Category Archives: 解雇

解雇122(伊藤忠商事事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、双極性障害に罹患して休職・退職した労働者について、休職期間満了までに回復したとは認められないとされた裁判例を見てみましょう。

伊藤忠商事事件(東京地裁平成25年1月31日・労経速2185号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、双極性障害に罹患して休職したものの、休職期間満了前に復職可能な程度にまで回復したなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約に基づく未払賃金等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了時の復職不能の主張・立証は、使用者側であるY社がすべきであると主張する。しかし、雇用契約上の傷病休暇・休職の制度が、使用者が業務外の傷病によって長期間にわたって労働者の労務提供を受けられない場合に、雇用契約の終了を一定期間猶予し、労働者に治療・回復の機会を付与することを目的とする制度であると解すべき一方、労働者の治療・回復に係る情報は、その健康状態を含む個人情報であり、原則として労働者側の支配下にあるものであるから、休職期間の満了によって雇用契約は当然に終了するものの、労働者が復職を申し入れ、債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病状が回復したことを立証したときに、雇用契約の終了の効果が妨げられると解するのが相当である

2 XがY社の総合職として雇用されたことは、前記のとおりであり、Xの復職可能性を検討すべき職種は、Y社の総合職ということになる
ところで、総合商社であるY社の総合職の業務は、Xが休業開始前に従事していた営業職においては、国内外の取引先間において、原材料や製品の売買の仲介を行うことが中心であり、具体的には、市況や需要等に関する様々な情報を収集・分析し、仕入先及び販売先に取引内容案を提示して交渉を進めるとともに、取引先の信用調査を行い、取引先への与信限度を社内で申請・設定し、仕入先及び販売先と合意に至れば契約書を締結し、その後、商品の引渡し、代金の支払、回収・運搬・通関手配、為替予約のための相場確認等を行うものであり、海外の取引先等を含め社内外の関係者との連携・協力が不可欠であるから、これを円滑に実行することができる程度の精神状態にあることが最低限必要とされることが認められる。また、営業職以外の管理系業務においても、社内外の関係者との連携・協力が必要であることは営業職と同様であるから、いずれの職種にしても、業務遂行には、対人折衝等の複雑な調整等にも堪え得る程度の精神状態が最低限必要とされることが認められる。

使用者側は、業務の大変さを丁寧に説明することが功を奏しました。

この手の事案は、ドクターの診断書や意見書が出されても、それだけで復職の可否が判断されることはありません。あくまで一考慮要素にすぎません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇121(ヒタチ事件)

おはようございます。

さて、今日は配転命令拒否を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヒタチ事件(東京地裁平成25年3月6日・労経速2186号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が解雇されたXが、解雇が無効であるとして、労働契約上の地位の確認とバックペイの支払を求め、また、配転打診から始まるY社の一方的な振る舞いは、重い持病で苦しむXが安心して主治医のもとで療養を受ける環境を破壊するものであり、これにより精神的損害を被ったとして慰謝料300万円の支払を求め、さらに、Y社の対応によってXは源泉徴収票を受領することができなかった慰謝料として300万円の支払を求めたもの(本訴事案)と、Y社が、Xに対し、従業員の社宅として転貸借としている建物について、解雇によってXが従業員としての地位及び転借権を失ったものとして、本件建物の明渡しと、解雇日以後の賃料相当額の不当利得返還を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効
→Xの請求はいずれも棄却

Xに対し、社宅明け渡しまでの賃料相当額の支払を命じた

【判例のポイント】

1 ・・・ところで、Xは、うつ病で医療機関に継続的に通院していることが認められる。確かに、うつ病患者が信頼関係を醸成している精神科に継続的に通院する必要性はそれなりに尊重されるべきといえる。また、生活状況が変わることによって、うつ病を患っているXに社会生活上の支障が生じうる可能性も認められる。しかしながら、本件配転命令は、大宮営業所への配転(埼玉県大宮市所在)であり、他の医療機関への転院は避けられないとしても、医療機関への通院自体が困難な地域とは言い難い。また、本件配転命令は避けることができないところ、かかる業務上の必要性に比べれば、Xに生じる社会生活上の不利益は、受忍すべき限度内にあるといえる

