Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ76 ゼネラルマネージャーのパワハラに基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、ゼネラルマネージャーのパワハラに基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

日本ビュッヒ事件(大阪地裁令和5年2月7日・労判ジャーナル137号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、Y社から解雇されたが、その後、Y社は解雇を撤回したため、Xが、Y社に対し、なおも従業員としての地位に不安があるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに将来分の賃金の支払を求め、さらに、Y社のゼネラルマネージャーらから受けたパワーハラスメントやY社による解雇が不法行為又は債務不履行を構成するとして、使用者責任又は債務不履行に基づく損害賠償請求として慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求却下

損害賠償請求として50万円認容

【判例のポイント】

1 (1)GMは、Xが、マネージャーの地位にはなく、a営業所長との役職も存在しないなどとして、Xがこれまで果たしてきた役割を否定する内容のメールをXだけでなく、他のマネージャーにも送信したものであり、このようなGMの行為は、Xの自尊心を深く傷つけるものであって、軽率のそしりを免れず、不法行為を構成するというべきであり、(2)GMによる10月5日ミーティング以降のXに対するメールの送信等は、自らの言動の問題性を何ら顧みることなく、これに恐怖心等を抱くXへの心情にも全く配慮しないまま、自らの指示に従おうとせず、逆に自らを失脚させようとしたXをY社から排除すべく行われたものであると認めるのが相当であって、社会通念上許容される範囲を逸脱し、従業員の人格権を侵害し、不法行為を構成するというべきであり、(3)本件解雇に解雇理由がないことが明らかであり、その目的が不当といえること、GMが独断で本件解雇に及んだこと等に照らすと、本件解雇は、GMが自らの権限を濫用して行った恣意的で著しく社会的相当性を欠くものというべきであって、GMは、本件解雇後、Xが担当していた顧客や販売会社に対し、解雇したXの評価を貶めるような発言をしたことと併せ、不法行為を構成するというべきである。

2 本件解雇後の経過について、令和4年1月4日の面談におけるGMらのXに対する発言は、自らの問題を何ら顧みることなく、Xに非がある旨を述べ、退職を迫るものであり、およそ許容し難いものであって、Xの人格権を侵害する不法行為を構成するというべきであり、本件けん責処分は、Xに対する不法行為を構成するというべきであり、従業員を敵視し、退職させようとの意図のもとに自宅待機状態を継続させていることは、不法行為を構成するというべきである。

退職させる意図での自宅待機命令は、それ自体が不法行為と評価される可能性がありますので注意が必要です。

自宅待機命令をする場合は、合理的な理由があるかについて客観的に判断しましょう。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ75 民事訴訟法における違法収集証拠の取扱い(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、妊娠した歯科医師の診療予約をしにくくした行為が不法行為に該当するとされた事案を見ていきましょう。

医療法人社団A事件(東京地裁令和5年3月15日・労経速2518号7頁)

【事案の概要】

本件は、Y法人と労働契約を締結しているXが、①Aから、「不法行為一覧表」記載の不法行為を受けたと主張して、不法行為に基づく損害賠償並びに医療法46条の6の4が準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき、Y社らに対し連帯して、336万4362円+遅延損害金の支払を、②令和2年1月支給分の給料について、有給休暇取得分(1日)が反映されておらず、未払賃金があると主張して、5万3345円+遅延損害金の支払を、③令和2年10月支給分の給料について、有給休暇取得(1日)が反映されておらず、未払賃金があると主張して、6万4849円+遅延損害金の支払を、④安全配慮義務が果たされていないため、労務の提供ができないと主張して、未払賃金として、48万4877円+遅延損害金の支払を、令和4年7月から本判決確定の日まで、毎月15日限り88万4389円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、5万3345円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、6万4849円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、45万6036円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、令和4年7月から本判決確定の日まで、毎月15日限り、83万1595円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 民事訴訟法が証拠能力(ある文書や人物等が判決のための証拠となり得るか否か)に関して何ら規定していない以上、原則として証拠能力に制限はなく、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである場合に限り、その証拠能力を否定すべきである。
これを本人についてみると、①証拠Aは、許可なく診療録を写真撮影したもの、②証拠Bは、許可なく予約画面等を写真撮影したものであるが、これらを前提としても、著しく反社会的な手段を用いて採集されたとはいえないから、証拠能力を肯定すべきである。
③証拠Cは、控室の会話に関する秘密録音の反訳書面で、控室におけるXとAとの会話、Xが不在時の控室内における本件歯科医院のスタッフの会話を、X以外の発言者の知らないところでその発言を録音されたというものであって、これを前提としても、当該録音が著しく反社会的な手段を用いて採集されたとはいえないから、証拠能力を肯定すべきである。
また、甲第107号は、診察ブースにおけるXと患者との会話の秘密録音の反訳書面である。当該患者は、守秘義務を負っている歯科医師のXが許可なく、会話を録音し、それを外部に提出することは全く想定していないのが通常であり、当該患者の人格権に関する侵害の度合いは高いことは否定できないが、これを前提としても、録音された当該患者が証拠の排除を求める場合はさておき、少なくともY社らとの関係においては、著しく反社会的な手段を用いて採集されたものとまではいえないので、証拠能力を肯定すべきである。

