Category Archives: 配転・出向・転籍

配転・出向・転籍45(アメックス(降格等)事件)

おはようございます。

今日は、育休中の所属チーム消滅と復帰後の配置変更等の不利益取扱い該当性に関する裁判例を見てみましょう。

アメックス(降格等)事件(東京地裁令和元年11月13日・労判1224号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の個人営業部の東京のべニューセールスチームのチームリーダーとして勤務していたX
が、産前産後休業及び育児休業の取得を理由に、チームリーダーの役職を解かれ、アカウントマネージャーに任命されるなどの措置を受けたことが、均等法9条3項及び育介法10条、Y社の就業規則等又は公序良俗(民法90条)に違反し人事権の濫用であって違法・無効であるとして、①主位的に、上記措置がとられる前のY社個人営業部の東京のべニューセールスチームのチームリーダー又はその相当職の地位にあることの確認を求め、②予備的に、Y社個人営業部のアカウントマネージャーとして勤務する労働契約上の義務が存在しないことの確認を求めるとともに、③不法行為又は雇用契約上の債務不履行に基づき、損害賠償金2859万2433円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本件訴えのうち、Y社の個人営業部の東京のベニューセールスチームのチームリーダー(バンド35)又はその相当職の地位にあることの確認を求める部分を却下する。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xが育児休業等による休業中にY社からチームリーダーの役職を解く旨の辞令やその連絡を受けたことはなく、平成27年8月の時点では、Xが産前休業を取得するに当たり、Xチームに仮のチームリーダーが置かれたにすぎず、Xからチームリーダーの役職を解く措置がとられたとみることはできない。また、平成28年1月には、Xチームが消滅しているけれども、他方で、Xのジョブバンドは同月以降もバンド35のままであり、Y社の人事制度の下では特定のジョブバンドに対応する主な役職が設けられていて、Xが実際に復帰した際にはバンド35に相当する役職に就くことが予定されていたということができる。そうすると、Xチームが消滅した一事をもって、Xからチームリーダーの役職を解かれたとか、Xの所属が不明な状態に置かれたとみることはできず、他にそのような評価を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない

2 均等法11条の2及び育介法25条所定のいわゆるマタハラ防止措置義務は、相談や対応体制の整備などを中心とする内容のもので、国が事業者に対して課した公法上の義務にすぎず、労働者と使用者との法律関係を直接規律するものではないから、これら規定をもって直ちにその内容に対応する私法上の義務がY社とXとの間に生じるとはいえない。上記各規定の存在は上記私法上の注意義務発生の根拠として考慮すべき一つの要素とはなろうが、上記私法上の注意義務を措定するについては、当該具体的事案に照らして、発生した権利ないし法益侵害の内容や程度、使用者の結果に対する予見可能性を前提とした上での結果回避可能性などを総合的に勘案して検討すべきである。

上記判例のポイント2は、労働事件では基本的な考え方ですので、理解しておきましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍44(相鉄ホールディングス事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、長年従事してきた業務からの変更を伴う出向元への復職命令について権利濫用が否定された事案を見てみましょう。

相鉄ホールディングス事件(東京高裁令和2年2月20日・労経速2420号3頁)