2 Xは、過去に種々のトラブルを発生させていることが認められる。Xの多くのトラブルに共通してみられる点は、Xが自己の言動の正当性に過剰なまでに拘泥し、相手方が非を認めXに謝罪しているようなトラブル、摩擦であったとしても、時に社外関係者をも巻き込んだトラブルに発展させるといった点である。
Xの起こしてきたトラブル、摩擦に対して、Y社は、Xに対する教育指導を行ったり、業務内容を変更したり、Xへの対応方法を配慮するなど、様々な措置をとり、また配慮を行って、Xの就労の機会を確保してきたといえる。また、Y社は、Xに対し、直ちに懲戒解雇や諭旨解雇を行うのではなく、教育指導や譴責などの処分を行い、Xに対し、反省改善を促しているところでもあるが、Xの問題の根本的な解決には至っていない
そして、本件配転命令は、Xの就労の機会を確保するために高度の必要性が認められ有効なものであるが、Xは、不当にこれを拒否し、本件配転命令に従わなかったものである。
以上からすると、Y社は、Xの配転命令違反を受け、Xの過去の勤務態度等を併せて考慮した結果、Y社における勤務継続は、もはや不可能と判断し、Y社就業規則87条3号の懲戒事由に該当するとしてXを諭旨解雇としたものであり、本件解雇は、客観的に合理的な理由があるといえ、解雇という選択肢をとったことについても社会通念上相当な措置であるといえる

3 本件解雇は有効である。そして、本件建物は、社宅すなわち本件労働契約の存続を前提として、Y社アXに転貸して居住させていたものであるところ、本件解雇によって転貸借契約の前提となる本件労働契約は終了し、Xは本件建物に住み続ける法的根拠を失った。したがって、XはY社に対し、本件建物を明け渡さなければならない

配転命令が解雇回避の手段として用いられたことがむしろ評価されています。

一般的に配転命令の有効性を判断する上で考慮される「通常甘受すべき程度の不利益」は、かなり緩く判断されます。今回も肯定されていますね。

また、判例のポイント3は、労働者側が解雇を争う場合に注意しなければいけないポイントです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇120(三郡福祉会(虹ヶ丘学園・損害賠償)事件

おはようございます。

さて、今日は、廃園を理由に職員らを解雇した理事長等に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

三郡福祉会(虹ヶ丘学園・損害賠償)事件(福岡地裁飯塚支部平成25年3月27日・労判1074号18頁)

【事案の概要】

本件は、知的障害者通所授産施設虹ヶ丘学園で勤務していたXらが、本件学園を経営していた社会福祉法人三郡福祉会の理事長であったA、同会理事であったB、C及びD並びに本件学園の保護者会会長であったEに対して、同人らが、もっぱらXらを解雇するために、本件学園の利用者らに虚偽の説明をして、本件学園と次年度の契約を締結しない旨の署名を徴収し、本件学園を廃園としてXらを解雇したことが解雇権の濫用に該当するとし、かかる事情を承知しつつ適切な指導を行わず、Xらの解雇を助長した福岡県も同様に責任を負うとして、各被告らに不法行為による損害賠償を求めた事案である。

なお、Xらの請求は、Xら主張の総損害額(X1につき合計約6900万円、X2につき合計約3560万円、X3につき合計約5720万円)に対する各一部請求である。

【裁判所の判断】

A、B、C、D及びEは、連帯して、X1に対し約260万円を、X2に対し約360万、X3に対し約250万円を支払え。

福岡県に対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 Eが、他の理事らと協議のうえ、本件組合を兵糧攻めにすることを企図し、利用者24名のうち23名から翌年度の支援契約を結ばないことを記した申出書を取り付けて、三郡福祉会の経営が困難である外形を作出したうえで施設を閉鎖することを決定し、本件組合に所属するXらを含む職員を年度末をもって解雇したことにつき、本件申出書の作成はXらを退職させるか、本件組合から脱退させるという目的のために綿密に連携してなされた行動の一部と評価できるものであるとされ、もっぱら前記の目的に基づき、Eおよび理事らが共謀して本件学園の廃園と本件解雇を行ったものと推認することができる。そして、かかる本件解雇を主導し、実施したE及び理事らの不法行為責任は免れないものというべきである。

2 社会福祉法は、福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉の推進等を図る手段として、社会福祉事業従事者の処遇、すなわち労働条件や労働環境等を改善することをもその趣旨及び目的としているが、これは、福祉サービスの利用者の利益の保護や地域における社会福祉の推進等という、より高次の目的達成のための手段にとどまるものであるから、これに対応して、社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等の改善に関し、所轄庁に付与されている権限も、指導及び助言にとどまり、不当労働行為の存否や解雇の有効性等の個別の労働問題について公権的に介入する権限までは付与されていない。
そうすると、被告県に社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等に配慮する義務があるとしても、その内容・程度は相当に限定的なものといわざるを得ず、被告県が、社会福祉法人の労働条件や労働環境等に問題があることを認識しながら、社会福祉法91条に基づく指導又は助言を行うことなく放置し、かえって問題状況を容認しこれを助長する処分を行うがごとき特段の事情がない限り、同義務に違反することを理由として、被告県の行為が不法行為を構成することはないと解される。

