントの私的費消を理由とする解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務によって貯まったポイントの私的費消を理由とする解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

中央建物事件(大阪地裁令和5年10月19日・労判ジャーナル143号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して就労していたXが、Y社による解雇は無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、総務部における勤務中、上司から、担当業務であった酒類購入によって貯まった本件ポイントを当該酒類の購入に充てるように指示があったにもかかわらず、Xは、酒類購入業務によって貯まった本件ポイントを私的に費消しているところ、その使途が美容用品や家電製品等の多岐にわたることに照らすと、本件ポイントには、現金に類似する通用性・利便性があったと考えられ、本件ポイント費消は、Y社に対し、Xが業務上委ねられていた現預金を私的に利用することと同等の経済的損害を与えるものであって、これと同様の信頼関係の破壊をもたらすものであったといわざるを得ないから、本件ポイント費消の性質及び経緯、費消額及び用途並びに回数及び期間に照らすと、本件ポイント費消は、XのY社従業員としての職務上の義務に反するものであり、本件解雇についての客観的に合理的な理由に当たるものと認められる。

魔が差したというか出来心というか・・・とはいえ、ポイントの私的利用は、上記のとおり、現預金の私的流用に類似することから考えれば、懲戒解雇を選択することもやむを得ないと思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇405 普通解雇及び懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、普通解雇及び懲戒解雇の有効性が争点となった事案を見ていきましょう。

ネットスパイス事件(大阪地裁令和5年8月24日・労判ジャーナル141号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社に対し、XがY社からされた令和3年1月14日付けでの解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をするとともに、労働契約に基づき、本件解雇の翌月から毎月の賃金支払日である10日限り41万円の賃金+遅延損害金の支払請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件解雇の際に交付した労働契約終了通知書には、解雇理由として、アドテクノロジー製品開発の進捗が停滞しており、開発体制を再検討する旨が記載されているのみであり、Xの能力不足や経歴詐称を指摘する文言はないし、懲戒解雇に係る就業規則の条文の摘示もない
また、本件解雇の約2週間後に交付された解雇理由証明書には、「解雇理由は、新製品開発の停滞により会社業績が悪化し、人員削減が必要になったため」と冒頭に記載した上で、その後の箇所で具体的な理由として、令和2年9月期において赤字決算となり、翌年9月期決算では会社業績がさらに大幅に悪化することが確実な状況であること、経費の大半が人件費であることを指摘した上で、Xが人員削減の対象となった理由として、本件製品専任であったこととプログラミングの基礎の習得が十分でないことが記載されており、以上の記載内容は本件解雇が整理解雇であることを強くうかがわせるものであるといえる。
以上のとおり、本件解雇に伴ってY社からXに対して交付された文書からは、Xに対して企業秩序違反を指摘する記載が全くなく、かえって、整理解雇であることを強くうかがわせる記載があることからすると、本件解雇は普通解雇と解するほかなく、懲戒解雇の意思表示を含むものとは認められない

2 Xの行った作業からプログラマーとしての能力が欠如しているとは認められず、Xに対して業務上の注意及び指導がされていたともいえないから、本件解雇は普通解雇として客観的合理的理由があり、社会通念上相当であるとはいえない。

普通解雇と懲戒解雇は、「解雇」という点では共通していますが、法的性質が異なるため、解雇の意思表示をする際は、どちらの解雇をするのかを意識する必要があります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇404 解雇の意思表示の存否及び離職証明書の不実記載(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解雇の意思表示の存否及び離職証明書の不実記載に関する裁判例を見ていきましょう。

ビッグモーター事件(水戸地裁令和5年2月8日・労判ジャーナル140号2頁)

【事案の概要】

本件は、自動車及び自動車部品販売業並びに自動車修理、解体業及びレッカー作業等を目的とするY社に雇用されていたXが、Y社から解雇されたが、本件解雇は違法であり、また、Y社が離職票に不実の記載をしたことにより国民健康保険税の軽減を受けることができなかったとして、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金合計452万5959円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求一部認容(Xの請求額452万5959円を認容)

