Category Archives: 解雇

セクハラ・パワハラ22 エビデンスがない場合のパワハラに基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、視覚障害者のパワハラ等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

KDDIエボルバ事件(東京地裁平成28年8月2日・労判ジャーナル57号46頁)

【事案の概要】

本件は、てんかん及び左同名半盲の視覚障害を有し、Y社との間で、障害者雇用枠での雇用契約を締結し、稼働した後、退職したXが、Y社に対し、Xを侮辱し、パワハラをしたことが、職場環境配慮義務違反の債務不履行及び不法行為に当たると主張して、損害賠償として、精神的苦痛の慰謝料150万円の支払いを求め、また、本件健康診断の視力検査の際にXを受傷させたことが、安全配慮義務違反の債務不履行及び不法行為に当たると主張して、損害賠償として、治療費等22万円の支払いを求めるとともに、Xに対して違法な退職勧奨をしたことが不法行為に当たるとして、本件退職の意思表示をした日である平成25年11月8日から平成26年9月30日までの間の未払賃金相当損害金約223万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XがY社従業員から怒鳴りつけられ、侮辱されたという事実を裏付けるに足る的確な証拠はなく、また、Xを殊更晒し者にしてその人格を否定し、パワハラと評すべき対応をしたことをうかがわせる証拠はないこと等から、パワハラに関するXの主張は理由がない。

2 Xは、眼痛で欠勤していたところ、Y社の従業員から欠勤が続けば解雇になるという説明を受け、解雇か辞職かの二者択一を迫られて辞職しているが、Xの眼痛が業務上の負傷であるとは認め難く、解雇が制限されるとは認められないので、欠勤が続けば解雇になるとの会社の説明が虚偽であったとか、違法な退職勧奨に当たるとはいえないから、Y社従業員の説明が虚偽であり、違法な退職勧奨をしたことを前提とするXの錯誤の主張は、その前提を欠き、理由がないと言わざるを得ない。

パワハラ事案では、多くの場合、原告側(労働者側)の立証の困難さをどう克服するかが鍵となります。

言った言わないのレベルと、仮に言ったとして、それが違法と評価できる程度のものかというレベルがあり、

前者をクリアできない限り、後者の問題になり得ません。

立証をどうするかということを事前に考えておく必要があるわけです。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

解雇221 訴訟提起後に作成した証拠の価値(信用性)(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、業務遂行能力の欠如に基づく解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成28年8月30日・労判ジャーナル57号29頁)

【事案の概要】

本件は、ガスフィルターの開発製造業者であるY社の元従業員Xが、業務遂行能力の欠如を理由に解雇されたが、同解雇には客観的に合理的な理由がなく社会通念上の相当性もないから無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同解雇日以降の毎月の賃金、賞与及び減額された差額分2000円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社が実施したプレゼンテーション研修は平成25年6月から同年9月の間に行われ、平成25年度の業務査定では中位の「E」評価がされていること、開発プロジェクト1は同年6月に開始し、開発プロジェクト2は同年12月に開始し、Y社は平成26年1月に上記査定をした時点以降も、いずれのプロジェクトもXにそのまま担当させる判断をしている点に鑑みると、上記査定結果をもって労働契約の継続を期待できない程度の業務遂行能力の欠如を認定することはできず、また、Y社は、Xの解雇後にフィルターハウジング設計の技術者として採用したAに、Xが在籍中に作成した資料を分析させ、そのAは業務能力査定報告書においてXの能力不足を判断しているが、Aは、Y社の社員であるところ、上記報告書は本件訴訟の提起後にY社の指示に従い作成したものと推定されること等から、上記報告書で示された見解を直ちに本件解雇のなされた平成26年4月当時の業務遂行能力の判断に結び付けることはできず、本件では、本件労働契約上求められる業務遂行能力の欠如までは認められず、本件解雇に客観的に合理的な理由はなく、社会通念上の相当性もないため、無効である。

2 元従業員の平成26年4月分賃金は、従前の月26万5000円から月26万3000円に減額して支給されているところ、この点について、Y社は、Xの平成25年度の業務査定の総合評価が最も低い「IN」であったため、社員就業規程412条に基づいて調整したものである旨主張するが、社員就業規程412条は、冒頭で「昇給」と題した上、本文には「給料は毎年職務成績及び会社の業績に基づき会社側によって検討され給与基準に基づき調整される。」とあり、昇給について規程したものであることは明らかであり、降給又は減給の根拠と解することはできず、また、社員就業規程には他に賃金を減額する根拠となる規程は見当たらないから、上記賃金の減額は無効である。