3 Xらは、未払賃金相当額の逸失利益として、それぞれの定年までの就労継続を前提とする得べかりし賃金等の請求をしているものの、本件解雇がなかったとしても、Xらの定年まで三郡福祉会が事業を継続し、かつ、Xらが定年まで三郡福祉会で勤務を続けるという高度の蓋然性が認められるものではない。他方、本件学園は定員割れの状況であったものの、支援費の支給が期待できることなども考慮すれば、E会長及び理事らによる本件学園の廃園及び本件解雇がなければ、最低でも1年は本件学園の事業の継続は可能であり、かつ、Xらが本件学園で勤務を継続することも確実であったと考えられ、また、本件解雇後、通常再就職に要する期間としても、長くとも1年程度と考えられることなどに照らせば、不法行為と相当因果関係の認められる損害の範囲としては、1年分の給与相当額を限度とするのが相当である
また、本件解雇による財産的損害として、相当期間の未払賃金相当額が認められる本件においては、さらに、精神的損害である慰謝料を認めるのは相当ではない。
さらに、Xらは、仮処分により三郡福祉会から賃金請求権の一部の支払を受けているところ、後の本案訴訟の確定判決を得て、支払の効果が確定している。したがって、Xらの損害賠償請求権と実質的に競合する前記賃金請求権の回収分については、Xらに損害が発生していないというべきであるから、これを前記の1年分の給与等相当額損害額から控除すべきものである。

非常に珍しいタイプの解雇事案ですね。

立証のハードルが通常の解雇事案よりも数段高いことは容易に理解できます。

学園が廃園している以上、学園を被告としても回収できないため、不法行為構成とし、被告を法人ではなく理事等にしたわけです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇119(医療法人社団こうかん会(日本鋼管病院)事件)

おはようございます。 

さて、今日は、患者の暴力で休職した看護師への期間満了による解雇の効力に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団こうかん会(日本鋼管病院)事件(東京地裁平成25年2月19日・労判1073号26頁)

【事案の概要】

Xは、Y社が経営する日本鋼管病院の看護師であったが、平成18年1月28日に業務中に入院間患者からの暴力のより傷害を受けて休職し、復職後の平成19年8月8日にも入院患者の食事介助中に入院患者から暴力を振るわれたとして、医師により適応障害の診断を受け、就労が困難な状況に至って休職したところ、Y社から平成21年10月11日付けで休職期間満了による解雇通告を受けた。

本件は、Xが、上記平成18年1月28日の事故及び平成19年8月8日の事故に遭ったことにつき、いずれもY社に雇用契約上の安全配慮義務違反があると主張して、Y社に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求するとともに、Xの上記適応障害が業務上の傷病であることから、Y社による上記解雇は労基法19条に違反するもので無効であるとして、解雇後の賃金を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、1931万2120円及びこれに対する平成19年12月24日から支払済みまで年5%の遅延損害金を支払いを命じた(Y社は医療法人社団であって商人ではないから、遅延損害金の割合については年5%)。

解雇は有効

【判例のポイント】

1 R看護師及びS看護師の供述内容に照らすと、Y社の第○北病棟においては、看護師がせん妄状態、認知症等により不穏な状態にある入院患者から暴行を受けることはごく日常的な事態であったということができる。したがって、このような状況下において、Y社としては、看護師が患者からこのような暴行を受け、傷害を負うことについて予見可能性があったというべきである

2 そして、入院患者中にかような不穏な状態になる者がいることもやむを得ない面があり、完全にこのような入院患者による暴力行為を回避、根絶することは不可能であるといえるが、事柄が看護師の身体、最悪の場合生命の危険に関わる可能性もあるものである以上、Y社としては、看護師の身体に危害が及ぶことを回避すべく最善を尽くすべき義務があったというべきである。したがって、Y社としては、このような不穏な患者による暴力行為があり得ることを前提に、看護師全員に対し、ナースコールが鳴った際、(患者が看護師を呼んでいることのみを想定するのではなく、)看護師が患者から暴力を受けている可能性があるということをも念頭に置き、事故が担当する部屋からのナースコールでなかったとしても、直ちに応援に駆けつけることを周知徹底すべき注意義務を負っていたというべきである
しかるに、第1事故の当時、Y社は、このような義務を怠った結果、Fから暴行を受けたXがナースコールを押しているにもかかわらず、他の看護師2名は直ちに駆けつけることなく、その対応が遅れた結果、Xにかかる傷害ないし後遺障害を負わせる結果を招いたものであって、この点で、Y社には、Xに対する安全配慮義務違反があったといわざるを得ない。

3 第1事故にみられるように、病院内で不穏な患者による暴力が日常的に起こっているという状況下において、看護師が患者から暴力を振るわれることにより傷害を負うということ自体は一般的に予見可能であるということができるが、同じ状況下であっても、患者から暴力を振るわれたことによる心理的負荷を原因として精神障害を発症するということが当然に予見可能であるということはできないから、本件の事実関係の下で、Xの本件適応障害発症について、Y社に予見可能性があったということはできない
このように、Xを病棟勤務としたこと自体が、Y社の安全配慮義務違反であるということはできない。そして、病棟勤務となれば、いずれは何らかの形で入院患者と接することが不可避というべきであるところ、Y社病院側としては、復職後、Xの勤務状況を観察しつつ、徐々にXに依頼する業務を増やしていき、その中で入院間がに対する食事介助を依頼したという経緯があるのであるから、Xの心情にかんがみ、それなりに慎重に対応していたということができる。したがって、Y社病院側が、同僚看護師らに対し、Xについて就労可能な業務が限定されている旨伝えていなかったことをもって、Y社の安全配慮義務違反があるということはできない。

