Daily Archives: 2013年10月17日

解雇120(三郡福祉会(虹ヶ丘学園・損害賠償)事件

おはようございます。

さて、今日は、廃園を理由に職員らを解雇した理事長等に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

三郡福祉会(虹ヶ丘学園・損害賠償)事件(福岡地裁飯塚支部平成25年3月27日・労判1074号18頁)

【事案の概要】

本件は、知的障害者通所授産施設虹ヶ丘学園で勤務していたXらが、本件学園を経営していた社会福祉法人三郡福祉会の理事長であったA、同会理事であったB、C及びD並びに本件学園の保護者会会長であったEに対して、同人らが、もっぱらXらを解雇するために、本件学園の利用者らに虚偽の説明をして、本件学園と次年度の契約を締結しない旨の署名を徴収し、本件学園を廃園としてXらを解雇したことが解雇権の濫用に該当するとし、かかる事情を承知しつつ適切な指導を行わず、Xらの解雇を助長した福岡県も同様に責任を負うとして、各被告らに不法行為による損害賠償を求めた事案である。

なお、Xらの請求は、Xら主張の総損害額(X1につき合計約6900万円、X2につき合計約3560万円、X3につき合計約5720万円)に対する各一部請求である。

【裁判所の判断】

A、B、C、D及びEは、連帯して、X1に対し約260万円を、X2に対し約360万、X3に対し約250万円を支払え。

福岡県に対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 Eが、他の理事らと協議のうえ、本件組合を兵糧攻めにすることを企図し、利用者24名のうち23名から翌年度の支援契約を結ばないことを記した申出書を取り付けて、三郡福祉会の経営が困難である外形を作出したうえで施設を閉鎖することを決定し、本件組合に所属するXらを含む職員を年度末をもって解雇したことにつき、本件申出書の作成はXらを退職させるか、本件組合から脱退させるという目的のために綿密に連携してなされた行動の一部と評価できるものであるとされ、もっぱら前記の目的に基づき、Eおよび理事らが共謀して本件学園の廃園と本件解雇を行ったものと推認することができる。そして、かかる本件解雇を主導し、実施したE及び理事らの不法行為責任は免れないものというべきである。

2 社会福祉法は、福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉の推進等を図る手段として、社会福祉事業従事者の処遇、すなわち労働条件や労働環境等を改善することをもその趣旨及び目的としているが、これは、福祉サービスの利用者の利益の保護や地域における社会福祉の推進等という、より高次の目的達成のための手段にとどまるものであるから、これに対応して、社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等の改善に関し、所轄庁に付与されている権限も、指導及び助言にとどまり、不当労働行為の存否や解雇の有効性等の個別の労働問題について公権的に介入する権限までは付与されていない。
そうすると、被告県に社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等に配慮する義務があるとしても、その内容・程度は相当に限定的なものといわざるを得ず、被告県が、社会福祉法人の労働条件や労働環境等に問題があることを認識しながら、社会福祉法91条に基づく指導又は助言を行うことなく放置し、かえって問題状況を容認しこれを助長する処分を行うがごとき特段の事情がない限り、同義務に違反することを理由として、被告県の行為が不法行為を構成することはないと解される。

3 Xらは、未払賃金相当額の逸失利益として、それぞれの定年までの就労継続を前提とする得べかりし賃金等の請求をしているものの、本件解雇がなかったとしても、Xらの定年まで三郡福祉会が事業を継続し、かつ、Xらが定年まで三郡福祉会で勤務を続けるという高度の蓋然性が認められるものではない。他方、本件学園は定員割れの状況であったものの、支援費の支給が期待できることなども考慮すれば、E会長及び理事らによる本件学園の廃園及び本件解雇がなければ、最低でも1年は本件学園の事業の継続は可能であり、かつ、Xらが本件学園で勤務を継続することも確実であったと考えられ、また、本件解雇後、通常再就職に要する期間としても、長くとも1年程度と考えられることなどに照らせば、不法行為と相当因果関係の認められる損害の範囲としては、1年分の給与相当額を限度とするのが相当である
また、本件解雇による財産的損害として、相当期間の未払賃金相当額が認められる本件においては、さらに、精神的損害である慰謝料を認めるのは相当ではない。
さらに、Xらは、仮処分により三郡福祉会から賃金請求権の一部の支払を受けているところ、後の本案訴訟の確定判決を得て、支払の効果が確定している。したがって、Xらの損害賠償請求権と実質的に競合する前記賃金請求権の回収分については、Xらに損害が発生していないというべきであるから、これを前記の1年分の給与等相当額損害額から控除すべきものである。

非常に珍しいタイプの解雇事案ですね。

立証のハードルが通常の解雇事案よりも数段高いことは容易に理解できます。

学園が廃園している以上、学園を被告としても回収できないため、不法行為構成とし、被告を法人ではなく理事等にしたわけです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。