Category Archives: 配転・出向・転籍

配転・出向・転籍53 配転命令の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、配転命令の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

摂津金属工業事件(大阪地裁令和5年3月31日・労判138号14頁)

【事案の概要】

本件は、平成元年にY社に雇用され、令和2年2月当時、大阪府守口市に所在する本社のシステム課に勤務していたXが、同年4月1日付けでC工場製造部製造一課配属検査担当としての勤務を命ずる旨の配転命令を受けたことにつき、Y社に対し、本件配転命令は、Xの職種をコンピューターの構築及び管理に限定する旨の労働契約上の合意に反し、又はY社の配転命令権を濫用するものであるから無効であるとして、C工場検査課に勤務する労働契約上の義務がないことの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、比較的業務量に余裕があり、今後は若手従業員の力も必要となってくる部署である本社システム課から、欠員補充が急務となっているC工場検査課にXを配置転換するために本件配転命令を発したのであって、本件配転命令には、その人選も含めて合理性があり、業務上の必要性が認められるというべきであり、また、本件配転命令が、Xを退職に追い込むような不当な動機・目的に基づくものであったとはいえず、そして、Y社は、Xの負担に配慮して、手当の支給に関する特別措置を講じているものであり、Xの妻であるNの治療に具体的な支障が生じているとの事実も認められないことにも鑑みれば、Nの健康状態の点に関し、本件配転命令により、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じたとはいえず、また、本件配転命令によりXの父であるPの介護等に影響が出るものではないこと、Y社がXの帰省費用を負担するなどして一定の配慮をしていること等を考慮すれば、Pの健康状態に関し、本件配転命令により、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じたとはいえないこと等から、本件配転命令がY社の配転命令権を濫用した無効なものであるとはいえない。

配偶者、子、両親等の健康問題等が存在する場合、本件同様、配転命令の要件である「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」の有無が問題となりますが、これまでの裁判例の傾向を見る限り、かなりシビアに判断されています。

微妙な事案において、配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

配転・出向・転籍52 配転命令拒否を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、配転命令拒否を理由とする解雇の有効性を見ていきましょう。

メガカリオン事件(東京地裁令和4年7月5日・労判ジャーナル133号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による配転命令及び解雇がいずれも無効であるなどと主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、未払賃金及び未払交通手当等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令、解雇無効

【判例のポイント】

1 本件配転命令の効力について、Y社の就業規則には、Y社は従業員に異動を命じることができるとの定めがある上、Xは、本件労働契約の締結に際し、「業務、職務、業務形態の変更、転勤等を命ぜられた場合はこれに従います」との条項のある誓約書を作成してY社に提出したものと認められるから、本件労働契約上、Y社は、Xに対して配転命令権を有するものと認められるところ、Y社は、配置転換の必要性として、Kセンターの廃止後、Y社の研究部門では、Xの就労を前提としない組織運営が定着していることを主張するが、Kセンターの廃止といっても、同センターで行われていた事業自体は継続され、XがKセンター長として担っていた本件業務を各事業部門の部門長らに分掌させたにすぎず、Xの就労を前提としない組織運営が長期化したのは、Y社がKセンターの廃止を理由にXの退職を一方的に推し進めた結果、前訴判決により退職合意の存在及び解雇の効力を否定されたことによるものであって、当該事由は配置転換の必要性として正当なものとはいい難いこと等から、本件配転命令はY社が使用者としての権利を濫用したものとして無効というべきである。

配転命令の必要性が認められなかった事案です。

この要件と表裏の関係になりますが、配転命令が不当な動機目的によってなされた場合も無効と判断されますのでご注意ください。

微妙な事案において、配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

配転・出向・転籍51 転勤を拒んだ総合職社員に、地域限定総合職との半年分の賃金差額返還を求める旨の請求が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、転勤を拒んだ総合職社員に、地域限定総合職との半年分の賃金差額返還を求める旨の請求が認められた事案を見ていきましょう。