証拠の作成をオンタイムで作成せずに、訴訟係属後にあわてて作成しても、証拠価値が低いことは言うまでもありません。

日頃から適切に証拠作成・収集をしておくことが裁判になったときに活きてくるわけです。

解雇220 解雇の相当性要件を満たさないとの理由で無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、企業秩序違反等に基づく解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

GCAサヴィアン事件(東京地裁平成28年8月19日・労判ジャーナル57号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、平成24年9月9日付け降格及び平成25年8月31日付け普通解雇の無効並びに会社からの嫌がらせ等の不法行為を主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認、平成24年9月から平成25年8月までの間に降格に伴い減額された賃金約80万円及び解雇後の平成25年9月から平成26年2月までの未払賃金の合計約480万円の支払、同年3月以降の毎月の賃金約67万円の支払並びに慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件解雇では、Xの能力、その発揮、言動、態度等における問題は深刻であり、就業規則の定める「はなはだしく業務能率が悪く、また業務の遂行に必要な能力を著しく欠くとき」又はこれに「準ずるやむを得ない理由」に一応該当すると言うべきであるが、解雇は降格・降給と異なり、労働契約を終了させ、挽回の機会もなく労働者にとって不利益は大きいから、労働者に能力不足、勤務態度不良又は適格性の欠如があっても単に使用者の期待に十分にそわないという程度にとどまらず、労働契約の継続を期待しがたいほどに重大な程度に達していることを要すると解されるところ、Xに対しては、再度の降格・降給は相当であるが、本件解雇は、いささか性急で、酷と見ることができ、本件解雇は社会通念上の相当性を欠くため無効であるから、Xは労働契約上の権利を有する地位をなお保持しているから、この地位を確認すべきである。

2 本件降格は無効とはいえないから違法性を認めることはできず、また、退職勧奨や面談の繰り返しが、不法行為を成立させるほど違法なものとは認められず、さらに、Xが主張するようなパワーハラスメント又はプライバシー侵害の不法行為が成立すると認めることはできない。

解雇理由は存在するものの、解雇は重すぎるということで相当性の要件で助けられた事案です。

はっきり言って、予測可能性は高くありません。 どこまで行ってもケースバイケースですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇219 勤務態度不良を理由とする試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、試用期間中の解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

まぐまぐ事件(東京地裁平成28年9月21日・労判ジャーナル57号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であった元従業員Xが、試用期間中に留保解約権の行使により解雇されたところ、Y社に対し、本件解雇の無効を主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xには上司の指導や指示に従わず、また上司の了解を得ることなく独断で行動に出るなど、協調性に欠ける点や、配慮を欠いた言動により取引先や同僚を困惑させることなどの問題点が認められ、それを改めるべく会社代表者が指導するも、その直後に再度上司の指示に素直に従わないといった行動に出ていることに加え、上記の問題点に対するXの認識が不十分で改善の見込みが乏しいと認められることなどを踏まえると、試用期間中の平成27年4月10日の時点において、Y社が「技能、資質、勤務態度(成績)若しくは健康状態等が劣り継続して雇用することが困難である」(就業規則15条3項)と判断して、元従業員を解雇したことはやむを得ないと認められ、本件解雇には、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当というべきであるから、本件解雇は有効である。

太字にした部分の解雇理由を客観的に裏付られる資料を揃えられるかが勝敗を決します。

Easier said than done. 

試用期間中だからといって簡単に解雇(留保解約権の行使)をすることだけは避けましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇218 解雇から2年以上経過した賃金仮払いの仮処分申立て(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、賃金仮払仮処分申立却下決定が相当とされた裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ事件(東京高裁平成28年7月7日・労経速2291号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がXに対して行った解雇が無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるとともに、1か月当たり73万2452円の月例給与として、平成26年7月から平成27年11月までの支給分に当たる合計1245万1684円及び同月12月以降毎月25日限り73万2452円を仮に支払うことを求める事案である。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 Xは、不動産事業収入について、所得金額は36万6335円であって、家計に入ってくる収入は1か月3万0530円であると主張するが、不動産事業に係る経費には減価償却費などがあり、一概に所得金額が手取りの収入金額であるとはいえないところ、Xはその内訳について明らかにしていないことに照らし、Xの主張は採用しない
また、Xは、平成28年3月時点で、債権者世帯の預貯金額は269万円程度となっていると主張するが、本件解雇から既に2年以上が経過しているのであって、Xとしては、これまでの間、本案訴訟を提起することは十分可能な状態であったのであることに照らすと、Xの主張する前記事情を考慮しても、仮の地位を定める仮処分命令における保全の必要性の有無についての前記判断を左右するものではない