【判例のポイント】

1 Y社は、解雇の意思表示について否認しており、本件解雇に客観的合理的理由があり、社会通念上相当であることについての具体的主張をしていない。そして、Xが、他の従業員に自分の業務を手伝わせたり、車検の台数制限などを行ったりしていたという問題のある言動があったとは認められず、XとY社との間の雇用契約を直ちに一方的に解消し得る解雇事由があるとは認められないこと、Dエリアマネージャーは、Xについて解雇が認められるとは思っていなかったことに照らせば、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、違法である。

2 Xは、本件解雇により離職したものであり、「非自発的理由による失業」であり、Xは、Y社に対して、解雇されたとの認識を明示していたにもかかわらず、Xに、離職証明書に記載する離職理由について何ら確認することなく、本件離職証明書に「労働者の個人的な事情による離職」であり、「離職理由に異議」がないとの虚偽の記載をしたものと認められる。
事業主が離職証明書について虚偽の記載をした場合について、罰則が設けられているものであること(雇用保険法83条1項1号)に照らしても、上記のY社による虚偽記載が、Xに対する違法な行為であると認められることは明らかであり、Y社に上記記載が違法であることについての認識があったものと認められる
したがって、Y社による本件離職証明書の不実記載は、Xに対する不法行為に当たる。

上記判例のポイント2については注意が必要です。

このような事態にならないように慎重に手続きを進めることが求められます。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇403 配転命令に従わず19日間連続で欠勤した警備員の懲戒解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転命令に従わず19日間連続で欠勤した警備員の懲戒解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

ティー・オーオー事件(東京地裁令和5年2月16日・労経速2531号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し警備員として勤務していたXが、Y社から令和3年4月5日付けで配転命令を受けたこと、同年5月7日付けで懲戒解雇されたことに関し、本件配転命令及び本件解雇がいずれも無効である旨主張して、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②本件雇用契約に基づき本件配転命令以降(令和3年4月1日から本判決確定の日まで)の賃金月額40万4868円+遅延損害金の支払、③本件雇用契約に基づき業績一時金1万8000円(令和3年9月から本判決確定の日まで毎年7月及び12月)+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、有効な本件配転命令を拒否し、正当な理由なく令和4年4月16日から同年5月7日までの22日間、勤務シフト上の労働日としては19日間連続で欠勤したものということができる。
雇用契約においては、出勤して労務を提供するということが最も基本的かつ重要な債務であるから、Xは重大な債務不履行をしたというべきであり、これにより、Y社が代替要員の確保に奔走するなど迷惑を被ったことは当然であり、企業秩序を著しく害する行為であるといえる。その期間についても、勤務シフト上の労働日単位で見ても19日連続というように長期間であるし、Xは、Y社から書面による警告を受けながらも、Y社に対し、自宅待機にした上で休業手当を支払うように要求していたことなどから、本件解雇をせずとも、その後、欠勤を続けていた可能性が極めて高いというべきである
したがって、Xは、少なくとも、就業規則43条2号(出勤常ならず改善の見込みのないとき)、7号(第16条から第21条まで、又は第36条、第37条、第53条の規定に違反した場合であって、その事案が重篤なとき)及び9号(その他前各項に準ずる程度の不都合な行為を行ったとき)の懲戒解雇事由に該当するといえる。また、本件解雇は、懲戒解雇として、客観的に合理的な理由を有するということができる。

2 Xは、本件配転命令を拒否し、正当な理由なく令和4年4月16日から同年5月7日までの22日間、勤務シフト上の労働日としては19日間連続で欠勤しており、長期間にわたり重大な債務不履行をしたものといえる。また、Y社は、本件解雇に先立ち、Xに対し、2度書面で出勤を命じるとともに従わない場合は処分する旨の警告をしており、手続的にも適正である
他方で、Xは、Y社が本件配転命令を撤回したり配転先を再度検討したりする旨を一度も述べていないにもかかわらず、Y社に対し、自宅待機にした上で休業手当を支払うように要求しており、働かずして支払を受けることを画策していたと思われるし、Y社が新しい配転先を検討している間自宅待機になった旨通知書に虚偽の記載をするなど、自身の要求を押し通そうとする姿勢が顕著であり、情状面も悪い。Xは、本件解雇をされなくても、その後、欠勤を続けていた可能性が極めて高いというべきである。
したがって、本件解雇は、懲戒解雇として、社会通念上相当であると認められる。