ビジネスパートナー事件(東京地裁令和4年3月9日・労経速2489号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、その従業員であるXに対し、給与規定に基づき、支払済みの基本給の一部である12万円の返還+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件規定は、総合職として賃金の全額が支払われた後、転勤ができないことが発覚した場合に、就業規則の規定に従って、本来支払われるべきでなかった総合職と地域限定総合職の基本給の差額を半年分遡って返還させるというものであること、その金額も、月額2万円半年分で12万円)にとどまること、従業員としては、自身の転勤の可否について適時に正確に申告していれば、上記のような返還をしなければならない事態を避けることができることが認められる。
これらの事情に照らせば、本件規定は、労働者に過度の負担を強い、その経済生活を脅かす内容とまではいえず、前記賃金全額払いの原則の趣旨に反するとまではいえないから、実質的に同原則に反し無効であるということはできない。

2 Y社では、Y社グループ内における人員の適正配置の観点のほか、金融業という業種を踏まえて、不正を防止するとともに、ゼネラリストを育成するという観点から、Y社グループ内でジョブローテーションを行うこととしており、現に広く転勤を行っていること、従業員が自身のライフステージに合わせて職群を選択することで、転勤の範囲を自由に選択、変更できる人事制度を整備する一方、転勤可能者を確保する趣旨から、総合職と地域限定総合職との間に月額2万円の賃金差を設けていること、上記のような制度を前提として、従業員らに自らの転勤の可否について適時に正確な申告を促し、賃金差と転勤可能範囲に関する従業員間の公平を図る趣旨で、本件規定を設けていることが認められる。
そして、本件規定の内容については、Y社の側で当該従業員の転勤に支障が生じた時期や事情を客観的に確定するのが通常困難であることから、原則として、転勤に支障が生じた時期や事情にかかわらず、一律に半年分の賃金差額を返還させることとしており、仮に転勤に支障が生じた時期が半年以上前であっても、半年分を超える返還を求めていない
本件規定を含む上記のような人事制度は、従業員が自身のライフステージに合わせて職群を選択することができるなど、従業員にとってもメリットのある内容といえ、返還を求める金額や適時に正確な申告をしていれば返還を免れることができる点等に鑑みると、労働者に過度の負担を強いるものともいえず、一律に半年分の返還を求める趣旨についても前記のとおり合理的であるから、Y社の業種、経営方針等に照らして、合理的な内容というべきである。

わずか12万円の返還を求めるためにその数倍の弁護士費用を支払って訴訟を提起するわけですから、会社としても「お金の問題ではない」わけです。

最大12万円の返還という規定内容からしますと、はたして抑止力になるのか、個人的には疑問です。

制度の運用については顧問弁護士に相談しながら行うことをおすすめいたします。

配転・出向・転籍50 配転命令拒否を理由とする懲戒解雇の有効性

おはようございます。

今日は、配転命令拒否を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

NECソリューションイノベータ事件(大阪地裁令和3年11月29日・労経速2474号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、配転命令を拒否したことを理由として懲戒解雇されたことにつき、同懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の地位を有することの確認、同懲戒解雇後の賃金及び賞与並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めるとともに、多数の従業員の面前で懲戒解雇通知書を読み上げられたことが不法行為に当たるとして、民法709条に基づき損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 c社グループの時価総額は厳しい競争の中で大きく低下しており、平成28年度に策定した中期経営計画を翌年度である平成29年に撤回せざるを得ない状況にあったところ、そのような状況にあれば、経営状況を改善するために様々な方策を講じる必要性があるといえる。実際、c社グループにおいては、平成24年に特別転進支援施策を実施して人員削減を図るなどしており、同施策に応じて多数の従業員が応募するという状況にあった。
そして、c社グループがそのような状況にあることに照らせば、拠点(事業場)を集約して、組織の構造改革や業務の効率化を図ることも経営改善に向けて講じられる方策の一つであるということができる。
本件においては、統合オペレーションサービス事業部について、関西、北海道及び東海の三つの事業場を閉鎖し、東北、北陸、九州、沖縄及びh事業場の五つの事業場に集約されることとなったところ、閉鎖する事業場の選定において、不自然・不合理な事情は見受けられない
また、拠点集約に伴い、事業場を閉鎖することとした場合には、閉鎖される事業場に勤務していた従業員の処遇が問題となるところ、使用者としては、従業員の失業を可及的に回避するため、ほかの事業場への配転、出向、転職支援等の方策を検討することとなる。・・・閉鎖する事業場である関西・西日本オフィスに勤務していた従業員を、h事業場に配転するということは、業務の効率化や、閉鎖される事業場に勤務していた従業員の雇用の維持という観点からみても、合理的な方策であるということができる。
以上からすると、本件配転命令について、業務上の必要性があったということができる。

