Category Archives: 賃金

賃金210(独立行政法人国立病院機構事件)

おはようございます。

今日は、相殺無効に基づく未払退職手当等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

独立行政法人国立病院機構事件(東京地裁令和2年10月28日・労判ジャーナル108号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に医師として雇用されていたXが、Y社に対し、退職手当を対象とする相殺は労基法24条1項に違反するなどと主張して、退職手当未払分2498万5928円+遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労基法24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合においては、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは,その同意を得てした相殺は同規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である(最高裁平成2年11月26日第二小法廷判決)。

2 a医療センターの院長の地位にあったXが、本件差押命令に基づく支払を停止したことにより、Y社は、別件取立訴訟を提起され、本来Xが負担すべきである約1425万円もの多額の金銭の支払いを余儀なくされたことから、A理事長は、本件面談の際に、Xに対し、返済方法について質問したところ、Xが、一括での返済が不可能であるためY社から色々と提案して欲しいなどと述べたのに対し、A理事長は、丁寧な口調で本件退職手当から控除する旨提案し、Xは、特段、躊躇したり、質問したりすることなく、これに応じ、本件合意書に署名押印しているのであって、本件合意書の作成過程において、強要にわたるような事情はうかがえない
また、本件相殺合意をすることは、Xとしても、定年退職までの約9か月間、Y社に対する支払いを猶予してもらえるという利点があるし、返済の有無及び方法はXに対する懲戒処分の軽重に影響しうる事情であると考えられるのであるから、本件相殺合意をすることが、Xの一方的な不利益になるということもできない
さらに、本件合意書においては、本件退職手当から法定控除及び差押命令に基づく弁済額の合計額を差し引いた残額を相殺の対象とすることが明示されているなど、合意の内容に不明確なところはない。
以上によれば、本件相殺合意は、Xの同意を得てなされたものであり、その同意は、Xの自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していたものというべきである。

原告が争う動機がよくわかりませんが、判決の内容からすれば、相殺合意は優に認められると思います。

本件のようなケースも、事前に顧問弁護士に相談して慎重に進めることが大切です。

 

賃金209(東雲事件)

おはようございます。

今日は、警備員の待機時間の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

東雲事件(大阪地裁令和2年12月22日・労判ジャーナル109号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として警備業務に従事していたXが、Y社に対し、①未払の割増賃金として、別紙原告金額シートの「割増賃金未払額」欄記載の額の合計697万3488円+遅延損害金の支払、②労働基準法114条に基づく付加金として697万3488円+遅延損害金の支払、③Y社がXから修繕費名目で差し引いたことが無効であるとして、未払賃金請求、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として60万3186円+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、289万1450円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金289万1450円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、60万3186円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 原告を含む各警備員は,報告書の作成のほかは,被告から待機時間中に行うべき特段の業務を指示されておらず,交通事故,倒木等が発生するなどの連絡を受けた場合には現場に向かうこととなっていたものの,午後11時30分から午前5時までの5時間30分の仮眠時間において実際に業務に従事することはほとんどなく,私服に着替えて仮眠を取っており,午後零時30分から午後4時まで及び午後6時30分から午後8時までの合計5時間の待機時間中についても,連絡を受けることは月1回程度しかなく,各警備員は,食事を取ったり,新聞を読んだりするなどして過ごしていたものであって,これらの事情によれば,午後11時30分から午前5時までの仮眠時間帯だけでなく,午後零時30分から午後4時まで及び午後6時30分から午後8時までの合計5時間の待機時間帯についても,労働から解放されており,基本的に休憩時間とみるのが相当である。