ご覧のとおり、民事訴訟においては、かなり広く証拠能力が認められています。

とはいえ、一線を越えてしまうと大きな問題になりますので注意が必要です。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ74 大学教授らの厳しい叱責等が違法なハラスメント行為にあたらないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、大学教授らの厳しい叱責等が違法なハラスメント行為にあたらないとされた事案を見ていきましょう。

国立大学法人A大学事件(旭川地裁令和5年2月17日・労経速2518号40頁)

【事案の概要】

第1事件は、Y大学の准教授であるA及び同助教であるBが、同享受であるC及び同講師であるDから、ハラスメント行為を受け、抑うつ状態となり、病気休暇取得を余儀なくされるなどの精神的苦痛を受けたと主張して、それぞれCらに対し、不法行為に基づき、330万円の損害賠償+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

第2事件は、Aらが、Cらによるハラスメント行為を受け、精神的苦痛を受けたと主張して、それぞれY大学に対し、民法715条、415条又は国家賠償法1条1項に基づき、第1事件と同額の330万円の損害賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Cの各発言は、Aの引越業者への連絡の失念という業務上のミスに端を発し、その報告を怠ったことに関する業務態度を指導する中でされたものと認められる。そして、Cが、A、B両名に対し、以前から同様の業務態度に関する指導を繰り返していたことや、上記ミスにより本来不必要な費用負担が生じたことに加えて、上記のとおり、Cは、Iから、A、B両名が研究ばかりして動物実験施設の業務を職員に丸投げしているとの報告を受けていたところ、当時、Aは、Cの知らないところで研究助成金の学内申請をしており、そのことに関して、共同研究者への配慮を理由として、Cに報告しないことを正当化する発言をしたことや、H棟の運用開始に向けた業務に遅れが生じていたことなどが認められ、Cが、同会話の中で、Aの返答に怒りを覚えたことは、ある程度、理解し得るものといえる。
Cの「どつき倒したいくらいむかついてんだよ」という発言自体は、当該部分のみを見れば、部下に対する発言として、不適切なものといわざるを得ないが、他方で、会話中、同程度に不適切な発言が繰り返されているものではなく、むしろ、他の場面では、Aのキャリアや成長に期待する趣旨の発言もされているなど、会話全体の内容を踏まえると、Cによる叱責が相当長時間に及んだことを考慮しても、いまだ業務指導として適正な範囲を超えるものとまではいえず、違法なハラスメント行為に当たるとまでは認められない。

ぎりぎりの評価ですが、発言の一部分を切り取るのではなく、会話全体の内容を考慮するという考え方は理解しておくべきです。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ73 使用者の職場環境を調整する義務違反が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用者の職場環境を調整する義務違反が認められた事案を見ていきましょう。