2 本件懲戒解雇は、Xが本件配転命令に応じなったことを理由とするものであるところ、本件配転命令が有効であることは前記で説示したとおりである。
そして、Y社の就業規則においては、業務上必要がある場合には、配転を命じることがあること、職務上の指示命令に反して職場の秩序を乱した場合には、懲戒解雇事由に該当するとされているところ、前記認定したとおりの経過を経て配転命令がなされたにもかかわらず、同命令に応じないという事態を放置することとなれば、企業秩序を維持することができないことは明らかである。
以上を総合考慮すれば、本件懲戒解雇は、客観的に合理性があり、かつ社会通念上も相当なものといえ、懲戒権の濫用に当たるということはできない。

リストラの一環として行われた配転命令が有効と判断され、当該配転命令に応じなかったことが懲戒解雇事由に該当すると判断されました。

リストラを進める場合には事前に顧問弁護士に相談し、正しく進めることをおすすめいたします。

配転・出向・転籍49 転居を伴う異動命令に保全の必要性が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、転居を伴う異動命令に保全の必要性が認められなかった事案を見ていきましょう。

学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム事件(福岡地裁小倉支部令和3年12月15日・労経速2473号13頁)

【事案の概要】

本件は、Q1市及びQ2市(Q1、Q2は転居を必要とする遠隔地に所在する)にそれぞれ学校を設置する学校法人であるY社が、Q1市所在の学校で勤務していたXに対し、Q2市所在の学校での勤務を命じたところ、Xが、同勤務命令が無効であると主張して、Q2市所在の学校で勤務すべき義務のないことを仮に定めるよう求めた事案である。

【裁判所の判断】

申立て却下

【判例のポイント】

1 Xは、Q1市内に自宅を保有しており、Q2市に転居することにより転居費用やQ2市での住居の賃料等、相応の費用が発生することが想定される。上記費用のうち、転居費用はY社から支給されるものの、Y社の住宅手当の規程に照らすと、住居の賃料の全額が支給されるとは限らないことから、本件配転命令に従って転居することによりある程度の経済的負担がXに生ずる可能性が高いと認められる。
しかしながら、Xは、毎月43万7409円の賃金を受領しており、本件配転命令に基づく異動の前後で賃金の受領額に変更はないのであるから、Xの世帯構成を勘案すると、上記経済的負担を賄えない特段の事情があるとは認められない
Xは、独身であることに加え、平成28年度以降、Bにおける授業を担当しておらず、令和4年度においても担当予定授業がなく、その他本件において、Q1市から転居できない特段の事情の疎明はない

2 以上からすると、転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えるものであることを考慮しても、本件配転命令に従ってQ2市において就労することにより、Xに著しい損害又は急迫の危険が生じるとはいえず、保全の必要性が認められない。

転居を伴う配転であったとしても、裁判所は、よほど不合理と認められる場合でなければ、基本的には会社の裁量を尊重します。

北海道から沖縄まで2~3年で配転している裁判官からすると、「まあ、そういうこともあるよね」という感じでしょうか。

転居を伴う配転命令の対応については顧問弁護士に相談しながら行うことをおすすめいたします。

配転・出向・転籍48 配転拒否後に解雇された事案における配転の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、配転拒否後解雇された事案における配転の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

インテリジェントヘルスケア(仮処分)事件(大阪地裁令和3年2月12日・労判1246号53頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社からの配転命令に応じなかったとして解雇(普通解雇)されたが、同解雇は無効であるとして、①労働契約上の地位を有する地位にあることを仮に定めること、②賃金の仮払い、③配転命令先に勤務する労働契約上の義務がないことを仮に定めることを求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
Y社は、Xに対し、令和3年2月から本案訴訟の第一審判決言渡しに至るまで、毎月25日限り、16万3000円を仮に支払え。