解雇から2年以上が経過していることを考慮し、保全の必要性を否定したものです。

その間に本訴を提起できたでしょ、ということです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇217 セクハラ等に基づく懲戒解雇が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、セクハラ等に基づく懲戒解雇が無効とされた事案を見てみましょう。

クレディ・スイス証券事件(東京地裁平成28年7月19日・労判ジャーナル56号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社及びY社から部分出向していたA社の双方で稼働していた元従業員Xが、平成27年4月15日に諭旨退職の通知を受け、同年5月27日付けで懲戒解雇されたことについて、本件懲戒解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年6月から本判決確定の日までの賃金月額100万円等の支払いを求め、併せて、平成26年度の賞与1275円等並びに平成27年5月に支給されるはずであった賃金と実際に支給された賃金との差額である約7万円等の支払いを求め、さらに、本件諭旨解雇及び本件懲戒解雇によりパニック障害と診断される状態となり重大な精神的苦痛を被ったと主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料300万円等)の支払いを求めた事案(Y社は、予備的に元従業員の通常解雇を本件口頭弁論期日においてXに通知した)である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賞与等支払請求及び損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 たしかに、Xの各行為(セクハラ行為、改ざんした電子メール記録の提出等)はそれぞれ懲戒事由に該当し、その内容からして、Xは相応の懲戒処分を受けて然るべきであると考えられるが、いずれの行為についても懲戒処分を検討するに当たって考慮すべき事情等があり、従前注意、指導といった機会もなかったのであるから、これらの行為全てを総合考慮しても、懲戒処分における極刑といわれる懲戒解雇と、その前提である諭旨退職という極めて重い処分が社会通念上相当であると認めるには足りないというべきであるから、本件懲戒解雇は無効であり、また、本件懲戒解雇について検討したところは、本件予備的解雇についても当てはまるので、本件予備的解雇が社会通念上相当と認めることはできず、本件予備的解雇は無効であるから、本件懲戒解雇及び本件予備的解雇はいずれも社会通念上相当であると認められず、解雇権を濫用したものとして無効であるから、Xは、Y社に対し、本件雇用契約の権利を有する地位にある。

2 本件懲戒解雇と、その前提である本件諭旨退職は、いずれも無効であるが、諭旨退職及び懲戒処分が無効であることから直ちに不法行為が成立するわけではなく、別途、不法行為の成立要件を充足するか否かを検討すべきところ、本件諭旨退職及び本件懲戒解雇が無効とされるのは、これらの懲戒処分は社会通念上相当と認められないからであって、Xの各行為はそれぞれ懲戒事由に該当し、その内容からしてXは相応の懲戒処分を受けて然るべきであると考えられること、本件諭旨退職及び本件懲戒解雇の処分自体は所定の手続を経て行われていることを併せ考慮すれば、本件諭旨退職及び本件懲戒解雇が不法行為法上違法な処分であるとまではいうことはできない

今回の解雇も相当性の要件で無効と判断されています。

現場レベルでこの相当性要件を適切に判断するのはとても難しいことです。

顧問弁護士に相談の上、過去の裁判例等から有効ラインを探るほかありません。

解雇216(ケー・アイ・エス事件)

おはようございます。

今日は、解雇が労基法19条違反に該当するかが争われた事案を見てみましょう。

ケー・アイ・エス事件(東京地裁平成28年6月15日・労判ジャーナル55号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、腰痛を発症し、これを悪化させて就労不能な状態となって会社を休職していたところ、上記腰痛は重量物を持ち上げる作業が原因で発症したものであり、退職措置は労基法19条に違反し無効であるとして、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、元従業員が腰痛を発症・悪化させたのはY社の腰痛予防のための必要な措置を講じなかった安全配慮義務違反によるとして、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償金等の支払い等と、Y社の従業院であるAがXに上記作業を強要して腰痛を発症、悪化させたことが不法行為を構成するとして、Aに対し、Y社と連帯して損害賠償金等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Aに対する請求は棄却