甲社事件(千葉地裁令和4年3月29日・労経速2502号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結しているXが、Y社が労働契約上の安全配慮義務に違反したため、上司及び同僚からパワーハラスメントやいじめを継続的に受け、これによって精神的苦痛を生じたと主張して、Y社に対し、労働契約上の債務不履行若しくは不法行為又は使用者責任に基づく損害賠償として330万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、88万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 【A】SVの発言について、本件出来事の後、セキュリティ部のオフィスで行われたXとの面談において、【A】SVの側から、労災申請への協力を求めるXの心の弱さを指摘するものともとれる発言があったという限度において認めることができることは、上記2(2)のとおりであるが、【B】SVの発言、【C】SVの発言については、これを認めるに足りる的確な証拠がなく、認めることができない。【A】SVの発言についても、社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない。【F】の発言、【D】UMの発言、【E】SVの発言、【G】の発言、【H】の発言、【I】の発言についても、それらの発言がされたことを認めるに足りる的確な証拠がなく、一部認めることができる発言等(上記2(5)の【D】UMの発言、【H】の平成29年11月22日の発言)についても、それが社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない
もっとも、Xは、これらのパワハラ及び職場における常習的ないじめがあったことを前提として、Y社が、Xの仕事内容を調整する義務に違反し、職場環境を調整する義務に違反したと主張するものである。そして、Xの仕事内容を調整する義務の違反については、(1)Xは、本件出来事の後、うつ症状が発症し、過呼吸の症状が出るようになったが、来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り、できる限り人に知られないようにしていたこと、(2)【q】医師ら及びハートクリニック【M】の医師は、休職の上、療養に専念することを勧めたが、Xは、出演者雇用契約の継続にこだわり、出演者としての就労を継続しながら治療を受けることを望んでいたこと、(3)Y社は、Xが出演者としての就労を継続することを前提として、なるべくゲストに接することがないように配慮したポジションである本件配役を配役したものであることからすると、Y社がXの仕事内容を調整する義務に違反したとまでいうことはできないが、職場環境を調整する義務の違反については、(4)Xは、過呼吸の症状が出るようになったことから、配役について希望を述べることが多くなったところ、過呼吸の症状が出るようになったことをXができる限り人に知られないようにしていたこともあり、他の出演者の中には、Xに対する不満を有するものが増えたのであって、Xは職場において孤立していたと認めることができるところ、(5)出演者間の人間関係は、来期の契約や員数に限りがある配役をめぐる軋轢を生じやすい性質があると考えられること、(6)Xは、本件出来事の後、うつ症状が発症し、過呼吸の症状が出るようになった後も、来期の契約締結の可否に影響を与えることを慮り、できる限り人に知られないようにしていたが、Xの状況は、遅くとも平成25年11月28日及び12月18日の面談により、【K】部長、【L】MGRの知るところとなったことによれば、Y社は、他の出演者に事情を説明するなどして職場の人間関係を調整し、Xが配役について希望を述べることで職場において孤立することがないようにすべき義務を負っていたということができる。
ところが、Y社は、この義務に違反し、職場環境を調整することがないまま放置し、それによって、Xは、周囲の厳しい目にさらされ、著しい精神的苦痛を被ったと認めることができるから、Y社は、これによって原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

これを読むと、組織の中で多数の従業員の職場環境を調整することは大変だなあ、とつくづく思います。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

セクハラ・パワハラ72 分限免職処分の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、分限免職処分の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

長門市・長門消防局事件(最高裁令和4年9月13日・労判128号2頁)

【事案の概要】

本件は、普通地方公共団体であるY市の消防職員であったXが、任命権者であるY市消防長から、地方公務員法28条1項3号等の規定に該当するとして分限免職処分を受けたのを不服として、Y市を相手に、その取消しを求める事案である。

原審(広島高裁令和9月30日)は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件処分の取消請求を認容すべきものとした。
Y市の消防吏員としての素質、性格等には問題があるが、上告人の消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、ある意味で開放的な雰囲気が従前から醸成されていたほか、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件各行為も、こうした独特な職場環境を背景として行われたものというべきである。Xには、本件処分に至るまで、自身の行為を改める機会がなかったことにも鑑みると、本件各行為は、単にX個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとはいい難いから、Xを分限免職とするのは重きに失するというべきであり、本件処分は違法である。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

Xの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数であるばかりか、Y市の消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして、その内容は、現に刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑わいな言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたる
こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れたXの粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。
また、本件各行為の頻度等も考慮すると、上記性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらない。
さらに、本件各行為により上告人の消防組織の職場環境が悪化するといった影響は、公務の能率の維持の観点から看過し難いものであり、特に消防組織においては、職員間で緊密な意思疎通を図ることが、消防職員や住民の生命や身体の安全を確保するために重要であることにも鑑みれば、上記のような影響を重視することも合理的であるといえる。