【事案の概要】

本件、①Y社の従業員であるX1ないし58が、Y社のバス事業がその子会社であるS1社に譲渡されるのに伴い、S1社に在籍出向し、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事していたところ、Y社から、順次、出向の解除を命じられ(以下「本件復職命令」という。)、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事することができなくなったが、本件復職命令は、労働協約、個別労働契約に違反し、権利濫用であって、不当労働行為に当たるから、無効であるなどと主張し、Y社に対し、〈ア〉X2及び5を除く個人控訴人らが、バス運転士(X19につき車両整備士)以外の業務に勤務する義務がない労働契約上の地位にあることの確認を求め、〈イ〉個人控訴人らが、不法行為に基づく損害賠償として、それぞれ110万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②A組合が、Y社らに対し、上記①の違法行為により組合員の信頼を喪失したなどと主張し、Y社につき労働協約違反の債務不履行又は不法行為及びY社の代表取締役であるY2につき会社法429条1項又は不法行為に基づく損害賠償として、330万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原審はXらの請求をいずれも棄却し、Xらが本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件労働協約にXらの主張するような不確定期限ないし解除条件が付されていたことを示す文言はないし、定年退職までとか将来にわたってという文言を協約に入れてほしいという要望について、Y社は応じなかったというのであり、本件労働協約の締結に至る労使の協議においても、そのような不確定期限ないし解除条件について合意がされたことをうかがわせる事情はない。本件労働協約が、本件バス事業分社の際のY社の従業員について、S1社への在籍出向とし、労働条件差異について補填を実施することを約すことにより、バス事業に従事するY社所属組合員らの処遇を将来に向けて定めたものであるとしても、そのことをもって、Y社が一定の期間の経過又は一定の解除条件の成就までは出向元への復職を命じないとの合意があったということはできない。さらに、本件労働協約の締結を経て本件バス事業分社がされてから本件提案がされるまで3年半しか経過していないこと、この間、Y社におけるバス事業に係る経営上の見通しについて、本件労働協約が締結された時点と比較して特段の大きな変化があったという事情はうかがわれないことを考慮しても、Y社が、個人控訴人らの出向元として、個人控訴人らに対して復職を命じることができないと解すべき特段の事由があるものとはいえない

2 X19を除く個人控訴人らの職務をバス運転士に限定する職種限定合意があったと認められないことは、前記のとおりである。そして、バス運転士の職種転換の実績において、同意なく職種転換がされた事例が見当たらないとしても、人事異動を円滑に行うためであったとみることができるのであって、これが直ちに本件職種転換合意の成立を裏付けるものとはいい難い。また、本件調整確認書には、職種変更により本給を調整する必要が生じる場合として、自動車運転士から他の職種への変更について自己都合によるものしか記載されていないとしても、これをもって、会社の配転命令により自動車運転士から他の職種に転換することはないとの合意があるとまでは認められない。さらに、出向社員取扱規則において、バス運転士が復職意思の確認手続から除外されたこと、平成18年説明会におけるY社の説明中に、組合員からの「出向協定は3年だが、3年後はどうなるのか。」との質問に対し、「出向の3年は今回も生きている。何らかの理由で復職を望む人がいれば個別に相談に応じる。例えば視力の問題でMが無理ということになれば職変を条件に相談する、といったケースなどだ。」との記載があることについても、本件職種転換合意がなければ、このような規則改正ないし説明はされないものとまではいえず、直ちに当該合意の存在を裏付けるものとはいえない。

3 本件提案当時には、一方でS1社の路線エリアの将来人口は減少することが予想されており、他方でS1社の営業利益をY社の出向補填費が上回っているといったその当時のバス事業を取り巻く状況から、バス事業の収支を改善する必要があったこと自体は否定できず、これらの事情の下で、利用者減が予測され、将来的にも収益増が期待し難い状況であることから、バス事業の収支改善の方策として、出向補填費の削減を図ろうとすることに合理性はあるといえること、本件提案時において、S1社の従業員の約40%がY社からの在籍出向者であり、S1社籍のプロパー社員の平均給与(正社員バス運転士の平成27年の給与の平均値)は約480万円であるのに対し、同じ業務に就いている被控訴人会社からの出向者の平均給与(同上)は約840万円であって、プロパー社員の給与よりも高額であることから、プロパー社員の不満が募っている可能性があり、その他両者の間には、手当の支給条件・方法の違いや、休暇の有無・取得日数・有給無給の違い等にも差異があり、これらを解消し労務管理を効率化するために、Y社からの在籍出向を解消する必要性があること、復職者の再出向についても、相鉄グループ内で再出向の必要性がある会社に再出向させられており、本件復職命令の合理性を基礎付けるものといえること、これらの事情によれば、本件復職命令について、業務上の必要性・合理性があったと認められることは、前記説示のとおりである。