【判例のポイント】

1 債務者は、センターⅠにおいて、印鑑の不正所持という問題や、ケアマネージャーが、多数にわたって介護保険に定められたルールを逸脱して居宅サービス計画書の作成等を行っていたという重大な不正行為が発覚したことから、人員配置について見直すことを含めて対応策を検討していたもので、本件配転命令は同対応策として発令されたものである旨主張する。
しかし、確かに、ホロニクスグループにおいて、令和元年6月21日付けで、利用者の印鑑の使用に関する注意喚起が行われたことが認められるが、同注意喚起は、京都府八幡市社会福祉協議会職員のケアマネージャーによる行為についての新聞報道がなされたことを受けてのものであって、センターⅠにおいての問題が発覚したことを受けてのものではなく、ほかに、センターⅠにおいてY社が主張するような問題が発覚したことを客観的に裏付ける疎明資料もない。
また、仮に、Y社が主張するような問題が発生したため、Y社内部あるいはホロニクスグループ内部において検討がなされたり、行政への対応を行ったり、対応策の検討が行われたのであれば、そこには何らかの痕跡が残ることが想定されるが、本件において、Y社が、そのような検討、対応等を行ったことを客観的に裏付けるに足りる疎明資料はない
さらに、Y社あるいはホロニクスグループ内において、一般的な人事異動として、センターⅠとその余の施設の間において、定期的に人事異動が行われていたことを一応認めるに足りる疎明資料もない
そして、Xが、Y社に対し、就業規則の変更について問題視する内容のメールを送信しているところ、労働者の同意がなくても、就業規則を変更して1日の所定労働時間を延長したり、休日に関する定めを変更することが可能な場合もあるが(なお、Y社における就業規則の変更が有効か無効であるかは現時点では明らかではない。)、その点をさておき、Xが上記のようなメールを送信した約1か月後に本件配転命令が発令されたものである
以上を総合考慮すれば、本件配転命令は、業務上の必要性を理由として発令されたものと評価することはできず、ひいては、配転命令権の濫用として無効となるといわざるを得ない。
そうすると、本件配転命令に従わなかったことを理由とする本件解雇も無効となるから、本件においては、被保全権利が認められることとなる。

解雇理由を配転命令に従わなかったこととする場合には、当然、前提となる配転命令が有効である必要があります。

今回の事案では、配転命令に業務上の必要性が認められなかったため、無効と判断されています。

突発的な配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

配転・出向・転籍47 配転命令に従わない等の業務命令違反を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転命令に従わない等の業務命令違反を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

F-LINE事件(東京地裁令和3年2月17日・労判ジャーナル112号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社のXに対する平成31年1月1日付け配転命令及び同年3月1日付け懲戒解雇の意思表示は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位に在ることの確認を求めるとともに、労働契約に基づく賃金請求として、本件配転命令後の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

【判例のポイント】

1 本件において、Y社は平成30年3月5日、i社からXに対する対応を求められその後、XとD氏が接触しないよう調整するなどして対応し、その後も話し合いが続けられたが、i社の他の従業員の負担が重いことから、同年6月25日以降はi社においてD氏をc営業所の勤務から外し、i社のL係長においてD氏の業務を代替したが、L係長の負荷も重いことから、同年9月11日には、i社からY社に対し、状況の改善が見られないままではトラック5台体制の維持が難しく、4台体制とすることを考えてほしい旨の要望が出されるに至った。c営業所の○○輸送業務は、Y社のトラック4台とi社のトラック5台の9台体制で行われているところ、i社が5台体制から4台体制に縮小した場合には輸送業務に大きな影響が出ることになるが、○○輸送業務はタンクローリーによる特殊業務であり、特殊な作業手順があることから、スポット的に他社に代替を依頼することが困難であり、Y社としてはi社の業務縮小を避ける業務上の必要性があり、そのためにはXの勤務先を変更する必要性があったといえる。また、本件配転命令当時、d営業所には欠員が出ており、欠員を補充する必要もあった。
以上によれば、本件配転命令には、業務上の必要性があると認められる。
 