2 そして、本件各行為の中には、Xの行為を上司等に報告する者への報復を示唆する発言等も含まれており、現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、Xを消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難であるといえる。
以上の事情を総合考慮すると、免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、Xに対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。そして、このことは、Y市の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない

ちなみに、Xの本件各行為の主な内容は以下のとおりです。

①訓練中に蹴ったり叩いたりする、羽交い絞めにして太ももを強く膝で蹴る、顔面を手拳で10回程度殴打する、約2㎏の重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの暴行
②「殺すぞ」、「お前が辞めたほうが市民のためや」、「クズが遺伝子を残すな」、「殴り殺してやる」などの暴言
③トレーニング中に陰部を見せるよう申し向けるなどの卑わいな言動
④携帯電話に保存されていたプライバシーに関わる情報を強いて閲覧した上で「お前の弱みを握った」と発言したり、プライバシーに関わる事項を無理に聞き出したりする行為
⑤Xを恐れる趣旨の発言等をした者らに対し、土下座を強要したり、被上告人の行為を上司等に報告する者がいた場合を念頭に「そいつの人生を潰してやる」と発言したり、「同じ班になったら覚えちょけよ」などと発言したりする報復の示唆等

第一審、控訴審ともに分限免職処分は無効と判断しましたが、最高裁は有効と判断しました。

第一審、控訴審判決によれば、消防職員になると、上記のような滅茶苦茶な状況でも解雇は重すぎると。私、こんな職場、絶対やだ。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ71 従業員のパワハラ被害申告に対する債務不存在確認請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、従業員のパワハラ被害申告に対する債務不存在確認請求を見ていきましょう。

ユーコーコミュニティー従業員事件(横浜地裁相模原支部令和4年2月10日・労判1268号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、XがY社の従業員からマタニティハラスメントやパワーハラスメントを受けたとしてY社に対し謝罪文等を要求しているが、いずれのパワハラ等も存在しないとして、Y社のXに対する上記パワハラ等にかかる安全配慮義務違反による債務不履行、使用者責任又は会社法350条に基づく損害賠償債務及び謝罪文の交付義務が存在しないことの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 パワハラ等が不法行為に該当するか否かは、行われた日時場所、行為態様や行為者の職業上の地位、年齢、行為者と被害を訴えている者が担当する各職務の内容や性質、両者のそれまでの関係性等を請求原因事実として主張して当該行為を特定し、行為の存否やその違法性の有無等を検討することにより判断されることとなる。

2 別紙発言目録を見るに、発言時期、発言者、発言内容を記載しているようではあるものの、発言時期については、令和元年4月(ママ)と記載されているのみで、日時の記載はない全く同じ発言内容であっても、日にち等が異なるという場合、それぞれ別の行為として不法行為(パワハラ等)該当性の判断をすることとなる。また、同目録には、発言者の氏名と発言内容が記載されているのみで、職務内容や地位、行為の態様等は全く不明である。
以上のとおり、請求の趣旨1については、他の債務から識別して、その存否が確認しうる程度に特定がされていると認めることは困難と言わざるを得ない。

3 たしかに、債務不存在確認請求の訴えにおいて、権利を主張する者の主張内容によっては、その請求の趣旨の特定を細かく行い難くなること(例えば、日時については年月日頃という以上に特定ができない等)はあると思われるが、だからといって、特定の程度が直ちに緩和されるわけではない。本件についてみれば、行為者の職業上の地位、年齢、行為者と被害者を訴えている者(被告)が担当する各職務の内容や性質等をY社が特定して主張することは可能と解されるし、行為の日時・場所についても「月」までの特定ではなく「日」(最低でも何日頃)の特定をした上で社内でのことなのか社外でのことなのか等の特定は可能と解されるが、Xは、これらの特定をしないから、その請求は、やはり特定を欠く(他の債務から識別して、その存否が確認しうる程度の特定がない)と言わざるを得ない。

今回は債務不存在確認の訴えですが、ハラスメント事案全般について参考になります。

行為等の特定をできる限り行う必要がありますので、事前の準備が鍵を握ることは言うまでもありません。

日頃の労務管理におけるエビデンスの残し方については顧問弁護士に相談をすることをお勧めいたします。

セクハラ・パワハラ70 パワハラ等に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラ等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