配転命令拒否を理由とする解雇の事案においては、前提となる配転命令の有効性がまずは判断され、仮に有効であると判断された場合には、かかる命令に反したことを理由とする解雇の相当性が問題となります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇402 整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

リビングエース事件(大阪地裁令和5年2月3日・労判ジャーナル138号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社から整理解雇され、Xの地位確認等請求を認容する労働審判が確定した後、再度、Y社から整理解雇されたため、本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効である旨主張し、雇用契約に基づき、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、未払賃金等の支払を求め、また、本件労働審判が確定したにもかかわらず、Y社がXの職場復帰を認めず、本件解雇をし、あるいは未払賃金の支払を拒否したのは違法である旨主張して、共同不法行為に基づき、Y社、代表取締役B、元代表取締役Cに対し、連帯して、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求認容

損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 本件解雇当時、Y社の経営状況が悪化して人員削減が必要な状況にあったとはいえず、その他これを認めるに足りる証拠はなく、また、Y社は、経費削減について最大限できることはやり尽くした旨主張するが、かかる事実は認められず、役員報酬等の減額が十分といえるかには疑問があり、さらに、Bは、本件解雇をするに当たって雇用調整助成金が受給可能であるかどうかの検討をしていないことからすると、Y社の解雇回避努力が十分であったとはいえず、他方、本件解雇当時におけるY社の従業員は、Xのほかに、代表取締役であるBと女性事務員の2名であったことからすると、人員削減の必要性が肯定される限りにおいて、Xを解雇対象とすることが不合理であるとまではいえないから、本件解雇につき人選の合理性があったこと自体は否定できないが、Y社は、先行解雇が無効であることを前提とする本件労働審判に対して異議申立てをせずにこれを確定させており、本件労働審判の内容を履行すべき立場にあったところ、その後、民事調停を申し立て、民事調停が不成立となるや、Xに対して何ら事前説明をすることなく本件解雇をするに至ったものであり、本件解雇の手続が相当であったとは認められないから、客観的に合理的な理由があったとはいえず、解雇権を濫用するものとして無効である。

2 本件解雇は無効であるというべきであるが、本件解雇に至る経緯等を考慮しても、Y社による復職拒否及び未払賃金支払拒否が独自の不法行為を構成するとは認められず、あるいは、Xに上記未払賃金が支払われることによってもなお填補されない精神的損害が発生したとは認められないから、XのY社らに対する不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。

整理解雇を行う場合、一般的には経営がかなり逼迫した状況であるため、手順や手続を無視してしまうことがありますが、有効要件がかなり厳しいので、多くの事案で無効と判断されています。

整理解雇を行わざるを得ない場合には、事前に顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇401 退職合意の存否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、退職合意の存否に関する裁判例を見ていきましょう。

大央事件(東京地裁令和4年11月16日・労判ジャーナル138号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、Y社との間の労働契約に基づき、Y社との間で退職に合意したことはないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、Xは、令和2年12月28日までY社で勤務したものの、Y社は、同月29日以降、Xを退職したものと扱って勤務できなかったと主張して未払賃金及び未払賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