2 Xは、本件配転命令後、d営業所における初出勤日である平成31年1月9日に出勤することなく、同営業所のMマネージャーが電話で出勤を求めたのに対し、納得できないので業務命令には従わない旨回答し、同日以降、同年2月27日までは電話に出ることもなく、ショートメールによる連絡に対しても反応しなかった。また、Y社による同年1月15日、同月25日、同月29日及び同年2月1日付けの文書による出勤指示に対しても反応せず、同年3月1日付けで本件解雇されるまでの間、Y社に対して何らの連絡をすることなく欠勤を継続した。
前記のとおり、本件配転命令が有効であると解されることからすれば、Xによる同年1月9日から同年3月1日までの欠勤は、無断欠勤に当たると認められる。

3 以上によれば、懲戒理由③は本件就業規則の懲戒解雇事由に該当すると認められるところ、Xは、本件配転命令の内示を受けた直後から、C所長やB支店長に対して本件配転命令を拒否する姿勢を示した上、d営業所での初出勤日である平成31年1月9日、Mマネージャーに対して電話で業務命令に納得できないから従わない旨告げて以降、2か月近くにわたって被告からの連絡を無視し続けており、業務命令違反の程度は著しく、懲戒解雇処分となることもやむを得ないと考えられることに加えて、Xが、平成29年4月に本件譴責処分を受けていることや、G氏とのトラブルにおいても鉄の棒を持ったことにつき厳重注意されたことがあることのほか、配車担当者に対して配車に関する不満を継続的に述べ、上長から複数回にわたり公平に配車をしていること等の説明を受け、業務に支障を生じさせていたこと等Xのこれまでの勤務状況等にも鑑みれば、本件解雇は客観的合理的理由があり、社会通念上相当であるといえ、権利の濫用には当たらず、有効である。

配転命令が有効である場合、配転命令に応じないことは無断欠勤となります。

その程度が重い場合には、本件のように解雇事由として認められます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行うことをおすすめいたします。

配転・出向・転籍46 職種限定労働者に対する配転命令と労働者の同意(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、薬学部教授兼薬剤部長に対する薬剤師としての配転命令の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人国際医療福祉大学(仮処分)事件(宇都宮地裁令和2年12月10日・労判1240号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の開学するY大学の薬学部教授及びY病院薬剤部長として就労していたXが、Y社の違法な配転命令により、薬学部教授等の地位を解任され、Y病院において薬剤師として勤務するよう命じられたとして、Y社に対し、主位的に薬学部教授の地位にあることを、予備的に薬剤師として勤務する労働契約上の義務を負わないことを、それぞれ仮に定めるよう求めた保全申立事件である。

【裁判所の判断】

Xは、Y社に対し、Y社が設置するY大学薬学部教授の地位にあることを仮に定める。

【判例のポイント】

1 Xの地位を薬学部教授に限定する明確な合意は認められないが、黙示の合意による成立が認められる余地はあるとして、募集と採用の経緯、人事運用等からみて薬学部教授とする職種限定合意がされたと一応認められる

2 本件配転合意書の上記内容を認識しつつ異議を述べずに署名・押印を行ったからといって、その署名・押印がXの自由な意思に基づいてされたものであるとはいい難く、むしろ、上記のとおり、病院職員証の返却やY病院への着任等につきY社からの要望に応じたのと同様、無用な混乱等を避け、給与や手当の支給手続が円滑に進むよう、とりあえず本件配転合意書への署名・押印に応じたものであって、それは飽くまでY社との無用な軋轢を回避するための暫定的な取決めに過ぎなかったものとみるのが合理的である。
そうすると、・・・本件配転合意書への署名・押印がXの自由な意思に基づいてされたものと一応認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものとはいえず、本件配転合意の成立は一応も認められないというべきである。

3 なお、Y社は、本件配転合意書の記載内容は一見して明白であることや、本件配転合意書の署名・押印に先立ち、X代理人弁護士からは、人事的な事項に関する連絡等について直接X本人に連絡してよいと言われたことを指摘するが、上記のとおり、Xは、本件配転命令に対し、一貫して異議を述べている上、本件配転命令に従わないことで生じる混乱を防ぐために、Y社からの種々の要求に暫定的に応じていたと認められるから、本件配転合意書の署名・押印についても、それらと同様に、Xは、本件配転命令の効力が確定するまでの間の暫定的な勤務状態を受け入れる意図で署名・押印したものというべきであるから、Y社の上記指摘は上記結論を左右しない。