2 本件全証拠によっても,平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間において,原告が午後11時30分から午前5時までの仮眠時間帯に作業に従事したことを認めるに足りる証拠はない。一方で,原告は,午後零時30分から午後4時まで及び午後6時30分から午後8時までの合計5時間の待機時間帯において,報告書の作成に加え,他の警備員作成のものを含めて報告書の整理を行っていたほか,月1回程度は連絡を受けて対応に当たっていたものであり,これらの事情によれば,原告は,平均して1日1時間の限度で,労務に従事していたものと推認するのが相当であって,この認定を左右するに足りる他の証拠はない。なお,始業時刻である午前8時30分から午前9時までは制服への着替え等の準備作業を,終業時刻が午後5時30分である場合の午後4時から午後5時30分までの間は巡回作業の一部や片づけ等の作業を,終業時刻が午前8時30分である場合の午前8時から午前8時30分までの間は片づけ等の作業を,それぞれ行っていたものと推認されるから,これらの時間帯は労働時間に当たるというべきである。

警備員の仮眠時間の労働時間性についてはよく裁判で争点となるところです。

労働からの解放を判断する上で、当該時間中の呼び出し頻度が重要な考慮要素となります。

拘束時間の長い職種のため、事前に適切に労務管理をしていないと支払金額が高額になるのが特徴です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが最も重要です。   

賃金208(ヤマトボックスチャーター事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、インセンティブの賃金該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマトボックスチャーター事件(東京地裁令和2年11月26日・労判ジャーナル109号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、基本給及びインセンティブという各名目の賃金の支給を受けていたXが、Y社に対し、最低賃金法4条2項の最低賃金の規制対象となる賃金は基本給のみであり、その額は最低賃金額を下回っていたと主張して、平成28年3月分から同年7月分までに関しては、不法行為に基づく損害賠償金として、最低賃金額を前提に計算した本来支給されるべき賃金額と実際に支給された賃金額との差額相当額等の支払を求め、同年8月分から平成29年4月分までに関しては、労働契約に基づく賃金として同様に計算した差額等の支払を求めた。

原判決は、基本給のみならずインセンティブも最低賃金の規制対象となる賃金に含まれており、その額を含めると労働契約の賃金は最低賃金額を下回っていなかったと判断し、Xの請求をいずれも棄却した。

Xはこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 インセンティブは、労働者の人事考課及び勤務地、又は、労働者の所属する支店及び労働者個人の実績などに基づき、所定の計算方法に従って支給される賃金であり、Xに対しては、営業担当奨励金はXが勤務した全期間の毎月において、営業担当インセンティブは最初の月を除いた全ての月において、それぞれ恒常的に支給されていたものであって、支給根拠の面からも支給実態の面からも、これが「臨時に支払われる賃金」であると評価することはできず、Xは、インセンティブが0円となる可能性を指摘しており、確かに、インセンティブのうち営業担当インセンティブについては、その計算方法をみれば、一定の場合には不支給となる可能性もあり得るといえるが、支給実態をみれば、Xについて、この可能性が現実化し、営業担当インセンティブが不支給となった月は最初の1か月のみであり、稀に支給されるという状況にあったとはいえず、営業担当インセンティブが「臨時に支払われる賃金」に当たるものとは認められず、基本給とともに最低賃金の規制対象となる賃金に含まれることとなり、本件契約のインセンティブをそれぞれ時間給に換算した金額及び基本給の金額の合計額は、最低賃金額を下回るものでない。

「臨時に支払われる賃金」に該当すれば基礎賃金に算入する必要がなくなります。

非常にテクニカルな手法ですので、興味がある方は顧問弁護士にご相談ください。

決して素人判断でなんとなくやるのは避けましょう。

賃金207(公認会計士・税理士半沢事務所事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、固定残業代と労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

公認会計士・税理士半沢事務所事件(東京地裁令和2年3月27日・労判ジャーナル103号90頁)

【事案の概要】

本件は、Y事務所との間で労働契約を締結していた元従業員Xが、いわゆる法内残業や法定時間外労働等を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金請求として、約104万円等の未払割増賃金等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金請求として約69万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 他の従業員の補助業務を主に担当していたXは、最寄り駅に集合するよう先輩従業員から指示されていたのであるから、集合時間後は、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができ、Aへの訪問後に本件事務所に戻って業務を行った旨主張するが、Xは、翌日のBでの業務に利用する荷物をキャリーバックに詰めるために本件事務所に戻ったというのであり、このような行動を取ることについてXがY事務所から明示又は黙示の指示を受けたことを認めるに足りる証拠はなく、Xの上記行動は、X自らの判断で行った行動であるから、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、Aでの業務が終了した時点で使用者の指揮命令下から離脱したものと認めるのが相当であり、また、補助業務を行っていたXは、業務を指示していた先輩従業員の指示により休日出勤を行っているから、使用者の指揮命令下にあったものと認めるのが相当である。