退職合意無効確認請求認容

未払賃金等請求認容

未払賞与請求棄却

【判例のポイント】

1 ①退職届などのXの退職の申出を記載した書面は作成されていない上に、X自身は退職の申し出をしたことはない旨を陳述していること、②Y社自身の供述によっても、「それでも出ろって言うなら辞めます」「どうしても出なきゃいけないんであれば、自分は辞めます」とのXの発言は、年末年始の休暇取得を認めるか否かのやり取りのなかでされた発言であって、少なくとも確定的にY社を退職する旨の意思表示とはいえないこと、③Xは、令和2年12月27日に、Y社に対して解雇通知書の交付を求めているとともに、令和3年1月7日には、代理人を通じて、Y社を退職する意思はない旨を伝えていることからすると、Y社代表者が令和2年12月初旬ころにXから退職の申し出を受け、これを了承したとまでは認められない。

2 Xは、令和3年2月1日、A社に就職したことが認められるところ、XはすぐにY社に復職できる見込みがあったわけではなく、家族がいるため収入のない状態のままでいるわけにはいかないことから、同社に就職したことが認められるから、Xは、Y社において就労する意思を喪失したとは認められない

上記判例のポイント1の事情からすれば、退職の意思表示を認定することは難しいですね。

また、上記判例のポイント2では、再就職をした場合に問題となる復職の意思の有無について判断されていますが、他の裁判例を見ても、必ずしも再就職したからといっても当然に復職の意思は否定されていませんので、この点はしっかりと押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇400 整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

HES事件(東京地裁令和4年12月7日・労判ジャーナル135号60頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結し稼働していたXが、Y社に対し、Y社による整理解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 パチンコ業界全体の構造的な不況の中、Y社は主要な取引先から取引を解消されたり、大幅に縮小されたりして売上高が減少し、経常損失の計上が続き、繰越損失金額も増加していったのであるから、Y社における人員削減の必要性は高いと認められ、次に、Y社は、Y社が所有していた車両を売却して旅費交通費や地代家賃の経費としての支出を減少させたほか、Y社代表者の役員報酬をXの基本給の額を大幅に下回る月額10万円にまで引き下げた上、従業員に対する昇給停止賞与の不支給の措置をとり、経費の削減を行っているのであるから、解雇回避のための努力義務を尽くしたと認められ、また、Y社は、Y社代表者とその妻を除いたY社の役員及び従業員に対して退職勧奨をし、これに応じなかったXだけを整理解雇したのであるから、人選に合理性があると認められ、さらに、Y社は、本件解雇に及ぶまでの間、Xに対して労働条件の変更を求めたり、Xが転職できるように取引先に働きかけたりしており、いきなりXが職を失うことのないように配慮していただけでなく、Y社の経営が困難である旨説明し、X以外の退職者には退職金を支払っていなかったのに、当時のY社における現金預貯金の残高を踏まえて、支払可能な特別退職金として30万円の支払を提示して退職勧奨した上で、本件解雇に及んでいるのであるから、手続も相当と認められ、本件解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当と認められるから、有効である。

整理解雇を有効に行う場合のステップがよくわかると思います。

上記のような段階を踏んで最終的に整理解雇をすることがとても大切です。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇399 ウイスキー持ち出し行為を理由とする懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、ウイスキー持ち出し行為を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

坂口事件(東京地裁令和4年12月7日・労判ジャーナル135号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、Y社において酒類等の配送業務に従事していたXが、Xによる倉庫からの商品(ウイスキー)持出行為が窃盗に当たるとしてY社が行った解雇は違法・無効であるとして、Y社の従業員である地位を有することの確認を求め、違法・無効である解雇により就労を拒否されたとして、民法536条2項に基づき、未払賃金等の支払を求め、違法・無効である解雇によりXの名誉を毀損したことは不法行為を構成するとして、損害賠償金300万円等の支払をもとめた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇有効

【判例のポイント】

1 仮にX主張のC発言があったとしても、CはY社の代表取締役ではなく、またY社の商品を処分する権限があったとは認められないこと、X主張のC発言の内容(「お金に困るなら給料が出るまで店の酒を2~3本なら持ち出し現金にしてもよい」)及びX自身が、Cから他の者に分からないように持っていってくれと言われた旨供述していることからすると、XにY社の商品を処分する権限を与える趣旨とまでは解されないから、本件持出行為は、Y社の所有物である在庫商品を権限なく持ち出すものであり、窃盗罪(刑法235条)を構成して就業規則所定の懲戒事由があるというべきである。