山九事件(東京地判令和3年12月24日・労判ジャーナル123号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員が、Y社に対し、内部告発を契機としてY社から差別的取扱いをされ、長期にわたって不当な人事考課が繰り返されて昇格できないという不利益等を受け、かつ、Y社の従業員からパワーハラスメントを受けたと主張して、雇用契約上の平等的取扱義務等に違反する債務不履行又は不法行為に基づき、また、パワハラについては職場環境維持義務等違反の債務不履行又は使用者責任に基づき、損害賠償金660万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社から、長期にわたりXに対する不当な人事考課を繰り返されて昇格させない、現場就労をさせない、残業申請をさせないという差別的ないし不利益取扱いをされたと主張するが、人事考課の内容自体は、年度毎のXの業務遂行状況、業務態度及びトラブル等の出来事を踏まえ、合理的な人事評価がされてきたと認められ、Xには協調性の欠如や規律軽視の態度、独善的な振舞い、コミュニケーション能力の欠如が明らかであり、Xを再び建設現場に配置すれば、多数の関係者に危険を招き、客先の信頼を失いかねないというY社の判断は正当な理由に基づくものであり、Xは建設現場における監督者又は監督補助者としての適格性を欠いているといわざるを得ず、Y社がXを建設現場での業務に配置しなかったとしても、これは正当な人事権の行使であり、また、Y社がXに残業申請をさせない取扱いをしたことを認めるに足りる証拠はない等から、Y社のXに対する取扱いが雇用契約上の平等取扱義務、人格尊重義務等に違反する債務不履行又は不法行為を構成するとのXの主張は、これを認めるに足りる証拠がなくいずれも採用することができない。

使用者とすると、上記裁判所の事実認定につながる証拠をどれだけ事前に準備できているかがポイントとなります。

証拠を残すという意識が希薄なまま労務管理を行うと、いざ訴訟になった時に厳しい戦いとなります。

日頃の労務管理におけるエビデンスの残し方については顧問弁護士に相談をすることをお勧めいたします。

パワハラ・セクハラ69 テレアポ業務を命じたことがパワハラにあたらないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、テレアポ業務を命じたことがパワハラにあたらないとされた事案を見ていきましょう。

シナジー・コンサルティング事件(東京地裁令和3年2月15日・労判1264号77頁)

【事案の概要】

本件は、テレアポ業務を命じたことがパワハラにあたるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

パワハラにはあたらない

【判例のポイント】

1 Xは、「テレアポ業務」を強要されてこれが不法行為に当たると主張し、Y社も、Xに同業務を命じた理由の一つとして原告の勤務態度規律があった事実は認めているが、そもそも不動産の営業を担当するXに対して電話での営業を命じること自体は使用者の裁量の範囲内にあると考えられる。そして、Y社は、Xが上司に日々の具体的な業務遂行状況を報告しなかったことを問題であると認識していたこと、Xが本件雇用契約の締結に先立ち「テレアポ営業では1日1200件電話をしたこともあります。これまでの人脈と経験で積極的に行動し成果につながる仕事がしたいと思っています。」などと記載した職務経歴書を提出して自己の長所として訴えていた経緯があることを踏まえて、業務内容及びその成果がY社から見て明確と評し得る「テレアポ業務」を担当させることによって上記問題の解消を意図したからといって、それが報復・懲罰ということにはならず、使用者の裁量を逸脱した違法な指揮命令であると評価することはできない

1日中シュレッダーをかける業務を命じるのとは訳が違います。

通常の業務範囲として許容される業務を命じることは使用者の権限として許容されていますので、本件では上記の結論になりました。

ハラスメント該当性については顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

セクハラ・パワハラ68 同僚らの嫌がらせ等に基づく慰謝料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、同僚らの嫌がらせ等に基づく慰謝料等請求に関する裁判例を見てみましょう。