労働者の同意の有効性については、内容の不利益性に比例して厳格に解釈される傾向にあります。

同意を取りさえすればよいと判断するのは大変危険です。

同意の有無にかかわらず、当該行為の客観的な合理性を慎重に判断することが求められます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行うことをおすすめいたします。

配転・出向・転籍45 育休中の所属チーム消滅と復帰後の配置変更の不利益取扱い該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、育休中の所属チーム消滅と復帰後の配置変更等の不利益取扱い該当性に関する裁判例を見てみましょう。

アメックス(降格等)事件(東京地裁令和元年11月13日・労判1224号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の個人営業部の東京のべニューセールスチームのチームリーダーとして勤務していたX
が、産前産後休業及び育児休業の取得を理由に、チームリーダーの役職を解かれ、アカウントマネージャーに任命されるなどの措置を受けたことが、均等法9条3項及び育介法10条、Y社の就業規則等又は公序良俗(民法90条)に違反し人事権の濫用であって違法・無効であるとして、①主位的に、上記措置がとられる前のY社個人営業部の東京のべニューセールスチームのチームリーダー又はその相当職の地位にあることの確認を求め、②予備的に、Y社個人営業部のアカウントマネージャーとして勤務する労働契約上の義務が存在しないことの確認を求めるとともに、③不法行為又は雇用契約上の債務不履行に基づき、損害賠償金2859万2433円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本件訴えのうち、Y社の個人営業部の東京のベニューセールスチームのチームリーダー(バンド35)又はその相当職の地位にあることの確認を求める部分を却下する。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xが育児休業等による休業中にY社からチームリーダーの役職を解く旨の辞令やその連絡を受けたことはなく、平成27年8月の時点では、Xが産前休業を取得するに当たり、Xチームに仮のチームリーダーが置かれたにすぎず、Xからチームリーダーの役職を解く措置がとられたとみることはできない。また、平成28年1月には、Xチームが消滅しているけれども、他方で、Xのジョブバンドは同月以降もバンド35のままであり、Y社の人事制度の下では特定のジョブバンドに対応する主な役職が設けられていて、Xが実際に復帰した際にはバンド35に相当する役職に就くことが予定されていたということができる。そうすると、Xチームが消滅した一事をもって、Xからチームリーダーの役職を解かれたとか、Xの所属が不明な状態に置かれたとみることはできず、他にそのような評価を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない

2 均等法11条の2及び育介法25条所定のいわゆるマタハラ防止措置義務は、相談や対応体制の整備などを中心とする内容のもので、国が事業者に対して課した公法上の義務にすぎず、労働者と使用者との法律関係を直接規律するものではないから、これら規定をもって直ちにその内容に対応する私法上の義務がY社とXとの間に生じるとはいえない。上記各規定の存在は上記私法上の注意義務発生の根拠として考慮すべき一つの要素とはなろうが、上記私法上の注意義務を措定するについては、当該具体的事案に照らして、発生した権利ないし法益侵害の内容や程度、使用者の結果に対する予見可能性を前提とした上での結果回避可能性などを総合的に勘案して検討すべきである。

上記判例のポイント2は、労働事件では基本的な考え方ですので、理解しておきましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍44 職種変更を伴う出向元への復職命令は有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、長年従事してきた業務からの変更を伴う出向元への復職命令について権利濫用が否定された事案を見てみましょう。

相鉄ホールディングス事件(東京高裁令和2年2月20日・労経速2420号3頁)