4 第2事故については、第1事故の後遺障害が残る状況下で発生したものではあるものの、客観的にみて、これが精神障害発症の引き金になるほどの重度の心理的負荷をもたらすものであったとは認め難いし、復帰後の配属先を第△北病棟としたことについても、それによりXが多大な精神的負荷を受けていたと認めることはできない
したがって、平均的労働者にとって精神障害を発症させる危険性のある心理的負荷をもたらすものであったと認めることはできないから、Xの従事していた業務と本件適応障害発症との間に、相当因果関係を認めることはできないというべきであり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
以上のとおり、Xの本件適応障害が、労基法19条1項の「業務上」の傷病であると認めることはできないから、本件休職期間満了を理由としてなされた本件解雇は有効と認められる

非常に重要な論点が複数含まれています。

勉強会の題材にしようと思います。

最近、流行り(?)の労基法19条1項の争点ですが、労働者側からすると、思いの外、ハードルが高いことがわかると思います。

条文から受ける印象と実際の審理とでは、大きな隔たりがありますので、安易に考えるのは危険です。

なお、Xは、別訴において、行政処分取消訴訟を提起しているようですが、1審では、棄却され、現在、二審の審理が係属中だそうです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇118(東亜外業(本訴)事件)

おはようございます。

さて、今日は、工場の操業休止に伴う希望退職募集、整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

東亜外業(本訴)事件(神戸地裁平成25年2月27日・労判1072号20頁)

【事案の概要】

Y社は、大口径溶接鋼管の製造及び据付並びに各種管工事等を業とする会社である。

Xらは、Y社東播工場に勤務する従業員である。

Xらは、平成23年6月、整理解雇された。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 一般に、整理解雇の有効性を判断するに当たっては、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行(人員削減の方法として整理解雇を選択することの必要性)、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性が挙げられるが、これらは厳密な意味での要件ではなく、評価根拠事実と評価障害事実として、当該整理解雇が解雇権濫用となるかどうかを総合的に判断する上での要素と考えるのが相当というべきである(したがって、どれか一つの要素が認められないとしても、そのことのみで直ちに当該整理解雇が権利濫用となるとはいえず、他の要素に係る事情も加味して総合的に判断すべきことになる。)。
そして、当該労働者に解雇を正当化するだけの十分な理由(落ち度)がないにもかかわらず、これを解雇することが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)に該当しないというためには、上記①ないし③の要素について使用者側に主張・立証責任があり、④の手続の妥当性を含め、その他の当該解雇が信義則に反するとの事情を労働者側に主張・立証させるのが相当である

2 Y社が、①社外工につき、平成20年9月から12月末までに30人、・・・合計208人を削減したこと、②分会の同意を得て、雇用安定助成金制度を活用し、平成21年に12日、・・・休業を実施したこと、③平成23年度の新入社員採用取止めを実施したこと、④納期の切迫した仕事がある場合以外の残業の禁止を実施したこと、⑤1次募集及び2次募集に分けて本件希望退職を実施したこと、⑥希望退職者に対して再就職のあっせんを行ったこと、⑦社内他部門に対して受入れ打診を行ったが、要員充足のため、受け入れることが困難であるとの反応であったこと、の各事実が認められる。
・・・Y社は、一定の解雇回避努力をしたことが認められる
しかしながら、Y社は、①千葉市中央区内の事業所での工事施工管理者や②神戸第一事業所での電気工事職などにつき、求人活動を行っていると認められるが、Y社にとって、これらの勤務場所についてXらに提示することは必ずしも困難ではなかったと考えられるところ、Y社がこれらについてXらに提示した形跡は認められない。
・・・さらに、Xらは、今回解雇された従業員のほとんどは溶接の技術を有しており、溶接の仕事が主であるY社事業所部門でも十分就業は可能であるにもかかわらず、Y社は他部署への配転を全く検討していないと主張しているところ、Y社がこれを十分に検討したことを裏付ける的確な証拠は見当たらず、加えて、他の部署で採用したとする7人の新規採用の対象職務や勤務場所についても、Xらのいずれもが対象外であったとの適切な証明もされていない
整理解雇が、当該労働者には帰責事由がないのに、使用者側の一方的都合により実施されるものであることにかんがみると、解雇回避努力は、可能な限り試みられるべきであるが、前号認定の事実及び事情からすると、Y社がその回避努力を真摯に尽くしたとは言い難いというべきである。