裁判所の事実認定のしかた、反対事実に対する捉え方が非常に参考になります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍43(学校法人日通学園事件)

おはようございます。

今日は、准教授の事務職員職への職種変更命令の可否に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人日通学園事件(千葉地裁令和2年3月25日・労判ジャーナル100号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が運営するY大学の法学部の元准教授Xが、Y社に対し、Xが平成25年6月4日から休職していたところ、平成26年12月1日以前に休職事由が消滅したにもかかわらずY社がXを復職させず、また同日に復職した際、Y社は、職種変更命令により准教授としてではなく事務職員として復職させたが、Xは職種を限定して採用されており、かつ本件職種変更命令に同意していないから同命令は無効である等と主張して、本件雇用契約に基づき、准教授としての地位にあることの確認、准教授委と事務職員の給与の差額賃金等の支払、人格権に基づき、e-Rad(府省共通研究開発管理システム)のXの職名等の変更等のための通知、民法709条に基づき、慰謝料1000万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

職種変更命令は無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社において大学の教育職員として採用時に求められる経歴や業績、事務職員等との採用手続きの採用、大学の教育職員の業務内容の専門性、特殊性、事務職員等との労働条件の相違、Y社における大学の教育職員から事務職員への職種の変更の実績等を総合すれば、XをY社の大学の教育職員として雇用する旨の雇用契約は、職種を教育職員に限定して締結されているものと認めるのが相当であり、また、XはY社から職種変更の提案を受けた際、その理由を問い質していること、Xの代理人である弁護士は、Aに対し、事あるごとに一貫してXは職種の変更に同意していない旨を伝えていたことからすれば、Xが職種の変更に同意していたとは認められないから、本件雇用契約は職種限定契約であり、Xが本件職種変更命令に明示又は黙示に同意したとは認められない。

2 本システムは、研究者の情報(経歴)が記載されるものであり、政府の関係するシステムであるため、本システムは一般的に高い信用性があると認識されているとは認められるものの、本システムは研究者の経歴を明らかにする一手段にすぎないものであり、他の手段によって研修者の経歴を証明することも可能であると認められるから、本システムに誤った記載がなされたことによりXの人格権が侵害されたとは認められず、人格権に基づき、Y社に対し、本システムの記載を正確な内容に訂正することを求めることはできない。

職種の限定の有無については、単に雇用契約書の記載内容だけで形式的に判断することはできません。

上記判例のポイント1の考慮要素は非常に参考になるので押さえておきましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍42(学校法人N学園事件)

おはようございます。

今日は、退職勧奨との関連性を否定され、配転命令が有効とされた裁判例を見てみましょう。

学校法人日本学園事件(東京地裁令和2年2月26日・労判1222号28頁)

【事案の概要】

本件は、学校法人であるY社との間で労働契約を締結したXが、Y社に対し、Y社がXに対してした、Y社の営繕部で勤務するよう命ずる配転命令は権利の濫用に当たり無効であるとして、Y社の営繕部で勤務する労働契約上の義務のないことの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の支出を伴う行為の決裁権限が事務長にあること、消耗品等の発注について事務室で一元管理していること等を指摘し、営繕室での事務職員としての業務がない、事務室において対応が可能であるなどと主張する。しかし、本件学校に約600名の生徒がおり、日々本件学校の敷地内で学生生活を過ごしていること、本件学校の敷地内で学生生活を過ごしていること、本件学校の敷地が広いことなどからすれば、年間を通じて本件学校の設備等の改修、整備作業等が想定されるところ、作業自体の決裁権がないとしても、作業計画の立案、関係部署との調整を含む作業の進行管理等の業務は容易に想定されるところであるし、これを決裁権者自らが執り行うことは現実的ではない。また、支出の最終的な決裁権限が事務室に勤務する職員にあったとしても、現場における問題点や要望を把握するために、当該現場に責任ある職員を配置し、当該職員に現場の事務の改善を提案させたり、支出を申請させたりすることには十分合理性が認められるところである。そうすると、その他原告が指摘する諸点を考慮しても、Xに事務職員として営繕業務を担当させ、その勤務場所を営繕室とすることについて、なお業務上の必要性は否定し難く、Xの主張を採用することはできない。