【事案の概要】

本件、①Y社の従業員であるX1ないし58が、Y社のバス事業がその子会社であるS1社に譲渡されるのに伴い、S1社に在籍出向し、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事していたところ、Y社から、順次、出向の解除を命じられ(以下「本件復職命令」という。)、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事することができなくなったが、本件復職命令は、労働協約、個別労働契約に違反し、権利濫用であって、不当労働行為に当たるから、無効であるなどと主張し、Y社に対し、〈ア〉X2及び5を除く個人控訴人らが、バス運転士(X19につき車両整備士)以外の業務に勤務する義務がない労働契約上の地位にあることの確認を求め、〈イ〉個人控訴人らが、不法行為に基づく損害賠償として、それぞれ110万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②A組合が、Y社らに対し、上記①の違法行為により組合員の信頼を喪失したなどと主張し、Y社につき労働協約違反の債務不履行又は不法行為及びY社の代表取締役であるY2につき会社法429条1項又は不法行為に基づく損害賠償として、330万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原審はXらの請求をいずれも棄却し、Xらが本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件労働協約にXらの主張するような不確定期限ないし解除条件が付されていたことを示す文言はないし、定年退職までとか将来にわたってという文言を協約に入れてほしいという要望について、Y社は応じなかったというのであり、本件労働協約の締結に至る労使の協議においても、そのような不確定期限ないし解除条件について合意がされたことをうかがわせる事情はない。本件労働協約が、本件バス事業分社の際のY社の従業員について、S1社への在籍出向とし、労働条件差異について補填を実施することを約すことにより、バス事業に従事するY社所属組合員らの処遇を将来に向けて定めたものであるとしても、そのことをもって、Y社が一定の期間の経過又は一定の解除条件の成就までは出向元への復職を命じないとの合意があったということはできない。さらに、本件労働協約の締結を経て本件バス事業分社がされてから本件提案がされるまで3年半しか経過していないこと、この間、Y社におけるバス事業に係る経営上の見通しについて、本件労働協約が締結された時点と比較して特段の大きな変化があったという事情はうかがわれないことを考慮しても、Y社が、個人控訴人らの出向元として、個人控訴人らに対して復職を命じることができないと解すべき特段の事由があるものとはいえない

2 X19を除く個人控訴人らの職務をバス運転士に限定する職種限定合意があったと認められないことは、前記のとおりである。そして、バス運転士の職種転換の実績において、同意なく職種転換がされた事例が見当たらないとしても、人事異動を円滑に行うためであったとみることができるのであって、これが直ちに本件職種転換合意の成立を裏付けるものとはいい難い。また、本件調整確認書には、職種変更により本給を調整する必要が生じる場合として、自動車運転士から他の職種への変更について自己都合によるものしか記載されていないとしても、これをもって、会社の配転命令により自動車運転士から他の職種に転換することはないとの合意があるとまでは認められない。さらに、出向社員取扱規則において、バス運転士が復職意思の確認手続から除外されたこと、平成18年説明会におけるY社の説明中に、組合員からの「出向協定は3年だが、3年後はどうなるのか。」との質問に対し、「出向の3年は今回も生きている。何らかの理由で復職を望む人がいれば個別に相談に応じる。例えば視力の問題でMが無理ということになれば職変を条件に相談する、といったケースなどだ。」との記載があることについても、本件職種転換合意がなければ、このような規則改正ないし説明はされないものとまではいえず、直ちに当該合意の存在を裏付けるものとはいえない。

3 本件提案当時には、一方でS1社の路線エリアの将来人口は減少することが予想されており、他方でS1社の営業利益をY社の出向補填費が上回っているといったその当時のバス事業を取り巻く状況から、バス事業の収支を改善する必要があったこと自体は否定できず、これらの事情の下で、利用者減が予測され、将来的にも収益増が期待し難い状況であることから、バス事業の収支改善の方策として、出向補填費の削減を図ろうとすることに合理性はあるといえること、本件提案時において、S1社の従業員の約40%がY社からの在籍出向者であり、S1社籍のプロパー社員の平均給与(正社員バス運転士の平成27年の給与の平均値)は約480万円であるのに対し、同じ業務に就いている被控訴人会社からの出向者の平均給与(同上)は約840万円であって、プロパー社員の給与よりも高額であることから、プロパー社員の不満が募っている可能性があり、その他両者の間には、手当の支給条件・方法の違いや、休暇の有無・取得日数・有給無給の違い等にも差異があり、これらを解消し労務管理を効率化するために、Y社からの在籍出向を解消する必要性があること、復職者の再出向についても、相鉄グループ内で再出向の必要性がある会社に再出向させられており、本件復職命令の合理性を基礎付けるものといえること、これらの事情によれば、本件復職命令について、業務上の必要性・合理性があったと認められることは、前記説示のとおりである。

裁判所の事実認定のしかた、反対事実に対する捉え方が非常に参考になります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。