2 本契約書上も給与明細上も、固定残業代である営業手当とそれ以外の給与費目及び金額が明示的に区分されて記載されていることからすれば、通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能といえ、また、Y事務所主張の賃金単価とXに支払われた営業手当から算出される計算上の時間外労働時間数は、Y事務所の想定と実際との乖離は大きくないものと評価でき、そして、Y事務所は、2回目の面談の際、Xに対して営業手当を含む給与待遇や残業に関する説明を行ったものと認められるところ、36協定が締結されておらず、時間外労働が違法であるとしても、使用者は割増賃金の支払義務を免れるものではないから、これにより固定残業代を支払う合意が無効となるとは解されないから、本件契約書の記載内容、本件契約締結に至る経緯及び本件契約締結後の状況を考慮すると、営業手当は、割増賃金の対価としての性質を有するものと認められ、また、上記のとおり通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能であるから、営業手当は、固定残業代といえる

36協定を締結していない場合、労基法違反になりますが、上記のとおり、その事実をもって固定残業制度が無効とは判断されません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金206(パーソルテンプスタッフ事件)

おはようございます。

今日は、賃金計算において電車遅延時の遅延分や業務中の通院時間を非控除とした扱いの廃止が認められた裁判例を見てみましょう。

パーソルテンプスタッフ事件(東京地裁令和2年6月19日・労経速2429号45頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、(1)Y社が、電車が遅延した際に遅刻した時間分の賃金を控除しない扱い(以下「遅延非控除」という。)をする労使慣行を変更して、平成30年7月以降、遅刻した時間分を賃金から控除する扱いとしたこと(以下「本件変更①」という。)について、その無効の確認を求め、(2)Y社が、就業時間中の通院について通院時間分の賃金の一定額を控除しない扱い(以下「通院非控除」という。)をする旨の賃金規程の規定を削除して、同月以降、通院時間分を賃金から控除する扱いに変更したこと(以下「本件変更②」という。)について、その無効の確認を求め、(3)本件変更①及び②の対象となるY社の全従業員に対する、これらの変更が不法行為による不利益変更であった旨の説明及び謝罪と、Y社の費用負担での就業規則等の回復等を求め、(4)Y社が同年1月から人事考課の評価項目を変更したこと(以下「本件変更③」という。)に関して、Xが、無期転換雇用後も含めて、グラフィックデザイン・DTPに関する業務(以下「本件業務」という。)を行う職種限定の技術社員としての雇用契約上の地位の確認を求め、(5)Xが平成31年4月25日以降、基本給として24万9340円の支払を受けることができる地位にあることの確認を求め、適正な人事考課に基づき昇給が行われたことを前提として、同日以降毎月25日限り各月の給与の昇給額分7140円,令和元年6月20日以降毎年12月20日及び6月20日限り同様の賞与の昇給額分7140円+遅延損害金、(6)今後の雇用契約に関して、労働基準法15条並びに労働契約法3条及び4条に基づき、上記(4)及び(5)の地位にあることが明記された雇用契約書を取り交わすことを求めるものと解される事案である。

