解雇121(ヒタチ事件)

おはようございます。

さて、今日は配転命令拒否を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヒタチ事件(東京地裁平成25年3月6日・労経速2186号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が解雇されたXが、解雇が無効であるとして、労働契約上の地位の確認とバックペイの支払を求め、また、配転打診から始まるY社の一方的な振る舞いは、重い持病で苦しむXが安心して主治医のもとで療養を受ける環境を破壊するものであり、これにより精神的損害を被ったとして慰謝料300万円の支払を求め、さらに、Y社の対応によってXは源泉徴収票を受領することができなかった慰謝料として300万円の支払を求めたもの(本訴事案)と、Y社が、Xに対し、従業員の社宅として転貸借としている建物について、解雇によってXが従業員としての地位及び転借権を失ったものとして、本件建物の明渡しと、解雇日以後の賃料相当額の不当利得返還を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効
→Xの請求はいずれも棄却

Xに対し、社宅明け渡しまでの賃料相当額の支払を命じた

【判例のポイント】

1 ・・・ところで、Xは、うつ病で医療機関に継続的に通院していることが認められる。確かに、うつ病患者が信頼関係を醸成している精神科に継続的に通院する必要性はそれなりに尊重されるべきといえる。また、生活状況が変わることによって、うつ病を患っているXに社会生活上の支障が生じうる可能性も認められる。しかしながら、本件配転命令は、大宮営業所への配転(埼玉県大宮市所在)であり、他の医療機関への転院は避けられないとしても、医療機関への通院自体が困難な地域とは言い難い。また、本件配転命令は避けることができないところ、かかる業務上の必要性に比べれば、Xに生じる社会生活上の不利益は、受忍すべき限度内にあるといえる

2 Xは、過去に種々のトラブルを発生させていることが認められる。Xの多くのトラブルに共通してみられる点は、Xが自己の言動の正当性に過剰なまでに拘泥し、相手方が非を認めXに謝罪しているようなトラブル、摩擦であったとしても、時に社外関係者をも巻き込んだトラブルに発展させるといった点である。
Xの起こしてきたトラブル、摩擦に対して、Y社は、Xに対する教育指導を行ったり、業務内容を変更したり、Xへの対応方法を配慮するなど、様々な措置をとり、また配慮を行って、Xの就労の機会を確保してきたといえる。また、Y社は、Xに対し、直ちに懲戒解雇や諭旨解雇を行うのではなく、教育指導や譴責などの処分を行い、Xに対し、反省改善を促しているところでもあるが、Xの問題の根本的な解決には至っていない
そして、本件配転命令は、Xの就労の機会を確保するために高度の必要性が認められ有効なものであるが、Xは、不当にこれを拒否し、本件配転命令に従わなかったものである。
以上からすると、Y社は、Xの配転命令違反を受け、Xの過去の勤務態度等を併せて考慮した結果、Y社における勤務継続は、もはや不可能と判断し、Y社就業規則87条3号の懲戒事由に該当するとしてXを諭旨解雇としたものであり、本件解雇は、客観的に合理的な理由があるといえ、解雇という選択肢をとったことについても社会通念上相当な措置であるといえる

3 本件解雇は有効である。そして、本件建物は、社宅すなわち本件労働契約の存続を前提として、Y社アXに転貸して居住させていたものであるところ、本件解雇によって転貸借契約の前提となる本件労働契約は終了し、Xは本件建物に住み続ける法的根拠を失った。したがって、XはY社に対し、本件建物を明け渡さなければならない

配転命令が解雇回避の手段として用いられたことがむしろ評価されています。

一般的に配転命令の有効性を判断する上で考慮される「通常甘受すべき程度の不利益」は、かなり緩く判断されます。今回も肯定されていますね。

また、判例のポイント3は、労働者側が解雇を争う場合に注意しなければいけないポイントです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。