3 当該企業の経営状況に照らし、整理解雇がやむを得ないと認められる場合であっても、使用者は被解雇者の選定については、客観的で合理的な基準を認定し、これを公正に適用して行うことを要すると回するのが相当である。
・・・Y社があらかじめ客観的基準(年齢、勤務年数、役職、担当職務、資格、特別な貢献度、扶養親族の有無など)を策定し、Xらを含む従業員にこれを提示して十分な協議が行われた事実は認められない

4 以上の検討の結果を総合すれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないというべきである(労働契約法16条)。したがって、本件解雇は、解雇権を濫用したものとして無効と判断するのが相当である。

本件の仮処分事件については、こちら

3要素説ですね。

解雇回避努力についても、「可能な限り試みられるべき」としており、かなり厳格です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇117(Principle One事件)

おはようございます。

さて、今日は、元オフィスマネージャーに対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

Principle One事件(東京地裁平成24年12月13日・労判1071号86頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、Y社のXに対する整理解雇の意思表示が無効であると主張して、労働契約上の地位にあることの確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 整理解雇が有効であるために必要とされる①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性は、整理解雇について解雇権濫用法理の適否を総合判断するための評価根拠事実と評価障害事実とを類型化した要素と解すべきであり、①の人員削減の必要性の程度に応じ、当該企業の目的、従業員の数・構成、資産・負債、売上規模、組合の有無等の諸事情に照らして、②ないし④の各要素の充足の有無及び程度を検討し、当該整理解雇の効力について判断すべきであると解する

2 ・・・Y社は、本件解雇の時点において、経営危機に陥っており、早急に人員を削減しないと会社全体の経営が破綻しかねないような危機的な状況にあったということができるから、人員削減の必要性があったというべきである。

3 Y社は、資本金1000万円、従業員数名の小規模会社であり、平成20年10月頃以降、経営状態の悪化に伴う危機的状況の下、人員削減の高度の必要性があり、社内にXの就労場所を確保することが著しく困難であった中、Xに対し、前件退職から前件判決確定までの間はXの労働契約上の地位を争いながらもその間も賃金全額を支払い、前件判決確定から本件解雇までの間は自宅待機を命じて就労義務を免除しつつもその間の賃金全額を支払って、第1回・第2回団体交渉の場等において、X及び組合の希望を聞きながら、Xに対し、転籍先を探して紹介しようとしていた経緯が認められる。以上の経緯に加えて、人員削減の高度の必要性がある中、Y社の企業規模に照らして選択し得る解雇回避措置の方法は極めて限定的なものとならざるを得ないことを考慮した場合、Y社は、本件解雇の時点において、可能な限りの解雇回避努力を尽くしたものと評価すべきである
この点、Xは、整理解雇に当たっては希望退職者の募集が不可欠であると主張するが、整理解雇に当たっての解雇回避努力の履行として希望退職者の募集が不可欠であるとまでいうことはできないし、本件解雇の時点において、Y社の従業員は4名にすぎず、必要最小限の人員態勢の下で業務を遂行していたことがうかがわれるから、希望退職者を募集することが現実的な選択肢として有り得たということができるか相当に疑問である
また、Xは、そのほかにも、ワークシェアリング、再就職支援等の措置を取るべきであったと主張するが、本件解雇の時点における人員削減の高度の必要性のほか、Y社の企業規模に照らした場合、Y社がX主張の解雇回避措置を取ることは、およそ現実的ではなかったといわざるを得ない

4要素説です。

整理解雇の事案では、通常、解雇回避措置を十分に取ったかが主要な争点となります。

本件では、人員削減の高度の必要性が認められ、かつ、企業規模が小さかったことから、通常、解雇回避措置として求められる希望退職者の募集等については、裁判所も大目に見てくれています。

4要素説の考え方は、上記判例のポイント1にまとめられており、非常に参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇116(学校法人昭和薬科大学事件)

おはようございます。 

さて、今日は、機器購入で不正処理した教授らに対する解職処分に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人昭和薬科大学事件(東京地裁平成25年1月29日・労判1071号5頁)

【事案の概要】

X1は、Y大学の教授でR長の地位にあり、X2は、Y大学の専任講師でSアドバイザーの地位にあったところ、Xらが所属する研究室では、平成18年ころ、国庫補助金の支給を受けて光散乱光度計という機器を購入した。ところが、同光度計購入に当たって、当該年度に入る前に当該光度計の納入を受けるという会計年度を跨った処理を行ったなどとして学内で問題となり、Xらは、懲戒処分として、それぞれ上記R長及びSアドバイザーの職につき解職処分を受けることとなった。

本件は、Xらが、同懲戒解職処分には事実誤認等の違法があるなどと主張して、Xらについて、同懲戒解職処分が無効であることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