【裁判所の判断】

本件訴えのうち、就業規則の対象となるXを含む全ての従業員に対し、Y社による不法行為による不利益変更であった説明及び謝罪、就業規則及び人事システム等の回復及び変更に関する役務の提供並びにこれに係る費用負担を求める部分、無期転換雇用後も含めてグラフィックデザイン・DTPに関する業務を行う職種限定の技術社員としての雇用契約である地位の確認を求める部分、平成31年4月25日から24万9340円を基本給として被告から賃金の支給を受ける地位にあることの確認を求める部分、本件口頭弁論終結日の翌日以降毎月25日限り7140円、毎年12月20日及び6月20日限り7140円+遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件変更②は、就業規則の一部である賃金規程の変更により原告の労働条件を変更するものであるから、本件変更②が有効であるためには、労働契約法10条の要件を満たす必要がある。
そこで検討すると、Y社は、本件変更②を行うに際して、Y社の従業員に対し、本件変更②の説明資料を配布するなどして説明を行った上で、本件変更②を反映した賃金規程をY社のイントラネットで公開し、Y社の従業員が事務所からアクセスして知り得る状態に置き、また、従業員からの求めがあれば、賃金規程を送付するなどしていたのであって、同賃金規程はY社の従業員に周知されていたといえる。
そして、通院非控除については、本来は支払われない通院した時間分の賃金を通院という事情に鑑みY社の従業員に有利に恩恵的に支払ってきた扱いであると推測されるところ、通院非控除を廃止することは、本来的な賃金の支払のあり方に変更するものにすぎない。また、Y社の従業員数と通院非控除の適用回数の実績からすれば、平成29年及び平成30年では、それぞれ最も従業員数が少ない月の従業員数を前提としても、従業員1人に対し遅延非控除が適用されるのは、全従業員でも、Xと同じJC職の従業員でも、せいぜい年1回程度にすぎず、しかも、通院非控除自体、1日の所定労働時間の3分の1まで、賃金計算期間内の回数にして5回、時間にして5時間未満までというごく限定された範囲内で賃金を控除しない扱いであって、本件変更②によりY社の従業員に与える影響は相当程度小さいものといえる。
そして、本件変更②は、Y社のグループ会社内の人事制度を統一するために行われたものであり、これがY社及びそのグループ会社の間の事務処理の効率化に資することは明らかであるから、本件変更②を行う必要があり、また、その当時、Y社のグループ会社の中で、通院非控除が存在した会社の方が相当少数であったから、通院非控除を廃止する方向で統一することも相当であったといえる。
また、Y社には労働組合が存在しないところ、Y社は、本件変更②についても、各事業所の職場代表者の意見を聴取しているが、反対する意見はなかった
その他、Y社は、上記の本件変更②による不利益の程度にもかかわらず、2年間にわたり遅延非控除を適用する経過措置を設けて、その不利益の緩和を図っている
以上によれば、Y社は、本件変更②について従業員に周知している上、本件変更②についてはY社のグループ会社間の人事制度の統一に伴う必要性及び相当性があり、また、本件変更②による不利益は相当程度小さく、経過措置によりその不利益も更に緩和され、職場代表者の意見聴取も行われていることからすれば、本件変更②は合理的であり、有効であるというべきである。

模範解答のような準備のしかたです。ここまでしっかりやれば危なげないですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金205(サン・サービス事件)

おはようございます。

今日は、固定残業代制度の有効性と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

サン・サービス事件(名古屋高裁令和2年2月27日・労判1224号42頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、未払残業代、未払い給与、②付加金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、577万4788円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金370万4451円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、料理長としての仕事のみならず、フロント業務の一部や客の送迎をも行っていたこと、本件店舗を含むホテル内には従業員の休憩施設がないことなどに照らすと、Xが調理等に従事していない時間があったとしても、それは勤務から完全に解放された休憩時間ではなく、手待ち時間とみるのが相当である。

2 労基法37条5項により割増賃金の基礎から除外される通勤費は、労働者の通勤距離又は通勤に要する実際費用に応じて算定される手当と解される。本件提案書によれば、Xに支給される通勤費は、日額625円として月額1万5000円が支給されることになっているところ、本件提案書作成時、Xは千葉県に居住しており、勤務開始後の実際の通勤距離や通勤に要する実際費用に応じて定められたものとは認められず、労基法37条5項の通勤手当に当たるとは認められない