退職措置は労基法19条に違反し無効→地位確認認容

Y社はXに対し、損害の8割相当額について賠償責任を認めた

【判例のポイント】

1 ・・・結論において、元従業員の現在の腰痛の症状、就労不能な状態となっていることについて、業務起因性を否定することはできないこと等から、会社が元従業員を退職扱いにしたことは、業務上の負傷等による療養のために休業する期間中の解雇に相当し、労基法19条に違反する無効な措置であるから、元従業員は、会社に対し、依然として、雇用契約上の権利を有する

2 Aは、元従業員の直属の上司ではないし、殺菌工程を直接管理していたわけではなく、そこに従事する従業員の労働安全衛生に関する責任者の立場にあったとも認められないことからすると、作業への復帰という腰痛発生の契機に関与しているとはいえ、腰痛発症の結果を具体的に予見し、これを回避すべき義務を負っていたとはいい難いこと等から、Aにあっては不法行為責任を認めることはできない

3 そもそも元従業員に生じた腰痛に関しては画像上の他覚的な所見があるわけではなく、元従業員固有の器質的要因や社会的、精神的、心理的要因が影響している可能性は小さなものではないこと等から、元従業員の腰痛によって生じた全ての損害について会社に責任を負わせることは衡平の観点からして躊躇を覚えるところであるから、会社の債務不履行、不法行為上の責任については、過失相殺の法理を類推適用して、損害の8割相当額について賠償の責めを負わせるのが相当である。

労災のときは、休職期間満了を理由とする退職処分をする場合には、労基法の解雇制限が問題となりますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇215(日本アイ・ビー・エム(原告3名)事件)

おはようございます。

今日は、業績不良を理由とする解雇が無効とされた裁判例を見てみましょう。

日本アイ・ビー・エム(原告3名)事件(東京地裁平成28年3月28日・労経速2286号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に期限の定めなく雇用されていたXらが、業績不良を理由として解雇されたことについて、解雇事由が存在せず、労働組合員であるXらを解雇して労働組合の弱体化を狙ったものであって、解雇権の濫用として無効であり、不法行為に当たるとして、労働契約に基づく地位の確認、解雇後に支払われるべき賃金及び賞与等並びに不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用を請求する事案である。

【裁判所の判断】

X1~X3の解雇はいずれも無効

【判例のポイント】

1 X1は、・・・業績不良は認められるものの、担当させるべき業務が見つからないというほどの状況とは認められない。また、PBC評価はあくまで相対評価であるため、PBC評価の低評価が続いたからといって解雇の理由に足りる業績不良があると認められるわけではないこと、X1は大学卒業後Y社に入社し、約25年にわたり勤務を継続し、配置転換もされてきたこと、職種や勤務地の限定があったとは認められないことなどの事情もある。
そうすると、現在の担当業務に関して業績不良があるとしても、その適性に合った職種への転換や業務内容に見合った職位への降格、一定期間内に業績改善が見られなかった場合の解雇の可能性をより具体的に伝えた上での更なる業績改善の機会の付与などの手段を講じることなく行われた本件解雇①は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利濫用として無効というべきである。

2 解雇予告と共に職場から退去させられ出社を禁止されたことについては、Y社が情報システムに関わる業務を行う企業であり、Xらの職場でも自社及び顧客の機密情報が扱われていると推認できるところ、一般的には、解雇予告をして対立状態となった当事者が機密情報を漏えいするおそれがあり、しかも、漏えいが一旦生ずると被害の回復が困難であることからすると、上記の措置に違法性があるとはいえない

3 解雇予告時に、具体的な解雇事由を明記せず解雇を伝えるとともに、X2及びX3に対しては短い期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示をしたことについては、実体要件を満たしている限り本来は解雇予告をするまでもなく即日解雇することも適法であること、使用者に解雇理由証明書を交付する義務があるとしても解雇の意思表示の時点で解雇理由の具体的な詳細を伝えることまでは要求されていないこと、期間内に自主退職をすれば退職の条件を上乗せするという提示はそれがない場合と比較して労働者にとって不利益な扱いともいえないことからすると、違法性があるとはいえない。
したがって、Xらに対する解雇の態様が違法であるとはいえず、これを理由とする不法行為の成立は認められない。そして、本件では、解雇自体は権利濫用に当たり無効であるが、Xらにつきそれぞれ解雇理由とされた業績不良はある程度認められること、解雇時に遡って相当額の給与等の支払がされることにより、解雇による精神的苦痛は相当程度慰謝されるものとみるべきことなども考慮すると、解雇による不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