解職処分は無効

Xらに慰謝料10万円が認められた。

【判例のポイント】

1 ・・・このような会計年度を跨いだ会計処理は不適切というべきである。
しかるところ、X1は、X研究室の主任教授であってその最高責任者であり、本件光度計のような高額な備品の購入に当たっては当然に関心を払うべきであったのであるから、その購入手続に関して、何らかの不適切な行為があれば、監督しこれを是正すべき義務を負っていたというべきである。しかるに、X1は、本件光度計の購入手続についてはほとんど関与することなく、X2及びD助手が上記の会計年度を跨いだ処理をするのを防止しなかったのであるから、上記の監督義務違反があったことは否定できない。
以上のX1の監督義務違反は、Y大学就業規則所定の懲戒事由に該当するというべきである。

2 解職という処分は、Y大学就業規則において定める懲戒処分の中でも懲戒解雇に次いで重いものであるところ、 本件補助金を返納する直接の契機となった本件不当事項に関しては、K事務長が(懲戒処分でない)厳重注意とされているに止まるものであるから、その過程で判明した本件各非違行為に対してのみ、懲戒解職処分という重い処分とすることは、均衡に失するといわざるを得ない(Y大学は、本件不当事項は形式的、手続的なミスにすぎないと主張するが、そうはいっても、庶務課長という責任ある立場において、数百万円もの補助金の返納につながるミスをしたJ庶務課長の責任は本来重いはずであって、これとの均衡という点は無視できないはずである。)。また、会計年度を跨った処理にせよ、81万円に関する処理方法にせよ、J庶務課長ら庶務課の職員が認識し、事実上容認した上での行動と認められるのであって、この責任を全く庶務課職員に負担させることなく、Xらのみに帰するのは酷である。特に、本件光度計納入当時、同光度計のような高額機器の納入時にも庶務課が検収すら行っていなかったことからも明らかなように、Y大学において、実際の会計規律は極めて緩いものであったのであるから、手続面で問題があると返納を求められる可能性があるからといって、公的補助金により購入する場合にのみ厳格な会計規律を要求するのは筋が通らないというべきである。さらに、以上のような状況下で、当時、X研究室側において、実際、どの程度まで当該行為の悪性についての認識があったのかについても微妙な問題があるのであって、(少なくとも、X研究室側が、庶務課を欺くという意識の下に行動してなかったこと確かである。)、その行為の経緯、動機や主観的態様に照らしても、Xらについて強い非難が妥当するとまではいえない
以上のとおり、X1に対する本件懲戒解職処分は、その行為の性質、態様等に照らして重きに失するものであって、社会通念上相当と認められないから、懲戒権の濫用に当たり、無効というべきである。

相当性の要件でぎりぎり救われています。

労働者側とすれば、合理的理由が存在する場合には、相当性がないことをいかに主張できるかがポイントになってきます。

主張するポイントは、上記判例のポイント2を参考にしてみてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇115(リーディング証券事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期雇用契約における試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

リーディング証券事件(東京地裁平成25年1月31日・労経速2180号3頁)

【事案の概要】

本件は、雇用期間1年間の約定で採用され、試用期間中に解雇(留保解約権の行使)されたXが、使用者であるY社に対し、上記留保解約権の行使は労契法17条1項に違反し無効であるとして、地位確認、残存雇用期間の未払賃金等及び違法な留保解約権の行使等による慰謝料の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 有期労働契約は、企業における様々な労働力の臨時的需要に対応した雇用形態として機能しているが、実際上、使用者は、かかる労働受遺用が続く限り有期労働契約を更新し継続することが多い。したがって、かかる有期労働契約においても、期間の定めのない労働契約と同様に、入社採用後の調査・観察によって当該労働者に従業員としての適格性が欠如していることが判明した場合に、期間満了を待たずに当該労働契約を解約し、これを終了させる必要性があることは否定し難く、その意味で、本件雇用契約のような有期労働契約においても試用期間の定め(解約権の留保特約)をおくことに一定の合理性が認められる。しかし、その一方で、上記のとおり労働契約期間は、労働者にとって雇用保障的な意義が認められ、かつ、今日ではその強行法規性が確立していることにかんがみると、上記のような有期労働契約における試用期間の定めは、契約期間の強行法規的雇用保障性に抵触しない範囲で許容されるものというべきであり、当該労働者の従業員としての適格性を判断するのに必要かつ合理的な期間を定める限度で有効と解するのが相当である。

2 本件試用期間の定めは、雇用期間(1年間)の半分に相当する6か月間もの期間を定めており、それ自体、試用期間の定めとしては、かなり長い部類に属する上、Y社は、日本語に堪能な韓国人証券アナリストとして即戦力となり得ることを期待し、Xを採用したものと認められるところ、Xがそのような意味で即戦力たり得るか否かは、一定の期間を限定して、個別銘柄等につきアナリストレポートを作成、提出させてみれば容易に判明する事柄であって、その判定に要する期間は、多くとも3か月間もあれば十分であると考えられる。そうだとすると本件試用期間の定めのうち本件雇用契約の締結時から3か月間を超える部分は、Xの従業員としての適格性を判断するのに必要かつ合理的な期間を超えるものと認められ、その意味で、上記労働契約期間の有する強行法規的雇用保障性に抵触するものといわざるを得ない。したがって、本件試用期間の定めは、少なくともXとの関係では、試用期間3か月間の限度で有効と認められ、Y社は、その期間に限り、Xに対し、留保解約権を行使し得るものというべきである