3 Y社は、XとY社間の雇用契約書である本件提案書に、「勤務時間」として「6時30分~22時00分」と記載し、「休憩時間は現場内にて調整してください。」としていた上、勤務時間管理を適切に行っていたとは認められず、Xは、平成27年6月から平成28年1月まで、毎月120時間を超える時間外労働等をしており、同年2月も85時間の時間外労働等をしていたことが認められる。その上、Y社は、担当の従業員が毎月Xのタイムカードをチェックしていたが、Xに対し、実際の時間外労働等に見合った割増賃金(残業代)を支払っていない。
そうすると、本件職務手当は、これを割増賃金(固定残業代)とみると、約80時間分の割増賃金(残業代)に相当するにすぎず、実際の時間外労働等と大きくかい離しているものと認められるのであって、到底、時間外労働等に対する対価とは認めることができず、また、本件店舗を含む事業場で36協定が締結されておらず、時間外労働等を命ずる根拠を欠いていることなどにも鑑み、本件職務手当は、割増賃金の基礎となる賃金から除外されないというべきである

仕事柄、労働時間が長くなってしまうことは容易に想像できますが、労務管理の基本を押さえていなかったがために、ちゃんとやっていれば支払う必要のない支出を強いられることになります。

事前に顧問弁護士の指導を受けておけば多くの類似トラブルは回避できます。

賃金204(H事務所事件)

おはようございます。

今日は、営業手当を固定残業代の支払として有効と判断された裁判例を見てみましょう。

H事務所事件(東京地裁令和2年3月27日・労経速2423号39頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、いわゆる法内残業や法定時間外労働等を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金請求として、103万9522円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づく付加金請求として68万9837円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、2万0278円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件契約書には、第3条において「残業について」とのタイトルで、本件事務所が担当制をとっており、従業員が顧問先に巡回監査に出かけ、顧問先のニーズに答えるシステムになっていることを理由に、残業代相当額が固定給のうち営業手当として支払われる旨が明記されているところ、同条の文言について一般的な労働者の通常の注意と読み方をすれば、顧問先のニーズに答える巡回監査を業務として行う結果、残業が生じることがあるため、残業代を営業手当として支給するものと理解するのが自然である。
Xがこれまでに複数の業務に従事した経験を有しており、かつ、行政書士や宅地建物取引主任者といった契約に関わる資格を有していることからすれば、Xが本件契約書を上記意味内容とは異なる内容として理解したものとは考え難い。そして、本件契約書上も給与明細上も、固定残業代である営業手当とそれ以外の給与費目及び金額が明示的に区分されて記載されていることからすれば、通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能といえる。

2 また、Y社主張の賃金単価とXに支払われた営業手当から算出される計算上の時間外労働時間数は約42時間から46時間であって、試用期間中がおおむね45時間、正職員がおおむね50時間を想定していたとするY社の供述と大きく乖離するものではなく、また、Xが本件訴訟において割増賃金を請求する10か月のうち、上記想定時間外労働時間数を超える時間外労働を行っているのが3か月であることからして、被告の想定と実際との乖離は大きくないものと評価できる

3 本件における当事者双方の主張内容、上記認定判断及びその結果としての現時点での未払割増賃金の額に加え、前提事実のとおり、Y社が未払割増賃金の大部分の任意弁済を行っていることからすれば、本件において付加金の支払を命じる必要性はない。

本件では、固定残業制度が認められています。上記判例のポイント1、2の判断内容は参考になりますので確認しておきましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金203(日本エイ・ティー・エム事件)