2 Xは、本件持出行為はC発言を踏まえて行われたものである旨主張するが、そもそもC発言があったこと自体、疑わしいといわざるを得ず、また、Xには、本件持出行為は刑事罰(故意犯)に該当する行為である上に、反復継続して行われており、本件持出行為が発覚していなければ、今後も継続して行われていた可能性があること、Xは、本件持出行為により持ち出した本件ウイスキーについて、一部を自ら費消した旨の虚偽の説明を行っていたこと、Y社の配送業務においては、配送先から鍵を預かり、配送先が不在の時間帯に納品している店舗が多数あることからすると、Xが面談では本件持出行為を認めていること及び本件持出行為による被害額が1万8700円と多額とはいえず、これによる被害弁償が完了していることを考慮しても、本件において、Y社が懲戒解雇を選択したことは相当である。

上記判例のポイント1のような事情があったときに会社としてどのように反論をすればよいかについて1つのヒントになると思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇398 飲酒を伴う歓迎会等での入社内定者の発言を理由とする内定取消が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、飲酒を伴う歓迎会等での入社内定者の発言を理由とする内定取消が有効とされた事案を見ていきましょう。

兼松アドバンスト・マテリアルズ事件(東京地裁令和4年9月21日・労経速2514号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から、採用内定を得て、その後、Y社から内定を取り消されたXが、Y社に対し、次の各請求をする事案である。
(1)主位的請求
Xが、本件内定取消しは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上の相当性を満たさない無効なものである旨主張して、Y社に対してする次の各請求
ア 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 労働契約に基づく次の各金員の支払請求
(ア)未払賃金
(イ)賞与
(2)予備的請求
Xが、本件内定取消しは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上の相当性を満たさない違法なものであり、これによって採用に係るXの期待権が侵害されたと主張して、Y社に対してする、不法行為に基づく損害賠償314万6880円+遅延損害金

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①EやFを呼び捨てにしたこと(二次会)、②Y社への入社理由について、ついでに受けただけである、たまたま採用までのスピードが早かったため、入社することにした旨の発言をしたこと(二次会。同旨の発言を本件会食前にもしている。)、③Eに対して、「やくざ」、「反社会的な人間に見えるな」と述べたこと(二次会から三次会への移動中)については、いずれもY社従業員(上司や先輩に当たる。)に対して礼を失する行為であり、特に上記③の「やくざ」、「反社会的な人間」との表現は侮辱的なものであって、同僚に対してする発言として著しく不穏当で不適切であるというべきである。Xがかかる発言をしたことは、それが飲酒の上でなされたものだとしても、従業員同士の強調に反し、職場の秩序を乱す悪質な言動であるということができる。

2 社内ルールやコンプライアンスを遵守する姿勢は、Y社の従業員である以上、当然に必要な資質であるといえることに加え、本件支店は18名で構成される小規模な事業所であり、業務の正常な遂行のために従業員同士の協調性が求められること、特に営業職においては、社内外と円滑なコミュニケーションを図る協調性が重要かつ最低限必要な能力として求められる上、取引先との関係性を円滑にするために月に数回の会食の場に参加することがあることから、会食の場での社会人としての最低限のコミュニケーション能力、礼節が求められること、Y社においては、上記資質等をXが備えているものとの判断の下、本件採用内定をしたことがそれぞれ認められ、これらからすると、Xの前記言動は、これらの基本的な資質をXが欠いていたことを示すものであって、かつ、Y社はかかる資質の欠如を本件採用内定時には知り得なかったといえるから、これらの理由に基づいて本件採用内定を取り消すことは、XがB支店長及びEに対して架電して謝罪したことを踏まえても、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるというべきである。

どうしちゃったのでしょう。社交辞令が言えない方なのかもしれませんね。

いずれにせよ裁判所の判断が上記のとおりで安心しました。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。