2 E事務長は平成30年9月11日、Xに退職を勧めているが、これはXが教務室において本件学校に対する不満を口にしていたことが、他の職員の間で問題となっていたことをきっかけとするものであり、B前校長との関係を前提とした退職勧奨とはいえない。そして、同日において、Xが当該言動を否定し、退職する意思がないことを明らかにした後には、Y社からXに対し、退職を勧めた事実も認められないから、Xがその他主張するE事務長の言動を考慮しても、当該退職勧奨と本件配転命令との間に何らかの関係を認めることもできない。

配転命令については、不当な動機目的の不存在が配転の業務上の必要性の要件と表裏の関係にあります。

解雇等と比べて、会社側の裁量は広く認められますが、有効要件を意識して適切に行うことが肝心です。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍41(スーパー・コート事件)

おはようございます。

今日は、不当な配転等を理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

スーパー・コート事件(大阪地裁令和元年11月26日・労判ジャーナル96号82頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて稼働していたXが、Y社から不当に配置転換され、配転先に出勤しなかったところ、雇止めがされたが、当該雇止めは違法であり、これによってXは損害を被ったなどと主張して、損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社が、平成29年11月30日、Xに対し、看護師としての業務をさせない旨の指示をしたことが不法行為に当たるかについて、Xは、平成29年11月2日の入職後1か月の間に、2度にわたる誤薬事故を起こしていること、第1誤薬事故の原因として、同事故の対象となった入居者は、通常の人は膣がある位置に膣がなく、肛門があるという身体的特徴があったこと、第2誤薬事故の原因として、Xは、反省文に、入浴後の処置においては、テープ貼付分は外してくれている、あるいは入浴中に剥がれてしまっていると聞いていたなどと記載していること、本件指示によって、Xの賃金に何ら不利益はないこと、以上の点を併せ鑑みると、X自身が、入居者の特性や本件施設での業務フローへの認識の相違を上記各誤薬事故の原因と主張しているのであるから、入居者の特性や日常生活動作の把握を先行させ、これらの把握まで身体への侵襲を伴い得る看護師業務への従事を一時的に停止することが、Xに対する不法行為に当たるとはいえない。

2 Y社のXに対する配置転換命令の有効性について、雇用契約書の記載が、就業当初の勤務場所の記載という意味を超えて、就業規則の規定を排して勤務場所を限定する趣旨のものであり、XとY社との間で勤務場所を本件施設に限定する合意があったと認めることはできず、配転先施設には、当時、正社員を含む看護師が8名程度在籍し、Xに対して看護師業務の直接的な指導ができると考えたことから、Xを配転先施設に配置転換させることとしたものであり、これらは企業の合理的運営に寄与するものであって、業務上の必要性がないとはいえず、Xが、従前からY社による本件配置転換に従わない意向を明らかにしていたことを踏まえると、Xが指摘するY社の対応は、Xの行動を予測したものというにすぎず、不当な動機・目的が看取できるとはいえず、Xが、配転先施設に出勤して就業できない、あるいは本件配転命令に従うことによって通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被るとは認められないから、本件配転命令が、Y社の配転権を濫用したものであり、違法無効であって、Xに対する不法行為を構成するとはいえない。

上記判例のポイント2の考え方は非常に重要ですので、是非参考にしてください。

雇用契約書の勤務場所や職種の記載は、配置転換の要件に関する解釈に影響を与えますので、この裁判例を知っておくことは重要です。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍40(アルバック販売事件)

おはようございます。
13日目の栗坊トマト。葉っぱが大きくなってきましたね!