おはようございます。

今日は、有給休暇取得時に支払う「通常の賃金」が争われた裁判例を見てみましょう。

日本エイ・ティー・エム事件(東京地裁令和2年2月19日・労経速2420号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある雇用契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、①年次有給休暇を取得した際に支払われるべき賃金に未払いがある旨主張して、雇用契約に基づく賃金支払請求として、合計9万0952円+遅延損害金の支払、②Xが東京労働局にY社の職場環境について相談したことに対する報復として、Y社が不当にXの勤務評価を低下させ、短期間の契約を提案し、退職に追い込んだことは不法行為に当たる旨主張して、損害賠償金165万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、2万3400円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 シフト勤務手当は、午前12時00分から午後2時59分の間に出勤し、7時間45分以上の勤務実績がある場合に、1回当たり900円が支払われるものであることが認められる。そして、Xの労働時間についての勤務条件は、始業時刻が午後1時50分、終業時刻が午後10時50分、休憩時間が1時間であり、1日の所定労働時間は8時間であることが認められるから、Xが出勤し、所定労働時間勤務した場合には、必ずシフト勤務手当の900円が支払われるといえる。
そうすると、シフト勤務手当は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金に当たると解するのが相当であるから、契約社員就業規則34条が、年次有給休暇を取得した場合の賃金について、シフトに係る手当は含まない旨規定している部分は労基法に反し、XとY社との間の労働契約の内容を規律する効力を有しないと解される(労働契約法13条)。

2 日曜・祝日勤務手当は、7時間45分以上の勤務実績がある場合に、1回当たり2800円が支払われるものであることが認められる。これは、日曜日及び祝日への出勤に対し一定額の補償をするとともに、日曜日及び祝日に出勤する労働者を確保する趣旨であると解されるところ、日曜・祝日という特定の日に出勤した実績があって初めて支給されるものであるといえる。日曜・祝日に年次有給休暇を取得した場合,当該休日に出勤した事実はないのであるから、日曜・祝日勤務手当は、その際に支払われるべき所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金には当たらないと解される。

3 Y社においては、7時間45分以上勤務した場合、時間外手当として1時間当たりの単価を時給×1.3とし、午後10時から午前5時までの間に勤務した場合に深夜手当として1時間当たりの単価を時給×1.3として支払うとされていることが認められるところ、時間外労働及び深夜労働に対して割増賃金を支払う趣旨は、時間外労働が通常の労働時間に付加された特別の労働であり、深夜労働も時間帯の点で特別の負担を伴う労働であることから、それらの負担に対する一定額の補償をすることにあると解される。年次有給休暇を取得した場合、実際にはそのような負担は発生していないことからすれば、年次有給休暇を取得した場合に、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金としては,割増賃金は含まれず,所定労働時間分の基本賃金が支払われれば足りると解される。

弁護士費用との関係では、費用対効果が悩ましい事案です。

細かい論点ではありますが、日常の実務においては参考になる裁判例です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金202(野村不動産アーバンネット事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、営業成績給を廃止する就業規則の変更の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

野村不動産アーバンネット事件(東京地裁令和2年2月26日・労経速2427号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、本件労働契約に基づき営業担当従業員としてY社に勤務している従業員Xが、平成29年4月1日に施行されたY社の就業規則及び給与規程は、従前の給与体系において支給されていた営業成績給を廃止する点において労働条件の不利益変更に当たり、かつ、当該変更が合理的なものであるとはいえないから、本件労働契約の内容とはならないなどと主張して、Y社に対し、本件労働契約に基づき、変更前の従前の給与体系に従って算出した同年6月支給分から平成30年6月支給分までの営業成績給の合計約172万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件就業規則の変更の有効性について、Y社において本件就業規則の変更は、営業職Aの職務にあったXには、少なくとも月例賃金で支給されていた営業成績給が支給されなくなるのであるから、本件就業規則の変更により不利益が生じる可能性があるということができるところ、本件人事制度の導入直後の不利益は、将来にわたって固定化されるものではなく、今後の昇進等により減少ないし消滅し得るものであるということができ、Y社が従業員の定着率を上げるために営業成績給を廃止し、それを月例賃金や賞与等の原資とし、支給額が安定的な給与制度を導入する必要があったことは否定し難いから、本件就業規則は、従業員に対する賃金の総原資を減少させるものではなく、賃金額決定の仕組みや配分方法を変更するものであり、従業員の定着率を上げるというY社の人事計画とも合致するものであるから、本件就業規則の変更について、その内容も相当なものであるということができ、Y社は、従業員に対して必要とされる最低限の説明は行っており、従業員の過半数代表者から異議がない旨の意見も聴取していることが認められ、労働者の受ける不利益の程度を考慮してもなお、本件就業規則の変更は合理的なものであるということができ、本件就業規則の変更は周知されていたと認めることができるから、本件就業規則の変更による労働条件の変更は、有効である。