3 労契法17条1項は、民法628条が定める契約期間中の解除のうち、使用者が労働者に対して行う解除、すなわち解雇は、「やむを得ない事由」がある場合でなければ行うことができないと規定し(強行法規)、その立証責任が使用者にあることを明らかにしているが、上記期間の定めの雇用保障的意義に照らすと、上記「やむを得ない事由」とは、当然、期間の定めのない労働契約における解雇に必要とされる「客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当と認められる場合」(労契法16条)よりも厳格に解すべきであるから、上記労契法16条所定の要件に加え、「当該契約期間は雇用するという約束にもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」をいうものと解するのが相当である(菅野・234頁。ちなみに平成20・1・23基発0123004号)。

4 有期労働契約における留保解約権の行使は、使用者が、採用決定後の調査により、または試用中の勤務状況等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、①その者を引き続き当該企業に雇用しておくことが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であること(労契法16条。「要件①」)に加え、②雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由が存在するものと認められる場合(労契法17条。「要件②」)に限り適法(有効)となるものと解するのが相当である。

5 もっとも、このように留保解約権の行使が労契法17条1項の規制に服することになれば、事実上とはいえ試用期間中の解雇は殆ど認められないことになりかねず、Y社が主張するように、実質的に試用期間の定めを設けた意味が失われるようにもみえる。しかし、上記のとおり使用者が労働者に対して行う解除という点では、就業規則における規定も仕方いかんにかかわらず、留保解約権と普通解雇権との間には基本的に性質上の差違は認められないものと解され、そうだとすると労契法17条1項による解雇・解約制限に関しても両者を同等に扱うのが合理的であって、これに差違を設けることは適当ではなく、その意味で、留保解約権の行使に対しても、労働契約期間の雇用保障的意義の効果は及ぶものと解すべきである

いろいろと参考になる判断ですね。

有期雇用で、試用期間を設けた場合、留保解約権の行使が労契法17条1項の規制に服するか、という問題はおもしろいですね。

この事件の担当裁判官は、肯定していますね。

本件事案では、解雇は有効と判断されていますが、一般的には、留保解約権の行使に「やむを得ない事由」を要求するとなると、試用期間中の解雇は、ほとんど有効にできないことになってしまうという使用者側代理人の意見はそのとおりだと思います。

とはいえ、本件のように有効と判断されることもあるわけですので、どうなんでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇114(全国建設厚生年金基金事件)

おはようございます。

さて、今日は、通勤手当の不正受給を理由とする諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。

全国建設厚生年金基金事件(東京地裁平成25年1月25日・労判1070号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、①平成24年2月9日付け諭旨退職処分が無効であるとして、Y社に対し、(1)地位確認、(2)平成24年2月分の未払賃金、(3)平成24年以降の賞与などを請求した事案である。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は無効

【判例のポイント】

1 Xによる本件不正受給は、「就業上必要な届出事項について、基金を偽ったとき」(職員就業規則56条(4))として懲戒事由該当行為であると認められるが、他方において、①Y社は、Xの自宅からY社事務所までの通勤方法として平成8年申告経路に記載された通勤方法及びこれに基づく所要額(定期代)を合理的なものと認定した上で同額の通勤手当を支給していたものであり、本件不正受給によりXが受給してきた通勤手当額は、その範囲内に収まっていること、②Y社においては、通勤手当が認定された後は、基本的にその支給継続に当たって特段の審査がされることがなく、本件不正受給のように、認定された通勤手当に係る定期券等を実際には購入していなくても通勤手当を受給し続けることができる状況にあったことや、職員が習い事のために迂回する経路であってもY社の裁量によって通勤手当の支給経路として認定されることがあることが認められ、このことからすれば、Y社内においては、本件不正受給当時、通勤のために真に合理的かつ必要な限度でのみ通勤手当を認めた上で、その支給の合理性の維持につきこれを厳守するという企業秩序が十分に形成されていたとは言い難いこと、③Y社において、①のとおり平成8年申告経路に記載された通勤方法及びこれに基づく所要額(定期代)を合理的なものと認定していたことのほか・・・本件不正受給によって、Y社が通常合理的な金額として認めない程の高額の通勤手当の支給を余儀なくされたという関係には立たない上、Y社らの主張を前提としても、本件不正受給による差額は、6か月当たり2万5330円、定期券購入時期につき平成21年4月から平成23年10月までととらえると合計15万1980円に過ぎないこと、以上からすれば、本件不正受給に対し、職員としての身分を剥奪する程の重大な懲戒処分をもって臨むことは、Y社における企業秩序維持の制裁として重きに過ぎるといわざるを得ない。