今日は、配転命令無効等確認及び解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

アルバック販売事件(神戸地裁姫路支部平成31年3月18日・労判ジャーナル89号36頁)

【事案の概要】

本件は、甲事件において、Y社と雇用契約を締結した元従業員Xが、Y社に対し、①配転命令が違法、無効であるとして、A営業所で勤務する義務がないことの確認を求め、また、②(1)雇用契約に基づき、未払賃金・賞与等の支払を求めるとともに、(2)Y社が不当な自宅待機命令及び配転命令を行ったこと等により、多大な精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等の支払を求め、加えて、③上記②の請求と選択的に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、未払賃金及び賞与との差額に相当する損害、上記②(2)の慰謝料等の支払を求め、乙事件において、Xが、Y社が平成27年3月9日に行った解雇は、客観的合理的理由がなく無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払賃金・賞与の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

解雇は無効

未払賃金・賞与等支払請求は一部認容

慰謝料等請求は一部認容

【判例のポイント】

1 Y社が就業規則に基づきXの配転命令権を有すること、また、労働者の採用に際し、勤務地を限定する合意がなされた事情がないことについては、当事者間に争いがないところ、A営業所においては、一人分の欠員が出ていたこと等から、本件配転命令には業務上の必要性が認められ、また、退職勧奨時にXが姫路へ行くと回答していること等からすると、本件配転命令が、Xが退職しなかったことへの意趣返しという不当な動機のみによってなされたものであるとまで認めることは困難であり、さらに、Xが、Xの長女の事情をY社に伝えたと認めるに足りる証拠は存在しないし、妻の乳がんとの関係で本件配転が不利益である事情や、本件配転への異議は一切述べていないことが認められること等から、本件配転命令が、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものであったと認めることはできないから、権利濫用に当たるというべき特段の事情は見当たらず、本件配転命令が無効であるとは認められない。

2 Y社は、変更後の就業規則を社内メールの送信や掲示板に掲載する方法で従業員に周知したものと認められるところ、Y社は、不利益の程度が大きい者については調整給を支給しており、本件就業規則変更による従業員の不利益は、著しく大きいとまではいうことはできず、そして、Y社は、遅くともA社が人事制度改革を行うことを発表した時点において、収益を改善する観点からも、A社の子会社としての経営判断の観点からも、A社に倣って労働条件を変更する高度の必要性があったものというべきであり、また、職能資格等級制度自体は、職能資格の上昇によって賃金が上昇するため公平感があり、人事として安定するとともに、労働者のモチベーション維持にもつながり、合理的な制度であり、さらに、Y社は、説明会やメールで従業員に新賃金制度の説明を行うとともに、従前の従業員代表者から通知された新従業員代表者との間で、新賃金制度について合意を形成したことが認められること等を総合して考えると、本件就業規則変更は、有効と認めることができる。

3 Xの取引先への対応に問題があるなどして、取引先との間でトラブルが複数回あったことを認めることはできるが、その全てがXのみを原因とするものであったとは認められないし、当該取引が破談となった、Y社が取引先を失ったなど、Y社の業務全体にとって相当な支障が生じたとか、Y社に大きな損害が発生したという事実も認められないから、解雇に相当するほど重大なものであるとは認めがたく、また、Xの上司が各トラブルの度に注意したことは認められるが、これを受けてXは謝罪をしたりトラブルの原因や今度の対策について報告をしたりしているから、Y社が主張するXの取引先とのトラブルの頻発は、就業規則58条6号「就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められるとき」として解雇理由に該当するものとはいえないというべきであること等から、本件解雇は、客観的に合理的な理由があるとは認められず、かつ、社会通念上相当であるとも認められないから、本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効である。

配転命令に関する判断もさることながら、上記判例のポイント2の不利益変更の手続の進め方は参考になりますね。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍39(ジャパンレンタカー事件)

おはようございます。

今日は、アルバイト職員の勤務地限定の合意に関する裁判例を見てみましょう。

ジャパンレンタカー事件(津地裁平成31年4月12日・労判ジャーナル88号2頁)