成績不良による解雇の場合には、上記判例のポイント1で示されているとおり、相対評価による評価結果の取り扱い(評価のしかた)は注意が必要です。

解雇回避措置の内容、程度を見られるので、解雇する前にしっかりと手続きを踏むことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇214 法人解散に伴う整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、法人解散に伴う病院長の解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

一般財団法人厚生年金事業振興団事件(東京高裁平成28年2月17日・労判1139号37頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社が解散に伴う本件解雇は無効であると主張して、雇用契約に基づく賃金請求または不法行為に基づく損害賠償請求として、2000万円の支払請求をした事案である。

原審は、Xの請求を棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 (原審判断)Y社の解散自体は、RFOが改組されて新機構となり、新機構が本件病院等を自ら経営することが法改正により定まったことによるもので、やむを得ない事由によるものであったと評価されるところ、解散に伴い職員を解雇することもY社の解散手続に伴うやむを得ない措置であるというべきである解散に伴う解雇については、事業そのものがなくなるのであるから、法人が存続しつつ人員削減措置をとる整理解雇とは前提を異にしており、いわゆる整理解雇の四要件は適用されない
また、Y社は、Xを含む職員に対して、法改正に伴う対応について、十分な説明をしているものと認められることから手続上の瑕疵もない。そして、X・Y社間で雇用期間の保証があったとは認められないことから、Xの雇用期間の保証があったことを前提とする解雇無効の主張はその前提を欠く

2 Xの主張する解雇回避努力義務は、本件解雇後、新機構にXが本件病院の院長として再雇用されるよう努力する義務を実質的には意味するものと理解できるが、Xを再雇用するかどうかの判断は、新機構あるいは改組前のRFOが判断すべき事項である。そもそもRFOのC理事長がXを採用しなかった理由に対し、Y社がRFOにXの本件病院の院長として適任であることを説得できる材料を有していたことを認めるに足りる証拠はない。なお、本件調停及び本件仮処分の経過によれば、X自身は本件病院の非常勤医師として勤務することを望んでいないと考えられることから、Y社が本件病院の非常勤医師として勤務できるよう新機構あるいは改組前のRFOに働きかけることはXの主張する解雇回避努力には含まれないというべきである。ましてや、円満退職のための調整努力については、Xの心情に即すれば理解できる面もあるが、解雇無効とされるほどの違法事由であるとは認められない。
そうすると、本件解雇は、Y社の解散に伴う事業上の都合によるやむを得ない理由に基づくものとして有効であり、Xの主張は理由がない。

偽装解散等の特段の事情がない限り、上記判例のポイント1のように判断されることになります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇213 好待遇でヘッドハンティングされた従業員に対する勤務成績不良を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、勤務成績不良を理由とする解雇が有効と判断された裁判例を見てみましょう。

ドイツ証券事件(東京地裁平成28年6月1日・労判ジャーナル54号39頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していた元従業員Xが、Y社から解雇の意思表示を受けたものの、当該解雇は無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本判決確定の日まで、月額給与約305万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの収益結果は、金額自体も収益目標に対する達成率も減少を続けていることが認められるところ、外資系金融会社では、営業成績が労働能力及び勤務成績の評価に直結する面があることは否定できず(このため、営業成績が上がれば、これに連動して高額な基本給とは別に多大な裁量賞与が支給される)、評価者と被評価者の合意の下で設定される収益目標及びこれに対する達成率を労働能力及び勤務成績査定の重要部分として位置づけ、これを単年度ではなく複数年度でかつ前年比という水準を考慮して評価することに合理性はあるというべきであり、また、本件労働契約は、職種限定契約であり、Xは、上級の専門職として特定の職種・部門のために即戦力として高待遇で中途採用されたものであり、長期雇用システムを前提とした従業員とは根本的に異なるところ、期待される能力を有していなかった場合には、解雇回避措置を取らなかったとしても、それをもって直ちに解雇の相当性を欠くことにはならないというべきである

好待遇でのヘッドハンティング事案では、このような判断がなされることが多いですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。