しまむら事件(東京地裁令和3年6月30日・労判ジャーナル116号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社の従業員であったXが、同じ職場で勤務していたY2及びY3から暴行、パワーハラスメント、嫌がらせ等を受けたとして、Y2及びY3に対し、共同不法行為責任に基づき、Y2及びY3の使用者であるY1社に対し、使用者責任及び職場環境配慮義務の債務不履行責任に基づき、慰謝料140万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告らはXに対し、連帯して、5万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y2は、9月中旬以降、Xに対し、「仕事したの。」と言うようになり、店長代理のBにもXに仕事をしたか聞くと面白いから聞くようにけしかけ、実際にBがY2に言われたとおりXに「仕事した。」と質問し、これに対してXが拒絶反応を示していることに照らすと、Y2は、Xに対し、Xの拒絶反応等を見て面白がる目的で「仕事したの。」と言っていることが認められる。したがって、Y2のこの行為は、Xに対する嫌がらせ行為であるといえる。加えて、Y2の9月26日午後1時頃のXに対する行動も、その前後の経緯からすると、Xに対する嫌がらせ行為の一環として行われたものと認められる。
また、Y3もY2と同じ時期に、Xに対し、個別に、あるいはY2と同じ機会に「仕事したの。」とY2と同じ内容の発言をしているのであるから、Y2と同様にXの拒絶反応等を見て面白がる目的でしたと認められる。したがって、Y3のこの行為は、Xに対する嫌がらせ行為であるといえる。
そして、Xはこれらの嫌がらせ行為により精神的に塞ぎ込んで通院するまでに至ったのであるから、Y2及びY3の行為によりの人格権が侵害されたということができる。
以上によれば、Y2及びY3は、Xに対し、共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

2 Y2及びY3によるXに対する嫌がらせ行為の態様、継続期間、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、Y2及びY3による嫌がらせ行為によりXが受けた精神的苦痛を慰謝するには5万円が相当である。

裁判所が認定する慰謝料額の相場がわかりますね。

弁護士費用等を考えるとなかなか提訴の判断が難しいところですね。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ67 ハラスメント防止委員会決定の名誉感情侵害該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、ハラスメント防止委員会決定の名誉感情侵害該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

A大学ハラスメント防止委員長ら事件(札幌地裁令和3年8月19日・労判1250号5頁)

【事案の概要】

本件は、大学教授であったXが、勤務していた大学のハラスメント防止委員会による決定により名誉感情を侵害されたとして、同決定の取消し並びに不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料160万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

決定取消しを請求する部分は却下

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件決定は、本件大学において、ハラスメントに相談や苦情申立てを受けた本件委員会が、その調査結果や対応措置、処分の検討結果を学長に報告するというもので、私人による事実行為に過ぎず、Xに対する具体的な権利義務を形成する法的効果を生ずるものではなく、本件決定の取消しによる権利関係の変動等も観念できない上、その取消権を認めるべき実体法上の根拠も見当たらない。したがって、本件訴えのうち本件決定の取消しを求める部分について、訴えの利益は認められない

2 本件委員会による決定は、学内におけるハラスメントの相談や苦情申立てについて調査した上、その対応措置及び処分の検討の結果等を学長に報告するものであって、加害者である被申立人の言動に対する否定的評価が含まれ得ることは、その性格上当然に想定されているといえ、これが被申立人に通知されることも、本件委員会規程上、不服申立ての機会を確保するために定められた手続であって、被申立人を非難する目的で否定的評価を告知するものではない
そして、本件決定は、本件発言が人権侵害に当たる旨を判断しているものの、その否定的な評価は、発言自体に向けられたほかは、Xによる同様の案件が2度目であることや、Xにおいてハラスメントに当たるとの認識がないことを指摘するに留まっており、それ以上に、Xの人格攻撃に及んだり、殊更に侮辱的表現を用いたりするものではなく、本件委員会の決定として想定される限度を超えてXの名誉感情を傷つけるものとは認め難い。かえって、本件決定においては、懲戒処分に至らない口頭での厳重注意等を相当とするに留めるとともに、付帯事項(留意点)として、Xに対する措置だけでなく、大学内の組織的な対応や管理職等がとるべき対策等についても言及し、本件決定による措置がXとH教授の関係性の改善に資するよう望む旨が表明されていることが認められ、本件決定の文脈全体をみても、Xに対する一方的な非難や攻撃を意図したものではないことがうかがえる
・・・以上によれば、本件決定は、法的保護に値するXの人格的利益を侵害するものとは認められないから、X主張の不法行為は成立しない。

非常にチャレンジングな訴訟ですが、結果としては上記のとおり、認められませんでした。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。