【事案の概要】

本件は、一般乗用旅客自動車運送事業、自動車の貸付業、遊技場の経営等を目的とするY社との間で、反復継続して労働契約を更新し、Y社のD店に勤務してきたアルバイト社員Xが、雇止めをされたことから、雇止めが合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、①労働者の地位確認及びそれに伴う賃金の支払を求めるとともに、②Y社には、社会保険の加入手続を取っていなかった不法行為責任があるとして、それに基づく損害の支払、③未払割増賃金の支払並びに④付加金の支払を求める訴訟を提起したところ、控訴審において、①を認容し、②ないし④を一部認容する判決がなされ、同判決は、平成29年6月3日に確定した。
Y社は、Xに対し、同月26日付けで就業場所をC店とする旨の配転命令を出した。

本件は、Xが、上記配転命令が無効であると主張して、Y社に対し、C店において勤労する労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、Y社が社会保険の加入手続をとっていなかったことが債務不履行に当たるとして、Y社に対しては債務不履行に基づき、また、代表取締役に対しては会社法429条1項に基づき、連帯して75万8746円+ちえんそんがいきんの支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

Y社はXに対し、75万8746円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社においては、アルバイトに配転を命じる旨の規定は存在するが、アルバイトは、Xが採用された当時ではなく、現時点に近いものではあるものの、基本的には、通いやすい場所を選んで、具体的な店舗に勤務するというのであり、他の店舗での勤務については、近接店舗に応援するのみであるとされていること、正社員についてさえも、通勤圏内での異動という場合もあるとされていること、Xは、平成6年3月からは、4か月ほどをE店で勤務したほかは、長年専らD店で勤務してきていること、Y社とXとの雇用契約書では、当初、「D店」とだけ限定した記載がされていたが、その後、「Y社D店及び近隣店舗」ないし「D店及び当社が指定する場所」と記載が変更されているが、このことについて、Y社からXへの説明はなされていないことからすると、XがE店からD店に異動し、D店からE店に一時異動したことがあることを考慮しても、Y社とXとの間では、Xの勤務地が必ずしもD店のみに限定されてないとしても、少なくともD店又はE店などの近接店舗に限定する旨の合意があったものと解するのが相当である。

2 仮に、Xの勤務先をD店又は近接店舗に限定する旨の合意が成立しているとまではいえないとしても、以上の事情からすれば、Y社には、Xの勤務先がD店又は近接店舗に限定するようにできるだけ配慮すべき信義則上の義務があるというべきであり、本件配転命令が特段の事情のある場合に当たるとして、権利濫用になるかどうか判断するに当たっても、この趣旨を十分に考慮すべきであるといえる。

3 Y社は、Xが、自分で働こうとせず、他の同僚に仕事を押し付けたり、他の従業員が仕事を頼んでも、冷たく威圧的な態度を取られるため、恐怖心を感じてしまうことから、他の従業員らにおいて、Xと一緒に働くことを拒絶していることから、XをD店に復帰させることも、三重県内の近接店舗に配転することも避けなければならない旨主張し、証拠にはそれに沿う部分が存在する。
しかし、Xは、これを否定する陳述及び供述をしている上、仮にそれに類する行為があったとしても、全証拠によっても、Y社がそれを会社の問題として捉えたとも、会社として正式に指導するなどしたとも認められないことからすると、Y社としては、Xを異動させなければならない事態には至っていないといわざるを得ないし、会社がそれらをし、Xをして改善の機会を何ら与えることなく、Xの異動をもって対処することは、上記の趣旨に反することを正当化する事情とはならないというべきである。

雇用契約書等に配転命令について規定されていたとしても、今回のようにそもそも合意の存在を否定されることがあることは理解しておきましょう。

仮に勤務地限定の合意がないと認定されたとしても、権利濫用該当性のハードルが待ち構えていますので、いずれにしても、顧問弁護士に相談の上慎重に対応すべきです。

配転・出向・転籍38(石田プレス工業事件)