2 これに対し、Y社は、平成24年2月2日以降のXの態度について、退職願を提出した同月9日を除き、通勤手当の不正受給に関して虚偽の説明を繰り返して自己を正当化するばかりで反省の態度を示していなかったとして、そのことを本件処分の相当性を基礎付ける事情の一つとして主張する。
この点、確かに、・・・Xにおいて、本件不正受給の問題点と真摯に向き合った上で、反省する態度を示していたとは認められないというべきである。
しかしながら、他方において、・・・Y社のXに対する追及態度は、本件不正受給の具体的内容が明らかになっていない同月2日の段階から、厳しい処分になることを覚悟するようにとの趣旨を告げた上、同月8日の面談においても、当初の段階すなわち本件釈明書面等の提出前の段階では諭旨退職相当と考えたが、本件釈明書面等の提出を踏まえると懲戒解雇にせざるを得ない旨伝える等、発覚当初から本件不正受給が職員の身分剥奪を伴う懲戒処分相当事案であることを前面に出してXに接していたことが認められるのであって、これに対してXが、諭旨退職又は懲戒解雇処分を回避するために不自然、不合理な内容及び態度での弁解を一定程度継続したとしても、そのことをもって本件処分の相当性を基礎付ける事情として重視すべきではないと解される。加えて、Y社は、同月9日にXがそれまでの言動について反省の態度を示した上で自主退職の申出をした後に本件処分を断行しているのであって、このことからも、同月8日までのXの反省の態度の乏しさをもって本件処分の相当性を基礎付ける事情として重視すべきではない。

3 以上より、本件処分は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとして、無効というべきである。

相当性の要件でなんとかギリギリセーフという感じです。

会社側とすると、上記判例のポイント2の下線部については、参考になりますね。

このような評価がありうるということを知っておくことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇113(ボッシュ事件)

おはようございます。 

さて、今日は、執拗に内部通報メールを繰り返したこと等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ボッシュ事件(東京地裁平成25年3月26日・労判2179号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約関係にあったXが、Y社からの業務命令に反したことを理由に懲戒処分としての出勤停止処分を受け、その後解雇されたところ、同出勤停止処分及び解雇は、Xが内部告発(公益通報)を行ったことに対する報復であり、公益通報者保護法に違反するもので、いずれも無効ないし違法であるなどと主張して、Y社に対し、同出勤停止処分の無効確認請求、および出勤停止期間中の賃金の支払請求、雇用契約上の地位確認請求および解雇後の賃金、賞与請求、並びに不法行為に基づく損害賠償(慰謝料等)の請求をしたものである。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、平成23年初めころには、本件デジタルイラスト問題に関し、担当者に民事・刑事責任を問うことができないものであるという認識を有していたにもかかわらず、自らの法務室への異動希望を実現させるという個人的な目的のために、これを蒸し返し、同年7月22日には本件警告書による警告を受けたにもかかわらず、これに従うことなく、同月25日に、E社長に対し再度これを告発したと評価せざるを得ない。このように、Xは、自らの内部告発に理由がないことを知りつつ、かつ個人的目的実現のために通報を行ったものであって、Xが主張するように、社内のコンプライアンス維持のためにやむを得ない行為であったなどということはできないものであって、実質的に懲戒事由該当性がないということはできないし、かつ、公益通報者保護法2条にいう不正の目的に出た通報行為であると認めざるを得ない

2 確かに、同法の趣旨からして、事業者のコンプライアンスの増進という動機以外の動機が存すること自体をもって、その適用を否定するのは相当ではなく、かつ、再度の公益通報であること自体をもって、その適用を否定することは慎重であるべきである。
しかしながら、他方で、このような公益通報については、たとえ事業者内部における再度の通報であったとしても、多かれ少なかれ、その通報内容を理解、吟味し、ある程度の調査が必要になる場合もあるなど、相応の対応を要求されるものであって、業務の支障となる側面があることは否定できず、時に組織としての明確な意思決定を迫られることもあることからすれば、これが無制限に許されると解するのは相当ではない。したがって、少なくとも、本件のように、いったん是正勧告、関係者らに対する厳重注意という形で決着をみた通報内容について、長期間を経過した後に、専ら他の目的を実現するために再度通報するような場合において、これを「不正の目的」に出たものと認めることには、何ら問題がないというべきである

公益通報が絡む解雇や降格事案は、ときどきありますね。

公益通報者保護法では、「公益通報」を以下のとおり定義しています(2条1項)。

「公益通報」とは、労働者(労働基準法9条に規定する労働者をいう。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。)若しくは勧告等をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通用することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。)に通報することをいう。

この他、公益通報の通報対象事実を巡り、争いになることもあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。