内容の合理性と手続きの相当性を総合考慮しているのがよくわかりますね。

コロナの影響がまだまだ続きそうですので、労働条件の不利益変更を行う場面が多いと思いますので、慎重に対応しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金201(木の花ホームほか1社事件)

おはようございます。

今日は、賃金減額等の有効性及び固定残業代の定めの適法性に関する裁判例を見てみましょう。

木の花ホームほか1社事件(宇都宮地裁令和2年2月19日・労判1225号57頁)

【事案の概要】

本件は、Y社及びその親会社A社の従業員であったXが、(1)Y社に対し、雇用契約に基づき、①一方的な給与減額により生じた未払賃金24万9999円及び②未払の時間外手当(割増賃金)859万6109円+遅延損害金、③労働基準法114条に基づく付加金836万8740円+遅延損害金の支払、(2)A社に対し、雇用契約に基づき、①一方的な給与減額により生じた未払賃金等127万9496円及び②未払の時間外手当(割増賃金)662万5869円+遅延損害金の支払、③労働基準法114条に基づく付加金648万6036円+遅延損害金の支払、そして、(3)Y社らに対し、Y社ら代表取締役らからパワハラ被害を受けたとして、共同不法行為に基づき、連帯して、損害賠償金520万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、未払賃金24万9999円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、未払賃金122万3496円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、割増賃金551万3847円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、割増賃金555万1406円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金265万4516円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、付加金271万1931円+遅延損害金を支払え

被告らは、Xに対し、連帯して、慰謝料100万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件各雇用契約の内容として本件固定残業代の定めがあることは事実としても、その運用次第では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる危険性の高い1か月当たり80時間程度を大幅に超過する長時間労働の温床ともなり得る危険性を有しているものというべきであるから、「実際には、長時間の時間外労働を恒常的に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情」が認められない限り、当該職務手当を1か月131時間14分相当の時間外労働等に対する賃金とする本件固定残業代の定めは、公序良俗に違反するものとして無効と解するのが相当である。

2 本件変形労働時間制の適用が認められるためには、労使協定、就業規則又は就業規則に準ずるものにおいて、変形労働時間制の実施を定め、その中で、①労働時間の総枠の定め、②変形期間における労働時間の特定、③変形期間の起算日を明示することが必要であると解されるところ、本件全証拠によっても、Y社らにおいては、ただ単にカレンダーが作成されているだけで、具体的にどの日に何時から何時まで勤務するということの取決め等があったものとは認められず、本件変形労働時間制は、上記②の要件を欠き適法性を欠くものというよりほかはない。
よって、Y社らの本件変形労働時間制に関する主張は、その余の点を検討するまでもなく理由がない。

3 賃確法6条2項、賃確法施行規則6条4号にいう「合理的な理由により」とは、裁判所又は労働委員会において事業主が確実かつ合理的な根拠資料に基づく場合だけでなく、合理的な理由がないとはいえない理由により賃金の全部又は一部の存否を争っている場合も含むものと解するのが相当である。
・・・Xが本件各給与減額により生じた各未払賃金の支払を求めたのに対し、Y社らがこれを当庁において争うことには「合理的な理由」がないとはいえないし、また、前記で検討したとおり、本件において実労働時間の認定根拠とされる本件サイボウズの記載には信用性に問題がある部分が認められることに照らすと、Y社らが当庁においてXからの本件割増賃金の請求を争うことには「合理的な理由」がないとはいえない。

最高裁判例により、固定残業制度の要件論については終息したかのように思えましたが、ここに来て、再び、過度な固定残業制度について無効と判断する裁判例が散見されます。

「やりすぎ注意」という一般論は、労務管理(に限りませんが)においては常に持っておく必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。