おはようございます。

今日は、配転命令無効確認に関する裁判例を見てみましょう。

石田プレス工業事件(東京地裁平成30年12月28日・労判ジャーナル87号85頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結した従業員Xが、その勤務先をY社の埼玉工場に変更した配転命令を無効であるとして、埼玉工場に勤務する雇用契約上の義務のないことの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件雇用契約において、Xの就業場所を本社とし、職種を事務的な業務に限定する旨の合意があったと主張するが、本件雇用契約が締結された当初、Xの就業場所は本社、職務は管理部における事務的な業務とされたこと、Y社において、埼玉工場に勤務する従業員は、主として製造に関連する業務に従事しており、本社に勤務する従業員は、主として事務的な業務に従事し、両者の採用方法は異なっていたこと、本件雇用契約は、Xが、父親の従事していた経理業務を引き継ぐことを想定して締結されたことを認めることができるが、これらの事実を総合しても、XとY社の間に、就業場所又は職務内容を限定する合意があったことを認めることはできない

2 Xは、本件配転命令は、権利を濫用して発せられたものとして無効であると主張するが、本件配転命令は転居を必ずしも要しないものであった上、本件配転命令後、Xが、その健康に悪影響を及ぼすような業務に従事するよう命じられたことを認めることができる証拠はなく、また、Xと顧問税理士の関係は非常に悪化し、他の従業員を介して書類の授受ややり取りをする状況が続いており、Xを経理担当者とすることにより、他の従業員の業務に支障が生じており、このような中で、Xは、注意や指導を受けていたにもかかわらず、所得税の過納付、現金出納帳や手形帳における誤記や未記載等を生じさせたほか、預金口座の残高不足を原因とする引落しの遅滞も生じさせ、Xの経理担当者としての適性に強く疑問を生じさせるものといわざるを得ず、Y社の役員会において、Xを営業の業務に従事させることが検討されたものの、コミュニケーション能力や人間関係のために、営業への異動は難しいとの結論に至っており、他にY社の本社において、Xに適した業務は見当たらず、これに対し、埼玉工場において、新たに従業員を繰り返し採用していたことからすると、人員を補充する必要性が生じていたことを認めることができるから、本件配転命令が、権利濫用に当たるということはできない。

解雇等に比べると、配転命令のほうがハードルが低いですが、それでも丁寧に合理性を主張立証する必要があります。

不当な動機目的と認定されないためには、やはりここでも事前準備がとても重要です。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍37(ハンターダグラスジャパン事件)

おはようございます。

今日は、転居命令が業務上の必要性を欠くとして無効とされた裁判例を見てみましょう。

ハンターダグラスジャパン事件(東京地裁平成30年6月8日・労経速2365号18頁)

【事案の概要】

本件は、建材及びインテリア・ブラインド等の製造販売を主たる業務とするY社の従業員であるXが、Y社が平成28年11月4日にした転居命令に従わなかったことを解雇事由として平成29年3月31日付けで解雇されたことから、Y社に対し、本件解雇は客観的合理的理由及び社会通念上の相当性を欠き、労働契約法上無効であるなどと主張して、労働契約上の地位の確認、本件転居命令に従う義務のないことの確認、平成29年4月及び5月の賃金合計125万1000円+遅延損害金等の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

転居命令も無効

Y社はXに対し、125万1000円+遅延損害金を支払え 等

【判例のポイント】

1 本件について業務上の必要性をみるに、Y社は、往復6時間の長時間通勤は、Xの健康不安、疲労や睡眠不足による工場内事故の危険、通勤途中の事故や交通遅延の可能性の増大、残業を頼みにくい不都合等から、Y社はXの長時間通勤を長期間放置することはできず、本件転居命令には業務上の必要性がある旨主張する。
しかし、本件転居命令は、本件配置転換の約1年後に出されたもので、Xは、その期間、転居せず自宅から茨城工場に通勤していたこと、Xの茨城工場での業務内容は梱包作業であり、早朝・夜間の勤務は必要なく緊急時の対応も考え難いこと、X不在時には他の従業員がXの業務に対応することができたこと、Xに残業が命じられることはなかったこと、Xは、片道3時間かけて通勤しているが、交通事故のために休職した期間と一度の電車遅延による遅刻の他は遅刻や欠勤はなく、長距離通勤や身体的な疲労を理由に仕事の軽減や業務の交替を申し出たこともほとんどなかったことが認められる。
そうすると、Xが転居しなければ労働契約上の労務の提供ができなかった、あるいは提供した労務が不十分であったとはいえず、業務遂行の観点からみても、本件転居命令に企業の合理的運営に寄与する点があるとはいえず、業務の必要性があるとは認められない

2 本件転居命令を巡る交渉において、Xが不満とした家賃の負担や別居手当の不支給は、Y社の旅費規程で定められたものであるから、Y社がXの不満に対応することが出来なかったことはやむを得ない。また、本件転居命令を出したことにつきY社に不当な動機・目的の存在は認められないし、Y社がXに対して転居することを強く求めたのも安全配慮義務の履行のためであったことは否定できない。そうすると、本件転居命令が無効であり、それに従わないことを理由にした本件解雇が無効であるからといって、Y社がXに対して、本件転居命令に従うよう求めたことが直ちに不法行為に当たるとは認められない。
したがって、Xの不法行為に基づく慰謝料請求は理由がない。

会社の考えもわからないではありませんが、判決となるとこういう結果になりますね。

それにしても、毎日片道3時間の通勤ですか・・・。考えただけでしんどいです。

片道3分のところに住んでしまうと、もう長時間勤務ができない体になってしまいます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍36(KSAインターナショナル事件)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用社員に対する配転命令の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

KSAインターナショナル事件(京都地裁平成30年2月28日・労判1177号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、違法無効な配転命令により損害を受けたと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき426万5800円の損害賠償+遅延損害金の支払を請求している事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、214万5000円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、平成27年1月16日にA監査室長から外す旨の配転命令を発しており、同月16日にはXが一度提出した始末書を書き直させることもしており、さらにXは同月22日に労働組合に加入して本件配転命令の撤回を求めていることからすると、Xが同月16日に嘱託契約書に署名捺印したのは、本件配転命令に不服があったものの、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
また、Y社では、同月26日に、同年2月1日付けでXを関西営業本部B事業部参事に異動させる配転命令をしたのであるから、それに基づいてXが引き継ぎをしたことについても、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
そして、配転命令が、その本来の適法性いかんにかかわらず、労働者の同意によって有効とされるためには、配転命令が違法なものであってもその瑕疵を拭い去るほどの自由意思に基づく同意であることを要すると解するのが相当であるから、本件では、Xがこのような同意をしたとは認められない
したがって、本件配転命令がXの同意を理由に有効であるとは認められない。

2 ・・・A監査室長の地位が、Y社の業務の内部監査と社員の研修を行う立場にあることを考慮しても、この社内メールをもってXがA監査室長として不適格であると認定することは、いささか早計に過ぎるというべきである。そして、XをA監査室長から外すことにより、Xが本件特約による退職金の補てん措置の対象外に減給措置を伴うものといえ、Xに経済的な不利益を及ぼすものでもある。これらの点を考慮すると、本件配転命令は、Xに経済的な不利益を及ぼしてまで行う業務上の必要性に欠けるというべきである。

3 本件配転命令により、Xは、月額5万円の退職金の補てんを得られなくなり、これは本件配転命令の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。そして、平成27年2月から本件口頭弁論終結日の属する月である平成29年12月までの間の35か月間の合計額は、175万円である。Xは、それ以後の分の損害も請求するが、XとY社との労働契約に職種限定がないことからすると、Xは業務上の必要があれば配置転換を命じられるべき立場にあるから、将来分の請求については未だ損害として認めるに足りない。
また、Xは、本件配転命令により精神的苦痛を受けたと認められるところ、経済的な不利益は前記により償われること、Xにも、A監査室長の立場にありながらY社の財務状況が悪いと根拠なく社内メールで述べたことに責められるべき点があることを考慮すると、本件での慰謝料は20万円と認めるのが相当である。

上記判例のポイント1はとても大切です。

当該同意が自由意思に基づいているかという論点はさまざまな事案で登場します。

裁判所がどのような点に着目して判断しているのかを理解しておきましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。